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セスナの体験飛行

 

インストラクターと一緒に飛び降りるタンデムでスカイダイビングをやった時のことを1年前に書いたことがあるが、そのハワイ旅行の時、実はセスナの体験飛行もやった。ハワイに一人で1週間くらいの滞在で、時間があったので日頃しないようなことをしてみようと思った。スカイダイビングは前々から一度やってみたいと思っていたが、セスナの体験飛行はハワイで日本人向けの現地ツアーの広告を見て、これもよさそうだなと思いついただけだった。

 

セスナの体験飛行をする飛行場はホノルル国際空港の一部で、真珠湾の近くだ。ホテルまで送迎の車が来てくれて、飛行場の中の小さな小屋のような所に私を降ろした。中に入ると若い女性と中年の男性がいて二人とも日本人。この日この時間に体験飛行するのは私一人だけだった。書類にいろいろ記入して、それから20分程度のビデオを見る。それはセスナを体験操縦する人が知っておくべき操縦の仕方の説明のビデオだ。全部日本語なのでわかりやすい。

 

セスナの各機器の簡単な説明のあと、計器の見方、エンジンのかけ方、地上での機体の動かし方、離陸の仕方、旋回の仕方、着陸の仕方などが映像で具体的に説明される。そんなものそれまで見たこともなかったのでたいへん興味深く一生懸命見た。そんなに難しそうでもない。セスナの体験飛行用の機体はインストラクター側にも操縦席があるので、難しいところや、いざとなったらインストラクターが操縦してくれるのでめったなことはない。安心だ。管制塔との交信もインストラクターが全部やってくれる。

 

そしていざ、私は中年男性のインストラクターとともに単発機セスナ152に乗りこむ。まず、椅子を体に合わせて、シートベルトを締め、エンジンをかける。エンジンのかけ方は車と同じで、キーを差し込んで右に回すだけ。「ブルルルルーン」というエンジン音が、ゼロ戦が出てくる映画のよう。

 

そしてセスナの機体を滑走路まで動かす。車ならハンドルで操縦するのだけど、原則的に飛行機を地上で動かす時はなんと足で操縦する。足元にラダーペダルと呼ばれる板状のペダルがあって、右を踏めば右に進むし、左を踏めば左に進む。しかしこれが結構コントロールが難しい。踏んですぐではなく、少ししてから機体が動くので、右に行きすぎたり、左に行きすぎたり、蛇行しながら進むことになってしまった。

 

ようやく滑走路に出て直進、スピードを指示された速度まで上げて、操縦かんを引く。操縦かんは大きく引いてはいけない。静かに少しずつ引いて低い角度から徐々に高度をあげていく。ふわっと機体が浮いた。「おお、上がってる、上がってる、自分が操縦かんを握って空を飛んでいる!」こんなエキサイティングなことはめったにない。「うわーい、すごいすごい!」

 

真珠湾が眼下に見える。快晴できれいな青い空、青い海。湾に浮かぶ船が見える。インストラクターが「うまく離陸できましたね。じゃあ左旋回してみましょうか。」と言う。ビデオで学習した通り、そしてインストラクターの言う通りに操縦かんをやや引きながら左へ回す。機体を少し上向きにして旋回させないと、機体は下へ向いてしまうのだ。うまくいった。そして今度は右旋回。気持ちいい。なんて気持ちいいのだろう。

 

鳥のように空のからの景色をしっかり眺めるために、インストラクターに操縦を少しの間かわってもらった。20分くらい空を楽しんでから、着陸準備。フラップを降ろすタイミングになって、操縦席の傍の窓側にあるレバーを下げる。私がしたのはそこまでで、着陸は難しいのでそこから先はインストラクターにまかせた。

 

どんどんセスナは高度を下げる。着陸する滑走路が近くに見える。ズンっと音がして無事着陸。セスナから降りて、しげしげ機体を眺めると、セスナは旅客機に比べるとあまりにも小さくてもろそうな作りだなあ、万一落ちたらひとたまりもないなあと思った。しかし小型機というものはこんなものなのだろうなあ、博物館で見た昔の戦闘機だってこんな感じだったなあとも思った。

 

インストラクターから飛行証明書をもらった。体験飛行ではあるけど、この飛行時間は実際にセスナ操縦のライセンスを取得する際の飛行時間として使えるそうだ。体験飛行とはいえ、こんなに簡単にお手軽にセスナを操縦することができるとは。飛行時間30分の短めのコースで費用は99年当時百ドルちょっとだったと思う。

 

あまりに楽しかったので、別の観光ツアーで知り合った日本人観光客にその話をしたら、その人が数日後に私と同じ所でセスナ体験飛行をした。その時は若い女性がインストラクターだったそうだ。あの小屋にいた人は二人ともインストラクターだったのだ。その日本人観光客の話では、女性のインストラクターは日本でOLをしていたが、ハワイでセスナの体験飛行をして感動し、セスナ操縦のライセンスを取って、そのままインストラクターになったのだそうだ。へー、そういう女性もいるのか、たいしたものだなあと思った。

 

セスナの体験飛行は別にハワイでなくても米国のあちこちでできると思う。普通の観光ではなく何か特別なことをしたいなら、これはとてもお勧めだ。