「フロリダってどんなところ?」
多くの日本人にとってフロリダと聞いて連想するものといえば、オーランドのディズニー・ワールドやユニバーサル・スタジオ、スペースシャトルが何度も発射されたケネディ宇宙センターだろうか。食べ物ではオレンジかな?文学好きな人なら、フロリダの南端、キーウェストに家があったアーネスト・ヘミングウェイの名作『老人と海』を思い出すかもしれない。
フロリダ州は人口約2千万人(日本は約1億2千万人)、面積は約17万平方キロメートル(日本は約38万平方キロメートル)で、人口は日本の6分の1、面積は半分弱。北米大陸の南東のフロリダ半島に位置する。地図を見ればわかるが、大西洋、カリブ海、メキシコ湾に面していて、中南米のリゾートとして人気のバハマ諸島の近く。そして今年7月に米国と国交が回復したばかりのキューバは、海を隔ててマイアミの南、約2百キロという近距離。
あまり知られていないが米国50州の中でフロリダ州の人口は、カリフォルニア州、テキサス州に次いで3番目に多い。2010年の統計では4番目だったが、2014年の統計ではニューヨーク州を抜いて3番目になった。ニューヨーク州より人口が多いなんて意外だが、考えてみればニューヨーク州はニューヨーク市周辺だけが人口が多くて、他の地域は実はかなりの田舎。
フロリダは地理的に中南米の文化的影響が大きい。英語が公用語ではあるが、かなりの人口がスペイン語も話す。おおまかな人口の人種割合は白人78%(うちヒスパニックではない白人は56%)、黒人17%、アジア人3%、その他2%。人種は様々だがラテン系とヒスパニックというくくりでの人口割合は約24%。
現在、共和党から次期大統領候補に立候補しているジェブ・ブッシュはもともと若いころからラテン系の文化に興味があり、メキシコで出会ったメキシコ人女性と結婚。スペイン語が得意。フロリダの州知事を1999年から2007年まで務めた。2000年には兄のジョージ・ブッシュとアル・ゴアが大統領選で極めてきわどい接戦を繰り広げ、フロリダ州のグレーな集票結果が問題になったが、票の数え直しは結局実施されなかった。あの時フロリダ州知事をしていたのは紛れもないこの弟、ジェブ・ブッシュ。
キューバ系米国人の80%はフロリダ州に居住していて、特にフロリダ南部に集中している。最近まで正式な国交はなかったのでキューバからの人は基本的には亡命して米国に来た人たちだ。国交が回復した現在、キューバ観光が急に拡大した。今後、キューバ人の米国移民は増加する見込み。
キューバ人といえば、夫が最近行った歯科クリニックのデンタル・アシスタントの中年女性はキューバから1年前に移民してきたばかりだと言っていた。英語がたどたどしい。デンタル・アシスタントの業務範囲がフロリダ州ではどこまで許されているのか知らないが、この女性はかなり技術的にレベルの高いことを行うのでびっくりした。夫がクラウンを作るとき、歯型を取った後、クラウンが出来上がるまでテンポラリーに使用する義歯を作ったり、クラウンが出来上がってかみ合わせの調整の時、機械を自分で操作して削ったり。ニューヨークでは普通はそういうことは歯科医がする。うまかったので何の問題もないが、夫は私にこう言った。「ひょっとしたら彼女はキューバでは歯科医だったのかもね。」「なるほど、そうかも。」と私。
フロリダの気候は日本で言えば沖縄ととても似ている。ちょうと沖縄の緯度と同じくらいで北回帰線の少し北。6月から11月はハリケーンのシーズンで8月から10月が特に多い。私たちがフロリダに転居してきてから9月に一度だけ、「大きなハリケーンが近づいている、準備するように」とニュースで騒がれたので、急いで懐中電灯、電池、缶詰、水、使い捨ての食器などを求めてスーパーに買い出しに行き、車のガソリンを満タンにして備えた。「大丈夫かな、洪水になったらこの家、平屋だし、どうしよう。」と心配したが、運よくコースがそれて、何ともなかった。
私たちは2012年にニューヨークでハリケーン・サンディで被害にあった時のことが脳裏に浮かぶのだ。あの時はニューヨークはめったにハリケーンなんてこないから大丈夫と楽観していたら、とんでもなかった。愛車のインフィニティをイースト・リバー沿いの屋内駐車場で水没させてしまい、お陀仏に。かわいそうなことをしてしまった。もっと高台の駐車場に移動させておけばよかったのに。あの時は我が家の地域では停電が6日間続き、毎日たいへんだった。
フロリダの隣の家の男性はここに15年くらい住んでいるそうだ。この辺はハリケーンの時どうなのか、水浸しにならないかとか聞いたら「水より、風がすごい。木が倒れたり、木の枝やベンチが飛んできたりすることもある。」と。フロリダ州は1992年のハリケーン・アンドリューの時は約250億ドルの大損害を出した。
フロリダは引退した高齢者が移住してくることで有名な州だ。65歳以上の人口割合は17%で米国の中で最も高い。人口の3分の2は他州で生まれた人で、よそから転入してきた人が多い。特にニューヨークからの移住者は多くて、ニューヨーク市にはマンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクス、スタテンアイランドという5つの行政区があるのだが「フロリダはニューヨーク市の6番目の行政区」と冗談で言われるほどだ。
たしかに新しい土地に住もうというときは、行き先が単一的な人種構成で閉鎖的な雰囲気の所だとよそ者扱いされることが予想され、生活が事実上困難な可能性が高い。フロリダはとてもオープンな雰囲気で移住者には暮らしやすい。移民国家である米国の中でもフロリダはさら移住者州だ。日本で地方に高齢者のコミュニティ開発を進めるにあたって、そういう視点を考慮して、転入者が暮らしやすい雰囲気をつくることが重要と思う。