【伊賀奈ゆりピアノ・コンサート】
2011年5月29日(日)14:00 倉吉交流プラザ 700円
第1部
@ 4つの即興曲D,899 Op.90(シューベルト作曲)
第2番 第4番
フランツ・シューベルトが晩年、1827年頃に作曲したピアノ独奏曲。構成的な追求よりも自由な旋律美を優先させている。同時期に作曲された4つの即興曲 作品142、D935が一つのソナタに見たてられるのと異なり、それぞれが自由に彩りある個性を見せている。
第2番 Allegro
変ホ長調。ロンド形式。チェルニーの練習曲に似た三連符の無窮動。音階が中心なのでピアニスティックな技巧を見せつけている。ロ短調・変ホ短調の挿入部は効果的で、コーダも変ホ短調で終わっている。
第4曲 Allegretto
変イ長調。本曲集ではもっとも有名。変イ短調のアルペジョが徐々に変イ長調に変化していく。演奏も比較的容易で親しまれている。左手のバリトンが美しい。中間部はエンハーモニックな下属調の嬰ハ短調で、暗い情熱が迸る。
A ピアノ・ソナタ 第17番作品31-2「テンペスト」(ベートーヴェン作曲)
第1楽章 第2楽章 第3楽章
一般に『テンペスト』の名で知られ、特に第3楽章が有名であり単独で演奏される機会も多い。この第3楽章は、ごく短い動機が楽章全体を支配しているという点で、後の交響曲第5番にもつながる実験的な試みのひとつとして考えられている。また、3つの楽章のいずれもがソナタ形式で作曲されている点もこの作品のユニークな点として知られている。
第1楽章 Largo-Allegro
ニ短調。ソナタ形式。ラルゴ−アレグロを主体としながらもテンポ表示は頻繁に変わる。全体は3つの部分からなる。再現部の前の朗詠調のレシタチーヴォ、刻々と変わる発想記号などは朗読劇を聞いているようで、中期作曲者の劇的な作風の典型である。終結も陰鬱な低音が静かに現れるだけである。演者が(幕が下り)静かに立ち去る様子を模写しているように映る。
第2楽章 Adagio
変ロ長調。展開部を欠くソナタ形式。第1楽章との間にも緊密な関連がある。
第3楽章 Allegretto
ニ短調。ソナタ形式。単純な音型を休みなく繰り返すが、単に激しい速さで演奏するものでないだけにAllegrettoの記号が不気味さを演出している。もとは馬車の走行から採譜したものといわれている。
第2部
ショパンの作品から
@ワルツ 第5番 Op.42
1840年作曲。ショパンにおけるワルツの、最高峰の作品の一つ。
構成は大規模で、舞踏性とワルツが持つ本来の形式性を融合させ、そこにピアニスティックな技巧を効果的に含ませている。
Aノクターン 遺作 嬰ハ短調
1830年春に作曲、1875年1月5日出版。正式な献呈はないが、姉のルドヴィカ・ショパンがピアノ協奏曲第2番を練習する時のための曲として書かれた。切なく深い哀しみの響きのある曲である。
Bノクターン Op.9-2
1831年に作曲され、翌1832年に出版された。ワルツのリズムの上に、優美な旋律が軽やかに舞う。
アンダンテ、12/8拍子。ロンド形式風の A-B-A-B-A-C-C-コーダ という構成となっている。始終右手は装飾音で飾られた旋律を歌い、左手は同じリズムの旋律が繰り返される。旋律は再現のたびに装飾的に変奏され、ここにはショパンのイタリア・オペラの装飾的歌唱からの影響が見られる。
Cバラード 第3番 Op.47
ショパンのバラード(譚詩曲)全4曲中の第3作。1840年から1841年夏にかけて作曲され、1842年に出版された。優雅で洗練された曲想が曲全体を支配している。
Dポロネーズ 第6番 Op.53 「英雄」
1842年に作曲し、翌年に出版。ポロネーズの中で、軍隊ポロネーズ(第3番イ長調)・幻想ポロネーズ(第7番変イ長調)とともに有名であり、ショパンの曲の中でも人気が高い。曲は複合三部形式で構成されている。全体的に半音階的な上昇進行、動機の短縮、低音オクターブによる音量効果がちりばめられており、ピアノに管弦楽的な表現を遺憾なく発揮させている。
プロフィール
伊賀奈ゆり(いがなゆり)piano
東京音楽大学音楽学部音楽学科ピアノ専攻卒業。西川妙子、海老原直美、平賀寿子の各氏に師事。
第6回カウベルピアノコンクール本選にて優秀賞受賞。第1回鳥取県人材発掘オーディションにおいて審査員特別奨励賞受賞。後進の指導にあたるとともにソロコンサート、声楽、器楽の伴奏等の演奏活動を積む。
鳥取ゾリステン会員。コールおもかげピアニスト。鳥取市在住。
ディレクターのコンサート案内
伊賀奈さんは、アザレアのまち音楽祭に初登場した2008年以来、三年ぶりの出演となります。ピアノやヴァイオリンの練習開始年齢は早く、小学校に上がる前から取り組んでいる人がほとんどです。伊賀奈さんのピアノは小さなころからコンクール会場で聴いてきましたが、その個性的な意思のはっきりした音楽作りは、大人になった今も健在であり、そのピアノの魅力の源泉でもあります。先回の印象には「革命のエチュード」や「スケルツォの二番」が強烈な残像となっています。今回のコンサートも一部でベートーヴェンとシューベルト、そして第二部ではオール・ショパンで楽しめるようにしつらえてあります。それも、ワルツから始まりノクターン、バラード、最後に「英雄ポロネーズ」をプログラムする心憎い演出がなされています。現代のショパン演奏は、かつてのように様式感を第一義とせず、演奏者の個性的な演奏スタイルの有無が問題にされるようですが、伊賀奈さん自身のスタイルがどう表現されるか楽しみです。はつらつとしたピアノの流れに、身をゆだねる快感を、どうぞお楽しみください。