第58回
ニューヨーク州の大自然
〜カヌー・ツアーでアウトドアを満喫〜
ニューヨークと聞くとイメージするものはマンハッタンの摩天楼かもしれない。しかしマンハッタンはNY州NY市のマンハッタン区というNY州の中のほんの一部にすぎない。NY州はとても広い。北西部でナイヤガラの滝がある所はカナダ国境に接している。NY市通勤圏とは違って、NY州の自然が豊かな郊外の地域を地元ではアップ・ステート・ニューヨークと呼ぶ。
アップ・ステート・ニューヨークには豊かな美しい自然があり、州立公園もいくつかあり、ハイキングや、キャンピング、ラフティング(いかだやゴムボートを使って行う川下り)など様々なアウトドア・スポーツを楽しむことができる。もう10年以上前の夏のことだが、私はマンハッタンからアウトドア専門のツアー・グループが主催する3泊4日のカヌー・ツアーに参加した。カヌーで移動しながらキャンピングをし、ハイキングも組まれていた。
ツアーガイドは男性2人。参加者は12人程度。20代から40代の男女半々で全員が一人参加だった。マイクロバスと自家用車に分乗して、マンハッタンから昼休憩を含めて7時間くらいでNY州の北東部にあるサラナック・レイクに到着。最初の1泊は夜到着だったし、キャンピング用具、器具、食料などの分担のためミーティングの必要もあるので簡易宿舎に宿泊。翌朝からカヌー・トリップが始まった。
カヌーは現地レンタル。ニ人一組で乗る。私はNY郊外で日帰りのカヌー・ツアーに過去3回くらい参加したことがあったのでカヌーは初めてではない。カヌーは後ろのこぎ手が肝心で前は簡単だ。私と組みになった人はベテランだったので私はずっと前のこぎ手をしていた。初めての人もいたので、救命胴衣の付け方、パドルの扱い方、カヌーの動かし方、万一転覆した時の心得などの簡単な講習があって、いざ湖に出陣。
滑るようにカヌーが走る。青い空。日差しが強い。湖の上には全く日影がない。水草が湖畔にたくさん茂っていて空気もきれいだ。人も少ない。同じニューヨークでもマンハッタンとは大違いで別世界。日ごろのマンハッタンでのけんそうやストレスが飛んでいく。サラナック・レイクはいくつかの部分に分かれていて単純な一つの湖ではない。湖からとなりの湖にカヌーで移動できないときはいったん陸地にあがってカヌーを担いで台車に乗せて移動させる。
夕方になって湖畔でキャンプの準備。ここのキャンプ地はサイトごとに定員が厳しく決まっていて事前に許可を取らなければならない。さっそくレンジャーがやってきて、ツアー・ガイドが許可証を提示する。ここはトイレ・電気・水道設備が整ったキャンプ地とは違って、純粋な自然派用になっていてトイレもなければ水場もない。もちろん電気もない。水は湖からとった水をアウトドア用のピューリファイヤーを使ってきれいな水にする。ガイドは、自然に対して人工的なインパクトを極力与えてはいけないと私たちに対してしつけが厳しい。「練り歯磨きを使って歯磨きをするときは、口をゆすいだ水を一か所の地面に吐き出すのではなく、数か所に噴霧するように。」「使った皿の汚れを湖で洗ってはいけない。紙で拭きとるように。」「トイレで使った紙は草むらに捨てずにビニール袋に入れて持ち帰るように。」と言われる。
みんなで夕食の準備。ガイドはベジタリアンで食料に肉類はない。豆腐バーガーがあった。わいわいやりながら食べて、夜空を見上げる。湖は広いが特定の場所に一定の人数しかキャンプを許可しないので、私たちのグループのほかにこのサイトには誰もいなくてとても静かだ。こういう静かなキャンピングを気軽に楽しめるのは日本ではなかなか経験できないなあと思った。
3日目、午前は近くの山をハイキング。けっこうきついがこれくらいの山は日本の中学校の遠足程度だ。しかし米国ではこういう遠足は学校ですることがないらしい。家庭や個人で山登りすることがなければ、こういうのは慣れていない人もいる。慣れていない人は特に降りるのが不得手で、「こんな急な坂どうやって降りる?」と大きな男性が困った顔をする。そんなもん、すわってお尻をついて足を伸ばしてこうやって降りればいいじゃん、という感じで私が先に行く。へへん、カヌーは初心者でも山は得意かも。日本の学校教育の遠足経験は思わぬところで役に立つ。午後は湖でカヌー。今度は広い所で5隻のカヌーを横にずらっとつなぎ合わせて中央に帆をはって簡易帆かけ船に。「イェーイ!ロビンソン・クルーソーだ!」とみんな喜んで童心にかえる。
4日目、キャンプ道具をかたづけてサラナック・レイクとお別れ。すっかりリフレッシュして帰路にたつ。途中でガイドと別れて参加者だけになった。男性陣が「肉を食いたい!」というのでバーベキューの店に寄る。食うわ食うわ、タレもおいしくて、満足。長い高速道路を飛ばしてようやくマンハッタンの日常に戻った。家に着くと当たり前ながらスイッチを押せば電気がつく。キッチンがあってガスもある。水洗トイレもある。原始の世界から突如現代にワープしたみたいな感覚。原始で自然を満喫するのもいいが、やはり便利な日常の世界もいいなあと文明のありがたみを再認識した。大自然と摩天楼のコントラスト、それがニューヨーク州だ。