家事分担、米国では

〜家政婦を気軽に使う〜

 

近年日本で夫婦の家事の分担が話題になることが多くなったようだ。共働きでも夫の家事時間が妻よりはるかに少ない現状が多少はましになりつつあるのだろう。私が日常で経験し、見聞きする米国の現状は日本人には極めて興味深いと思う。米国で生活する人々は米国育ちの人ばかりではない。様々なバックグラウンドを持った移民が多いので、家事分担についても文化的に多様性があるのだが、まあ米国で共働きのマジョリティーはこんな感じというところを紹介したい。

 

まず、掃除について。ここでいう掃除とは各部屋をモップで拭いたり、掃除機をかけたり、洗面所やトイレをきれいにしたり、棚のほこりを拭きとったりする日常の掃除のことだ。一般的に米国家庭の掃除の頻度は日本より少ないかもしれない。少なくとも私の周りでは、掃除を毎日するという話を聞いたことがない。多くて週に2回か3回。普通は週に1回。少なければ2週間に1回程度。独身か既婚か、さらに子持ちかどうかで、もちろん状況が違うのだろうけれど。

 

掃除は誰がやるか。夫婦のどちらもやるか、どちらもやらないが普通だろう。特殊な職業を除いて、一般的な企業の勤務時間は朝9時から午後5時くらいまでで残業はめったにない。掃除をやろうと思えば夫も妻もできないこともないので、週1回、週末などに適当に分担して一緒に二人でこなすという場合が多いと思う。

 

特に40歳以下の若い夫婦は夫婦ともフルタイムで正社員の仕事に就いている割合が高く、夫婦の年収差が小さい。業界や職務にもよるが妻の方が年収が高いという夫婦も結構いる。妻が多く掃除をやることに合理性がない。ダブルインカムだと一人で稼ぐ場合の2倍になるので夫婦合算の年収はそれなりの額になる。たとえば一人で年収6万ドルとしても二人なら12万ドルだ。週に1回くらい十分家政婦を雇うことができる。掃除はプロに任せて夫婦のどちらも掃除をしない。週末にゆったりとした時間を過ごすことができ、夫婦で掃除の押し付けあいもない。

 

洗濯も基本的には掃除と同じで、毎日するという人は私の周りでは聞いたことがない。伝統的にも米国では洗濯は週に1回という家庭が多い。日本より洗濯機が大型で必ず乾燥機も設置されている。洗濯物を外に干すという習慣はない。乾燥機にかけられないものを家の中で干すことはある。だから洗濯物を外で見かけることがない。

 

一軒家に住んでいる場合は洗濯機と乾燥機を家に所有しているのが普通だが、集合住宅の場合は共同のコインランドリーが地下にあって、住人はそこで洗濯する。近年建てられた新しい住宅ビルでは、各戸に洗濯機・乾燥機設置ということもあるが、今の所マイナーだ。洗濯機が傍にないというのは実に不便で少量を気軽に毎日という環境にない。たくさんためて洗濯を一気にやるのが普通。

 

学生の頃からコインランドリーで洗濯することに慣れているので、夫婦とも洗濯にはそれほど抵抗がなく、どちらもするのが普通だろう。分担するとすれば、大量の洗濯物を地下室に運ぶのに力がいるので洗濯物を運んで洗濯機に入れるのは夫、洗濯物を畳むのは妻という分担はあるかもしれない。

 

洗濯は自分でしたいというこだわりがない夫婦は、掃除に加えて洗濯も込みで家政婦を雇う場合も多い。掃除だけでも洗濯込みでも時給は変わらず、一人雇って時給15ドルから20ドルちょっとくらい。洗濯もお願いすると時間が長くかかるだけだ。ちなみに我が家に来てくれる家政婦は時給20ドルで4時間で掃除と洗濯をやってくれる。それで我が家では夫婦とも掃除も洗濯もしない。とても楽だ。これは決してぜいたくなことではなく、中流の共働き家庭ではごく普通のことだ。

 

さて、食事作り。これだけは毎日のことだ。家政婦に任せるわけにもいかない。食事まで作ってくれる家政婦を雇っているという話は私の周りでは聞いたことがない。例外は小さい子供の世話の為に雇ったナニーが、子供の食事作りもしてくれる場合があるくらいだ。

 

米国人の一般的な朝食は日本と比べると実にシンプルだ。シリアルと牛乳だけとか、フルーツとコーヒーだけとか。家庭によってはもっとしっかりした朝食を作る人もいるのだろうけど。通勤の途中で店によってパンなどを買って会社に着いてから自分の机の上で食べるという人も多い。米国のオフィスではそういうことをしても怒られることはない。朝、親が早く出勤するので子供の学校の始まりも早くて、子供には朝の軽い給食がある学校もたまにある。そういう特殊事情が関係しているかもしれない。

 

夕食作りは家庭による。全く半々という夫婦もいるが、割合からいうと妻の方が夕食を作る頻度が高いことが多い。どちらも通常は残業はなく、片方の勤務地が特別遠くないなら、夫婦とも似たような時間に家に帰って来るのだし、共働きだと妻だけが夕食作りをするということにはならない。妻の方が料理に興味をもっている場合が多いということなのだろうと思う。

 

夕食をほどんど毎日夫が作るという家庭もある。そういう家庭は夫が料理が基本的に好きで苦痛にならないというタイプで、妻は料理が苦痛になるタイプ。実は我が家はこのタイプだ。普段は夫が夕食をつくってくれるので私は月に1回か2回程度しか夕食を作ることがない。ひどい時は最後に夕食を作ったのはいつだっけ?と思うこともある。もちろん皿洗いは私がやる。米国の一般家庭では食器洗い機があるのが普通だけど、我が家のアパートは古くて食器洗い機がないので手洗いだ。しかし毎日の食事作りに比べれば、そんなことなんでもない。

 

こんなことが可能なのも、うちの夫は朝が早くて、午前7時半ごろにオフィスへ到着するので、その分、帰りが早くて午後5時前には家に着いている。私の方が圧倒的に帰りが遅いという事情がある。私が週に2回くらい作ってもいいよと言っても、「いや、料理することで気分が変わってストレス解消になっていいんだ。」と夫は言う。毎日家に帰って夕食ができているのは本当にありがたい。とても感謝している。

 

という感じで、家事は夫婦で分担できるならすればよいと思うが、なにも無理して家事を自分たちでやらなければならないということはない。米国のように残業がほとんどない国でさえ、家政婦をやとってなんとか仕事と家庭を保っている人がかなりいるのだから。日本でも外注できる家事はプロに任せたらいいと思う。日本で家政婦は高いと思われているようだが、少なくとも米国と比べる限りではそれほど高いわけでもない。調べてみたことがあるが、たしかに日本の新聞で見かける大手の家事代行会社の料金は高いなと思うけれど、地元の小規模な家政婦派遣サービスでは時給は米国とたいしてかわらない。

 

アジア諸国で女性の管理職の割合が日本よりはるかに高い国がいくつかある。そういう女性は自分で家事も育児もしていない場合がほとんどだ。たしかにアジア諸国では家事労働力が安く手に入るので働く女性は日本よりはるかに楽だろうと思う。そもそも仕事も家事も自分でというのは忙しすぎて疲労してしまうのは当然だ。それに家事を外注すれば就労機会の提供にもつながる。

 

そうはいっても日本の場合、既婚女性は自分が稼ぐ時給より、家政婦に払う時給のほうが高くてとても無理と思うかもしれない。しかし毎日雇うわけではないのだ。少なくとも夫婦がフルタイムで正社員で働いている場合は、月に4回くらい家政婦を使っても経済的にそれほど難しくはないはずだ。米国でもできているのだから。家政婦を雇ったりしたら人に何を言われるかわからないとか、夫が他人を家の中に入れるのを嫌がるからとかいっていたらきりがない。もっと気軽に家政婦を雇うことが望ましいと思う。それは日本で遠からずこれからのトレンドになると思う。