海外こぼれ話 173       

 

弊社に初めての実習生が来た

 

 ドイツで立ち上げたコンサルタント会社は、通訳のMさんと創業して4年になるが、初めて大学生から実習をしたいと応募があった。これもホームページを開設したお蔭なのかわからないが、まったく期待していなかった人からの問い合わせとなった。名前はBさんで、ケルン大学でスポーツ学を専攻しているというスポーツマンだった。ジム通いで筋肉マンのようだ。

ドイツは、卒業前に半年間色々な企業に実際に入って実習しないと卒業ができないという制度がある。それに則り、今回専攻しているスポーツにトヨタ方式が何か取り込めないかということで、短期間であるが一緒に私と行動したい希望を叶えることに対応した。トヨタ生産方式は製造業だけではなく、サービス業にまで浸透してきたので、10年ほど前からはトヨタ方式となって「生産」という言葉が外されるようになった。

スポーツにどのように活用するのかは、彼の卒論のテーマになるようだ。誰もやっていないので難しいかもしれないが、今のところ世界のパイオニアになれるかもしれないので協力するので取組みましょうと動機付けをしてあげた。

Bさんは明るく元気も良く性格が良く、しかも礼儀正しいのでびっくりした。今回は市役所の緑と環境局の現場改善に立ち会い、改善を実際にやってしまうワークショップの実習にメンバーとして参加してもらった。すぐにメンバーとも溶け込み活動に入っていった。メンバーからもとても良い意見や指摘をしてくれたとすこぶる評判の良い評価を戴いた。さすがケルン大学生だ!

1日目が順調に終了したこともあり、天気も良かったので散歩がてら市内のイタ飯屋に行くことにした。30分も歩けばお腹も減り、料理がさらに美味しく感じられる。誰かが言っていたが、空腹は良い料理人になるとは事実のようだ。前回も訪れた店に到着したら、既に3割くらいの客が入っていた。

 

直径50cmのピザをBさんは食べた

 

一番奥の席に通された。でもこの店のピザが前回直径42cmととても大きかったことを覚えていたので、テーブルが小さいと文句を言って別な席に移動することにした。私はとても42cmのピザは食べることは無理だが、Bさん絶対に食べると思いこのピザを進めた。しばらくして、ウエイターがナイフ、フォークとともに紙のテーブル敷きを持ってきた。

そのテーブル敷きには、現物大で直径50cmと印刷してあった。前回は42cmであったが、この店のピザはまだ成長するようだ。頼んだピザが運ばれてきたが、今まで見たこともない大きなピザだ。さすがBさんも一瞬頭を抱えた。

良い記念になると言って、記念撮影してからこのピザの完食に挑戦した。でもどこから食べてよいかわからず迷っていたが、淵の部分から切り崩して少しずつ食べ始めた。30分もすると彼はすべて食べきった。さすがにしばらくピザは、見る気もしないと言っていたが良く理解できる。

隣に二人の若者がやってきたが、彼らもこのサイズのピザをコーラとともに平らげた。二人とも食べ方は個性があり、一人は手のひらサイズのブロックにカットしており、もう一人は外側からまるで蚊取り線香のようにぐるぐると回して食べていた。私たちの後ろの席の二人の若い女性はさすがに残したようで、専用の紙に包んでもらい持ち帰りにした。

日本での普通のピザのサイズは、直径24cmだ。チェコで食べた時は、32cmであったが、このサイズでもうお腹一杯になれる。直径42cmのピザの面積は、直径24cmの時の約3倍になる。この店の直径50cmだと約4.3倍にもなるが、値段はそのままのなんと10ユーロ(約1350円)であった。

面積は1.4倍増えても、前回と値段は変えないというのは店の心意気だと感じた。食べ終わる頃は、約150席はほぼ満席になっていた。これは良い宣伝になり、投資対効果は絶対ありこの店は儲かっていると思う。帰りの30分の散歩は、腹減らしちょうど良かった。緑の街よろしく12万本の木々がきちんと整備されて、散歩していても気持ちいい。

 

市内マラソンの準備

 

週末に15回目になるという市の恒例のマラソン大会があり、ちょうどワークショップのテーマとして取り組まれた。参加者はフルマラソンに4千人、4区間に分けたマラソン(日本でいう駅伝に相当)には、15百組が参加するという。合計1万人が参加する大会になっている。その準備として、標識、コーラ、水、コップ、桶、泡立て器、スポーツドリンクの粉末、ひしゃくなどが配布される。主な給水ポイントごとに設置するものがそれぞれ違い、それぞれに今までノウハウが蓄積されているという。

何でもテーマになるもので、観察していると配布リストの表示が見にくい、わかりづらい、書き直しをしている、部材をパレットに積上げる方法がまちまちなど生産現場と同じような問題が発生していた。作業の標準化、作業安全といったことをテーマにして作業改善に取組んだ。今までそのような見方でやっていなかったので、多くのムダも見えてきた。すぐに改善できそうなことは、すぐに実施することもできた。Bさんは、即実践が身につき始めたようだ。

コップは20万個も必要で、なぜ必要なのかと言えば、給水時に16つの紙コップに水を入れたものを、参加者が熱対策として一気に頭から被るという。終盤になると、果物=バナナが配布される。ラスト近くになれば、ヴァイチェンビールも提供されるというので、ビックリしてさすがはドイツだと思ったら、アルコールフリーだというので納得したが大笑いになった。コーラは砂糖水として、疲れ対策に良いという。スポーツドリンクは粉末になっており、桶に水と混ぜて大きな泡立て器で掻き混ぜて提供する。これはスタッフ、ボランティアの大変な仕事になるのが想像できる。裏方の作業の実態を垣間見ることで、苦労や下支えのお蔭でマラソンが成立していることを実感できた。

これを各ポイントに配置するために、職員が朝4時に集合し、6時から各ポイントに配置して回り、9時に一斉スタートし最終16時には片付けを始める。その日は19時で一度切り上げ、翌朝に桶など使えるものは綺麗に洗って干し、収納する後始末もあるというが、仕事とはいえ休日出勤にご苦労様と言いたい。

これだけの参加者の時間計測はどうするかと訊ねたら、今は全員の靴にICチップを入れてGPSで計測するという。これならコースをショートカットして、インチキしてもすぐにわかるという。

 

日本そして倉吉の改善事例を紹介

 

日本の市役所でトヨタ方式を導入している事例を、紹介して欲しいとリクエストがあり、事前に調査してみた。丸一日パソコンに向かってあらゆる検索をしてみたが、10か所くらいしかまともな成果を公表していなかった。

大々的に成果を出すと、あとで市民から突っ込まれることを恐れているのだろうか。トヨタが郵便局に入り込んだが実は失敗といった事例もあり、事を荒立てたくない気持ちは理解できるが、想像していたより情報は乏しかった。県庁も数県で導入していることは知っていたが、実際にやったということは残念ながら掲載されていなかった。

それでも1ヵ所某市役所が丁寧に写真付きで紹介をしていたので、それを元に他の事例も交えて資料にまとめた。身近な事例として、一年半前から毎月訪問して改善のヒントを提供している、倉吉市内の井戸垣産業様の実際の事例紹介が頭に浮かんだ。

製造業ではなくサービス業の事例は、市役所のメンバーにとっても身近に感じ、気分新たに取り組んでもらえること期待した。井戸垣社長様から自社の改善前と後の数多くの事例を、海外にも紹介しても良いと快く了解を得て数十の事例を準備した。最近、店舗や店舗内の5Sや見た目などが、以前と変わってきたことをお感じになりませんか?是非訪問なさってご確認ください。

さらに同じ市内の流通様にも今年から毎月訪問するようになり、全社員の方にトヨタ方式と5Sの講義をさせて戴いた。流通様は、最近各新聞などに積極的に取り上げられており、今回は朝礼風景の写真を数枚提供して戴いた。制服や靴が揃っており、朝礼では「職場の教養」冊子の読み合わせやきちんと皆さんが、整列して執り行われている風景がバッチリ撮影されたものだ。

某市役所の事例以上に倉吉市内の2つの事業所の事例は、彼らにヒットしたようだ。私自身が見たものを解説し、細かなニュアンスも確実に伝えることができるので、彼らはワクワクしながら聞いていた。井戸垣産業様の事務所改善や店舗の改装風景など、流通様では制服が揃っていることが関心の的になった。

彼らも全員に制服を揃えたが、まだ皆が着服することができないので悩んでいた。ちなみに私のホームページの写真は、プロフィール写真を撮る時に、流通様から戴いたばかりの制服を着ていたので、そのまま掲載したものである。

 

トップマネージャーもプレゼンに参加

 

最終プレゼンには、先日着任したばかりの新任の局長の上司が、活動の噂を聞いて局長とともに参加された。「マツダの噂を聞いて、昨日からワクワクしている。とても楽しみだ。」と興奮している様子が伺えた。

3つのチームが丁寧に実践したことを説明するが、トップが来ているにも拘らず上がることなくプレゼンしてくれる。彼らの説明のあとに、表現できなかった裏話や苦労した点などを追加して紹介し、最後に「素晴らしい成果を出したチームに、大きな拍手とSehr Gut(非常に良い) をプレゼントします!」と「Sehr Gut」のカードを高く掲げると皆さんから大きな拍手が響き渡った。

トップはそれにびっくりしてしばらく戸惑っていたが、雰囲気を理解したようで自らも拍手された。3つチームともに、御世辞抜きに素晴らしい成果を出すことができた。これは改善コーディネーターとその上司の準備や雰囲気作りが、上手くなった努力の成果であると思う。トップもコメントをしたいと質問も交えて、今回の評価を始められた。

想像以上の成果とともに、職員の積極性と行動力に関心を示したことを参加した皆さんに説明し、これからの期待も述べられた。終わってからこの施設の今までの改善を説明して欲しいと依頼があり、関心の強さを感じた。私に替わって実践した担当者やコーディネーターなどが説明をしてくれたので、彼ら自身の自信にもなっただろう。視察も素晴らしいプレゼンになった。

局長から案内している間に、来年の計画を立てて欲しいとリクエストがあった。シリアなどの難民のことで、改善の予算が取れるか微妙らしいが有難い話だ。でもこんなところに難民の影響があるとは、「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じ理屈のようだ。

 

スイスの工場の陰の功労者

 

スイスで訪問している工場は既に8年目になるが、毎回進歩しており訪問することがとても楽しみである。現場の自律化が確実に進んでおり、後戻しがないのが最大の特徴だ。これはスイス人の性格なのだろうか。工場内の仕掛削減のグラフが目についた。改善前の仕掛が現在では、24から30分の1に大幅に削減できていた。これは製造部長と製造課長の見事なリーダーシップのお蔭であると考える。ドイツの某工場は、10年で仕掛が50分の1以下になっている。

毎日の職場ミーティングも粛々と行われ、時間になると各自が遅れなく集まり整列して、熱心にマイスターの話を聴く。主に品質に対してであるが、以前はまだ問題があると人を責めることをしていた。それを何度も是正してやり方を攻めよ!と言い続けた結果、今では原因、真因、そして対策を立てて守ることに集中している。この風土は完全ではないが、随分と定着してきたという。

訪問する度に、この工場の生産が始まる先頭工程を担当しているSenn(ゼンと読む)さんといつも会話するようにしている。彼は1年半後に定年退職を迎える職人であり、実は最初のワークショップで一番反対していた人である。今までのやり方で問題はなく、今更まったく違う方法はまかりならぬと反発されたことを昨日のように思い出す。

懇切丁寧に説明を繰り返しながら、改善をしてもらった。その結果、彼の前後の職場が一気に良くなり、ようやく納得してもらった。それ以降は最も良い賛成者になってもらい、彼の規律で周辺の職場は今もきちんと維持されている。

いわば影の水戸黄門的な存在で、彼に反発できる人は誰もいない。工場の先頭工程を担当され、いつも仕掛が規定以上にならないように前後工程をしっかり監視され、調整しておられる。自らも主要部品の組立を行い、100分の1mmの精度を維持されている。

今回は、Sennさんと初めて記念写真を撮らしてもらった。彼はトヨタ方式を受け入れてから、人が変わってきたという。自分の仕事だけをしていればよいという部分最適から全体最適の考え方になり、今では周囲の人を諭すようになってくれている影の功労者だと思っている。

数年前に「俺は、マツダからリーン(トヨタ方式のこと)を教わった。自分からマツダに教えることは何もないので、お礼に特別なスイス軍が使っているアーミーナイフをプレゼントしたい。」と申し出があり、有難く戴き大事にアパートの引き出しに仕舞っている。大人版の子供頃にいつも携帯していた「肥後守(ひごのかみ)」のようだ。

定年退職してもワークショップの時には、その日だけでも出勤してこないかと製造部長にも頼んでお誘いしたが、Sennさんは「もう若い人に任せたい」と笑っておられた。素晴らしい精度を今でも維持でき根っからの職人であり、いつまでもお元気でと思っている。そしてSennさんは、私の心の宝でもある。

 

マイスターが替わると変わる

 

そんな素敵な人がいる職場は雰囲気もよく、私が行くと皆さんが「オハヨー」と声をかけ握手を求めてくる。今回は来年のテーマである物流改善を行うためのレイアウト変更と設備の段取り替えのテーマだった。

レイアウトの対象の生産ラインは何度も改善をしてきたが、新しいマイスターになったことで最近一気に改善が進んできた。さらに工場の端っこにあったので、一番目につく場所に引っ越しもっと管理しやすくしたい意向があった。

でも場所は限られており、省スペースにしないことには移動できなかった。以前から導入しているレイアウト変更には段ボールを使おう!というやり方で作業台など実物大に段ボールをカットして並べ替えていく。

必要により作業台を半分化したり、不要なものを思い切って廃棄したりして、1日掛けて案を練り直した。大きな設備の高さが、天井まであと20cmという微妙な設備の配置もなんとかクリアできた。見習い社員のMさんは一番若かったので、動機づけをたっぷり掛けておいたら見事にやりあげてくれた。

保全のメンバーも参加して、一気に設備移動し配線や配管を手直しして、配置の微調整を行った。メインラインと4つのサブラインが一堂に集まり、省スペースの効果は半分以下になった。そのためにサブランとメインラインとの仕掛もさらに削減可能になった。並べてみると新たな気づきも発見でき、今までの部品供給の箱が大きいこともわかり、すぐにコンパクトな箱に切り替えた。

もう一つのチームのマイスターは、今年から異動してきた人だ。非常にやる気のある人で、やる気のなかったメンバーをすぐに巻き込んで改善に取組まれた。初めて参加するメンバーがほとんどだったので、特別講義で入れ知恵を授けることにした。これが功を奏してか、一気に改善が全速力でできるようになった。予定外のレイアウト変更も自主的に行うほど熱心になった。

初日からJ社長が何度も私のところに来て、今までの経過説明とともに今の状況が目に見えて変わってきていることを、非常に嬉しく思っていることを強調された。改善が経営数値に反映するまで、4年かかったが納得できたという。

来年度は間接部門も巻き込んで製造部門と一緒にやりたいと意向を示された。

間接部門はどの企業でも鬼門であり、トップの熱意がないことには無理な話であり、ようやくこの社長も重い腰を挙げられそうなので今後が楽しみである。