海外こぼれ話 145                 

 

新緑の季節

 ドイツは5月になっても今年は非常に寒い。もうすぐ夏になろうとしているのに10度前後と気温は一向に上がる気配がなさそうである。しかも連日の雨模様で長袖にコートも羽織るような寒さになっている。しかし今年の新緑の季節は遅いながらも少しずつ南の方からだんだんと北上して来つつある。日本のように桜前線なるものはまったくなく、アルプスや南ドイツからの雪解けによる川の増水の知らせくらいで味も素っ気もない。

でもこの新緑の季節は、1週間でも森の色が様変わりするように一気に変化していく。電車に乗っていても窓からの新緑の色の変化を楽しむことができる。5月になると日没が9時以降になり、夜の10時ごろまで明るいので、車窓からも風景も楽しむことができる。ドイツで一番いい季節が、5月から8月の日照時間の長い期間であると思う。夕方には凪の状態が多く、しかも陽が長いので観光にも、もってこいだ。ここで「目に青葉 山ホトトギス 初鰹」といいたいが、ドイツは「白いアスパラガス」が季節の食材として登場する。アパートで料理をしたが皮むきが大変なので、これはやはり店で楽しんだ方が良い。

話は変わるがドイツには竹藪がないので、筍は韓国や中国、さらにはマレーシアなどからの輸入ものなので味も素っ気もない。それでも時々買って料理をするが、節の中にある白い粉が石灰岩のように固くなっており、それを取り除くことに手間がかかるので苦労する。でもそれは「チロシン」という一種のアミノ酸であり、頭の神経をよくするものらしく食べても問題はなく触感にやや問題がある。若竹は1日で80cmも成長する(短時間で最も大きくなる植物)ことがあり、やはり頭が良い植物なのだろうか。

今年も我が家の筍は、今年数十本も掘り起してすぐに丸焼きをして焼き上げて春の食材を楽しむことができた。鳥取県中部でもこの料理方法をご存じない方が多くおられるが、ガスでは無理であり、庭に大きな穴を空けてそこに竹の枯れたものを薪として一気に焼き上げる。いわば筍の皮で蒸し焼きになる。しかもその周囲には、ワラビ、蕗もあり、自宅の山椒の葉を一緒に取り込んで食卓を賑わした。この季節感はドイツや欧州にはないので、それぞれの良さを発見することも旅行、移動の楽しみにしている。

ちなみにデュッセルドルフのスーパーでは、長芋が10cmで切り売りされているのを発見したが、値段は5ユーロだった。1sに換算すると20ユーロ(2600円)もする高級食材だ。長芋やミョーガはドイツでは高級食材なので、地元の旬のものをたくさん食べておきたい。故郷を離れて改めて知ることであった。

ドイツへようこそ、ドイツ鉄道編       

 この前DBカードなるものを忘れてドイツ鉄道に乗車した。このDBカードは、年間会費を払うと一等車や二等車の乗車券が、25%引きや半額になるカードである。乗車回数が多いと費用削減に利点がある。一等車のカードの半額になるカードを忘れてしまったので、今回は合計4回の検札に来た車掌に申し出た対応が、それぞれ違っていたこともあり取り上げてみたい。

 最初の車掌は、切符は既にインターネットで購入していたが、カードを持参していないことでもう一度車内で同額の切符を買うはめになった。しかも7ユーロの罰金付であった。ただし次回DBカードを持参して、再度購入した切符を駅の窓口に持っていくと返金があるという。この異常に対しての手続きは5分くらいかかった。しかもハンディタイプのコンピューターは1s以上もあるデカイ装置である。よく見るとドイツ製ではなく、なんと日本製の装置(CASIO製)であった。何でも二次元バーコードを正確に読み取るには日本製しかないようだ。このような電子機器はやはり日本製だといわれると気分がいい。 

帰りの電車では、やはり再度切符の購入が必要であったが、その車掌は罰金を請求しなかったので、やや気分が良くなった。これも切符とカードを持って駅の窓口に行けば返金してくれるといっていたが、実は本社からの手紙が来てから手紙も持参してからだという。その手紙は1カ月経ってもまだこない。イライラするが、ドイツへようこそ。

 その週は北と南に移動だったが、北方面はこのようにカードを忘れたことに足して業務に忠実であった。南方面では行きも帰りもちょうど乗車客が多かったことが幸いしたようだ。そのような面倒な作業はしなく、正直にDBカードを忘れましたと言ってパスポートと一緒に切符を出したら、「OK!」と言ってお咎めなしで済んだ。この問題の根本は、日本にドイツで使う財布を置き忘れたことだった。さらにその問題の根っこは、いつものリックサックをビニール製(TUMI製)から革製に替えたためにうっかり取り出すことを忘れたのだった。もうすぐ還暦を迎えるが、物忘れの兆候が次第に始まってきたようだ。

 さらに思い出したことがあるが、ドイツ鉄道のトイレが良く故障している。数回に一回は故障しており、故障の貼り紙を見ることがあるが、ほとんどが印刷されたものであり、日常的な故障がある証拠になっている。そのたびに他の車両まで移動するが、その時に限って誰かが待っている。また駅構内のエスカレーターやエレベーターの故障も日常茶飯事になっており、なかなか修理されないのでその都度階段を使うが、トランクはそのような時異常に重く感じる。

数年前から民営化になって大幅なリストラになったが、少人数になっただけで故障の発生は多くなり、修理が間に合わなくなっている。「サービス」という言葉がないドイツでは、お客様満足の発想も薄く迷惑を被るのはいつも利用者だ。ドイツ語で彼らに文句も言えないので、この「海外こぼれ話」でうっぷんを晴らしている。ドイツへようこそ。

モンキーという工具

 この1年前からドイツでも急に盛んに利用されるようになってきた技術が、3Dといわれる非常に薄く樹脂や金属を成形して積み上げていく手法である。3Dといっても、テレビの飛び出す画像のことではないのでお間違いなく。数年前に日本での展示会でこの手法で製作した「モンキー」という工具のミニチュア版をもらったが、最初はどうしてこのようなものができるが不思議であった。普通は数点の部品でしか製作できないが、1つの部品でしかも一気に短時間でできるという最先端の手法である。

米国では非常に盛んになってこの手法を取り入れており、普通樹脂で形を作るには金型を作って、「鯛焼き」のように小麦粉を溶かしたものを焼き型に流し込んで焼き上げている工法である。でもこの3Dの特徴は、金型を作らなくても製品ができるので、設計から完成までの時間が1日以内でできるようになってきた。市場環境がリーマン・ショック後に激変しているので、この工法が一気に広まっていった。100分の1oの非常に薄い層に積み重ねができるので、非常に精密なものまで製作が可能である。ようはMRIのレントゲン検査のように細かく切って、一枚一枚重ね合わせて形を作るものだ。

 訪問先の会社でこの話をしたら、彼らも既にその機械を導入していた会社が2社あった。小さなものは数百万円で入手でき、色々な試作品にも既に使っていた。日本でもカップ麺の大きさの製品ができる設備が、100万円くらいで購入もできる。持っていたそのモンキーを見せたら、「それは、ドイツではイギリス人とかフランス人というのだ。」と彼らは大笑いになってしまった。ドイツではこの「モンキー(自在スパナ:ナットなど締め付けや取り外しに使う。ネジで自在に調整ができるのが特徴。)」を滅多に使わないという。そういえば彼らの工具箱には今まで見たこともなかったので、これは本当の話だ。

なぜならドイツ人はきちんとした工具を使うので、そのようないい加減な工具は使わないという。だからそのことをイギリス人とかフランス人というのだと教えてくれた。通訳もそれは事実であると証言してくれた。日本では「モンキー」と言っているが、訳せば「猿」であり、とてもまともな人間の使う工具でないことを示唆していたのだった。このことを知って合点がいった。ある意味ドイツがきちんとした工作機械で、まっとうな製品を生み出していることに誇りを感じた。またネジ締めの工具として、「ヤンキー・ドライバー」という手動式のものがあったが(40年前は盛んに使っていたが、今はあるかどうか知らない)、ドライバーを回さなくとも、上下させることでネジを締め付けるものだった。かなり野蛮な工具であったが、ネジの頭が良くつぶれていたので、やっぱり「ヤンキー(米国人)」というのかと妙に納得していた。この「モンキー」の工具の話を聞いて思い出した。

ビールのラベルがさかさま

 でも彼らのことを心の底から信じることはやめた方が良い。人は信じても作業や仕事は信用してはいけないと、いつも言われていたことを思い出した。デュッセルドルフの地ビールは、アルト(古い)ビールと呼ばれている。色は茶色に近く、私の好きなデュンケル(黒い、暗い)ビールによく似ており、ケルンなどの透明なビールよりも香ばしい味がする。スーパーなどで買うと500ccが一本1ユーロもしなく非常に安い。35年前に初めてドイツに来た時のビールも1マルク(当時のレートで120円だった)と安かった。しかもドイツのビールは非常に厳密な法律を基に生産されているので、日本のように麦の代わりにコーンスターチやコメなどは一切入っていなく麦芽100%である。入れたらビールでなくなる。

 この前近くのミニスーパーで買ったアルトビールを飲んで、片付けようとした。ワインやビールなど飲んだら、いつも中を軽く洗浄して段ボールの箱に入れで廃品回収している律儀な一面も持ち合わせている。中の残ったビールを洗浄しようとビンに水を入れかけたら、ラベルの表示が可笑しいことに気づいた。ラベルの向きが上下反対に取り付けられていたのだ。このことに気づいたのは初めてのことであり、大変貴重なので記念撮影までしてしまった。ここまで几帳面なドイツ人なのに、このような抜けがあったので、またホッとした気分を味わった。ラベルが逆さなのでアルト(古い)の反対のノイ:(新しい)という意味か?味は別に変ったことはなく同じだった。ドイツへようこそ。

ドイツの通信機能はよくない

 南ドイツのいつも宿泊をしているホテルから、今日はインターネットが使えないので申し訳ないと謝罪があった。先月から故障していて、ヴォーダフォン社に何度も来てもらい修理を繰り返していたが、とうとう修理できないと回答があったそうだ。従ってこのホテルでは、その間すべての部屋のインターネットが使えない状況だったそうだ。結局別な会社にする決意をしたという。日本では信じられないが、ドイツ人は辛抱強い。このように特に電気系統の不具合は、普通の性格のみならず工場内の電気工事も非常に遅い。我慢強いことも確かである。デュッセルドルフのアパートの無線LANも非常に遅く画像のあるものは、何度か一旦停止を何度も繰り返さないとみられないので、途中止めにすることもしばしばだ。日本に帰るとサクサクとつながるので嬉しくなるほどだ。

230ボルトの高い電圧なのか知らないが、電気専門の人しかちょっとした配線すら変更ができなく、改善の時には人手不足になりイライラする。幸いそのようなことも想定して、携帯電話からも、そしてUSBメモリーから通信のできる準備をしていたので、少し反応時間が遅くなるがさほど問題にはならないが、ホテルの家族は非常に不満顔していた。日本では、倉吉でも光通信なので重いデータや映像があってもすぐに送受信ができて気持ちが良いが、ドイツでは一気に化石時代に来たようなのんびりとした通信速度であり、本当にイライラする。

車もメカは非常に良いが、電気系統の不具合は非常に多い。以前ドイツ車を乗ったことがあるが、7年間ですべての電気系統の部品を交換して、結局新車の日本車と同じお金を使ったことがあり、それ以来外車は購入しないようにしている。スタイルはいいが、なんて馬鹿な買い物をしたと責め立てられたので、これ以上は買わない方が賢いと控えている。

日本はメカと電気の相性は非常によく「メカトロ」とも呼ばれ一体物になっているが、ドイツはまだメカ中心の世界になっている。自動車は相変わらずマニュアルの変速機が多いのは、保守的でありメカが大好きなことによるものだ。でもドイツ車の「カルマンギア」という昔の車が、非常にセクシーでカッコいい(「トップガン」という映画にも登場する)。日本車では、いすゞの「117クーペ」(イタリア人のデザイン)であるが、両方とも既に生産をしていないのが難点である。

新工場の建設

 北ドイツのP社は、国の援助をもらい工場拡大するために隣の土地を購入し長さ64m、横40mの工場を建設することになった。事前にその話を伺っていたので、多くのアドバイスを提供していたが、ほぼ完成したので内部に入ってさらに説明を受けた。アドバイスの主なものは、モノの流れを見えるようにし、モノの流れが一筆書きのようにリズム良く流れること、さらに工場の内部に壁を作らないで見通しが良くなるようにして、隣の部門とも応援ができる仕組みを取り入れたものであった。これらは数年前からトヨタ方式の考え方を説明し、今まで工場の中で展開してきたことだったが、いよいよその考えを一つにまとめて新工場で実際に取り組むことになった。

何度もシミュレーションを関係者で繰り返しながら、そして訪問するたびにアドバイスも受け入れてもらいながら取り組んでもらった。現場に入ると、屋根や壁が出来上がり、床暖房のためのオレンジ色の直径15o位のチューブが20cmおきに綺麗に並べられていた。通常は工場の暖房は天井からの温水による輻射熱による暖房であるが、これだと頭は暖かく足元は寒い欠点があった。今回の費用は高くなったが、オペレータのためにも床暖房にする決断をされた。

 この無数のチューブの上に20cmのコンクリートを敷き詰め、さらにその上に3cmの床専用のコンクリート敷き詰めるという。チューブからの水漏れはないかと訊ねたが、それは心配ないそうだ。いつも顧客満足も大切だが、その前提として従業員満足が大切だと訴えてきたが、この床暖房にそのことを受け入れてもらったようだ。

モノの流れの改善としては、構内の物流システムがある。現在も実際に予定時間に対して、実際の到着時間を毎回記入するようにしている。このバスの運行表のように定期的に巡回していくスタイルを、工場が拡張するのでさらに良くするために空港の荷物を連結する牽引車で数台の台車を引っ張るものにした。その台車も自分たちで設計したものを、何十台も手配し既に現存の工場でも使い始めていた。かなり以前からの準備した考え方が浸透して、ほとんどミスなしで完成しつつあるという。この話を伺ってこちらも嬉しくなった。素直に指摘したことを、さらに自らの考えを取り入れて、より良いものに実践されると良い結果が得られるようだ。

「数えないで数える」とは?

最近出前講座のように各会社に対して毎回のセミナーの講座以外に、特に知りたいとか勉強したい内容があれば、リクエストにお応えするようにしている。今回は、「数えなくても数えない」という演題があった。物流の棚卸をもっと簡単に効率よく、しかも正確に出来る方法のヒントが欲しいということであった。そこでピンと来たのが、お金を数える羽子板のようなものだった。インターネットで調べてもわからないので、近所の八橋郵便局の局長さんに訊ねた。それは博物館しかないもので、「銭枡」とか「金枡」というもので、事例の写真まで提供して頂いた。それをヒントに卵ケース、コイン収納箱などの事例を集めた。

ドイツには似たようなものがあり、それは乾電池の大きさを振り分けるものだ。羽子板のように上から、単5、単4、最下段が一番大きな単1の乾電池が入るようになっていて、現在も廃品回収で使われているという。このヒントから「組立ないで組み立てる」「加工しないで加工する」「段替えしないで段替えする」「移動させないで移動する」「検査しないで検査する」などのコンセプト(こだわり、概念)が次々と湧いてきた。このヒントで原稿やシナリオが書ける。