海外こぼれ話 166          

 

問題解決の行動と手順のセミナー

 

 もう13年通っているトレーラー会社のワークショップのテーマは、いつも工場が困っているものをリクエストしてこられる。当然といえば当然である。今まで数多くのトヨタ方式の手法や考え方なども紹介しているが、それ以外のセミナーの依頼も多くある。私のクライアントの中で一番長く、そして改善のレベルも非常に高い工場でもあり、いつでも最善の準備をしてから臨んでいる。近年は、ドイツの自動車メーカー某社の本社工場と合同のワークショップをして、相互協力できるまでに肩を並べるところまでレベルアップしている。

講演の依頼の度に、新たに勉強しなければならない機会を得ている。時には以前のテーマの時もあるが、同じことを紹介しても芸がないので、必ずどこかを改めて紹介するようにしている。今までの訪問時の議事録とレポートは必ずその日の内に作成完了して、すべて保管している。このためいつ何を話したかなども、すべて確認できるようにしている。

これを基に他の企業にも紹介することができるので、労力を要するが非常に有難いテーマアップだと捉えている。彼らの突っ込みというが探究心は、凄く鋭くしかもネチネチした泥臭いところもあるが、それは私自身を鍛えてもらっていると感謝している。そのために、いつもテーマとアジェンダ(予定表)を訪問日の随分前に連絡をしてもらうようにしている。

今回は、急激な増減産の変動によるボトルネック{生産工程のなかで最も手間が掛かったり、品質にも問題があったりする個所のことで、瓶(ボトル)のクビ(ネックを比喩している)}工程の問題解決に考え方を紹介して欲しいとリクエストがあった。詳細な説明は割愛するが、簡単に美味しいところだけを紹介したい。

 

なぜではなく、まずどこが大切

 

トヨタでは、問題追及するためによく「なぜ」を5回繰り返しなさいといわれる。人は往々にして1回の「なぜ」しか考えないからで、問題があると即解決策や対策を考えて、すぐに結論を出そうとしている習性があるからだ。それは感と経験と度胸のいわゆる頭文字を取って、KKDといわれる方法で解決しようとして、いつも失敗していることだ。そこで反省することが必要になる。

1回の「なぜ」だと表面的なことだけなので、原因やさらに本当の真因が見つけることができなく、しばらくすると再発することを戒めている。だから5回も「なぜ」を繰り返しながら、現場現物現象さらに原理原則までもよく観ましょうという考えがそこに入っている。

日本では「観る」という漢字ではなく、この場合は看護の「看る」を使うことにしている。実際に手を当てて、目を凝らすという意味合いである。つまりなぜではなく、どこなのかであるが、一体全体何が問題なのかを明確にすることが大切だ。

そこで、今回は「そもそも」という接続詞を使って、何が問題なのか?本当でそうなの?と問いただすと、人はちょっと待てよ!と考え始めるのだ。このちょっと待てよ!が、大切な謎解きの紐のようなものと考えている。そうするとその個所だけではなく、その周囲、さらには作業、工場全体を観る観点で考え始めると、ボトルネックが次第に見え始める。そして今度は細かく、作業のつなぎやタイミング、前後工程の様子も客観的に見直すことができる。

改善、水すまし、カンバン、アンドン、山積み表などの現場で使う用語は、既にドイツでもそのまま日本語で使うことがどこの企業でも習慣になっている。今度は、「そもそも」も日本語のまま使うようにしてみようかと思い始めた。

といったことをユーモアも交えて講演して、さらに現場でもヒントを提供して、あとは彼ら自身が問題解決を図っていくのをフォローしていく。私は答えを言わないコンサルタントと称しているので、あとは彼らの自主性に任せる。ただし困った時には、相談にはもちろん聴くがそれでも答えは言わない。時につい口が滑ってしまうこともあるが、まあ愛嬌である。

今回はマイスターから大抜擢されたM製造部長から、工場全体の流れを一緒に見て欲しいとリクエストがあり同行することになった。若くして大抜擢なので、Mさんにとっても心労はあるだろうと思って、そのガス抜きと察して相談にも乗るように心掛けた。それは思っていた通りであり、この時にはじっくりと耳を傾けて、動機づけを精一杯注入する。

ワークショップが終わった時には、Mさんの心のボトルネックも解消したようであった。帰りには玄関まで一緒にも見送ってくれた。その時にMさんは、「今まで聴いた講義の中で一番良かった」と最大限の評価をしてくれた。多分自分の悩みが解消したことをお礼だと思ったが、そのようなお礼がコンサルタントの一番の賞与に値する。気分を良くして、次のクライアントに向かう。

 

ドイツにようこそ

 

北ドイツの工場に、訪問した際に宿泊したホテル兼レストランでの出来事だ。近くにレストランがなく、簡単なメニューしかないのは知っていた。でも美味しいバイチェンビールがあるので、我慢することができると思っていた。早速ビールを頼むと、通訳のピルツナーがすぐに出てきた。前の客が頼んだものを横流ししたのか?と思うくらい早かった。

私のバイツイェンビールは、南ドイツで有名な「フランチェスカ」の好きな銘柄が置いてあった。北ドイツではあまり美味しいビールを生産できないので、仕方なしに南ドイツから運んでいるが、ここで巡り合えるとはラッキーだ。日本のスタバでは今後ビールも置くそうだが、その銘柄がなんと北ドイツで生産している「Beck」という銘柄に決まったそうだ。私にとっては辛口で美味しいとは言えないビールだが、ドイツで結構売れているビールなのでお試しあれ。

客は我々以外に2人だった。これなら早く晩ご飯にありつけると思った。早速メニューに目を通し注文する。私は焼きソーセージとポテトフライ、通訳はサラダと焼きジャガイモだ。話をしている間にビールはなくなり再度同じビールを頼んだ。30分経ってようやく通訳のサラダが出てきた。

さらに15分してから、冷蔵庫に焼きジャガイモの素が見つからないことが分かったと、コックをやっている多分女子大生が申し訳なさそうに謝罪をするために出てきた。冷蔵庫をチェックするのにそんなに時間が掛かるかと思うが、こちらの人は自分のことしか考えないことが当たり前になっている。自分担当の時に材料がなくなればその時点で発注すべきだが、終わると知らん顔で返ってしまうのだ。次の担当に、そのことを知らせないし手配もしないのだ。日本では考えられないが、個人主義の世界の不味さがこんなところで発生する。

別なメニューにして欲しいと申し出た。その時に私の焼きソーセージとポテトフライを持ってきたが、ソーセージは既に冷たくなってシワシワになっていた。悪い予感が背筋を走ったが、やっぱり想像通り不味い!!結局オーダーしたものがすべてテーブルに揃ったのは、頼んでから1時間も経ってからだった。当然チップなしにした。ドイツにようこそ。

 

市役所の講演にサプライズ

 

市役所のコンサルティングが始まって、次第にエンジンが掛かってきた。社内報でも取り上げられて、皆さんが興味を持ち始めて雰囲気も少しずつ変わってきたという。今回は、街中の会議室を使うということでホテルに迎えの車が到着した。今回のセミナーは、音楽堂でやるという。市の所有物のようで、100年以上も前は動物園だったのを改造したという。小さな建物の壁を見ると、フクロウのレリーフなどが確認できる。

部屋に入ると、何気なくカバーの掛かったスタンウェイのピアノが置いてあった。にわかに音楽教室をセミナー会場に仕立て上げたもので、狭い教室に30人以上も講演を聴こうと集まっていた。ワークショップの参加者の倍以上の人が集まってきた勘定になる。パソコンやスピーカー、フリップチャートを準備して開始時間を待つ。開始時間通りに始めるが、パソコンの画面の時間表示が正確になっているので、それを見ながら始める。ただし日本時間に設定しているので、ドイツでの朝8時が1600の表示になってしまう。

始めてから2人の遅刻者がいたが、どの世界にも遅刻者はいるものだ。席が一番前の真ん中しか空いていなく遅刻者は、その席に座らざるを得なかった。講演を120分時間通りに終了する。その時に一方通行にならないために、儀礼的に質問はないですかと挙手をして促すが、滅多に質問はない。早くコーヒーを飲みたいし、トイレにも行きたいからだ。

今回は挙手が挙がった。最後に入ってきた遅刻者の女性だった。「あの質問していいですか?」「はい、どうぞ」とそのまま答えた。一瞬何が起こったかがわかなかったが、その人は日本語で質問をしてきたのだ。ドイツに来て初めてのことでびっくり仰天だ。内容は良く理解できたという。今回の5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)ではなく松田の場合は、もう一つSを加えた6Sですね?そのSとは、「創造のS」です。お話(講演)を聴いていると、一つひとつを創造するヒントが頭に浮かんでくるということだった。質問ではなく、久しぶりの日本語の会話とお世辞が言いたかったのだろう。

熱心にノートを取っておられたのはわかっていたが、彼女が日本人だとは全く気づかなかった。通訳は入って来るなり日本人だと気づいたようだが、私は話に夢中だったのでわからなかった。彼女は既にドイツに来て30年になるという。通訳の翻訳が非常に上手く感心して、かなりのお世辞を言っていた。彼女はワークショップのメンバーではなかったが、まさに私にはサプライズだった。

 

反対派が俄然賛成派に

 

今回は3つのテーマがあった。テーマは変わっても根本的なところは同じで、考え方を変えて、行動も変えて、お客様のことを念頭に社会貢献することはあまり変わらない。これはどの市役所や役場でも同じことだが、公務員という称号をもらうと決まりきったことしかやらなくなり、例外は一切やらない、認めない、やりたくないという方針(もっとあるだろうが、取り急ぎ3つ)が体や考え方まで硬直させてしまうようだ。多分倉吉市役所は別だと思います。

ある支所の5Sをテーマがあった。作業場には、自分たちの事務所やロッカー、葬儀用の神父さんの控室、墓地の整備用の車や清掃道具や器具などがあった。この支所長が整理して清掃している途中に、「5Sなんて意味ない!」と叫びだした。これはラッキーだ!説得する良いチャンスだ。私はニヤニヤ(心の中はハエ男よろしく手をスリスリしている)しながら、反対宣言し始めた支所長に近づく。彼はチームで現状把握している間に何も管理していなく、マネジメントもできていなかったことが分かってきたので、それを否定されたくない気持ちが出たのだろう。よくあることなので、快く対応する。「分かる、分かるその気持ち」とまずなだめていく。誰も通った道であり、もう一度何のためにこのような取り組みを行うかを、やり取りしながら説得工作していく。

 そこで、この職場を市役所の5Sモデル職場にすることにしようと、このチームに提案を投げ掛けた。そのモデルになる職場の長としてあなたは率先してやるべきであり、あなたならきっとできるはずなどと豚が天にも昇るような動機付けで仕掛けた。そのためのヒントを次々に現場で提供すると、それまで大人しく見ていた作業員の人が、何か頭にピンと来たようですぐに改善し始めた。

するとそんなことが改善なのかと吹っ切れたようで、反対派の支所長も体を動かし始めた。しばらく見ていたが、他のチームにも動機付けするために巡回して回った。1時間半後にこの支所に来たら、神父さんの部屋が豚小屋からホテルの寝室のように見違えるようになり、整理整頓し表示標識も凄く立派になっていた。支所長の顔が満面な笑顔に変わっていた。自覚したことで、顔つきも行動も変わったことが手に取るように分かる。参加したメンバーも自信の付いたいい顔になっている。素晴らしい!と思わず拍手してしまった。

モデルになるという動機付けがかなり効いたようで、ワークショップが終わった時には、局長からこの職場を「モデル職場」の宣言をして戴いた。これでしばらくの間は後戻しもできないばかりか、5Sのテーマがあるとここにまず来て5Sの良い職場をイメージする仕掛けも作ったので、ちょっと安心した。

 

改善により雰囲気が変わっていく

 

市役所の3つの局の内の1つから、トヨタ方式の導入が始まった。少しずつ雰囲気も変わってきているようだ。各職場には第一回のコンサルの風景写真が、ポスターになって掲示されていた。どんなことをやっているかと最初の印象を的確に表現されており、参加していない人も興味を持たせるようにできているようだ。聞いたらこの局の報道ウーマンが、写真を撮っていたのを思い出した。このポスターは、私にとっても良い宣伝になる。特に緑のカードで作った「Sehr Gut」カードが好評のようだ。大人になっても褒められるのは嬉しいものだ。

参加した人(特に女性)の口コミは、恐ろしく速くしかもよく伝わるみたいだ。今回も参加した人から噂を聞いて、参加した人もいたようだ。一番感心を持っていたのが、人事部門だという。改善コーディネーターのLさんの作戦でもあったようだ。まず人事部門に興味を持たせることで、すべての部門への浸透が一番効くのではと考えていたという。さすが!策士と言いたいほどだ。

私の役目は、雰囲気作りも大きな仕事の1つでもある。作業上の安全の問題が一番あり、実際には手を出すことができない。その代わり言葉やボディランゲッジや心でメッセージを投げ掛けることになる。逆にそれがメインであり、手法や事例紹介は二の次でもよいと思うくらいだ。彼らの持っている才能、能力、そして情熱を、精一杯引き出すことが重要だからである。それらを自ら気づいて自分で引き出せるようにすることが、人材育成の胆ではないかと思う。改善コーディネーターのLさんも、そのことに気づいているようで楽しみだ。

 

味見ワークショップ

 

コンサルを始める前に事前に一度企業に訪問して、皆さんに私のコンサルスタイルを味わってもらう「味見ワークショップ」がある。1日間の無料のサービスだ。先日口コミで紹介のあったG社でそれを実施することになった。幸いなことに、デュッセルドルフから1時間の近くにある企業だった。クライアントの多くは、どういう訳か南か北ドイツに多く、地元には縁がなかったようだ。

事前に2つのテーマを取り上げてもらい、幹部の人やオペレータの人にも参加してもらうよう要請をしておいた。訪問すると意外に大きな工場であり、3代続くオーナー会社で、オーナーの自宅は敷地内にあり、隣の丘にはオーナーの趣味で数頭の羊が放牧されていた。今年の干支と同じだ。これは縁ができそう!

セミナーの開始時間になっても参加者が来ない!しばらくすると遅れて皆さんが集まってきたが、会議室はオーナーが使う部屋だったので、皆さんが躊躇していたようだ。オーナーは10時から使うというので、15分前には終了するようにと秘書さんからの指示があった。予定より15分短縮するので、少しシナリオをアレンジしてセミナー開始する。最初の掴みでぐっぐっと松田ワールドに引き吊り込む。これが味噌で、最初の掴みをいかに確実にできるかどうかが今後の商談に利いてくるので、一瞬の内に参加者の雰囲気を読み取る。今日は羊の話から始めよう。上手くいったようなので、次の話題に駒を進める。

最初疑っていたような顔も、次第に打ち解けて来るのを感じる。次に現場に出て実際の作業を、1時間ジックリと観察してもらう。問題点が次々に出てくる。それをまとめ共有化する。そして改善案も作ってもらい、その日の内にできる改善案をすぐに現場に出てやってもらう。2つのチームの内、以前S社の経験したZさんのチームは5Sと歩行のムダを発見した。もう1つのKさんのチームは、在庫のムダを中心に20件の問題を発見できた。

午後からの2時間半で随分と改善もできた。そして結果も出すことができ、皆さんも納得したようだ。1日の終了間際の全員のフィードバックも、全員が大好評だったことアピールした。早速に見積もり提出の依頼があった。