海外こぼれ話 143                  

 

イースターで街中はウサギと卵に覆われる

 欧州ではバレンタインデーは行事としては存在するが、日本に比べほとんどイベントになっていない。バレンタインデーは日本独特の菓子メーカーの陰謀かと思いたくなるほどの大きなイベントになっているが、欧州では不思議なくらいささやかなものになっている。そのためにバレンタインデーのためのチョコレートはホンの少ししか存在しない。それ専用のチョコレートではなく、年中あるものに少しコメントと付けた程度の代物としかいい様がないくらいだ。

この前まではクリスマスのチョコレートで店のウィンドーに溢れていたかと思ったら、今度はイースター(復活祭)用のチョコレートで店のウィンドーを飾る季節になってきたと感じる訳である。それを象徴するものとして、子孫繁栄とチョコレートがウサギと卵がセットになっていく。そしてこれらが様々な大きさと形にチョコレートが変身していく。卵は殻を破って雛が誕生することから、復活を象徴しているという。またウサギはその目が瞬きをしないことから、月を連想させるといわれる。月は新月、三日月、そして満月と満ち欠けをするところから復活のシンボルになった訳だ。我が家のウサギはもう9歳になり、目は白内障になって目の中が満月になっている。ほとんど見えないようだが、音と匂いの分別はしっかりしているので生きることに心配ない。

実はウサギや卵の様々な形をしたチョコレートは、まさに復活のシンボルである。というのはクリスマスで使って余ったチョコレートは、包み紙(ほとんどアルミ箔)を剥してすべて溶かして、イースター用に使われるそうだ。これはドイツ人がいうので間違いないようだ。何度でも再生できるものなので、これが本当の復活財(財産の財)である。デュッセルドルフのアパートの同じ通りにある薬屋もイースターの飾り付けをしたので、今回は写真を撮ってみた。イースターが終われば一気に春が来て、絶好の若葉の季節になっていく。

なんと12年ぶりに出会った人

 毎月のように訪問している南ドイツのS社に、新しい技術部長がやってくるというので紹介があった。その人はK氏であり、以前お会いしたことのある見覚えのある顔だった。K氏はニコニコとして握手を求めてきたが、大手の機械加工企業W社の技術担当の博士であったことを思い出した。W社へは2つの工場に3日間ずつ予備診断の短い期間であったが、非常に良い成果を出していたことを確認した。というのは訪問した企業や工場であったことは、すべて報告書もしくはメモに記録して保管しているのでいつでもパソコンで確認することができる。コンサルタントの仕事する前のオムロン時代から、報告書はA4一枚にまとめる習慣が身についているので、まとめるとか報告することはまったく苦にならない。継続や習慣とは恐ろしき力にもなるのである。

W社は2つの工場共に工場長が絶賛していたことも記してあった。その後は同僚が担当することになり、それ以降はこれらの工場に訪問する機会がなかった。その後自社で改善を取組む方針が出されて、コンサルタントをまったく呼ばないようになったとこの時に初めて聞いた。その時の印象が非常に良かったことで、K氏は私のことを記憶していたという。

しかも12年ぶりに彼をすぐに思い出すことが出来たのは、その日に衝撃的事件があったためだ。それはW社の2つの工場の予備診断とワークショップの指導をして、次の企業に向う時であった。移動する時にタクシーの運転手が、なにやらアメリカで事件が会ったようで、いま大騒ぎになっているとの情報だった。次の企業はフランスのアルザス地方にあり、アメリカのニューヨークでの9.11の事件があったその日であった。

1時間半後にフランスのアルザスのホテルに着いたら、10人くらいがテレビに釘付けで食い入るように衝撃の映像を見ていたので、鮮明に日付と状況が印象にあった。その印象がありS社のK氏の顔も印象に残っていた。回りまわってまた彼に会うことが出来た。昨年は11年ぶりに巡り合った人もいたが、今回はさらに上回る12年目の人との縁が出来た。そのこともありいつも人には良い印象を残すことを意識しているが、なかなかすべて出来ないこともあり、まだまだ修行の必要性も感じる。人間は完璧ではないから死ぬまで勉強である。

結果が出るとやる気も出る

S社は3年目になるが、自分たちで企画して改善活動が出来るようになってきた。このたび訪問したら前回の訪問した時から、次々と実施したことを紹介してもらった。自分たちで企画する自主改善がかなりのスピードがついて来たようであり、加速度が点き勢いも見られるようになった。こうなれば面白くなってくるので、結果が成果となり見えるようになるとやる気も出るものである。

間接部門にも改善が次第に展開されるようになり、工場内の仕掛も目に見えて減ってきたこともわかるようになってきた。仕掛が減ると工場内の物流の流れもよくなり、短いリードタイム(生産期間)になってきたこともデータ上でわかるようになってきた。こうなるとトップの関心も強くなってくるのは当然である。近々に新工場を建てる計画があるというので、その工場には今までの考え方を基にあるべき姿をイメージした流れで、今年の取り組みとして最短のリードタイムにすることもあり、段ボールを使ったりして最初から良い結果が得られるようにと依頼があった。私の会社の名前であるSMCのSは、シンクロ(同期)ということで、企業のリソース(資源)を顧客という方向にまとめ、タイミングよく同期化させることにより、変化対応力のある体質に変えていき、生き続けるようにとして付けた名前である。決してスイミングクラブやSMクラブ、凄く真面目なコンサルタントの略ではない。企業が持っているリソースを気づいてもらい、自ら考え行動し、価値を上げ続けることを目指している。

同じ講義を3回も行う

そのS社を紹介してくれた印刷会社は、メインのカレンダーだけではなくその地方や企業の印刷も行っている。近隣にあるため同じホテルで滞在するので、非常に便利である。印刷会社のコンサルでは、最近社員全員に私の講義を聴くようにと社長からの指示が出るようになった。それは思想の共有化のことを深く理解されてからで、今回は3回も繰り返し出来るだけ多くの社員に聴いてもらいたい意向があったようだ。幹部は必ず年に2回以上、一般社員は1回以上を義務にしたというから立派な考えだ。すべての会議室には、私が訪問する日にピンクのマークが付けられており、その日には幹部はバカンスにも行くなと今回社長からお達しがあったほどだ。それくらいの価値のある話をしなければならないほどプレッシャーを掛けられているが、逆にこちらはやる気も出る。

同じテーマを1日に3回も話をすることは簡単なようで、やる側としては非常に退屈である。しかし、同じテーマであっても参加する人たちが違えば、その人たちに合わせてアレンジをする楽しみがある。これは落語やジャズのアドリブと同じようなもので、集まった人たちの顔を見ながら話の内容を変えていく楽しみにしてしまえばよい。この3回の話を社長はすべて聴いておられ、メモまで熱心に取られている。そのように実は社長も退屈しないように、あの手この手を使い同じ話でも違う見方で話を進めていくので、社長も熱心にメモを取られる。なにせ高いコンサル料を払ってくれるのはこの社長であり、社長に納得してもらわないと商売にならないのである。今回も今までになく非常に多くの気づきがあり、メモも取ったといわれ嬉しくもなり安堵した。

期待を裏切られないようにするには、訪問するたびにこちらのレベルアップが求められる。40年前に会社に入った時にもう勉強をしなくて良いと思ったが、とんでもない間違いで、年を取れば取るほど勉強が必要になり、しかもそれを求められるようになった。でもそれ自体が自己成長にもなり、それ自体が楽しみにもなって来ている。コンサルタントという商売に鞍替えしたことは、本当に良かったと自負できるようになった。

給料は誰からもらっていますか?

今回の講義の中で、「皆さんの給料は誰からもらっていますか?」という質問をあるグループに投げかけた。たまたま目に付いたオペレータに答えを求めたら、即座に「それはお客様です。」と返ってきた。あとで社長から、彼は物流の担当者で、しかも給料の低いレベルの人であったそうで、彼からあのような回答があったことに社長は驚きを隠せなかったという。それはこの6年間に渡って訪問しながら、思想教育が確実に浸透してきていることも社長にとっては嬉しい出来事にもなったという。そのこともあり、今後もさらに出来るだけ社員に私の話を聴かせて行きたいと強い希望が募ったという。

この会社の物流担当者は、早期納入は絶対に受け取らないということで、この地方の運送関係者ではかなり有名になっている。以前にも紹介したことがあるが、早期納入をしようとして断られたトラックの運転手が賄賂を彼に差し出したが、彼は怒鳴りつけて断った有名な話があった。各仕入先もそのことを知っていて、ちょうどのその納期日に入荷させるようになってきているので、物流の受入の仕事が非常にテキパキとはかどっている。その物流マンもその担当者の影響を受けていることを感じ取った。

 この会社は物流だけでなく、ほぼ全部署での賛成派になって来ている。しかしどうしても賛成に加わらない人もいることは仕方ないことであり、「賛成派をもっと改善に熱心な信者に、変えていくことに注力しましょう。」と方向付けをしておいた。この社長はわれわれを毎回最後まで見送りしてくれるが、それは欧州における感謝の表れでもあるが有難いことである。

最近は講義内容をもっと充実したものにしようと、時間をかなり掛けるようにしている。アドリブは得意中の得意であるが、シナリオもしっかり作っておき、それに合わせる資料や写真、ビデオも準備をしっかりするようになった。これにしょうか、それともこちらにしようかと考えること自体も楽しみになってきつつある。今年還暦になるが、勉強が楽しみになることは会社に入社した頃には想像もしていなかったことだ。

工場がショールームになってきた

スイスに訪問している企業は、数年前にスウェーデンの大企業に数年前に買収されて子会社になった工場である。200名ほどの小さな工場であるが、訪問当初は雰囲気も悪くやる気のない工場であった。しかし私を呼んでくれた製造部長のGさんと改善担当課長のRさんが非常に前向きであり、結果的にこの2名のリーダーが工場全体を引っ張ってくれた。当初はほとんどの工場がそうであるように、仕掛の山で歩く場所もないほどであった。しかしスイスの国民性がそうであるように、緻密で確実な進捗性を持ち合わせているが、この工場も一緒だった。指摘したことや宿題を確実に実施してきたことで、この5年間に最下位であった工場の評価が、今年はなんと第一位になってしまったという。4月には本社で表彰が行われ、製造部長のGさんが代表としてその表彰式に出席する名誉を授かったという。この企業は数万人の大会社であり、世界中に百以上の工場を持っており、この表彰は非常に名誉なことであり、この工場にとっていわば快挙の出来事である。

最初に訪問した時は、この工場で生産している製品が工場の中にはまったく使っていなかった。その製品とは医療機器の昇降機であり、未熟児用のものは少しも引っかかりがなく昇降できる世界唯一生産できるメーカーでもある。不思議に思い「何故工場の中で使わないのか?」と質問を投げかけたことがあった。その言葉にGさんは気づいて、少しずつ製品を製造現場の作業台に装着し切り替えていき便利な作業台にしていった。これは、押しボタン一つで自在に高さ調節が出来る便利な代物だ。

今回訪問した時には、工場内のすべての作業台(約200台)がこの昇降機が取り付けられ、オペレータはそれまでは高額な製品を自らの作業に使う発想もなかった。しかしこの指摘から自分の作業姿勢をよくするために使うことができるようになり、彼らの考え方も少しずつ変わっていったようで改善に対しての抵抗感も少なくなっていた。使って見てやはり凄く便利なことが理解できると、改善に弾みも出て来るものだ。

前回の訪問時に最後まで抵抗していたグループに、1個流しのU字ラインを導入した時は彼らも半信半疑であったが、結果的に非常に良い結果が出たので一気に考え方も変わったという。それまで仕掛がフロアに溢れていた唯一の場所が一転して、非常にスッキリとしたフロアになっていた。たまたま作業していた反対派のオペレータに声をかけた。「随分とスッキリしましたね。」「そう、気持ち良いですよ。訪問して来るお客様もこの状態を見て喜んでいるので、私も嬉しいです。しかも作業が楽になり、生産性も良くなり嬉しいことです。」と期待以上の嬉しい返事があった。

初めて訪問した時に目指していた「工場をショールームにしよう!」というスローガンがようやく実現したのだ。お客様に見られることで、もっと良くしようという積極的な考えになり、そしてその方向に向け行動ができるようになってきた。しかも反対派が変わったことも大きな進歩であり、これでまた一つ改善のモデルが出来た訳である。

工場は今やこの企業のショールームになった

たまたまその日に本社から役員の人が来ていて、私に向かって「この工場に奇跡を起こしてくれて、本当に感謝します。」とお礼の言葉も頂く機会に恵まれた。「私はきっかけを提供しただけで、実際にやったのは製造部長をはじめ皆さんの力です。」と少し謙遜して答えておいた。先月のこの会社の社内報に表彰の記事が掲載されたようで、いつもは社長のコメントが掲載される場所に、今回の表彰される記事が製造部長のGさんの写真と共に大きく掲載されたという。

そのために各工場からの問い合わせや工場見学がひっきりなしにあり、仕事が出来ないくらい対応に追われていると嬉しい悲鳴というか愚痴をGさんはこぼしていた。それくらいの注目を浴びたことになるが、当初はこの企業は別の改善を取組み初めていた。私のコンサル方針には強く反対はしていなかったが、賛成もしていなく様子を見ようということで、結果が見えてくるまでの2年間は、Gさんはいつクビになるか内心冷や冷やしていたと今回告白をしてくれた。それほどのプレッシャーの中で改善に取り組んでもらい、本当に感謝しなければならないのはこちらの方であった。

この工場は非常に開放的であり、いつでも他の工場からの訪問を受け入れてくれるので、新たな出会いも数多く出来る。今回はこの工場のワークショップにドイツとフランスからも参加があった。以前遅刻をして「野バラ」を歌ったEさんも参加されたが、今回は歌を歌う機会はなく規律も良くなってきた。

小さな工場なので多くのチームは組めないが、今回は3つのテーマに取組んだ。いつものように気づきのヒントを紹介してから、現場観察を始めると今までにない多くの気づきを得ることが出来た。普通は30件前後であるが、50件、60件と非常に多くの気づき、問題点を発見することが出来た。これもモチベーションが上がってくるのと正比例する関係を如実に表してくれた。本社をはじめ各工場からの訪問や客先の工場見学などで、逆に社員の士気が高揚していることを感じた。

ただ今回の表彰対象がまだ完全に100%になっていなく、まだ99%のレベルなので、まだまだやるべきことは多く満足するレベルではないことを強調しておいた。目指すのは「毎回100%を達成して、それが連続していつまで続くかをこれからの目標にしましょう。」と訴えた。皆さんは笑顔で賛成をしてくれたが、やはり第三者に評価してもらうことの大切さが段々とわかってきたようだ。スイス人の国民性からしても、確実にやり遂げてくれるものと確信しているが、訪問するたびに工場がより良く整備される楽しみだけでなく、従業員と交わす笑いや挨拶もますます楽しみになってきた。コンサルタントはモチベーターでもあり、エネルギーを与えるエナジャーでもあるべきだと感じた。