新田恵理子ピアノ・コンサート
プレゼンター:(株)エナテクス
2009年5月24日(日)14:00〜 倉吉交流プラザ 700円
プログラム
第一部(チェンバロ)
@恋の夜鳴きうぐいす(クープラン作曲)
Aエア (ムファット作曲)
Bインベンションより第1番(J.S.バッハ作曲)
C組曲 変ロ長調よりエアとヴァリエーション(ヘンデル作曲)
D第5組曲 ホ長調(ヘンデル作曲)
第二部(ピアノ)
@無言歌集より(メンデルスゾーン作曲)
春の歌
紡ぎ歌
ベニスのゴンドラ
浮雲
プレストアジタート
五月の空に
乗馬
A序奏とロンドカプリチオーソ(メンデルスゾーン作曲)
ソリスト・プロフィール
新田恵理子(にったえりこ)Piano
武蔵野音楽大学音楽学部器楽科ピアノ専攻卒業 倉吉市在住。ソロリサイタル、室内楽、声楽・器楽の伴奏など、各地で幅広い演奏活動を行なっている。内外のオーケストラとの共演も数多く、そのうち、ザルツブルク室内オーケストラ、下北山弦楽オーケストラとのライブ録音が、カウベルホールよりCDリリースされている。後進の育成にも力を注ぎ、各地で門下出身の若手ピアニストが活躍している。主宰するハーモニッシェの会においては、若手演奏家のジョイントコンサートや、ピアノリサイタル、来日演奏家との交流コンサートなどを企画している。全日本ピアノ指導者協会正会員、同鳥取県支部事務局。鳥取オペラ協会ピアニスト。ハーモニッシェの会主宰。
ご案内
新田恵理子さんは、毎回新しい挑戦を見せてくれますが、今回のプログラムはチェンバロが登場します。第一部はチェンバロのみの演奏でバロック音楽を聴かせてくれます。近年、チェンバロの代用として、本物と見紛う電子楽器が登場しています。本物と電子楽器の違いは、聴く方にしてみると、ほとんど区別がつかないほど進化しています。いやむしろ調弦のことや調律の煩わしさを考えると、電子楽器の方が遥かに優れているでしょう。平均率で調律されたチェンバロが一般的ですが、かつては曲の調整に合わせた純正調の楽器が使われていたものです。ですから、ト長調の曲を弾いた後に、ヘ長調の曲をそのまま弾くことは不可能だったのです。ところが、現代の電子チェンバロは、平均率も純正調も、その調性もスイッチ一つで瞬時に変換される優れものなのです。ところが、電子楽器がどうしても本物に負けるのは、鍵盤の感触なのです。本物のチェンバロは、鳥の羽軸で作った爪が、弦をはじいて音を出します。その弦をはじく時に、指先に伝わる感触が作れないことです。キーを押さえると弦は持ち上げられ、限界に来て爪が糸をはじく瞬間の、触覚がないことです。その触覚をコントロールする事で、チェンバロ演奏の是非が問われるのです。ですから、逆に言えば、爪が弦をはじく感触のない電子チェンバロは、ピアノが弾ければ誰だって弾きこなせる優れものなのです。
チェンバロの最大の長所は最大の短所であり、一時、時代から取り残された経緯があります。つまり爪が糸をはじく瞬間のテンションは、強く抑えようが弱く抑えようが一律になってしまうと言う事です。ですから「弱く」や「強く」と言う演奏が出来ず、チェンバロを二段鍵盤にし、上段だけ弾けば一本の弦が弾かれ、下段を弾けば二本の弦が同時にならされ、大きな音が出る仕組みだったのです。そんな中で、何とか指の押さえ方によって様々な音色を作りたいとの欲求から、弦をはじくのではなく弦を叩くというチェンバレンの発想からピアノが生まれたと言われます。
チェンバロの演奏の難しさは、ピアノのようにクレッセンドやディクレッセンドが出来ない事です。表現の幅がずっと小さいのです。ですから、テンポ設定やアゴギーグが表現のすべてになります。本当に、表現する力量がないと演奏は難しいと言われる所以です。新田氏が、どんなバロックをどんな風に調理して見せるか楽しみです。
後半は、一部とは全く逆の、豊かな表現力をもったメンデルスゾーンのピアノ曲ばかりです。まさに、新田氏の真骨頂を見せていただけるプログラムになっています。無言歌とは、具体的な言葉を持ちませんが、聴衆のみなさまが、そのメロディーからどんな言葉を手繰り寄せるかが楽しみなのです。メロディーは何もなくても言葉なのです。「北の国から」のテーマソングもボカリーズ(無言歌)であり、イメージの固定した言葉を超えて、聴くものの心に生み出されていく情感の流れが支持されてヒットしたのでしょう。メンデルスゾーンの無言歌もそんなイメージを無限に広げてくれるものです。どうぞお楽しみ下さい。