海外こぼれ話 144                  

 

4月末になると日没が8時半頃となる

 

 アパートのあるデュッセルドルフの緯度は51度であり、北海道の札幌市の43度と比べても相当北に位置しているので、日没時刻も夏になるにつれて遅くなる。これが欧州の人たちの楽しみになっている。3月末の最終日曜日の午前2時に夏時間になるので、2時が一瞬にして3時になり替わる。1時間の誤魔化しはあるが、次第に夏至に向けて日の当たる時間が日に日に長くなるのを感じる。それに伴い植物も芽吹き始めるが、その若葉の萌黄色が欧州に通う一つの楽しみにもなっている。今年の欧州の春は非常に寒く、植物たちもいつ芽を出そうかとかなり悩んでいたようだ。例年の2月には早々にレンギョウが鮮やかな黄色の小さな花を咲かせて春を告げるが、今年は非常に遅く4月に入ってからようやく咲き始めたほど寒い日が続いた。

 それでも日照時間は確実に増えてきたので、4月に入ると南ドイツでは一斉に遅れを取り戻すかのようにレンギョウ、リンゴ(色は真っ白)などの花が芽吹いてきた。天気が良いと日々萌黄色の色彩が濃くなっていくのがわかるほどで、植物が太陽を相当待ち望んでいたことがわかる。4月末になると出張で移動している時に、夕方になってもまた太陽が沈まない間に次の移動先に行くことができるのはホッとする。11月から2月までの冬の期間は、夕方の5時ごろになるともう暗くなってしまい、移動中も次のホテルに到着しても完全に真っ暗な状態であり、疲れも溜まるものだ。やはり太陽の陽があると元気になれるし気分もよくなる。欧州の人たちが春や夏を待ち焦がれるのは、本当にその気持ちがよくわかる。

 太陽が沈んでもまだまだ余韻は残り、真っ暗になるまでは30分以上もかかるので得した気分になれる。日本では日没後に真っ暗になるまでの時間は非常に短いが、欧州のように緯度が高いのでこのような現象になるのだろう。朝凪や夕凪があるが、欧州の夕凪は本当に風が吹かないので、道路に椅子やテーブルを出してビールやお茶を飲むのに好都合である。アパートの1階にある喫茶店も道にテーブルを8卓も並べて多くの客を招き入れている。困ったことにギリシャ人の店なので、タバコを吸う量が半端でなく蒸気機関車のようにモクモクと紫煙を上げている。喫茶店はケーキ屋も兼ねているが、その甘ったるい匂いとタバコのニコチンの臭いが同居している。その間を通ってアパートの鍵を開けて入るが、この混在したニオイが苦痛になっている。風向きが悪いとアパートの最上階まで臭う時もあり、焼き鳥の匂いなら歓迎だがそうもいかないのが残念である。

 

ドイツでは家が投機に対象になっていた

 

 ハンブルク郊外にある企業に毎月のように通っているが、最近反対派のようだった?マネジャーが次第に賛成派になってきたようで、必ず食事にも参加して積極的に話をしてこられるようになってきた。業績がはっきりと良くなってきたので、対応の方も積極的になってこられたと思う。2年や3年でトヨタ(生産)方式を理解して納得するには、もっと時間はかかるものであるが、結果が出るようになってくると信用するまでの時間は次第に短くなるものだ。

 そのマネジャーのHさんは、3年前にヘッドハンティングでこの企業に入社してこられた。家を最近購入したということで、招待された食事の時に家の話になった。ハンブルクの市内は運河が周囲に張り巡らされているが、地下水もふんだんと湧き出ているという。以前から地下水を市民は使っていて、湧き出る量と使う量のバランスが取れていて何の問題もなかった。しかし最近地下水を使うことが半減してきて、地下室などに滲み出してカビが発生したりしているという。ハングルク郊外を聞いていていたので、Hさんの家はどうなのか訊ねてみた。

Hさんの家のすぐ近くに道路があり、以前の家のオーナーがその道よりも高い位置に家を建てたので浸水の問題はないという。しかもドイツは地下室が必ず付いており、その地下室を倉庫にしたり、簡単な運動ができたり、中には工作機械を設置して木や金属を加工することを趣味としている人たちがいる。この工作機械は小型であるが、整備もよく精度もある程度出せるものを使っていて、会社で使う治工具も趣味で作っている人もいるほど地下室は活用されている。これは意外にも結構な趣味であり、自分で車やオートバイを改造して乗っている。ドイツにも車検はあるが、それをクリアして楽しんでいるようだ。

 日本では地下室はあるかと質問があったが、それは滅多にないと回答した。日本の住宅の寿命はどれくらいかと、さらに質問が飛ぶ。30年から50年で、その後は取り壊されるといったら、Hさんはびっくりしていた。日本は湿気が多く、しかも夏は高温にもなり家の材料の木材が持たないので、時期が来たら建て替えする理由を説明した。両親の建てた家は35年で地盤が悪いため使えなくなったことも話をしたら、さらに腰を抜かしていた。Hさんは大変なことだと同情してくれたが、ドイツでは家は投機の対象になっていて、買った時よりも高く売ることができるのが一般的だという。家の構造物が煉瓦や石なので、頑丈であるわけでさらに湿気がないのが家の内部の木材にもよい。それだからこそ家の建て替えが不要なので、彼らの大好きな車に投資できるのだと思った。

 

ハングルクに桜祭りがあった

 

 話のついでにハンブルク市内の運河沿いに桜がたくさん植えてあり、5月中には桜祭りが毎年開かれるという。ハングルクにはデュッセルドルフと同様に日本人の方が住んでおられるので、その友好関係が結ばれた時に植樹されたようだ。その時は花火も打ち上げられるようだが、寒いのにご苦労様としか言いようがない。それでも運河に映る花火は空中とともに観られるので、東郷湖の水郷祭のようである。ハンブルクでも日本の花見のようにゴザを敷いて宴会をするかというと、これは日本独特の風習である。彼らはただ美しい桜を歩きながら鑑賞するだけのようだ。聞いた話であるが、桜の「さ」は稲の神様のことで、「くら」というのは蔵のように集まるところを意味し、「さくら」とは「神が降りてこられる場所」という。だからそれを皆で祝い、田植えをして豊作になることを祈願することになるようだ。最近はすべて耕運機に任せているので、この桜の下での宴会は、ただの“どんちゃん騒ぎ”になってしまったのは残念だ。

 日本の桜は、なんといっても染井吉野だろう。淡い桜色に一斉に咲いてパッッと散るのが江戸っ子(日本的)らしく、それが日本中に移植されて広まったようだ。東京の染井という場所にあった桜を、交配して作られた桜だという。ドイツの桜をよく見ると染井吉野ではなく、もっと色が濃く花びらの多い「八重桜」のようだ。花びらを数えてみると、八枚ではなくもっと多い平均で十二枚もあった。「八」という数字は、多くあるという意味もあり、限定した数値ではない。私の住んでいる八橋は、八つの橋があった訳でもなく、四つの川が流れているので、多くの橋が必要だったので、それで命名したと想像する。

 この訪問している会社の講義室の隣に桜の木があったので、記念撮影をしてきたが青空によく映えていた。よく見るとこれも「八重桜」のようで、工場内の敷地には何本もの桜が植わっていた。いずれも「八重桜」であり、目についたのは大河ドラマのせいかもしれない。

 

工場内はレイアウト変更中

 

 この工場はこの2年間で、大規模な工場内のレイアウト変更が行われるようになってきた。モノと情報の流れをスムースに流していくためには、目に見える設備や製造ラインだけではなく、スタッフの事務所も合わせて、モノの流れに沿うようにつなげることで、情報の流れもスムースになる。リーマン・ショック後の客先からのリードタイム(注文してから納入されるまでの期間)大幅な短縮が、要求されるようになってきた。今まで非常に品質が良かったので、納期は二の次であったが、今は品質も納期も価格さらにはサービスまでも合わせて、すべてのことに要求が高まってきている。それに追従できないと注文が来なくなり、倒産という憂き目あうことになる。

 モノの流れを乱流だったものを少しずつ整流化して、流れが見えるようにしていくことで、一気にリードタイムを短縮できる。不思議なことのようであるが、人は見えないと何もできないが、いったん見えるようになると気づきが生まれ良い方向に突き進むことができる。これは多くの企業でやっていることで、この工場でも取り組み始め成果を出しつつある。必要な作業や職場を次第に近づけることで、今まで離れていたためにあった余分な仕掛がだんだんと少なくなっていき、モノ探しが減っていくことで流れが良くなるのである。

これは工場だけでなく、どの業界でもどの家庭でもいえることであり、一度ご家庭も要るものと要らないものの判断をしてみてはと思います。そのヒントは、すぐいるかどうか、今日使うか、といった時間のモノサシで判断するとよいでしょう。しばらく使わないもの、そしてめったに使わないもの、そして使わないものは廃棄してすっきりしていきます。これは工場でも紹介している内容です。そうすれば関係のあるものが、だんだん近づいてきて流れを作り始めます。そしてスペースがないと苦情があったのが、今度はスペースが余り始めたとなってきます。そうすると空いたスペースで、何かを作ってみようなどと改善ができるようになりますので、お試しあれ!

 

レストランの名前は、肺がん?

 

 南ドイツのワインの産地であるLauffenにも毎月のように通っているが、この会社も毎回食事の招待がある。今回は丘の上にあるレストランに招待を受けた。ホテルから車で15分のところにあり、住所をカーナビに入力して出発だ。午後6時半であるが、まるで日中のように明るい。ドイツでは、午後6時半という表現ではなく、18時半という24時間と基準にした表現をする。そのレストランの名前が、「肺がん」だった。ドイツ語では、単なる“Heigen”という地名だった。

天気も良いのでレストランの室内でなく、テントを張り出した庭で夕凪の爽やかな場所から眼下を眺めるのは、本当に気分が良い。遠くにはネッカー川の水を利用した火力発電所があり、白煙は空に真っ直ぐに向かっている。この丘の反対側には原子力発電所があり、発電所のすぐ脇には民家がある。これは日本の原発の設置環境とはまったく違い、原発の間近に民家が隣接している。

この原発はドイツで最も古い時代に建設されたものらしく、当時はそんなに原発の恐ろしさを知っていたわけでもなく建設をしたのだろう。日本は冷却水を海水で供給しているが、欧州は川の水を利用しているので、当然その流域の川魚は食べない。しかもドイツは滅多に地震もないので建築物の崩壊は考えなくてよいが、目の前に原発があるものは不安だと感じるが、彼らは平気なのだろうか。

でもこののどかな風景を眺めていると、ほんわかとした気分になれる。さらにほんわかとした気分になろうと、地元のワインを頼むことにした。あとのメンバーはビール派なので、ボトルではなくグラスワインを頼む。ワインカルテを見てもらうと、最近見つけた地元の赤ワイン「アコロン」という品種もカルテにあったので、それを頼んだ。しばらくしてウエイトレス(もう70歳くらいのお婆ちゃん、それでも民族衣装をまとっている)が戻ってきて、在庫がないので他のワインにして欲しいと申し出た。

なんとカルテにあって地元のワインが在庫なしとはありえないことだったが、気を取り直し別の赤ワインを頼んだ。それはイタリアのシチリア島産のワインだったが、試飲をして了解した。この試飲ができるのは、ちょっとした確認ができるので便利な習慣であり、日本でももっと試みて欲しい。前菜はパルマハムと黄色のメロン(このような表現をするようだ)が、このハムはイタリアのパルマ県(大小200くらいの生ハム工場がある)で生産しているハムで世界三大ハムの一つになっており、文字通り非常に美味しかった。これは薄くスライスすることで、塩味が旨味というか甘く感じられる。

メインは牛肉のステーキ230gもあったが、到底食べられないので150gの肉をレアで頼んだ。付け合せのポテトは店が間違って別なものを持ってきた。でもすぐに間違いに気づいて、本来のポテトを持ってきた。先ほどのワインのミスの指摘が効いたかもしれない。他のメンバーは、ドイツで春を呼ぶ野菜の代表格のアスパラガスを頼んだ。各テーブルにはそれぞれ担当のウエイトレスが縄張りを持っていて、根性の悪いレストランやウエイトレスになると、呼んでも返事をしなかったり、わざと目を逸らしたりして対応をしてくれない。それをクレームにしようとしても、相手にはされないほどサービスが悪い。でもこのレストランは、他のウエイトレスがチームワークよく対応してくれた。

この店のウエイトレスは多国籍に及んでいて、70歳くらいのお婆ちゃんは完全なドイツ人だった(一番要領が悪く、動作もゆっくりだった)が、他にはアジア系、地中海系、東欧系と私でもわかるくらい一人ひとりの顔が違っていた。愛想の良かったのは、アジア系の人であったがやはり親近感があったのだろう。日本でも最近コンビニや居酒屋でも外国人のアルバイトがいるが、ネームを見て初めて韓国や中国の人だと気づくほど日本人に似ているものである。デザートはもうお腹が一杯で食べる気もしなかったが、仕上げのシュナップス(洋ナシなどの焼酎)を20tほど一気に飲み干して食事を終了する。さあ明日から張り切ってまた仕事だ! 

 

できないといいながらもできるようになった

 

 食事会で元気をつけた勢いのお蔭なのか、その会社では今までできなかったテーマの目標達成ができるようになってきた。改善のテーマを実施してその時にできなくても、次の訪問時の最初に経過報告をしてもらうようにしてから、逃げ出せなくなったことを彼らも理解し始めたようだ。私の性格は蛇年のサソリ座なので、しつこいに加えて毒があるということで、テーマ完了をいい加減に収束させない点がある。しかしこのように毎回に前回の経過報告をしてもらうようにしてからは、確実に成果が上がるようになってきたことは事実である。

 テーマが本当に完了するまでの経過を、関心を持ってしかもそれぞれに評価をきちんとして説明をするようにして、動機づけも明確にするようにした。皆さんはやはり認めてもらいたいものであり、第三者の評価も気にしているようである。すべてに良しということでもなく、まだ不足している点があれば指摘することも忘れない。その発表があった後には、実際にその現場にも出向いて現場の人たちとも話をするようにして、もっと動機づけを狙っている。

しかもその会社は2つの工場が数kmの範囲にあり、相互の競争にもなるようにトップもそのように仕掛けられたので、ますます成果を出すことにヒートアップしてきた。でも結果が出るようになってくると、現場の人たちもやる気が出るのは確かである。最初の頃は何をするにもまず言い訳が出てきたが、最近はどうしたらできるようになるかという言葉が出るようになってきた。

同じ人間でも消極的に取り組むか、それとも積極的に取り組むかで、まったく結果が違ってくる。最近は、「皆さんの大切なものは何ですか?2つ書いてください!」と聞くようにしている。皆さんの答えは、家族、健康といった答えが返ってくるが、「本当ですか?」とさらに問いただして、「命と時間でしょ!」と再確認をする。この前提条件がないことには、家族も健康もないですよと話を続ける。せっかく改善の時間を会社が皆さんに提供し、その時間は普通の業務から解放されてテーマに専念して取り組むことができ、そのメンバーともノウハウの共有化、交流もできる機会を与えられることをもっと意識しましょうと説得している。

その意味、つまり人財育成(人という資産を会社の財産にしましょうということで、この字を使っています)をだんだんと各企業も理解し納得もされだしたので、成果もついてくるようになっている。人は感情の動物ともいわれるが、その感情を上手く引き出して活用し企業の体質を少しでもよくしていくことも、コンサルタントの大きな支援の一つである。その感情を簡単に引き出すには、笑顔が有効であり、しかもユーモアも大切な有効な武器でもある。