「倉文協だより」リレーエッセーの原稿

今月の執筆者 南場兄一

『原田マハの「#9」を読んで』

 

 原田マハと名乗る女性作家の小説を三冊読んだ。それも立て続けに、一気に。

 一冊目は「楽園のキャンヴァス」、二冊目は「さいはての彼女」、もう一冊は「#9」。

 そもそも原田マハを知らなかった。もしや近年はやりのゴーストライターかも。でも実在した。ある現役作家の妹らしいから。

 さて「楽園のキャンヴァス」はアンリールソーの描いた「夢」がモチーフだ。ミステリー仕立ての小説だから、私がここで種を明かしてはならない。ルソーのファンは一読を。

 二冊目は18歳の聾唖の女性ライダーをめぐる短編集だが、取り立てるほどのストーリー性もない。割愛。

 そこで、いよいよ本題の「#9」。単行本の帯には「大人の純愛小説」と謳ってあるが、そこは自身がキュレーターでもある著者だから、読み取り方によっては芸術の本質をついた好著とも読み取ることができる。

 著者自らが「#9」を「ナンバーナイン」と読ませるそれは、何点かの上質な絵画をめぐって、ある時は作品の題名に、ある場面では画家の名前やある地名になってストーリーを彩る。

 真紅(しんく)と名付けられた女性が主人公。36歳で夭折した父は画家。画壇の異端児であったが、独自の画風を貫いて、最後に手がけた作品は真紅一色の抽象画であった。

 父の血を受け継いだ真紅はやがて世界の現代絵画を扱う一流のキュレーター()に成長する。

 原田マハはキュレーターとしての真紅に次のような4つの資質を付与した。

 「受信者、つまり鑑賞者として美術を極めるのに必要な資質は感性(センス)、知識(ノウレッジ)、照合(リファレンス)、そして表現(デイスクリプション)です」と。つまり世界的な現代絵画を鑑定する能力を感性、知識、照合、表現の4つだと規定したのだ。

 ちなみに「発信者、つまりアーティストに必要なのは、感性、技術(テクニック)、独自性(オリジナリティ)そして情熱(パッション)だ」と。

 いま市内の喫茶店で妙齢の女性が作品を展示している。4号前後の小品を十点余り。いずれも不思議な魅力を感じる。発信者としての感性と技術、独自性、そして情熱の、その何れをも、とりわけ静かな情熱を備えているからだ。何より「うまい絵」でなく、「いい絵」だ。もしや彼女も「#9」かも。(日本現代美術協会鳥取県支部長)

(美術館・博物館などで企画・運営にたずさわる専門職)