海外こぼれ話 175       

 

ドイツへようこそ(ホテル編)

 

 ドイツへようこそとタイトルをつけると、多くの読者の皆さんはピンと感が働くかと思います。その通り、皮肉という不味い肉のお話コーナーです。今回は、随分と溜まっていた「ようこそ」のネタを整理してお届けします。

 ドイツは昔から現在もだが、サービスという概念が少ない。語弊があるので、少ないとしたが日本と比べると本当はないに等しい。ドイツ語でもサービスという単語はなく、これは外来語である。単語で調べると、Diens、 Dienesleistungdienen(誰かに仕えるという従属語)、自分がだれかよりも低い位置にあるような印象を与えるので、プライドの高いドイツ人は使いたくない単語でもあるようだ。プライドが高いのは、フランス、オーストリアなど欧州各国の共通点でもある。何度もこぼれ話で説明しているようにお互いの主張が、狭い欧州に何十の国境を作ってしまったのだと感じる。

 まずは北ドイツのホテルのようこそ。いつも宿泊しているホテルが、工場から30分も掛かるので工場の近くになれば便利だと、今回はその工場から新しいホテルを紹介してもらった。そのホテルは4つ星であり、工場から10分と申し分ない距離だ。ホテルは大きなビアガーデン付きだったが、田舎のせいか誰も客はいない。

受付に行くと、派手にメイクをして宝石をたくさん身につけているオーナーの奥さんのような奥さんが、対応してくれた。インターネットはただでできることを凄く強調していた。その接続方法を書いた説明書をくれたが、漢字であるがまるで読めない。目が一瞬悪くなったかと思ったら、それは中国語だった。日本語の説明書に換えてもらった。

日本語なら問題ないと思ってそのまま鞄に入れた。初めてのホテルなので、部屋がどこにあるが説明するというのでついていくと、地下室にあるという。彼女は、地下室の階段の前で説明しそれで終了。部屋まで案内すると聞いていたが、近くまでか?まあ、ええわ。

部屋に入ると普通ホテルの半分以下、いや4分の1か?非常に狭い。これで4つ星?今まで数百のホテルに泊まったが、このように狭いのはドイツで始めてで、日本の都会のビズネスホテル並みの狭さで、トイレのドアを開くとベッドに当たるくらい狭い。大きなドイツ人はどうするかな?でもベッドの大きさは普通なので、寝るには問題ない。

インターネットに接続しようと説明書を見るが、読めるけど理解できない。何度操作してもつながらない。日本語であるが理解できない。まるでパズルのようである。誰が訳したのか多分その人は、操作したと思えないほど不親切な記述だ。しかも園外なので、携帯も使えない。諦めて寝ることにしたが寒い。スチーム暖房のダイヤルを操作するが、温水は入っていなかった。受付に戻ったが、既にあのおばさんは帰宅していたので、仕方なく靴下をはき直して寝ることにした。夜間のホテルには管理者が誰もいない、ドイツにようこそ。

 

ドイツにようこそ(食事編)

 

その夕方に工場からの接待があり、このホテルのレストランで食事をすることになった。多く少しクラシック調の広いレストランだ。でも若いウエイトレス一人しか見えない。ここには黒ビールの美味しいのがあると工場長が推薦するので、それを飲むことにした。K社の黒ビールだったが、美味い。さて料理を頼むことした。豚肉のグリル、あと何とか野菜が付いているという料理だ。

ビールを飲みながら話が進んでいく。やがてと言ってもオーダーしてから45分以上経っていたが、ようやく5人分のメニューが次々と登場する。同じテーブルの人の料理は同時に出てくるのが、ドイツの流儀だ。彼らは話も大切だが、同時に食べることも重要と考えているようだ。

大皿にグリルした豚肉が登場した。ナイフを肉に当ててもナイフが入らない。手の感覚がおかしくなったかと思ったが、何度やってもナイフがすんなり入らないほど固い肉だ。憎いやつと言いたくなるほど、こんな固い肉は久しぶりだ。ハエが飛んでいるので、ハエも欲しいくらい美味しいのだろうか。何とか切り口を見つけてカットして食べることができたが、アゴがくたびれてしまい会話は二の次になってしまった。

今回の豚肉はゴム草履かと思ったほど固かったが、料理方法のミスかもしれない。ドイツで出される豚肉は、ドイツ産である。しかし牛肉は、アルゼンチン産が断然多い。時に高級牛肉と言って高級レストランに出されるのは、とんでもなく値段が高い。ドイツにようこそ。

 

ドイツにようこそ(飛行機編)

 

最近はフルトハンザ航空(LH)の非常に値段が高くサービスも悪いので、LCCと言われる安い空港会社を使っている。その子会社が、ジャーマンウイング(GW)である。ある人から聞いた話であるが、GWのパイロットはLHの出来の悪い人や経験不足の人が担当しているので、値段が安くなっているという。

その結果が、例の副パイロットの墜落事件である。墜落後も何度も使っているが、LHよりもサービスが良いのは確かだ。夕方の便には、飲み物やサンドイッチや菓子がつくが、これは飛行機料金に事前に10ユーロ余分に払う必要がある。3分の1の客は、安く乗るためにこのサービスを受けない。

先日エアベルリン航空(AB)を、デュッセルドルフからベルリンの往復で使った。今年になってスマホにバーコードでチケットの記録を送信してもらい、それでチェックインするようになった。スマホのソフトもそれに合わせて、使いやすくなってきた。電波事情が悪いドイツだが、航空会社や鉄道(DB)もインターネットのサービスはこの1年で良くなった。DBはインターネットが有料から一気に無料になり、使いやすくなった。これが本当にドイツにようこそ!いらっしゃいだ。

さらにデュッセルドルフ空港内のABのラウンジは、JALとのワンワールドのアライアンスを結んでいたので入れたはずだが、日本のJALカードは反応しなかった。でもスマホは反応するようになり、カードをかざせばゲートが開き、ラウンジに入れるようになり、飲み物も取れるようになった。経費が掛かるので、ゲート付近には係員は省いている。

帰りはベルリンのターゲル空港もABのラウンジがあるはずだが、これもアライアンスの仲間で共有していた。ここでは係員がいて、スマホではなくカードでないと通せないと意地を張る。JALカードのメタル会員の金属板を差し出しても、アライアンスの絵がないことには通せないという。係員はドイツ人ではなくアフリカ系のおばさんで、言われたことしかしないように教育されており、まったく融通が効かない。タダでラウンジに入って飲み物やソファー、食べ物にもありつかなかった。ドイツにようこそ。

 

誕生パーティー

 

毎月のようにアパートで鳥取県人会の女性を中心にホームパーティーを開き、ワインと料理さらに会話を楽しんでいる。料理は私自身が数品を作るようにして、料理の腕を磨いているが、サビがところどころに見られるのは愛嬌かな。味付けの評価は、彼女たちが正直に評価してくれるので、いつも改善点などをレシピに書き込みをする。

作成日、材料を変えたものや分量、調味料などと合わせて、味の評価点もつけている。ファイル一冊に増えてきた。今年初めに上の階からの浸水でレシピ本が濡れてしまい、すべて使えなくなったが、1年で新たに作り直すことができた。きちんと分類してラベルまで表示している。カボチャの南蛮煮は、〇月△日のバージョンがもっともよいなど書き込んで、味を安定させていく。

前日から煮込み料理は仕込みを始めるが、改善と同じで作り上げていく過程が楽しく、毎回のように工夫することはないかワインやビールを飲みながら検討を重ねていく。というのは口実で、何でもいいから酒のツマミにしている程度である。材料が揃わない時の方が、色々なアイデアが湧いてくるので楽しい。

準備万端で皆さんをお迎えする。自分の誕生日パーティーなのだが、アパートに来てもらえること自体が有難いのである。テーブルのセット、お絞り、箸置き、ナプキン、そしてメインの取って置きの赤ワインを選んでおく。

皆さんはシャンパンを持参し、一緒に乾杯をして食事をスタートする。誕生日プレゼントの贈呈があり、中を開けるとH社のペティナイフが入っていた。それにバースディ―カードには、それぞれの皆さんからのメッセージが書き込まれていた。包丁の大小が揃ったので、もっと美味しい料理を作って欲しいとのリクエストがあった。

今回は絵描き志望のMさんが初めて訪問してくれた。賑やかに余は更けていくが、後片付けはSさんがテキパキとやってくれる。今回もゼリーのデザートを用意しておいたので、女性は笑顔になってしまう。ちょっとした手間暇は、笑顔を提供してくれる。いつもは10時に寝てしまうが、この日ばかりは最後の11時まで起きていて皆さんを見送った。

 

全社大会で基調講演の依頼

 

 昨年から訪問しているミュンスター市役所から、全職員を対象とした全社大会が毎年あるので、今回は私に基調講演をして欲しいと要求があった。来年のテーマ選定のサポートもあるので、講演を引き受けた。講演の内容は、昨年から取組み始めたトヨタ方式をさらに推進していくための必要性をアピールして欲しいというものだ。

時間は最大20分、質疑応答が15分と合わせて35分は、非常に短いので戸惑った。長い時間ならいくらでも話はできるが、時間が短いと私にとっては非常に辛い。アドリブを利かせてライブでやる時間の余裕がないのだ。でもお客様の要求は試されごとであり、積極的に受け止めた。30枚のプレゼンのスライドの枚数を6枚に絞った。1枚に3分程度でやれば時間に収まる。

午前中は改善担当者との打ち合わせを行った。午後から全社大会があるので、通りを挟んだコンベンションホールに行ってリハーサルの準備をする。壇上の前に司会者がいたが、良くみると市役所の人事部長だった。彼はワークショップやセミナーに参加していたので顔は覚えていた。彼の方が緊張していたが、1500人の眼の前で話をしたことがあるかと聞くので、ないが4人以上はたくさんなので心配ないと答えておいた。ドキドキではなく、ワクワク感で一杯だ。

今日の段取りをテキパキと説明し、マイクとイヤフォンの一体となったヘッドフォンの装着、技術的な問題の確認をして、マイクテストを開始する。早口になると大きなホールでは反響して聞こえなくなるので、ゆっくり話せと指示が入り、話す速さを再度確認する。

OKとなったところで、自己初回を追加して欲しいとリクエストが来た。それならと切り出して話し始める。時間はどれくらいかと聞くと、当初の時間に組み込んで欲しいという。それはないよ!と言いたかったが、笑顔でOKと答える。さて困ったが、あとのスライドとの説明時間はどうするか?作戦タイムだ。

 

体とユーモアを使ったパフォーマンスで魅了

 

時間になりゾクゾクと職員が会場に入ってくる。面白いことに席は2階から1階の奥の順番で埋まっていく。残った席は壇上に近いところだが、この姿勢はやる気のない企業の性格が出る。積極的な企業は前から埋まり、業績もよい。でもここは市役所の公務員なので、平均年齢も50歳であり改善はやりたくない人たちで一杯だ。L市長もナンバー2Pさんもやって、握手と挨拶を交わす。壇上の横断幕の前には、15人の組合員の代表者がずらりと並んでいた。

司会者の紹介があり、登壇して挨拶からスタートだ。いつもは「オハヨウ」だが、さすがに午後なので「こんにちは」から自己紹介に入る。オムロン時代にトヨタ方式に出会い、数々の失敗を積み重ね挫折を繰り返しながらも改善を自分のものにしてきた経過を紹介した。

さらにドイツに来るようになり、2年間は失敗続きであったことも正直に紹介し、そこで気づいたことを紹介した。やり方を変えるには、マネジメントも替えていく必要があり、そこでは「新しいワインは、新しい革袋が必要」という諺を付け加えた。さらに失敗を重ねて、見えなかったものが見えてきたのが思想であった。思想をまとめてみると8つの項目があり、そのうち最も重要な人間性尊重がなぜ大切なのかを説明することに絞った。

人間性尊重の1つ目は、人の可能性は無限大であること。2つ目は失敗をしたら人を責めるのではなく、やり方を変えていくことに注力することを、例え話を交え解説した。そこに人は感情の動物であること、私たちのもっている才能、能力、情熱をいかに発揮させるかが、人間として生きることなど熱く訴えた。人事部長は私の講演スタイルを知っており、檀上の端から端まで移動するので予めヘッドフォンも用意していた。

 

市長も参加して質疑応答

 

予定より2分オーバーしたが、誤差の範囲だ。ここから質疑応答が組み込まれていた。その1つの質問が、市役所になぜトヨタ方式を導入する意義があるかというものだった。民間は利益を上げることが目的になるが、市役所は利益を上げることではないから、トヨタ方式は必要ではないという主張だった。

いい質問だと答え、ふっと浮かんだコーラの例え話を取り上げた。「コーラは、真っ黒な砂糖水でしかも炭酸が入っていますが、皆さんはなぜ飲みますか?」コーラを飲んでいるのではなく、スカッと爽やかという満足、爽快感という飲むことによる喜びではないかと解説していく。市役所の仕事も同じで、公園や街路樹などの整備、下水道の整備など市民生活の満足や喜びを得る仕事であり、それはコーラと同じではないかという趣旨で説明した。

それ以外にも直接答えを言うのではなく、このような例え話やユーモアを交えて解説をした。壇上を左右に歩きながら、こちらから質問を投げ掛けたりして双方向のやり取りを心掛けた。彼らの目が輝いているのがわかる、そしてアピールしたことが共感すると、全員が拍手をして応える。オペラのようだ。

すべてが終わると万雷の拍手であった。しかもその拍手は長く続いた。その後、市長や助役など幹部も登壇し、私も含めて一緒に職員からの質問に応じた。幹部は皆それらの質問に対して正面から受け止める態度は、日本では経験したことのない誠実なものであった。立ち作業の話をしたので、市長自ら「登壇した人は皆さん立ってやりましょう」と椅子を撤去しての討論になった。また昨年からトヨタ方式を導入して、その体験者の発表もあった。場内からの質問にも、おびえることなく堂々と受け答えされていた。結局私は2時間檀上で同席した。さらに幹部は、組合からの質問などで結局3時間対応されていた。

大会が終わると、檀上の隅でスライドを操作していたこのホールの支配人がすぐにやってきた。「今まで25年間、このホールでたくさんのセミナーを見てきたが、一番感動した講演でした」とお褒めの言葉と握手をしてこられた。市長や幹部も挨拶に来られお褒めの言葉を戴き、思わず嬉し涙が出てしまった。

会場を出ると待ち構えていた人がやってきて、「コーラの話で取組みの意義がよくわかった、私も改善をしたい!」など握手や講義のどこが良かったことの説明、気づき、サインが欲しいなど、皆さんの眼がやる気に満ちて本当に輝いているのがわかる。眼が生き生きと輝いている感動の顔は、とても気持ちのいい。他の部署もこの改善活動を是非やりたいと進言してこられた。

皆さんが凄くやる気になっていることが、手に取るように分かる。頭の固い公務員でも変わることがわかった。ドイツ国内では、市役所の現場でトヨタ方式をやっているのは、このミュンスター市だけらしい。

結局会場から出ることができたのは、大会が終了してから1時間後であった。主催して私を呼んでくれた関係者の事前準備は大変なものであることは、手に取るように分かった。感謝の言葉をお礼として述べていると、また嬉し涙がこぼれきた。昨晩の美味いビールのお蔭で、涙腺が完全に緩んでしまったようだ。