米国の恋愛市場
日本で来年4月にアラフォー女性をターゲットにした女性雑誌「DRESS」を創刊、創刊号のタイトルは「40代の恋、解禁!」というネット広告を見て「え?」と思った。「日本では今まで40代は恋愛禁止だったの?」
そういえば日本の恋愛もののテレビドラマや映画では、20代30代までの若者の恋愛が描かれていることがほとんどだ。中高年はもう恋愛なんて考えずに枯れてくれみたいな雰囲気。しかし、米国のドラマや映画を見ればわかると思うが、米国の恋愛ものは現代では30代後半以降の中年の恋愛を描いたものが多く、それも初婚ではなく離婚歴があり子供もいる大人の男女の恋愛が多い。米国では40代なんて独身なら恋愛バリバリの年齢なのだ。
大まかにいえば、米国の恋愛市場は30代前半くらいまでの若者の恋愛市場、30代後半から50代くらいまでの大人の恋愛市場、60代以上の高齢者の恋愛市場の3つあると思う。若者の恋愛市場は日本とたいして変わらないかもしれないが、それ以降の中高年の恋愛市場が大きく違うようだ。
日本で離婚率は徐々に増えていると聞くが、米国では夫婦の2組に1組は離婚するといわれている。再婚市場が極めて活発で層が厚いのだ。特に日本で子持ちの離婚女性は再婚を控える人が多いそうだが、米国では全くそんなことはない。子供がいようがいまいが、男女ともパートナーを求めて恋愛ハンティングをするのが普通だ。再婚を当面望まないとしてもせっかく独身になったのだから、独身の特権、恋愛を楽しもうという姿勢がある。
高齢者の恋愛市場もなかなか活発だ。子供がもう全員成人して孫がいる人も、離婚・死別で独身になった男女はまたもや恋愛市場に舞戻る。米国の若者と話していると、うちのおじいちゃんはガールフレンドのうちで暮らしているとか、うちのおばあちゃんのボーイフレンドがどうしたこうしたとか聞くことがある。ちなみにボーイフレンド・ガールフレンドというのは日本で使われているような異性の友達という意味ではなく、英語では恋人のことを意味する。
1988年に米国に住み始めた頃に、私が住んでいたアパートの階下には60代の老夫婦が住んでいた。女性は大学の事務職員で男性はすでに引退していた。長年連れ添った夫婦だろうとばかり思っていたら、なんと3年前に教会で出会って結婚したというので驚いた。
90年にニューヨークで働き始めた時、初めて住んだマンハッタンのアパートの大家さんは50才の離婚女性だった。小太りで日本の50才の女性よりはずっと老けて見えるが、年下の恋人がいて、しょっちゅうボーイフレンドの話をするので、50才でなんとまあ「色気ババア」と当時思っていた。しかし後で思うに、米国ではこれで普通なのだと気がついた。
米国では日本と違って離婚者が多いので、離婚してもまたすぐ次の相手が見つかりやすいので離婚もしやすい。そういえば、これは米国の労働市場と似ているかもしれない。解雇になっても労働市場の流動性が高いので空きポジションも多く、比較的次の職を見つけやすい。日本のように若い頃に一旦就職したら原則終身雇用で、たとえ理不尽な扱いをされても我慢して同じ会社に居続けるなんてことは少ない。結婚も同じことで、夫婦が破たんしてもがまんして最後まで形だけでも保とうなどという発想はなく、あくまで個人の幸福を追求する。
高齢者は残された時間が少ないだけに、気の合う異性のパートナーと大事な残りの人生を過ごしたいと考える。ちなみに遺産問題もあるので法律婚を選ばないことも多い。法的結婚をする場合も事前に契約を結び、離婚や死別の場合の財産関係をはっきりさせて後のトラブルを避ける。
昔は出会いの場と言えば、大学、職場、パーティーなど自分の行動範囲の中から相手を探すのが普通だった。しかし近年は、米国では出会いの主流はインターネットだ。若者も中高年も恋愛市場に出る場合はインターネットを使うことが多い。インターネットでは自分の行動範囲ではとても出会えないような人物に効率よく効果的に出会うことが可能で人気がある。
近年結婚したカップルの中で、インターネットで出会ったという人が最も多いのは若者ではなく、実は中高年だ。若者はもともと独身者が多いので、同年代の行動範囲で出会う男女は独身である確率が高い。しかし既婚・離婚が混在する中高年では、誰が既婚で誰が独身なのかわかりにくい。ネットには相手を求める人が参加するので合理的。子供の有無、宗教、家庭環境、個人の価値観など離婚経験者ならではの出会いのニーズにも合致するのだ。
日本では、男女のまともな出会いの場がネット上で流行する前に、なにか卑猥な「出会い系サイト」というものが出回ったらしく、それと混同されて良くないもののように扱われることもあるらしい。しかし現代では、米国だけでなく欧州でも韓国でも中国でもネットで出会うカップルは多い。国際的に現代では恋人や結婚相手にネットで出会うのは「ごく当たり前のこと」となってきている。
米国では数多くの出会いのサイトがあるが大手で人気があるのはmatch.comやeHarmony.comだ。無料のサイトもあるが月額30ドル程度の比較的低価格の料金体系のことが多い。サイトによって形式は多少異なるが、個人が登録する際には、多数の質問項目に答えながら自分のプロフィールを作る形式になっている。その人の人柄がある程度分かるような心理学的な要素を駆使した質問もある。写真は出しても出さなくてもよい。こんな感じの人と出会いたいという希望も書く。登録が完了すると、そのプロフィールに興味を持った人がアクセスしてくる。
ネットでの出会いは特にマイナーな趣味を持った人にとって極めて効果的だと思う。たとえば爬虫類好きでたくさんの爬虫類のペットと一緒に暮らしたいと思っている女性がいるとする。街を歩いていてもそういう好みの男性と出会える確率は極めて低い。しかし世の中には自分と同じような趣味の人がいるもので、ネットではそういう人がちゃんとアクセスしてくるのだ。
インターネットでの出会いでは、人を見極める「個人の力量」が重要となる。たしかに正確ではない情報をプロフィールに掲載している人もいるだろう。とんでもない人がアクセスしてくることもあるかもしれない。しかしEメールを何度かやり取して書いたものを読めばだいたいの人柄はわかるものだ。米国のネットにはどう考えてもモテモテでしょうにと思われるようなかなりハイレベルの男女も参加している。ダイヤモンドを掴むのも、石を拾うのも自己責任。自分の行動範囲の中だけで相手を見つけようとするのはしいて言うなら釣り堀で魚を釣るようなもの。インターネットは太平洋だ。米国の恋愛市場は確かに豊かだ。