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初めてのアメリカ

〜大学一年の春休みに2カ月間〜

 

もうずいぶん昔のことになるが、19才になったばかりでそれが生まれて初めての海外旅行。大学の外国人の先生が毎年個人的に主催しているツアーで、ロサンゼルスに1カ月間滞在し語学研修と観光、その後、米国の長距離バス、グレイハウンド社の1カ月乗り放題のアメリパスを使って自由旅行、そして最後にハワイによって日本に帰るという内容。

 

参加者はみな同じ大学の学生なので気軽で、一人参加がほとんど。私も一人参加。男女全員で12人くらい。いろんな学部学年の人と知り合うことができたのもよかった。ロサンゼルスで最初の一カ月は長期滞在者向けの経済的なホテル。簡単なキッチンがついていて自炊ができる。私は1学年上の女子学生と同室になった。

 

初めての外国。初めてのアメリカ。見るものすべてが新鮮で刺激的だった。ロサンゼルスの空港に到着すると大型バスが私たちを待っていた。高速道路が広い。何車線あるんだろう?バスが気持ちよく飛ばす。引率の先生が手配してくれたガイド役の男性が「高速道路は東海岸ではハイウェイと言うけど、カリフォルニアではフリーウェイと言うんですよ。高速料金が無料だからね。」と説明する。生の英語を一生懸命聞きとろうとみな真剣に聞いていた。

 

ホテルはロサンゼルスのダウンタウンから少し離れたところで、市バスで移動が可能。だけど公共交通網が発達した日本と違って本数が少ないのでバスはやはり不便。基本的に車社会で一般家庭で生活している人はだいたい大人の人数分、車を持っているようだった。

そもそも郊外では歩いて行ける範囲内にスーパーもなければ学校もない。

 

私たちが宿泊したホテルの近くには、たまたまセイフウェイという大型チェーンのスーパーがあって、そこで買い物ができて良かった。スーパーで売っているものは日本と比べると何でも大きい。牛乳のボトルの大きいこと。キュウリもすごく大きくて日本のキュウリとは別物の野菜みたいだ。果物が安い。日本と比べるとオレンジが特に安いなあと思った。スーパーにはレジにファスト・レーンというものがあって、購入の品数が7個までとか決まりがあって、少量の買い物の人はそのレーンに並ぶと早い。普通のレジだと大きなカートに大量の買い物を積みこんだ人がいるので時間がかかるのだ。

 

ホテルの部屋にはシャワーはあったが浴槽はなかった。最初見た時、「えー、お風呂にはいれないの?そんなぁ。」と思った。ホテルなんだからどこか別の部屋にはあるに違いないと思って聞いて回ったが、どこにもなかった。どうやらこのホテルは全室シャワーのみらしい。それが驚きだった。しかしそのうち米国人の生活ぶりを知るに従って、どうやらこういう簡易ホテルでシャワーしかないのは普通のこととわかった。多くの米国の家庭にはお風呂はあるけれど、浴槽にお湯をためてつかることはめったになく(人によるがたぶん年に数回程度)普段はシャワーのみなのだ。

 

ロサンゼルスは2月というのに暖かかった。温暖だとは聞いていたけどいくらなんでも2月3月を過ごすのだからと思って毛糸のセーターを持って行ったが、ロサンゼルスでは一度も着ることがなく、毎日半袖だった。日陰は涼しいが陽があたると暑い。しかしこの暑さは日本と全然違った、からっとした暑さで暑くてもちっとも汗をかかない。日本では暑いイコール蒸し暑くて汗が出るだったので、ほんとうに不思議な感覚だった。汗をかかないなら暑さもそれほど不快ではなく、着たものをすぐ洗濯する必要もなく便利だなと思った。

 

日本では、アジア系は日本人と似ているので別として、外国人だと見かけですぐ外国人と分かる。しかし米国は移民国家なのでもともと様々な人種・民族が生活している。街を歩いていると、私は外国人で訪問者にすぎないのに、現地の人に外国人だと思われないらしくて、道を聞かれたり、今何時かと聞かれたりする。たしかにロサンゼルスには東洋系の米国人はたくさんいて見かけではなかなかわからない。まるで日本人そっくりの顔をした男の子がネイティブ発音の英語をぺらぺらしゃべっているのを初めて見て、そんなこと当たり前なんだけど、なんとなく違和感を覚えたり。

 

このツアーでは2カ月の滞在中にホームステイが少しだけ組まれていて、ロサンゼルス、オレゴンの田舎町、ハワイの3か所でそれぞれ3日間の一般家庭滞在をした。このホームステイは短くてもとてもよい経験になった。米国人の一般家庭の生活に直接触れる機会でもあり、英語面でもとても効果があった。

 

日本では住宅のまわりに塀があるのが一般的だが、米国の住宅では塀がないのが一般的。どこの家も芝生。車は駐車する時は頭から入れてお尻から出す。どこも道幅は広いしなんて運転しやすいのだろう。だけど米国は車は右側運転だから左折するときにまだ左側に道があるというのがちょっと違和感だった。

 

トイレのことはバスルームと呼ぶ。トイレは風呂と一緒になっているので、そう呼ぶのももっともだ。ちなみにデパートやレストランでもトイレのことはバスルームと呼ぶのが普通。お風呂なんかついているわけもないのにそれでもバスルームと呼ぶ。一軒家の場合はトイレは3か所くらいあって、住宅用語ではたとえば風呂付のトイレが二つとトイレだけのものが一つだとバスルーム2個半と呼ぶ。トイレのドアは使わない時はいつも開けておくのがルール。トイレのドアが閉まっているということは誰か使っているということ。

 

ドアを開けておくというのはトイレに限らずどこの部屋でも基本的にはそうだ。家の造りからしてドアが廊下で邪魔にならないように、ドアは廊下側に引くのではなく部屋側に押して入るようになっている。子供は普段は子供部屋のドアを閉めないようにしつけられている。子供が部屋のドアを閉めたままでは何をしているのか親が見守りをできないからだ。ドアを閉めるのは着替えをするとか特別に何かに集中したいときとかに限られる。

 

米国の家庭には立派なダイニングルームがあって、高級な食卓テーブルや椅子、食器棚などが飾られているが、その部屋はクリスマスや感謝祭のディナーや来客時に使われるだけでふだんはめったに使われることがない。家族はキッチンのそばにある小さめのテーブルで毎日の食事をする。応接間には品の良い応接セットや飾り棚があるが、この部屋もめったに使われることはない。家族はリビングルームでカウチと呼ばれる長椅子やリクライニングの椅子でカジュアルに過ごす。

 

米国家庭は土足生活だ。家に帰るとサンダルに履き換えたりして足を休める。土足のカーペットの上を靴を脱いでソックスや裸足のままで普通に歩いたり、平気で座ったり、子供は寝そべったりすることも。公共のトイレの床にも平気でカバンを置いたり本を置いたりする。スリッパはベッドルームで使うものという感覚でそれ以外の所ではあまり使われない。

 

ロサンゼルスでの1カ月が終わって、サンフランシスコ、それからオレゴンの田舎町までは先生とツアーの他のメンバーたちと全員で長距離バスで旅行。オレゴンで解散してそれぞれ分かれて自由旅行をして再度ロサンゼルスに集合することになっていた。私は大学3年生の女子学生と二人でまわることにした。シアトル、バンクーバー、ソルトレイクシティ、デンバー、ラスベガスそしてロサンゼルスに戻った。長距離バスはまっすぐな高速道路を突っ走るだけなので電車と同じような感じ。日本では乗り物酔いする私が全然酔わなかった。長距離バスにも慣れて、ソルトレイクシティーからデンバーへ行く時は分かれて一人で行動してデンバーでまた合流。

 

ツアー最後のハワイは楽しかった。海水がきれいで透き通っていて足の指先が見えてびっくり。ビーチは遠浅でどこまで泳いでも足が届いて不思議だった。沖縄などは別だが日本の海は濁っていて、ちょっと行くともう深くなって足が届かないし、そういう海しか知らなかったから。ロサンゼルスの頃から日焼けして顔が真っ黒。ハワイのワイキキの街を一人で歩いていると観光客の日本人男性にたどたどしい英語で話しかけられ、期待を裏切らないようにそのまま英語で答えた。その程度には米国の生活に慣れた自分に気がついた。

 

このたった2カ月の米国体験だが、19才の時にこれを経験してとてもよかったと思う。2カ月くらいで英語がぺらぺらできるようになる訳ではないが、なんとかなるという度胸はついた。単なる観光旅行とは違ってアメリカ滞在経験ができたことがよかった。若いととにかく吸収が早い。たぶん30才の人の6か月分くらいは吸収できたかなと思う。現在日本でグローバル人材の育成が叫ばれている。大学生のうちにできれは1年くらい留学するのがいいと思うが、たとえ短期でもたしかに効果はあると思うので、できれば機会を作って海外へ行くとよいと思う。