海外こぼれ話 174       

 

1年半で生産性約3倍に

 

 北ドイツの照明機器メーカーに通い始めて1年半になるが、その間に多くの人の人事異動や改善コーディネータの配置など様々な変化があった。メーカーにとっては大混乱だったかもしれないが、結果としては大変革をもたらしたようだ。簡単な評価として、モデルの生産ラインについて紹介をする。

最初にこのベルリン郊外の工場で、取組み始めたAという機種から生産性向上を目指して取り組んできた。まとめて作る方法から、1個ずつ生産する1個流しのラインを作り上げて、毎回作業改善や治工具改善、さらに部品供給や運搬の改善も行ってきた。

改善コーディネータは、別なメーカーから来た人で製品知識はまったくない人であった。しかし人間関係を築くのが上手な人なので、皆さんの協力を得ていた。どの工場でも改善に反対派はいるもので、この工場もモデルラインのオペレータのTさんも反対派だった。しかし反対するのは意思のある人が多く、その人を説得することで賛成派になるのは多く事例にある。

そのTさんも結果が出ると熱心な賛成派になり、他の人を説得するようになってきた。毎日の出来高生産数をPC入力ではなく、あえて手描きでグラフに記入するようにすると意識も変わっていく。1年半の期間で生産性は、約3倍にもなっていた。それだけではなく、そのノウハウを基に1本の同じ生産ラインを作っていた。つまり生産性が上がり納期対応が良くなり、増産になったのだ。

さらに別な機種にも横展開をして、合計4本のU字ラインが稼働するようになってきた。組立ラインだけなく、これらの生産ラインに部品を供給する方法もトヨタ方式に則り構築できるようになっていた。以前はオペレータが、自ら倉庫に部品を取りに行っていた。その間は作業ができなく、出来高も変動してしまう。

そこで部品を取りに行くことは、別な人で専任化(水すましと呼んでいる)した。台車で運搬し、オペレータの前に必要な部品だけを供給する方法とした。これで安定して生産ができるようになってきた。それまで高さ8mもあった倉庫もなくなり、平積みになって格納や出庫がしやすいようになってきた。

短期間にこのように改善が進んだのは、他の工場で事例があったからである。彼らをその工場に連れて行って、実際の進んだ改善した現物を見ることですぐに納得することができた。ドイツ人は納得すると、迷いなく行動できる民族だ。この会社は、ドイツだけでも3つの工場があり、横展開が楽しみである。

 

副社長から説明を求められる

 

昨年から副社長になったGさんから、この工場のあるべき姿を紹介して欲しいと求められた。本来だと逆にGさんから、こうありたいというヴィジョンを示して欲しかった。でもGさんも別な企業からヘッドハンティングされた人なので、私に訊ねても仕方ないかと思った。いつもは答えを示さないが、ここでは「能ある鷹は爪を隠す」のではなく、あえて爪を出すことにした。

たまたま現場にホワイトボードがあり、それにイラストを描きながら説明することにした。トヨタ方式を進めていくと、最後は工場全体の物流(モノと情報の流れの両者)勝負となる。物流が正確に、素早く、しかも必要なだけ、後工程に良いタイミングで供給することで、競争力が身につくことを狙っている。

その全体像と流れを、1つひとつ説明と確認をしながらGさんに解説をしていく。一方的に説明すると、偉そうに見えてしまうので注意が必要だ。合意を取り納得をしてもらうように話を進めた。この説明で、今後のリピートが決まることもあり細心の神経を使う。そのためにも図を描きながら話を進めることが大切であり、欧州におけるコンサルでの説得術の1つになっている。

他人から見るとミミズが酔っぱらっているような漫画しか見えないが、ボードに向かって話をすると相互関係や流れが見えてくるので納得してもらいやすい。ある企業にも「マスタープラン」というこれから取組むテーマや目標などをまとめた資料を提出した時、15枚の資料を2枚のイラストで簡潔にまとめた。

その1枚目を見たトップは、すぐに全体像をイメージできたといい、その後の資料はうなずきながら聴き入っていた。1枚のイラストや絵が的確であれば、多くの言葉は不要であり納得度も格段に上がっていく。今までに十数年間、日刊工業新聞社様の原稿には、必ず自分自身でイラストも描き続けているが、絵で説明することがこんなところで役立つのだ。文章を書くコンサルタントは数多くいるが、イラストもセットで描けるのは、私だけのようである。

 

金のアグーを連れて講義

 

金のアグー(豚のこと)は、昨年沖縄旅行に行った時に購入したマスコットである。胴体を押えるとブヒッ、ブヒッと鳴くユーモラスなことも興味を引く。これを従えて海外にも連れて行く。沖縄では鳴く縁起豚と称される。1つ持ち帰ったが、周囲の反響が大きく結局10匹追加で購入した。

私たちの周りに付加価値を生まないムダがたくさんあるが、この金のアグーはムダを餌にしている。しかも食べるとお金に換えてくれる不思議な豚と講釈を述べて、ブヒッ、ブヒッと鳴らす、いや鳴くのである。一気に場の雰囲気を和ませる力を持っている。

 ドイツでは、豚は非常に重要な家畜であり、1匹を丸ごと料理しソーセージなどに加工して自家用の食料にしている。ドイツでは豚は白ではなくピンクが一般的であり、金の豚はアッと驚く色である。豚は多産でもあり、その豊穣と蓄財の象徴として貯金箱のキャラクターにもなっている。

それに引っ掛けて、ムダを餌にしてお金に換えていくという設定にしたが、色々な工場で大活躍である。しかも餌は不要でお金も掛からず、レッドカード、イエローカード、Gutカード、Sehr Gutカードと同じくらい人目を引くアイテムができたと自己満足している。

翌日この金のアグーは、近くの街でも売っていることをメンバーの一人が教えてくれた。それはドイツのプレゼントの店で、びっくりするような品物が揃っていて、プレゼントに迷ったらその店に行けというほど有名らしい。

その店の名前は、「Nanumana(ナヌ・ママ)」といい、Nanuとは「なんだって、こりゃ驚いた」、Mamaとは「おかあちゃん、ママ」(イタリアのマンマ・ミーヤと同じ意味、英語圏のオーマイ・ゴットに類する)という意味だ。日本では「ドンキ・ホーテ」に相当する店で、この金のアグーが売ってあったと教えてくれた。金のアグーは、なんと沖縄からドイツに進出していたのであった。

今回は、この金のアグーをライプチッヒ市の近郊の工場に連れて行った。プロジェクターの上に鎮座させて、参加した皆さんに顔見世した。興味を持つのは、男性より女性の皆さんである。一度笑いがこぼれると、あとは芋づる式に笑いがこぼれる。これは楽しく改善をする良いきっかけになる。笑うから楽しくなるのであり、潜在意識も目覚めて良いアイデアがどんどん生まれる。

この工場は4回目の訪問であったが、一番成果が出た訪問になった。今回訪問して皆さんの顔を見たら、前回までの顔と違うことがすぐに感じ取れた。その原因を訊ねてみると、今まで製造部長を新人教育の担当に配置換えしたという。生産の混乱を招いていたのはその部長だったので、それが明確になり今回の人事異動となったそうだ。そのために今までの眼の上のたんこぶがなくなって、一気に雰囲気が変わったというが、的確な人事異動は大切だと感じた。

そのせいか工場内の雰囲気も変わってきた。指示や指摘したことを、自ら実施できるようになっていた。さらに自分たちでアイデアを付け加えて、改善も少しずつであるが進んできたことを確認できた。今後が楽しみである。

 

食事会での会話

 

メンバーと食事をしていた時に、工場長からドイツの食費は家計の7%を占めるが日本はどれくらいか?と訊ねられた。考えたこともなかったが、ドイツがかなり食事に質素でしかも食料が安いことを知っていたので、日本はドイツと比べかなり高級な食事をしていることを想定して、約3倍の20%くらいと回答した。あとで調べたらドイツの数値は6.9%であり、工場長の数値に関する正確性を知ることになった。

まったく予期していなかった質問だったので、あとで経済白書など色々と検索を試みたが、日本の食費の割合は掲示されていなく、目標値だけが15%となっていた。さらに他の国を見てみると、韓国が23%、フランスが21%(これは納得できる)、スイスが9%と、国民性によって食費の割合がかなりバラツクことを知った。かなり雑学を勉強していたつもりであったが、やはりつもりであった。ますます話題作りに対応できるように、色々なことにもっと興味を持つ必要性を感じた。

ドイツ人は、まず食事は匂いが大切で、次に安くて量がたくさんあることが重要なっているようだ。逆に日本は見た目、味、値段となるだろう。ドイツ人は安い食費であるが、あとは何に使っているかと逆に訊ねたら、車に使っているという。もっともな回答である。街中には、日本では見られない高級車がたくさん走っているが、しかもフランスと違って綺麗に洗車しており、凹みやキズもなく、ステイタスとしていることが良くわかる。 

 

新人教育の講義

 

 南ドイツのS社は今年で5年になるが、私からのサービスとして新人教育の一環として、トヨタ方式の紹介を年に3回行っている。5S、ムダ、改善の取り組み方といったほんの初期の講義である。聞くだけでなく、5Sの改善を新人教育センター内で実施をしているが、かなり見栄えも良い研修場になってきた。

最初の実習はヤスリ掛けであり、男性だけでなく女性もこの作業から取り組む。ドイツの技術力の底力は、このような新人教育制度が根付いているからと思う時がある。ほとんどのメンバーが、S社の近郊の工場に就職する。この講義を受けて実際に体験してから就職すると、改善に対しての抵抗感が少ない結果も出ているので講義は効果がありだそうだ。

 今回は新入生が、30人ほど集まった。ドイツは義務教育の小学校は4年間で、それ以降は大学に行くか、就職するための学校にするかという二者選択を10歳の時に決断することになる。今回は就職組のメンバーで、中高一貫(6年間)の学校を卒業したばかりの生徒たちである

 年を訊ねると16歳前後であり、中には中学生のような童顔の子どももいる。まだ学校を卒業したばかりなので、45分間の講義にしないと寝てしまうというので、5Sの楽しい話をすることした。誰もペンとメモを持ってきていなかったので、すぐに取りに行かせた。まだ若いが3日前の晩御飯は覚えていないほど、人間の記憶はあいまいなので、メモを取るのだということから教える。

 冗談ビデオやクイズを出しながら、楽しく5Sの内容を伝えて行く。講義を聞くだけでなく、質問をして発言させるというちょっと考えることは大切なことであり、参加意識が違っていく。前の席だけでなく、後ろの席まで移動して彼らの注意を引く。メモの取り方なども指摘していくと緊張感が増していくことが感じ取れる。

最後に人財育成の胆である「自分で考え、自ら行動し、自らの価値を挙げる人になる」ことをドイツ語に訳してもらい、メモに書かせた。そして書いたことを読み上げてもらうと、案の定違った表現に書き換えていた。そのためにもう一度訳してもらい書かせたがまた違うので、結局3回言ってようやく伝えることができた。これくらいしつこくないと頭に残らないので、良い機会だったのでインパクトを与えておいた。

時間はちょうど45分になっていたが、誰も居眠りなどしていなかった。そこで講義の感想を前列の6人に聞いて見ることにしたが、今までの学校の授業とはまったく違って全員が非常に良かったと言ってくれた。あとの全員の記念撮影の写真を見ると、笑顔一杯だったので非常に雰囲気だったことがわかる。これからの改善マンの育成に、少しでも貢献できればと願う。

 

ワインの買い出し

 

 デュッセルドルフのアパートでは、ほぼ毎月のようにホームパーティーを開催している。一人で料理しても余ってしまうこともあり、また同じメニューにならないように工夫も必要で、さらに料理の腕を上げる機会にもなり、また若い女性ばかり集まるので、私も元気になれる。

 いつも購入しているスペインワインの在庫がなくなったので、Kさんの運転でボッホム市まで車で連れて行ってもらった。夕方4時過ぎに出掛けたら、夕方のラッシュにはまってしまった。通常デュッセルドルフからだと40分で行けるが、この日は90分も掛かってしまった。でも目指すワインはたくさんあった。

 KさんとAさんはこの店が初めてだったが、余りの広さにびっくりしていた。しかもワインの数が余りに多いからさらに驚きであったようだ。早速店のUさんから試飲のお誘いがあった。Kさんは残念ながら運転なので、香りだけを確認する。Aさんもあまり飲めないので、私だけがしっかりと確認していく。あれもこれもと選んでいくと、15本になっていた。Uさんがサービスにと1本おまけをつけてくれた。これは、次に買ってね!というサインである。帰りはラッシュも引いたようで、スムースに帰ることができた。

 Kさんは毎日車を運転しているが、訪独した時はオートマからマニュアルになり、しかも右から左のハンドルになり、戸惑うことばかりだったそうだ。わかるわ、その気持ち。私は27年前にBMWの左ハンドルの車を買った時に、今までの右側と反対なので大変な思いをして運転していたことがあった。

国際免許でドイツでも運転できるが、日本に戻った時に右ハンドルでしかも左側通行は、頭も体も切り替えることができないことがわかるので一切考えないようにしている。私にとって、アウトバーンの時速150kmは制御不能である。

 

ホームパーティーは一品持ち寄り

 

 美味しいワインが手に入ったので、皆さんで楽しむことにした。いつもは私がすべて料理をするが、今回は一人一品ずつ持ち寄るという方法を取った。これは同じサラダでも具材からトッピングまで個性が現れるので、お互いに勉強になるやり方だ。自分だけの考えややり方だけでなく、他の人のやり方を学ぶ良い機会でもある。実は、私自身が一番勉強になる。

今回は日本から語学研修で訪独し、Kさんの部屋を間借りしているというYさんが初めて参加した。Yさんのお姉さんがオランダ人と結婚されたというので、彼女自身も海外に出てみたいと思われたそうだ。Yさんは、サラダを2品作ってくれた。料理人志望のSさんは、ローストビーフを準備してきた。

 味が染み込むと美味しくなる煮物は、前日から仕込みに掛かる。食べ物のコラムを連載し始めて、今まで野菜炒めと焼きそばくらいしかできなかった料理がかなりできるようになった。これもデュッセルドルフで、アパート暮らしになったことと連載のための実地訓練の賜物である。さらにデュッセルドルフで食べてくれる仲間(批評家)もいることも、料理のきっかけになっている。

 Kさんは筑前煮には八角とニンニクを入れるが、Sさんは逆に八角は嫌いというので、順番に入れ替えしている。Aさんは、カボチャが大好きで南蛮煮もバージョンを少しずつ変えていき、お望みの味を出すことができるようになってきた。作ったレシピは、日付とともに変更点や気づき、さらに感想も書き込んでレベルアップを図っているが、これも楽しみの1つになっている。

 外食をすると相当の費用が掛かるので、次第に遠慮し始めている。和食の店は、日本の2倍の値段であり、しかも寿司のネタは格段に落ちるので、こちらでは食べないようにしている。できるだけBIO(バイオの印の付いたもの)の素材を買ってきて、洋風、中華、和風など色々と料理することで、色々な発見や気づきを得ることができ、気晴らしにもお腹にも財布にも優しい。なんといっても女性の皆さんのお話や笑い声が、一番のワインのツマミになる。この雰囲気が、ワインをさらにデキャンテ(強制的に熟成)して美味くしてしまう。