「ニューヨーカーの家事」

 

私は実はクリーニング・レディーを週に1回使っているのでほとんど家の掃除・洗濯をすることがない。こういうことを言うと、とんでもない奥さんだと思われるかもしれないけど、米国では共稼ぎの夫婦は家事を外注することが多い。

 

うちで雇っているクリーニング・レディーはポーランド人で57才くらい。義姉が長年使っている人で安心だし、とてもいい人なのでうちにも来てもらっている。一回80ドルで4時間くらいかけて通常の掃除と1週間分の洗濯をやってくれる。

 

我が家は集合住宅で各戸に洗濯機を置くことはできず、地下にコインランドリーが設置されているので住民はみんなそれを使う。コインランドリーには洗濯機と乾燥機がそれぞれ10個あるので、洗濯機を4つか5つ同時に使って大量の洗濯物があっても一挙に効率よくかたづけることができる。

 

ちなみに米国の一般家庭では洗濯は週に1回というのは普通だ。独身なら2週間に1回という人も少なくない。日本では少ない量を週に何回もする家庭が多いようで、私の母親に言わせると、そんなに長いこと洗濯ものを置いたままにしていると汚れがとれなくなるし臭くなる、とんでもないことだ、と強く主張された。まあそれは正論だろうけど、洗濯回数が1週間に1回とか2週間に1回とかで、洗濯物の汚れが取れなくて困ったとか、臭くて困ったとかいうことは今まで別段経験していないし、米国だけでなくヨーロッパでも洗濯回数はそんなものと聞くし、毎日のように洗濯する不効率を考えるとやはり週1回くらいで十分かなと思う。

 

郊外の一軒家でも、共働きの場合はクリーニング・レディーを雇っている人は結構いる。特に裕福な家庭というわけでもない。たとえば会社で一般事務をしている中年のおばさんがこう言っていた。「家が広いし、掃除はとてもたいへん。全部自分で掃除するなんて絶対いや。自分が稼いだお金を使って人にやってもらった方がいい。」

 

独身者もクリーニング・レディーを雇う人は時々いる。私の友人(30代の日本人女性)は週に1回雇っていて、「明日お掃除の人が来る日だから、部屋をちょっと片づけておかなきゃ。」と言っていた。彼女は掃除だけ人を雇っていて洗濯は自分でやるそうだ。

 

米国のコインランドリー店やクリーニング店では通常のドライクリーニングなどの他に、家庭で普通の洗濯機でやるような日常の洗濯物の洗濯代行もある。洗濯し終えるときちんときれいにたたんで袋に入れてくれる。料金は重量制。この洗濯代行は特に独身男性がよく使うようだ。時々サンタクロースのような大きな袋をかついだ男性がクリーニング店に向かって歩いているのを街で見かける。

 

そういう話をしていたら女友達が「えへっ。実は私も使ってるよ。さすがに下着は出さないけど、Tシャツとかタオルとかシーツとか、人に触られてもかまわないものは洗濯代行に出しているの。」と言いだした。郊外に住んでいる子持ちの女性も「私も洗濯代行使ってる。家に洗濯機あるけど洗濯物が大量にあってたいへんなので、車に積み込んでクリーニング屋に持っていくの。」と言って、意外にも女性も使っているらしい。

 

それから米国のクリーニング店には、たいていミシンが置いてあって専門のお針子さんがいて、ボタンつけ、すそ上げ、服のサイズ直しなどをしてくれる。たとえばボタンつけは5ドル、ズボンやスカートのすそ上げは10ドルから15ドルくらい。こういうサービスを利用すれば自分で裁縫をする必要もない。

 

ほんとうに家事の外注がすすんでいてとても便利だ。掃除も洗濯も裁縫も自分でする必要がない。そういう意味では、米国の男性は家事を奥さんにやってもらうために誰かと結婚するという発想が少ないと感じる。その程度の家事なら自分で買えるのだから、口うるさい奥さんがそばにいる生活より自由かもしれない。しいて言えば家庭料理くらいのものかなと思う。夕食まで作ってくれる人を雇うというのはほとんど聞かない。自分で作りたくなければ外食か、中華やイタリアンなどいろんな種類の出前がある。

 

子供がいる家庭では、ほとんど必ず何らかの形でベビーシッターを雇うことになる。というのもニューヨークでは13才未満の子供を一人にしておいてはいけないというルールがあるので、たとえば子供だけで留守番させることもできない。保育所に子供を預けていても時間的に迎えに行けないこともある。家に通いのナニー(乳母)を1日8時間雇う人もいるし、住み込みのナニーを雇う人もいる。住み込みのナニーの場合は育児だけでなく、掃除、洗濯、買い物、子供の食事作りをしてくれる場合もある。料金次第だ。

 

米国は雇用の流動性が高いので、一旦会社を辞めてもまた働こうと思えば、中高年の女性でもフルタイムの正社員の職はそれなりにある。特に専門性のない一般事務職の年収はボーナスも含めてニューヨークではだいたい4万5千ドルくらいかと思う。1日8時間勤務で月に20日働くとして1年に1920時間の労働時間とすると時給は約23ドルだ。クリーニング。・レディーやナニーの時給はだいたい15ドルから20ドルくらいなので、それよりは稼いでいる。

 

日本ではなぜ家事の外注がもっと進まないのだろうか?調べてみたが、家政婦の時給はだいたい1500円から2000円くらいで米国とたいして変わりはない。自分の時給がそれより少ない場合は、家事は自分でということになるのは無理もないが、フルタイムの正社員なら年収5百万円以上稼いでいる女性はかなりいるはずだ。雇おうと思えば雇えるはずだが、家政婦を使うということに社会的プレッシャーがあるのかもしれない。

 

しかし、家事分担のことで夫婦仲が悪くなったり、せっかくの週末も家事に追われて疲れるよりも、夫婦でゆったりと楽しく時間を使うことができる方が良いと思う。現代の日本社会で、女性が主に家事も育児も仕事もと、なにもかも背負ってしんどい思いをさせられて、それが少子化の要因の一つになっていると思う。

 

はんぱな年収しか稼げない女性たちが事実上多いことは問題だ。一旦正社員の仕事を辞めるとあとはもう低収入のパートの仕事しかないというのは社会構造的に問題がある。女性がしっかり稼げる社会にすることがまず大事だと思う。そして働く働かないは個人の選択なので、男女とも一旦労働市場から何らかの事情で退出しても、また後に正社員の仕事が比較的簡単に手に入る社会にすることが重要と思う。