今月の執筆者

中原 正

TPPと日本農業

 混声合唱団「みお」は毎年、アザレアのまち音楽祭と県の合唱フェスティバルに出演していますが、来年、創立40周年を迎える事になりました。記念の演奏会でどんな曲を演奏するのか、ただ今検討中です。皆さんに喜んでいただけるような演奏会を目指して頑張りますので、どうぞご期待下さい。

 さて今回、リレー エッセイの当番ということで私にオハチが回ってきました。会員さんには農業関係の方は少ないと思いますので、農業で生きてきた自分として、現在問題となっているTPPについて述べてみたいと思います。

 TPP問題を考えるときに、農家、農業だけに限らず、その影響に、非常に大きな不安を抱かずにはいられません。TPPの目的は言うまでもなく、関税の撤廃であります。いま我が国では、米については700%、乳製品については、品目によって差がありますが、ほぼ200%の関税が掛けられていると聞いています。この関税が撤廃されたらどうなるか、結果は火を見るより明らかでしょう。

 かつて私はアメリカの酪農と米作、ニュージーランドの酪農、牧畜を視察した事があります。いずれもその規模の大きさとコストの低さを目の当たりにして、驚きを通り越して、恐ろしさを感じました。カリフォルニア州で見た米作農家は、規模は日本の数百倍、コストは約6分の1で、しかも無農薬で「秋田こまち」を作っていました。カリフォルニア州は温暖な気候で雨が少なく、乾燥しているので病気の発生も少なく、水さえあれば何でも作れるのです。飛行機で種まきをしているようなところとは、まったく競争にもなりません。

 酪農については、アメリカとニュージーランドとでは正反対の経営方式です。アメリカが集約化、省力化、機械化を追求している(日本もこの真似をしている)のに対し、ニュージーランドは非常に粗放的です。驚いたことに牛舎がないのです。施設は搾乳施設のみで、放牧された牛から乳を搾るだけなのです。牛は放牧地で生まれ、死ぬまで放牧地で過ごします。生産コストは大ざっぱに言って、アメリカは日本の3分の1、ニュージーランドは4分の1くらいです。

 日本の農業が高い関税によって守られていることに対して、内外から批判がありますが、農業が土地に立脚し、自然を相手にする仕事である以上、どうしようもないことなのです。万が一関税が撤廃されるようなことになれば、日本の農業は壊滅的な打撃を受けることになるでしょう。そして農家、農村の崩壊にとどまらず、次々と生態系が破壊され、森林の荒廃により、大切な「水」にまで影響が及ぶであろうと、多くの学者が指摘しています。そして何よりも大変なのは、食料の自給率はさらに低下し、食料を外国に依存する事になることです。日本国民の将来を左右する、重要な時期に差しかかって来ています。(混声合唱団みお)