海外こぼれ話 161          

 

アパートで初めてのバーベキュー

 

 デュッセルドルフのアパートは以前にも紹介したように最上階にあり、北側と南側にベランダがある。しかも南側のベランダは、幅が8mもあり奥行も2mとこの界隈ではかなり広い面積がある。ベランダでは朝ラジオ体操の第一と第二をしたり、柔軟体操や時にはライン川に上がる花火の見物に使っている。さらに手動の日よけもあり、南からの太陽がきつい時には、大きな日よけを使って日光を避けている。ベランダで料理をすることもなく、恰好のバーベキュー(以下BBQと略)会場にもってこいだったが、その機会は11年間まったくなかった。

 昨年知り合った鳥取県人会の西本さん姉妹の提案で、私のアパートでBBQをしませんかとお誘いがあった。BBQの道具は彼女の会社にありそれを借用してくるので、私には場所の提供で良いということだった。初めてのことでしかも良い機会だったので、すぐに承諾した。肉と野菜の準備は、彼女の友達のI君とYさんが準備するといい、私の担当はビールと何か一品の料理があればよいという。最初は前日に大雨になり、急きょ日程を1週間ずらした。次の土曜日は天気も良く、BBQに絶好の日になった。

 当日BBQの火を入れるかまどの大きさが、60cmもある大型の道具が用意された。火入れには、着火剤に点火してしばらく火が起こるのを待つが、モウモウとした煙はとても耐えられないほどであった。隣近所に迷惑かと思ったら、ドイツの条例でBBQの煙には文句を言えないようになっているというので、安心して火を起こした。その火にBBQ用の炭をくべていく。その間に部屋からテーブルや椅子を持ち出して準備を行う。今日の参加者が、7人+犬1匹というので、急きょパイプ椅子を西本さんの会社から借りることにした。

 煙が収まり段々と火に勢いが付いて来たので、肉や野菜を金網の上に置いていく。6時過ぎには準備ができ、本番の7時はまだ時間があったが、喉の渇きが我慢できなくなった。予定を変更して、乾杯の予行演習をすることに準備グループの意見が一致したので、ビールで乾杯をした。乾杯をしたら申し合わせたように肉や野菜がいい匂いを発するようになったので、味見だと称して少々早めに食べることになった。味噌仕立ての甘口と辛口のタレも、Yさんが用意していた。野菜も肉もすべてカットしてあり、後は並べるだけになっていた。

 ドイツなど欧州でのBBQは、日本式の味噌ダレや醤油ダレなどといったタレをかけて食べる習慣はない。塩とコショウだけの味付けであり、タレを使うことがない。彼らは匂いが一番のご馳走だとおもっているようで、旨味という概念を持っていない。味は、苦味、酸味、苦味、塩味の4つに加えて旨味がある。しかしこの旨味は驚くなかれ、日本人特有の味覚のセンスであった。さらに昆布、椎茸、カツオ節といった旨味を組み合わせることも、世界中探しても日本だけの独特な味の文化であった。これは海外に何度も、出て食べ歩いて気づいたことであった。このような微妙な味が分かる民族に生まれ、幸せだと感じる。

 

後片づけは万全だった

 

 7時になる前に、西本さんのお店の同僚と犬がやってきた。さらにアパートの同じ通りにある日本料理店「加賀屋」で、ウエイトレスをしているAさんもやってきた。これでメンバーが勢ぞろいしたので、正式な乾杯を執り行う。肉も野菜もソーセージも焼きあがっていく。この通りには、2軒の日本料理屋さんがあり、もう一軒がデュッセルドルフ市内にある元「やばせ」に3年、そして「なにわ」に3年いた西塚さんの店「和(なごみ)」がある。両方の大将とも偶然にも出身は北海道だという。

 BBQの煙と共に順調にビールの栓は空き、10本が空になってしまった。近くのミニスーパーに買い出しに行く。ビールは500ccのビンなら、1本が1ユーロ(140円と非常に安い)。大量なので、バケツを用意していく。さらに暑かったので、冷たい白ワインも欲しいというリクエストに応えて、スペインのリヨハの白ワインも3本(1本が4.5ユーロ)買い込む。安いがとても美味しく、ミニスーパーの大将のお勧めのワインである。

 I君は日本にいた時は、自動車関連の企業にいたという。今は刺青の彫師になっているといい、全身に大胆な刺青があるが、人生の方向変換も大胆な変身である。彫師になって世界中を回っているという。一定期間その土地にいて、また別な土地に移動するという。まだ20代なので何でもできるようだ。YさんはI君のパートナーだといい、彼と一緒に生活をしており、料理のセンスが素晴らしい。二人とも酒もかなり飲めるという。非常に素直な二人であり、私の手造りの料理も「美味しい、美味しい」と言って食べてくれた。

 「加賀屋」のAさんはお酒は苦手だと言っていたが、赤ワインが非常に美味しいと感謝してくれた。それもそのはず残っていた2本は、非常に美味しいモノを残していたのだ。多くの人に嗜んでもらい、ワインも喜んでいたに違いない。先日から知り合ったので、時々昼ご飯を食べに行くようになった。この店には他にも、2人の日本人のウエイトレスがいる。安心して日本語で話が出来るので、ホッとする。皆さんが飲むほどに愉快なっていく。

予め用意していた料理を、少しアレンジして皆さんに食べてもらう。ドイツの味付けは、かなり濃い目になっている。煮物を出すと、こんな薄味が出来るなあと皆さんが感心する。男が作るのは、たいてい濃い味と想像していたようで、良い意味の期待外れになっていた。焼肉と対照的だったので、煮物は好評で底をついてしまった。

 明るいうちに酔いが回ってしまったので、挨拶をして一足先に就寝することにした。朝起きるとベランダも台所も食器も、綺麗に片づけられていた。後で聞くと1時過ぎまで宴会をしていたようで、なんとも若い人たちはエネルギッシュだった。ビールは20本以上、ワインは白3本、さらに赤も2本が空瓶になっていたが、跡形もなく空瓶も綺麗に片付いていた。

 

鳥取県人の世間は狭い

 

 西本さん姉妹は、妹さんの方が早くドイツに来て、デュッセルドルフ市内の某ラーメン屋の店長を任されて仕事をしていた。二人の出身は現在の大山町である。お兄さんが結婚して都会から帰って来て、家を継いでいるという。その後1年後に姉さんのKさんが、後からデュッセルドルフに来たという経過があった。Kさんはクリーニング店兼アパートの管理もしている。経営者はなんとパキスタン人で、時々店の前で会うこともある。

 ちょうど同じころに家内は、大山町のあるパン屋さんで開催されたワインの会で、知り合った好青年がいると帰国後に話をしてくれた。その青年の名前は、西本さんといい、デュッセルドルフに妹がいるという。その青年に主人がドイツでコンサルをしており、デュッセルドルフにアパートがあることを話したという。もしかしてこの西本さん同志は、兄弟ではないかと閃いた。

そんな偶然はあるかなあと思い、詳細を確認したらやはりこの西本さんは兄弟だとわかった。ドイツでも日本人の行くところはデュッセルドルフ、フランクフルト、ミュンヘンなど色々ある。しかもドイツで鳥取県人に出会うことは滅多にない。デュッセルドルフ市内にある日本料理店の「やばせ」は、2002年から毎週のように通っていたが、10年間に鳥取県人に出会ったのは、たったの2人であった。しかし、西本さんに「和」で知り合って、赤碕町にいた堂園さん、堂園さんの同級生の平川さんと、1年の間に4人も出会うことができた。

大山町の西本さんが漁師をしておられ、牡蠣なども採ってくれるという。この夏に、注文した岩牡蠣の「夏輝」を10個採ってきてもらった。この時に初めて、お兄さんに出会うことができた。すぐにスマホで一緒に写真を撮ってもらい、ドイツに送信してもらった。さらにアワビ、アイナメ、海藻、タコまで頂戴してしまった。その牡蠣は生のままレモンをかけて食べたが、涙が出るほど美味しいものだった。縁は異なもの、そして味なものであることを実感した。

 

ドイツの100円均一の店

 

 ドイツの100円均一の店は、1ユーロなので現在のレートだと140円になる。

南ドイツのLauffenという街には、毎月のように出掛ける。訪問先が3つあるが、いずれも同じホテルに宿泊する。ホテルの前にこの店があり、半年前にも何な良い物がないか入って見たことがあった。今回は乾電池が必要だったので、その他にも面白いものはないかと店に入って見た。半年の間に随分と商品の入れ替わりがあり、半分以上が変わっていた。3リットルのジュースが、1ユーロで売られていたのはびっくりした。原価割れしていないか心配になるほどだ。

ドイツの携帯電話のケースはここで買ったもので、2ユーロだった。今はIPhone4Sのケースはなく、すべて5S用になっていた。その他の商品にも変化があったが、色鮮やかでファッショナブルになった感触を得た。値段は1ユーロだけでなく、2ユーロなどもある。1つの商品の値段をよく見ると、ドイツ、オーストリアなどでは1ユーロでも、ポーランドなどの国では、1.2ユーロなどの二重の表示があった。国の違いで、値段を分けているようだ。

今回はアパートで使う香の点火用にライターも買ったが、3つで140円。中には4つで140円のものもあったが随分と安くなったものだ。ナイフ、フォーク、スプーンが各5個入った食器セットがあったが、なんと樹脂製であり、これは2ユーロだった。でも見た目は金属そのものだった。その他に日本に帰った時に畑で遊ぶゴム銃も買ってみた。

コイン型(ボタン電池という)の電池をよく見たら、アルカリ電池と日本語で刻印してあったが、これは日本製だった。原価は1個大体10円なので、3個で30円。モノの原価は3割なので、ちょうど良い原価だ。35年前にドイツに初めてきた時に買ったライターも日本製だった。しかも当時1.5ドイツマルク(当時のレートで180円だった。日本では百円ライターと言っていた。缶の清涼飲料水も180円で、ビール一杯が120円だった)時々店に入ってお宝を発見する楽しみにもしたいものだ。因みにイタリアでは1ユーロではなく、99セントという表現で店があるそうだ。

 

サービスの悪いレストラン

 

晩ご飯を食べに、ブドウ畑の丘にあるちょっと高級なレストランに行くことにした。以前に何度も行っているので、ドライブも兼ねて夕凪に丘の風景を見ながら食事と洒落込んだ。レストランに着くと、ポルシェ、フェラーリ、BMW750、ベンツのSクラスなど高級車が何台も停車していた。幸いに席は空いていたが、眺めの良い場所は既に予約で一杯だった。

ウエイトレスが忙しいそうにしていたが、捕まえて注文をした。バイチェンビールを頼んだが、間違ったビールを持ってきた。指摘をして最初にオーダーしたビールを待っていたが、15分も経っても持ってこないので興ざめしてしまった。ドイツでは普通のビールは、サーバーで出すと6分くらい掛かる。しかし15分は遅すぎるので、何度も手を挙げてウエイトレスを呼んだが無視して通り過ぎる。普通は各テーブルの担当が決まっているが、この店は担当が決まっていないようだ。別なウエイトレスが入れ替わりにやってくるが、料理が来ても肝心なビールが来ない。来たと思ったら忘れていたようで、泡が消えてしまっていた。最初に頼んだウエイトレスが、完全に忘れてしまっていたのだ。猫撫で声で謝罪をしてきたが、料理が終わってからのビールは美味しくない。

通訳はデザートも頼んでいたが、それもまだ出てこないので、「もう帰る!」と宣言した。チップは当然渡さないようにしたが、むしろ損害賠償をして欲しいくらいだ。この店のウエイトレスは他国籍のチームであり、ドイツ、ポーランド、アジア系、地中海系など様々であったが、上手く連携が出来なかったことも考えられる。ドイツにサービスという概念がないことを、また認識してしまった。ああ、またまた「ドイツへようこそ」だ。ネタが尽きない!

 

元気な印刷会社の社長

 

 南ドイツのLauffenの同じホテルに連泊して宿泊している。今回は印刷会社の訪問もあった。このN社長から、ようやく創業者の会長から社長の奥さんに株をすべて移譲したという報告をして頂いた。彼は会長の奥さんの婿さんであり、結婚して20数年間婿養子のような立場で過ごしてきた苦しさを訴えていた。これで株がすべて奥さんつまり自分のものになり、立場が非常に良くなったと安堵のため息をこぼしていた。婿の立場は、日本もドイツも一緒だと感じた。

毎回このN社長には朝早めに出掛けて、事前に時に愚痴話も聞きながら、近況報告と今日の講義のネタ探しをすることにしている。そのレアな情報をすぐにセミナーに取り込むことで、社員の耳に良く響き効果も出るので、トップの会話を大切にしている。

この印刷会社は120人の典型的な中小企業であるが、トヨタ生産方式の導入で業界の中でも非常に元気の良い会社となっている。ドイツの印刷業界の企業は9000社あるが、経営的にはその内の上位10%に入っているという。少ない人員なので、トヨタ生産方式の思想教育に力を入れており、毎回テーマを変えながら神髄を伝えている。いつもユーモアを必ず交え、多くの女性にも分かりやすい事例も加えての講義になるので、適度な緊張感も必要となるが楽しみになっている。今回も非常に好評で、次回からは講義を延長して欲しいという要求も出てきた。婿という荷物がようやく肩から降りたので、N社長は非常に表情も変わり元気になってきたようだ。

 

アイデアはすぐに実行してしまう

 

 北ドイツのベルリン郊外にある照明器具の工場は、今年の5月に訪問して簡易型の1個流しの生産ラインを製作した。それはパイプ材を切断して、組み立てたものであるが、歩行や部品や工具の探しのムダをはじめ、疲れない作業が出来るものであった。ラインを製作してシミュレーションしたら、かなり良いことが分かりそのまま生産を開始した。その間に習熟度も向上してしまった。

そのお蔭で旧ラインよりも生産性が一気に2倍にもなったが、ちょうど受注も3倍になり納期遅れもなく生産が出来た。そのために予定外に他の注文ももらえるようになり、相乗効果が出てきた。隠れ反対派もいたようであったが、現実の実績を見ると反対する理由もなくなってしまったようだ。

 2回目の今回はさらに別な機種で、新たに生産ラインを作ることになった。やり方の事例として、新聞紙や段ボールでシミュレーションする方法を紹介した。しかし彼らは、物流用のパレットを通路に持ち出して、原寸大のもので試行錯誤を始めた。

この工場で生産している照明器具は、一般家庭や工場の室内のものではなく、街路用のものであり大小様々で、大きなものは臼ほどの大きさのものがある。このために少し大きな作業台になるが、屋外の通路にパレットを広げるアイデアには感心した。

 チョークと鯨尺(巻尺ではなく、折り畳み式のモノサシをドイツではまだ多く使っている)を片手に、パレットの並べ替えをしているが、その風景はまるでピクニックのように楽しく取り組んでいた。この楽しむことで、次々にアイデアが出てくる。レイアウトが決まると、実際に作業しやすいように段ボールを組立て持ち上げた。そして投入と搬出の位置関係と物量のタイミングを微調整しながら、定位置を決めていた。

ドイツ人の素晴らしさは、このようにちょっとしたヒントでもツボに入ると、一気にやりあげてしまう力強さを持っている。今回のサッカーのワールドカップの優勝のように、スーパースターがいなくてもチームワークの素晴らしさを発揮する。そしてその中に自らのアイデアも盛り込んでしまうが、それが更なる強みになっている。そしてチームワークの良さである。

目的や目標が明確になり、自分のすべきことが分かると一気に取組む姿勢は、日本人も見習っても良いかと思う。この状況や結果を見て、製造部長が別な工場でも早速取り組むことにすぐに承諾された。ドイツ国内には3つの工場があり、さらにフランスにも米国にも工場があり、今後が楽しみになってきた。