海外こぼれ話 170        

 

Sさんの新築中の家を拝見

 

 前回のお話の続きです。Sさんが工場を買収して、自ら社長になって奥様を会計担当にし、さらに娘さんも社員にして一緒に仕事をしたいという夢がようやく2年半前に叶った。しかも自分の故郷の近くで、ご両親もまだご健在でいつでも会いに行けるという。元は腕の利くというよりも、喋る力が相当強い人だ。世間は狭いと日本では言い、世の中は豆のように狭いとドイツでは表現するが、15年も欧州にいるとそれが垣間見られる。

 13年前から訪問しているトレーラー会社のオーナーPさんに、機械の売り込みを20年以上も前に行って、要らないという機械を結局売ってしまった人である。Pさんもかなりのケチであるが、そのPさんを口説いたという。Sさんと知り合った時に聞いた話だが、彼の説得力のある話術は今現在も見事である。

 工場の隣の敷地に平屋で200uの家を新築中だというので、是非見て欲しいと誘ってくれた。他の人には一切見せたくないが、マツダだけは見て欲しいという。プライバシーに関しては、非常にオープンでない人であったが、それほど信頼してくれているようだ。周囲は一面の麦畑、菜の花畑で、遠くまで建築物が一切なく見晴が良すぎるくらいだ。

 ドイツは建築法で屋根の形状や角度が決められているので、ドイツで同じ建物が多くみられるのは、その規制のあるせいだ。逆にその規制があるために、特に田舎の風景は見た目が良く観光のネタになっている。でも最近太陽素子の普及で赤い瓦が、青いガラスになり景観が損なわれつつあるのが残念だ。

 しかしSさんの家は、まったく屋根が平でビルの屋上のようだ。部屋を案内しもらった。あと床と壁紙を貼ればよいところまでこぎつけたという。前の建築屋は思っていたことをやってくれなくてクビにして、新しい建築屋でやり直したというが贅沢だ。庭には池も作るといい、薪の暖炉も設置されていた。

風呂場は、12畳もあるくらい広い。バスタブは日本の2倍もある大きな特注品だ。シャワーは2つ、奥様と自分用に分けたという。一面ガラスで外が見えるが、植物を植える計画だという。全ての部屋を空調化し、2時間で換気も自動でできるシステムを入れるというが、これまた贅沢な話だ。肝心のワインクーラーの場所はどこだと訊ねると、よくぞ聞いてくれたと場所と大きさを嬉しそうに説明してくれた。

 

青いネクタイが功を奏す

 

新しい訪問先やコンサルの初日には、吉田たすく工房の手織りのネクタイを付けていくのが習慣になっている。ネクタイはすぐに目につくので、話題を提供するにも便利な道具のアイテムになっている。他の話題のアイテムとして、サッカーの赤と黄色のカードやYシャツも2つのポケットとイニシャルを入れたものなど話題をいつも考えている。話題のネタ作りも仕事の内である。

再び工場に戻ると、仕事をしていた奥様と挨拶を初めて交わした。以前の会社では工場で一度見たことがあったが、挨拶することはなかった。以前の会社の時に、記念にもらった青いネクタイを今回締めていた。

奥様はネクタイを一目見て大喜びになった。なんとこのネクタイのデザインから発注まで奥様が企画したもので、イタリアの有名なメーカーで作らせた絹100%のかなり高級なものだと、色々を当時の話に花が咲いてしまった。

この日はSさんから10年前に戴いたネクタイを締めていったのが、功を奏して奥様を喜ばせる結果になった。どこに人を結ぶ糸があるかわからないものだが、相手のことを少し思って考えてみると見えてくるようだ。

ネクタイは広げて見ると結構長い紐である。普通は138cmであるが、今回の青いネクタイは約148cmもあった。私のネクタイは138cmのものがほとんどなので、Yシャツの上から5番目のボタンに端を合わせると、一回で見事に締めることができるのも改善の賜物である。

 

ドイツの工業会の取組み

 

ドイツはインダストリアル4.0I4.0)と言って、メルケル首相が先頭になって第4次産業革命と称し、官民一体となってドイツ工業会を改革しようと取り組んでいる。最近は日本の新聞社などが、ドイツに来て企業訪問やメッセに取材に来て特集を出している。内容はすべての情報をデジタルで管理して、根本的にモノづくりの形態を変えて、高コストからの脱却を狙った取組みである。

現在大手企業のシーメンス、ボッシュなどが、少しずつ取組み始めている。個人的には考え方はいいのだが、本当は前提条件をもっと整備してからの方が良いかと思う。それを待っているよりも、すぐにやりながら形にしていくというスタンスは見習うべきかもしれない。訪問している企業も大学と一緒に取組み製品化するのは、良くやっている。そして学生さんもその企業に就職する道も用意されているので、お互いの関係がよくなる。

ドイツの地方新聞にも、このI4.0の記事が最近出るようになった。大手だけでなく、中小企業も関心を持ち始めたようだ。日本では特に日経新聞社が良く取り上げている。その記事を読んでいたら、友人のGさん(海外こぼれ話にも何度も登場している)が、記者とのインタビューに答えている記事が目に飛び込んできた。

記者はメッセの取材に行って何人もインタビューしたと思うが、冒頭にGさんのコメントが載っていたのだ。設計開発に展開をして納期を短縮した云々と出ていた。まあ、世の中豆のように狭いことをさらに実感した次第であった。

 

心で聴くことをやってみた

 

9年も訪問している北ドイツの某企業では、製造部門はかなりのハイレベルになっているが、間接部門がまだ抵抗勢力が強く何度も後戻しをしていた。今回は社長も頭を抱えて、ようやくという感はあったが本気になって取組むことを宣言された。事前の打ち合わせも行い、間接部門全員を集めて訓示というか説教に近いものだった。25分の社長の話があって、私の講義になった。

何のために会社は存在するのか?何のためにあなたは生まれて来たのか?などトヨタ方式と一見関係のない話から導入していく。今までの改善の経過と写真で紹介しながら、間接部門が何もしていなかったことを気づかせるようにじわじわと締め上げていく。90分の講義が終わると、拍手もあった。

しかし肝心の悪の根源の開発部長Bさんは、真っ赤な顔をしていた。すぐに私のところに来て、「話があるので、30分をくれ!」と別室にすたすたと歩いて行った。部屋に入るなり、さっきの話には頭にきた!と猛烈に怒り出した。そのように仕向けた話だったから当然なことだ。まずはBさんの言いたいことをニコニコしながら聞く。ふんふんなるほどBさんの言う通りだで。3月に別の企業で組織改革の講演の依頼があり、準備した内容に相手の話を聴く時のことの重要性が記載されていた。これを今回使ってみることにした。

心の中で話し掛けるという手法のようで、顔は笑顔でそして心の中ではあんたそうではないよ、わかるでももっとこうしたらいいよ、などと囁き掛けるというものだ。10分くらいしてBさんの顔が穏やかになり、不思議にも20分もしたら全く別人の顔になっていた。完全にガス抜きができたようだ。私はほとんど話をしなく、聴くだけだった。20分を過ぎて、他のメンバーが呼びにきた。

幹部ばかりが集まってのワークショップがこれから始まる。この場で彼らの考え方を180度変えて、皆で協調できるようにすることが今回の命題だ。まず現状把握をしてもらうことにした。1時間もしたら、過去の成績が見えてきた。さあ現状の悪さ加減を皆で理解し、これから改善しようと投げ掛けた。

それからこのままでは、当社は存続できるかと問いただす。そうしたらBさんが、リードタイムは半分にすべきと言い出した。しかも当然という顔であった。一瞬疑ったが、それからも真剣に取り組みだした。この手法は、この後も有効に力を発揮してくれたが、日本語で考えているのにまったく日本語が分からないドイツ人に通じることは、言葉を超えた心の領域で波動が通じたと思う。

 

心で聴くことを社長にもやってみた

 

翌日の昼前になって、社長が珍しく真っ赤な顔をして、私に話があるので来い!と会議室に呼び出した。ワークショップは順調に行っているのになぜかと思ったが、社長は「時間も労力もこれだけ掛けて、遅々として進まなく遅すぎる」という。「何を言ってまんねん!」と言いたかったが、まずBさんのように話を最後まで聴くことにした。同じように心の中で囁き掛ける。しかし社長は手ごわかった。30分も経っても、さらに火に油を注ぐように炎上してきた。

1時間も経ったので、そろそろ話を切り返すことにした。今彼らは変わろうとしているので、その状況も詳細に付け加え、もう少し時間が欲しいと嘆願した。さらに30分も、社長はいちゃもんをつけてきた。自分の失敗の腹いせを私に押し付けていることが見えてきたので、それも全部受け止めることにした。突然「さあ飯だ!」と社長が叫んだ。ランチの時間は、とうに1時間も過ぎていた。1時間半も愚痴を聞かされていたのだ。聞くのも重要な仕事だ。

最終発表の時間になったので、皆さんが集まってきた。Bさんらが、今のリードタイムを半分にする方策と実行のためのプログラムを発表する。かなり自信が付いて来たようで、堂々と説明しているのが感じ取れる。

ワークショップの間に自然とコミュニケーションが取られ、相互理解が深まってきてやるべきことが一つになったようだ。だから顔つきが良くなってきたのだ。それが事前に見て感じ取れたから、社長にもう少し時間が欲しいといったのだ。コンサルは、このさじ加減(別な言い方として迫力)が大切だと思う。

最後まで聴いた社長は、顔が一変して笑顔になっていた。納得できたようだ。今までで、最も良いワークショップになったと評価をしてくれた。あの3時間前は何だっただのかと思うが、人の心はそんなものだ。腑に落ちるとは、こんなことかとも今回教えてもらった気がする。また勉強が楽しくなるぞ。

この企業は、ランチのケイタリングも夜のディナーも美味しいものが提供されるから、いい仕事ができるようだ。美味しく食べるから笑顔になり、笑顔が雰囲気を変えて、仕事も上手くいくのではと思うがいかがなものだろうか。

 

ドイツ鉄道のストライキ

 

またまたドイツ鉄道のストライキにぶつかってしまった。毎年繰り返されるが、昨年は運転手のストライキで今年は乗務員のものだ。昨年はなんと賃上げ日本では信じられない25%の要求が認められたので、今年は乗務員もやる気満々だ。何日続くと移動に苦労する。ストライキしてサービスが良くなったかというと、まったくダメでやるたびに悪くなってきている。

近場という定義から行くと、3から4時間以内はレンタカーを利用する。距離にして、300から400kmである。それ以上は飛行機を使う。幸いデュッセルドルフはドイツ国内で有数なハブ空港になっているので、国内だけでなく欧州の移動も楽である。

今回は3時間半の距離だったので、最初からレンタカーを予約する。Sixt社というドイツで最も大きなレンタカー会社を使う。他にも日本に進出しているHeart、ユーロカーなど5社がある。日本は、トヨタ、マツダ、日産など自動車会社の系列で車を用意するので、最初からその会社の車になる。

ドイツは、色々なメーカーの車種が選べるので楽しみだ。Sixt社がもっとも宣伝しているのが、BMWである。時にフランス、イタリアの車も用意される。ポイント制度があり、飛行機のマイルのように貯まるとグレードアップや割引もある。事前にネット予約をするが、最終的には受付に行って調整できる。

ちょっとしたチョコや飴玉を受付の女性(ほぼ100%)に手渡すと、安いものだが喜んでくれる。気持ちの問題だが、ささやかなことで本人のさじ加減でグレードアップになることがあり、いつも鞄に忍ばせている。技になるのかな?

今回の車は、まだ日本であまり出ていないBMW218dだ。2シリーズの1800ccのディーゼルエンジンとすぐにわかる。室内の屋根が高く、運転しやすいと通訳の評価だ。1シリーズは一番コンパクト、2は少し大きくなり、3シリーズはお馴染みの形だ。4シリーズが最近出たクーペタイプで、鳥取県内でも見かけることがある。5シリーズはセダンが多く、25年前に乗っていた車だ。6シリーズはクーペタイプで、最も美しいクーペと称された時代もあった。

7シリーズが高級セダンタイプで、4000cc、5000ccなど大きなエンジンを積んでおり、新車だと1000万円もする。ベンツのSクラスと同等だ。今ドイツも日本も人気のある車がアウディであり、最高級車はA8という。これもたまたまレンタカーで乗ったことがあるが、庶民の車でないことは確かだ。

実際には日本で言うカローラクラスで十分だ。どの車もアウトバーンでは、時速200Kmは出るようになっている(道がほぼ真っ直ぐ)。レンタカーを借りて色々な車を味わう楽しみに変えれば、移動も辛くはない。でもレンタカーだと、パソコンや本が読めないという欠点もある。

 

ホームパーティーを開催

 

アパートでは、ほぼ毎月1回のホームパーティーを開催している。おもてなしと料理のレベル向上のための訓練にもなっている。なんといってもうら若き女性の皆さんがやってくるだけも、オジサンにとっては嬉しいことなのだ。楽しんでもらうためにも、皆さんの料理の味好みなどを聞き出している。すべてのレシピには、いつ作り、評価、使った材料や調整した分量など、書き込んでファイルしている。微調整のための資料にしている。

ドイツにはないお絞りのサービスをはじめ、取って置きのワインの用意、清潔な室内のための清掃、リラックスしてもらうためのスリッパの用意、トイレットペーパーは新しいものを用意しておくなどの心配りをしておく。

今回は、ドイツに来てまだ3週間しか経ていないという、髪の長いランちゃんが初お目見えだった。年を恐る恐る尋ねると、なんと私と同じ蛇年のサソリ座というので、一気に盛り上がってしまった。干支の3周分若いなんと36歳年下であった。働いているところは、時々行くM店で寿司を握っているというからまたビックリだった。人は外観だけで判断ができないものだ。

今日は、筍を入れて八角の入れない筑前煮が、KちゃんとSちゃんのリクエスト。海鮮カレーとカボチャの南蛮煮は、Aちゃんのリクエストという具合にメニューを揃えて、今回は全8品を献立にした。メインは海鮮たっぷりのアヒージョだ。蒲鉾が高いので鳴門巻で代用し、残った出汁に椎茸シメジを加えてキャベツの玉子とじにする。なんとランちゃんは、練り物大好き人間だった。想定外の鳴門巻に泣きそうになっていたが、しっかり食べておりました。

普段お酒を飲まないというAちゃんの事前の誕生日お祝いも兼ねていたので、試しに美味しいワインを準備しておいた。赤ワインは飲む前に空気に触れさせて、まろやかにしておく必要がある。そのためにフラスコのような容器に移し替える作業がある。これは後で洗う時に、面倒くさい作業であった。しかし開封したあとに瓶の口に空気を混ぜる器具を付けて注ぐだけで、2時間開封した効果を出せるものをワイン屋からもらったので、フラスコが不要になった。

これで注いで飲んでもらった。目を丸くして「美味しい!」と驚きの声が上がった。あまり飲まない人も喜ぶちょっとした器具に感謝したい。箸が転んでも可笑しいという世代と一緒だとこちらも楽しくなる。いつも彼らより早く寝るので、片付けだけは訪問者がすべて行うのがルールになっている。朝起きた時に、部屋やキッチンが綺麗になっていると気持ちがいい。

Aちゃんのいる日本料理店「加賀屋」のさっちゃんは、昨年から働いているが、ほとんど接点がなかった。彼女がビオラをやっているというので、アパートに持ってきていたアザレアのまち音楽祭のCD4枚差し出したら、なんと「松岡先生を知っています」という。毎年5月にW大のオケで、指揮をしてもらっていたという。この前オープニングの時に帰国して、松岡先生のサインをもらって色紙を手渡したら、さっちゃんは大喜びだった。この店はアパートの50m先にあり、このような接点ができた。世の中は豆のように狭いことを実感。