この道に入って50年    藤井安重

日本文化は「守・破・離」の思想が受け継がれ、発展の基本となっていると華道誌で読んだことがあります。基本的な形を守り、続けていくうちに、自分の工夫を加えて形を破る、そして自分の世界へと進んでいき、形から離れていく。

この体験を、中学3年の女子学生が「少年の主張」で発表し、最優秀賞に選ばれたと、ある新聞に掲載されていました。中学3年で‥‥とびっくりしました。私は何十年かけても自分のものになりませんでしたのに。

 池坊では、“一年に一度花会でお会いしましょう”との意味で「七夕会(たなばたえ)」という花展が京都で行われます。それにはコンクールがあって楽しみにしている花展の一つです。10年程前のことと思いますが、入選された特選の作品が未だに忘れられません。枯れかけた葦に真青なブルーのバンダのらんの花。角張った、どっしりとした、上から下に淡いブルーから濃いブルーに変化する花器との取り合わせ、花と花器とのなんとも言えない程に調和した作品でした。身震いするほどの感動を覚え、足がすくむ思いでした。初冬の寒い朝、川辺の葦は枯れ、流れる水は冷たくなり、吐く息は白くやがて迎える寒い冬を思わせたからです。こんな感動は初めてでした。このような素晴らしい作品に感動が出来るようになったことに喜びを感じます。

 池坊にはいくつかの花形の中に生花があります。そしてその内に新風体という花形が昭和52年に発表されました。自分が感動した物が主、それに合わせる花が用、少しの花材で自然の状況を、心を表現していくのです。形をおわない新風体に私は中々好きになれませんでしたが。でもこの時から新風体の面白さ、奥深さが解りかけてきた気がします。

 続けていて良かった、そしてそれを若い人達に伝えていく楽しさ、そのことに誇りを持っています。一つのことをこつこつ学んでいくことにより、私なりの言葉を持ち、やがて血や肉となり、心の宝となってくるのではないでしょうか。