今月の執筆者

山 崎 達 哉

お芝居の世界で、密かに“ゴーストもの”と呼ばれているジャンルがあります。

愛する人が幽霊となって現れるというファンタジー系のものは、1990年代の映画「ゴースト/ニューヨークの幻」あたりが、先鞭をつけたのかもしれません。以降、舞台においても映画やTVドラマにおいても、幽霊というのはとても魅力的な題材のようで、いくつもの名作・佳作が生み出されています。

私の世代はどうしてもお岩さんやお菊さんを思い浮かべてしまいます。幽霊というのはやはり怖いものなのです。
 私たちの劇団も昨年末、一本の“ゴーストもの”を手がけました。舞台は、幕末の京都御所。将軍家への輿入れ話に思い悩む皇女和宮を主人公とする物語です。さてさて、この物語に登場する幽霊はというと…。

時は丑三つ時。姿はうすぼんやりとして、足元も見えるようで見えない、まさに幽霊の中の幽霊、「四谷怪談」、「牡丹燈籠」など正統派の流れをくむかと思いきや…。実は主人公の心のカウンセリングをする優しい幽霊だったのです。

スクリーンに映し出される幽霊と皇女和宮の会話が、この作品の見せ場でした。幽霊はもちろん影絵です。そして、この作品を作って初めて気がつきました。今までスクリーンに映し出してきたのは、総てこの世のものではないのですね。気がつかない内に私たちは異世界との交流を描き続けていたのです。
 私たちの作品は、地元の題材を元にしています。今回も、倉吉で生まれ、のちに光格天皇の生母となる大江磐代君にご登場いただきました。畏れ多くも幽霊という形で。

 幽霊となった大江磐代君が、生まれ故郷・倉吉の思い出を語るシーンがあります。「日の沈む夕焼け空を見れば、いつでも美しいふるさとの風景が頭に浮かんでまいります。どこの地にあろうとも、心の中にはいつもふるさとがございます。」

いくつかの“ゴーストもの”を手がけた井上ひさし氏にこんな言葉があります。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに」

むずかしいことはすぐ諦め、やさしいことは小馬鹿にし、深く突き詰めることが苦手な性分ですので、とりあえずは、ただひたすらまじめに、今後も地元にまつわる芝居を作っていこうと考えています。(市民影劇団みく 代表)