海外こぼれ話 142                  

ドイツで山路みほ氏の筝演奏会を企画

 昨年の「アザレアのまち音楽祭」で、中野隆さんの尺八演奏会の伴奏に出演して頂いた筝演奏者の「山路みほ」さんと、昨年演奏会の時にスポンサーをさせて頂いた関係で初めてお会いした。その時に山路さんがT月からモスクワを中心に、半年間の文化庁の文化交流師として演奏旅行をされることを伺った。ロシアを中心に周辺の国々を演奏旅行するが、ドイツでの演奏の機会はないということだった。

そこで何とかデュッセルドルフやケルンでも演奏が出来ないかと、色々とデュッセルドルフとケルン当たりで取り組めることを試行錯誤していた。ドイツと日本の関係に非常に詳しいXさんと相談しながら、デュッセルドルフの日本領事館にも出向いたり、さらにはケルンの日本文化会館にも相談を持ちかけたりしていた。そして4月9日はデュッセルドルフの惠光クラブ様、翌日の10日はケルンの文化会館様での演奏日程が決まった。今回は半年間で、10カ国での演奏旅行になるそうだ。この惠光クラブ様は、ある宗派のお寺であり、その関連施設にセミナールーム、地下のホール、本堂兼演奏会場、さらには映画上映のできる文化会館になっていた。庭は以前にも紹介したように、立派な日本庭園になっている。先般訪れた時もドイツ人や日本人が盛んに写真を撮っていた。

ポスターを倉文協の「ふらここ展」の山根大和さんに、4月開催なので桜をイメージして作成してもらった。またチラシは私自身が作って、それらをコピーして多くの人に配布して演奏を聴きに来てもらいたいと画策していた。

まず最近に昨年知り合った鳥取県人会の皆さんにもお願いして、これらを配布することにした。Eちゃんのクリーニング屋のお店に置いてもらい、彼女の妹さんが店長をしている店にも紹介してもらうように手配をしてもらった。窓口になって頂いたXさんの会社関係にも配布してもらった。

さらに県人会のDさんは中学から高校まで琴浦町赤碕におられ、現在はドイツの某日系企業の社長さんである。アパートの近くの日本料理店「なごみ」で待ち合わせをして、ポスターとチラシを渡すように準備をして待っていた。Dさんはオランダからの移動であったが、雪が降り出して15分ほど遅れる連絡があった。メニューを見ると「鯛のかぶと煮」があり、Dさんも大好きだとわかり酒も弾んでしまった。山路さんのポスターとチラシを渡して、奥様や会社の皆さんも演奏会に来てもらうことに快諾を得た。

デュッセルドルフの

日本クラブに入会

Dさんからも逆に依頼があり確認すると、週末の土曜日の午後2時からフルートの演奏会があるので、是非聴きに来て欲しいというお誘いがあった。何と同じアパートの住民であるOさんと、その同僚のSさんとのダブルフルートの演奏会だというので、是非聴きに行くと返事をした。ところが主催がデュッセルドルフの「日本クラブ」だといい、そのクラブに入会する必要があるという。その場所はどこかと確認したら、なんとアパートの通りの隣の通りにあった。何百回も通っている交差点にあった大きなビルの1階にあったが、この10年間まったく存在を知らなかった。時々乳母車を引いて入る日本人女性がいるなあと思っていたが、まさかそこが日本クラブの事務所とは思わなかった。普通のアパートにしては高いビルだなあと思っていた程度であった。興味がないとは非常に恐ろしいものだ。

演奏の入場料はなんと格安の2€であったが、入会金は9€ということで、合計11€で鑑賞できるという。この際なので、日本クラブに入会してはとのお誘いがあった。山路さんのポスターやチラシも置いてもらえることもあり、入会することにした。入会方法は至って簡単で、A4の用紙に記入するだけだった。ところが毎月9€の会費が必要で、毎月銀行の口座落しが必要だとわかった。しかしドイツには銀行口座がなく、毎月訪問するたびに9€支払うことを提案したが、結局残り10か月分を一括して現金払いを要求された。90€はちょっと厳しい料金と思ったが、ここに来れば新聞がタダで見ることが出来るので、日経新聞と朝日新聞を買うことを思えば、1日分で元が取れるので納得した。新聞のデータは衛星通信で送られてきて印刷されるが、日経新聞はなんと日本の3倍もするほど高いのですぐに帳消しになる勘定だ。

ダブルフルートの

演奏会は楽しかった

さて演奏会は、OさんとSさんのダブルフルートと彼女らの演奏を、いつも伴奏しているピアノ伴奏者のトリオ編成だった。司会者からOさんの紹介があり、出身大学の国立音楽大学を「こくりつ」と言い間違えて読んでしまったので、会場は大爆笑になって一気に雰囲気が和らいだ。その日の二人の衣装は、青で綺麗にコーディネートされていていたが、まさにピッタリと合っていた。

プログラムを拝見すると、音楽で世界一周するものであった。主催者側からはプログラムに制約的なことがなく、彼女らが自由に曲目や構成を考えて良いものだったようで、トリオ演奏、それぞれのソロありの非常に楽しい構成になっていた。欧州からアメリカ、そして日本、さらにはアフリカ、そして欧州に戻る音楽の世界旅であった。たまたま早く出掛けて席を取ったら、一番前の真ん中だった。A4サイズの裏には、10人ほどの作曲者の顔写真がすべて印刷されていたが、今までになかった表現方法に感心もしながら見入っていた。優しい曲を書いているのに鬼のような顔付きだったり、その逆もあり興味を引いた。

最初から楽しい曲やお馴染みの曲もあり、次第にウキウキしてきた。「カルメン」の曲になったときは、知らず知らずに一緒に口ずさんでしまい、両手は知らず知らずに指揮棒を振っていた。さらにアンコールでは「トルコ行進曲」だったので、これまた体全体が動いてしまった。休憩を15分挟んでいたが、2時間たっぷりの演奏で非常に楽しめた。終わってからシャンパンとクッキーで小さな懇談の時間があり、目の前で棒を振る仕草が非常に目障りだったと苦情を頂いた。大抵は一番後ろで聴いていることが習慣になっていたので、気にならなかったが今日は一番前にいたことを忘れていた。美しい女性の魅力に負けてしまい、ついつい一番前の席になってしまった。「トルコ行進曲」のように、意外と皆さんが知っている曲の方が難しいということだったが、いわれてみると一音でも違うとすぐにわかるので、逆にプレッシャになるのだろう。

この日本クラブの会長のYさんは、以前トヨタ(生産)方式に携わっておられたといいうことがわかり、話が音楽から飛んでしまったほどだ。身近にこのような施設や行事が行われていることをまったく知らなかったが、県人会のお蔭で一気に世間が広くなったことに感謝だ。有難いことに会員の皆さんの名簿まで頂くことになったが、今まで疑問だったゴミの分別方法が詳細に記してあり、今までの疑問が一気に氷解してしまい、これだけでも会員になったことが財産に思えたほどだった。毎月色々な催し物があるようで、楽しみの一つにしたい。新聞も1週間分置いてあるので、自然に目に写る紙からの情報を取り込む良い機会になる。いつもはパソコン(バックライトで光る)からの情報を見るしかないので、活字の情報は何故かホッとする。

ロシアの通信事情

山路みほさんのドイツの演奏会の打ち合わせは、すべて便利なメールでのやり取りをしていた。しかし微妙な表現のやり取りはどうしても、電話に頼らざるを得ない場合がある。メールは留守番電話のように味気ないが、電話だとすぐに反応があるので、伝えやすく伝わりやすい。そこで1月末にロシアに飛行機で移動されるので、確認すべきことがあり電話を入れたら、なんと成田空港で出発ロビーであった。やり取りを無事に済ませると、出発前の飛行機の中で今流行りのフェイスブック(FB)の方に返事が返ってきた。

この場合のFBでのやり取りは非常に便利になった。彼女からのロシアでの演奏活動もFBに逐次掲載されるので、状況が手に取るようにわかる。しかも写真も掲載されるので、雰囲気も感じ取れる。あのロシアのことなので非常に電波事情が悪いかと思ったら、一昨年に彼女が訪問した時よりも非常に改善されたようで、ほとんどのところで無線通信が可能になったという。そういえばこの2年でドイツも、ホテルが急にインターネットサービスを提供し始め、しかもほとんど無料である。逆に日本のホテルは未だに、有料にしている時代錯誤のホテルもある。

通信関係は改善されたが、ロシア国内の飛行機は数十年前の古いものがあり、着陸した時には乗客の皆さんが拍手をしたという。これは私も30年前にアエロフロート航空を使った時も同様であった。主翼のリベットは何十個も抜けており(それが目で見て確認できるのでぞっとする)、赤、緑、黄色などの色とりどりのリベットで補修されていた。さらに椅子のペンキは何重にも塗り直されており、しかもパイプ椅子だった。モスクワ空港に到着した時に全員で拍手をした記憶が戻ってきた。命が縮まったようで、その後この航空会社は使わないようにしている。またロシアへのコンサル依頼もあったが、お断りしているのはこの事情もある。さらにマフィアのこともあり、治安が良くないことを聴いているので訪問を遠慮している。

ドイツ人は馬肉を食べない

欧州の景気は余りよくはないが、ドイツだけが好調になっていて昨年の輸出額は初めて100兆円を超えた。これは10年ほど前からの政府の経済政策が良かったためであり、ドイツ人の勤勉さも大いに影響している。そして中小企業が強いのが特徴である。逆にラテン系の諸国であるギリシャ、イタリア、スペインなどは経済に対して無策だったことが、この大きな差になっている。ドイツの労働人口が不足しているので、最近はスペインからの若者がどんどんドイツに来ている。彼らは危機意識を持っているので、必死で働いているようだ。

最近ニュースになった話題が、牛肉に馬の遺伝子が入っていることがわかり、特にドイツでは大騒ぎになっている。その訳は、ドイツ人は馬が好きであり特に女性のペットとしても持てはやされていて、至る所で乗馬クラブや個人でも飼っている人もいる。ある会社でその馬の肉の混入事件が話題になった。日本では馬は牛と同じように食べる習慣があり、刺身にしても非常に美味しく好物だといったら、改善担当の女性の目が一瞬にして点になった。彼女は自宅に馬を飼っているといい、しかも生で食べることは信じられないという。彼女は鹿やウサギは食べるというので、日本は逆に鹿やウサギは食べないという食文化の違いを紹介したが、納得はしていないようだった。

別なニュースでスペインでは不景気になっているので、馬を飼うこと自体経済的に難しくなっており1日に5千頭も処分しているという。そうなればその馬肉はどこに消えるかといえば、普通に考えると他の肉に混ぜてしまえば良いだろうという筋書きが成立する。恐らく焼却する施設もないので、結局はハムやソーセージになっていくだろう。スウェーデンでも9千頭処分したと言うニュースも流れてきたが、あんなに寒いところでしかも人口の少ない国でよく飼っていたというのも、このご時勢で表面化したニュースになった。

アパートの近くに出来た寿司バー

デュッセルドルフをはじめドイツだけでなく欧州自体が、寿司ブームになっている。先般チェコでの寿司バーの紹介もしたが、デュッセルドルフのアパートの隣の通りに、日本人コックによる本格的な寿司バーが開店したニュースがあった。この2、3年で開店する店は、寿司バーとネイルサロンである。その寿司バーはフロアに200人も収容でき、個室も揃っていて2階にも嗜好を凝らした部屋もあるというので、外から客の様子を伺っていた。しかも食べ放題で昼が14€で夜も24€と、かなりお得感がある。しかし寿司バーで食べ放題とは気前が良いが、余りにも安いものは裏に何かがあるのは常である。何度か窓越しに店内を伺っても人影はほとんどないので、一人で入るのには躊躇していた。

開店してから3ヶ月ほど経ってしまったので、誰かと誘って見ようと思っていた。その矢先にその店の情報が入ってきた。厨房にいた日本人と韓国人が大喧嘩をしたようで、日本人の板前がすべて辞やめてしまったらしい。なんとなく店の雰囲気が良いとはいえなかったが、人間関係が良くなければ店も会社も良い品や製品はできないものだ。そのような店なので、多分味も知れていると察することが出来る。人が並ぶような店は、味は間違いないが、余り並び過ぎるのもシビレが切れるので性格上行くことが出来ない。

また信じられないが、まったく酢の味のしない寿司として出す店もある。酢が苦手なドイツ人向けにしたかもしれないが、ワサビ抜きは許せるが酢のない寿司は納得がいかない。この店に行かなくてよかったが、情報の大切さもしみじみ感じた。だから最近インターネットで、その店の口コミ情報が持てはやされるが、ムダなお金を捨てるわけにはいかないという一種の防衛策である。

同じ通りにある中国人のやっている食材店は、最近土曜ともなると入りきれないほど賑わっている。店に入ってみると残念ながら日本食材はないが、中国の食材を中心に置いてあり、中国人だけでなく韓国人やドイツ人までも買い物に来ている。デュッセルドルフにある日本食材の店は残念であるが、どういうわけかすべて韓国人が経営者である。古くからあった日本人向けの本屋さんは、最近のインターネットによる本の販売が盛んになって、とうとう店を畳むという情報も入ってきた。企業も店もお客様の期待するものを供給しないと、経営が出来なくなっており、そのスピードも激しくなってきている。

新規企業に訪問

昨年にヘルマン・ヘッセの生まれ故郷にある企業に予備診断をして、今年からコンサルティングすることが決まり訪問することになった。この企業は300年前に創業した非常に歴史があり、逆にいえば保守的な資質も持っているようであるが、かなり柔軟性を持つ企業になっていた。それは近年自動車産業にも製品を出荷するようになって、かなり厳しい要求に応えることができるようになったからの様だ。企業が300年も継続できるのは、その時代に相応しい製品づくりができ、顧客を満足させる品質、納期、値段、そしてサービス(付加価値)を維持して向上できるかにかかっているようだ。

聞くところによると、3年前から多くあるライバルのコンサル会社の指導を受けていた。その間に1個流しのラインを作り、それでかなりの仕掛や在庫が大幅に減ったという。しかしそのコンサル会社が指導した方法は、実際に生産ラインを自ら作ったことのないコンサルが、馬追い方式とかウサギ追い方式と呼ばれるやり方を指導していた。それは生産ラインを1周して回ると、1個順番に生産できる方式であり、2から3人のオペレータがグルグル回っている様を表現した生産方式である。これにはある条件が必要である。その条件が満たされていなかったことがすぐわかり、そのコンサルが素人だとすぐにわかった。

そのコンサルは1個作るのに、20秒のサイクルまではその方法で大丈夫だといって、彼らは信じきっていた。小さいラインに3人も入って生産していたが、1時間の間に何度もバランスが崩れてしまっていた。そこでこの生産ラインのあるべき姿をじっくりと皆さんに解き明かしていった。そしてその日の内に生産ラインのレイアウトを変え、やり方も本来の正しいやり方に修正していった。彼らの目からはウロコが取れた感じで、爽快な顔つきにかわっていた。

その企業の社長は、以前彼も別な方面のコンサルタントをしていた人で、私のやり方に非常に賛成をしてくれた。一方的な説明や指示命令のやり方ではなく、双方向でのやり取りをしながらオペレータのやる気を出していく方法に今までのコンサルとの違いを発見し感謝の言葉を頂いた。2つのチームで別なテーマを取り組んでもらったが、各チームともに40から50件の問題を発見することが出来、即日改善を実施することも出来るようになった。人の潜在能力はそのようなもので、あるきっかけや動機付けがあると俄然やる気が出て、チームが一体となって改善を始める。しかも嬉々として皆さんが取り組んでいる様を見ると、これもコンサル冥利だなあと、思わず心の中でガッツポーズが出る。