スカイダイビング

〜インストラクターと一緒にタンデムで〜

空から飛び降りる感覚というのはどういうものか是非経験してみたいと東京に住んでいた20代のころから思っていた。スカイダイビングに興味があっていろいろ調べた。インストラクターの腹側に縛り付けられてインストラクターと一緒に飛び降りるだけのタンデム・ジャンプなら、全くの素人でも数時間の簡単な準備をするだけですぐに飛べる。本格的にやるというわけではなく、空を飛び降りるという感覚を味わってみたいだけなので、これだと思った。東京でスカイダイビングの会社に問い合わせたことがあったが、セスナを飛ばして空の上に出るわけだからスカイダイビングをやろうと思ったら結構なお金がかかるので、その時は実現しなかった。

1999年にハワイに行った時にそれは実現した。ハワイの現地ツアーのパンフレットの中から値段が手ごろな日本人向けのスカイダイビングのツアーを選んだ。当日、乗り合いのマイクロバスがホテルに来て、オアフ島北部の飛行場でスカイダイビングができるところまで連れて行ってくれる。参加者は15人くらい。男女半々で20代の若い人が多かった。待っている間に誰かが「バンジー・ジャンプしたことがある人?」とみんなに聞いたら、半分くらいの人が「ある!」と手を挙げた。「ははは、やっぱ飛び好きが集まっているんだねえ!」と大笑い。ちなみに私は、バンジーは好みではないのでしたことがない。

飛行場の一角の小さな建物にスカイダイビングの会社はあった。インストラクターたちは全員米国人だ。スカイダイビングの一般的な説明、ヘッドギア、ゴーグルなどの装着の仕方、飛び降りるときの姿勢などを習う。ツアーガイドが日本語に通訳していた。空中での記念写真やビデオ撮影を望むなら追加料金で可能。私は特にそういうものは頼まなかった。そして万一の事故の際の訴訟リスクを避けるための書類にサインをし、タンデム・スカイダイビング契約をその場で済ませる。

5人ずつ3つのグループに分けられて、セスナは3回飛ぶ。それぞれ身長や体重のバランスを考えてインストラクターとのペアが決められる。私とペアになったインストラクターは、私よりは背が高いが米国人女性としてはやや小柄な女性だ。入念にギアチェックをしていよいよセスナに乗り込む。

スカイダイビング用のセスナには椅子がない。床に直接シートベルトが設置されている。飛び降りる順番にペアで乗り込んで、膝を立てていわゆる体育座りで床にすわってシートベルトを締める。スカイダイビング用のセスナには飛び降りやすいようにドアもない。高度1万3千フィート(約3900m)で富士山より少し高いくらいの高さから飛び降りるので旅客機と違ってドアは必要ないのだ。

 

天候は晴れ。セスナは飛行場から飛び立ち上空へ。目標高度に達して最初のペアが飛び降りる。あっという間に雲にまぎれて見えなくなった。私の番が来た。ドアのないセスナの出入り口の前に立った。それが一番スリリングかもしれない。足元はだだっぴろい空という空間と雲。いよいよ空から落ちる感覚の体験だ。恐怖感はなかった。”One, Two, Go!”インストラクターの腹側に縛り付けられたまま一緒に飛び出る。

ものすごい風圧。あまりにも強い風圧で一生懸命息をしようとしないと息をするのが難しい。パラシュートが開くまでのフリーフォールは1分間程度。落ちてる、落ちてる、地球に向かって落ちている。これが空から飛び降りる感覚だ。とにかく自然には息が出来ないので一生懸命スーハー、スーハー息をしていた。周りの景色はよく覚えていない。白っぽく、もやもやしていたので雲の中を突っきった気がする。

パラシュートが開いてこんどはゆっくり落ちていく。私より先に出た人のパラシュートが空中にいくつか見える。ブランコみたいに揺れているパラシュートもある。地表まで5分間くらいあるので今度は景色を眺める余裕がある。わー、鳥のようだなあと気持ちよく降りていたら、急に気分が悪くなった。インストラクターが私を楽しませようとしてわざとパラシュートを揺らしているらしい。私は乗り物酔いするタイプなのでこういうスイングは苦手。そのうちスイングはおさまって、ゆったり地上に近付く。

飛び立った飛行場の芝生のエリアが見える。インストラクターに着地するときは足を前に伸ばしてインストラクターより先に足を地面につけないように言われていた。地面がどんどん近付いてきた。私とペアになったインストラクターがいつ着地したのかタイミングがわからず、足を前に伸ばしている時間が一瞬長すぎて、私は尻もち着地になってしまった。痛ったー。大したことはないが、たとえば椅子に座る時ふざけて人に椅子を後ろに引かれて尻もちをついた時くらいの衝撃があった。「イェーイ!」「やったね!」先に着地した人たちとハイタッチで合流。これから飛ぶグループの人にはどうだったか聞かれる。見知らぬ者同士だが初めてのスカイダイビング体験を分かち合う飛び好き同士の一体感があった。

飛行機も同じだが、着地が最も危険だ。念には念を入れた方が良い。インストラクターと着地のタイミングを合わせるように声掛けの練習をもっとしっかりしておけばよかった。それから、タンデムでインストラクターとペアになるときは自分よりできるだけ大きい体格の人とペアになるのがいいなあと思った。そうすれば大人が赤ちゃんを抱いているようなもので、たとえ私が足を地面に着くタイミングが遅れても尻もちをつくことはないだろうと思った。

単独のスカイダイビングをするのはとても勇気がいるし費用もかかる。しかし、こうしてインストラクターの腹側に縛り付けられていっしょに飛び降りるだけのタンデムならば、簡単にできる。一生の思い出になるのでスカイダイビングのタンデムは飛び好きの人には是非お勧めだ。