海外こぼれ話 176       

 

初めてのクロアチア旅行

 

 家内と一緒に海外旅行をする機会がこの数年間なかったが、ようやくドイツに訪れる条件が整い、12月のクリスマスシーズンに訪独するように調整を始めた。しかしその条件が整ったのは1か月前だったので、案の定帰国する12月下旬の飛行機のチケットがなかなか取れなかったが、運良くチケット入手ができた。これも16年間毎月のように国際線を使っていると、あの手この手が使えて運までも引き寄せてくれたようだ。

 デュッセルドルフ市内だけのクリスマスマーケットだけでは物足りなかったが、ちょうどそのタイミングで鳥取県人会のKさんからクロアチアという素晴らしい旅先であることを思い出した。Kさんは今までドイツに来て、5年間にスペイン、ポルトガル、イタリアなどを何度も旅行していて旅慣れをしている人だ。今年になってからは、4月と8月にクロアチアに2度旅行して、いっぺんにファンになってしまったというのを聞いていた。

 そのクリアチアの好きになった理由は、まず人柄が良いこと、そしてトイレが今までで最も綺麗で、しかもシーフードが美味しいというものであった。意外にもトイレが綺麗というのは、女性ならではの理由だと改めて感じた。日本でも人気のレストランの条件はトイレが綺麗であることだが、見えないところに流行る店の神々は潜んでいるようだ。

通訳のMさんにも問い合わせたが、ドイツ人の彼も最も欧州で見どころのある国であり、世界大戦の影響もあまり受けなかったお蔭で、世界遺産も数多く残っている素晴らしい国ですと推薦があった。そういえば、ドイツの某企業でクロアチアに工場があり、そこに出向で行くと半分は離婚したり、そこで永住したりしていることを聞いたことも思い出した。理由は、女性が素晴らしく綺麗で、しかも非常に親切であるという。

 

日程を調整する

 

早速Kさんに連絡して、クロアチア旅行のガイド役を頼めないか相談した。色々な条件を提案させてもらったが、いずれもOKの返事をもらうことができたので、早速家内と日程調整をした。今まで欧州は、ドイツをはじめ12ヶ国を旅行したが、クロアチアは初めてであった。Kさんもクロアチアには何度も行きたくて、渡り船のようだったようだ。

私たちはどこが良いかわからないので、すべてKさんの意向に任せることにした。すぐに旅行の日程の案が出てきた。いずれも世界遺産のあるところで、さらにストンは一年中牡蠣の食べられる街であった。この牡蠣のあるストンには、8月にも訪問したそうで、民宿の地下室にはワイン蔵があり、その主人の造ったワインが飲めるという特権もあり、いかがでしょうかという相談はもちろん大賛成だ。

飛行機の手配も彼女に任せたが、12月になるとクロアチアは完全なシーズンオフでデュッセルドルフからは便がなく、ケルン空港までタクシーで行く必要があった。スプリットの往復は片道2時間弱のフライトで、一人27千円だがそれでも日本国内便の片道分と安い。

シーズン中だとデュッセルドルフからも毎日クリアチアのドゥブロニク、スプリット、首都のザブレクなどにも飛んでいて、料金も往復で2万円以下という信じられない安価であった。5日間ではなく6日間の方が、余裕を持てることがわかり最終の日程を決めることができた。

最終日程は、デュッセルドルフからケルン空港までタクシーで移動。そしてスプリット空港に行き、そこからすぐに世界遺産がある2km先のトゥロギールに直接訪れて宿泊。この街は島になっており、周囲が2kmも満たないとても小さな島であるが、街の歴史はギリシャ時代まで遡り有名な聖ロブロ大聖堂などがある。

次の日は、トゥロギールから採れたての牡蠣が食べられるストンまでレンタカーで移動し、民宿で泊まり地下室にて色々な主人自作のワインを飲むことにする。街には有名な塩田があり、今も昔ながらの製法で作られた塩が世界中に輸出されているという。またストンの山に造られた欧州で2番目に長い城壁を見学することした。

そこから車で1時間移動し、世界遺産で有名なドゥブロニクに向かう。ホテルは旧市街の近くのホテルに2泊する。世界遺産のある旧市街には、歩いて3分程度と至近距離にあるホテルだ。しかもシーズン中の値段の半額で泊まることができる。2泊したあとに、再び空港のあるスプリットに戻る56日間の日程が出来上がった。

各ホテルの宿泊費は、いずれもハイシーズンだと2倍以上になるので、シーズンオフの旅行も一考すべきだ。12月はシーズンオフなので、有名なレストランの多くは店じまいして、従業員の休暇並びに経費と税金対策するという。

クロアチアの情報を得るための旅行のガイドブックが、何とも心細く少ない。日本にとっては馴染のない国かと思ったが、インターネットで「地球の歩き方」を入手する。しかし実際に行ってみると大違いであったが、それは後述する。37年前にも初めて海外旅行をした時もこのガイドブックを利用したが、またお世話になることなった。旅の楽しみ方は3つあるが、その1つが事前準備であり、次に行った時の楽しみ(風景、人との交流、飲食などの体験ができる)、そして思い出を語る楽しみがある。特に思い出の振り返りは写真ではなく、携帯やデジカメの映像に数多く残すことができる。今回も写真は二人で約400枚も撮影できた。

 

家内は1週間遅れで訪独

 

私は仕事があり、家内は1週間遅れてドイツに訪れることになった。家内の単独の訪独は数年ぶりだった。当時フランクフルトからデュッセルドルフまでのJALバスの手配にミスがありバスが手配できないと、成田空港の受付のカウンターでの対応が余りにもつっけんどんだったことがトラウマになっていた。

そのためにJALの関係者に事前のようなことがないように、今回はフランクフルトと成田の関係者に連絡を取ることにした。成田空港のカウンターの受付からバスの手配、さらにチェックイン、ラウンジ、デュッセルドルフ行きのバスへのアテンドも事細かくお願いしておいた。「しかと承知しました」と責任者からの返事もあり、期待以上の対応をして戴くことになった。家内も非常に満足し、感動まで覚えたほどの素晴らしい対応であった。やはり会社が一度潰れたので、社員の考えも態度も一変したのは、稲盛さんのお蔭である。

デュッセルドルフのホテル・ニッコーにJALバスが着いたが、予定よりも30分早く到着したようで、家内は20分も一人で立ちすくんでいたようだ。申し訳なく思ったが、それよりも早くアパートを目指して歩を進めた。

家内の数年ぶりのアパートの訪問の前に、13年使っていたカーテンも劣化した個所を事前にKさんと一緒になって選んでもらい整えておいた。普段から5Sは企業訪問で指導をしているので、アパートはしっかり整備しているので、家内に指摘されることはない。通常ベッドは1つなので、私は折り畳み式のベッドに移動する。時差が取れないのはわかっているので、別々の部屋に寝ることにした。クロアチアのホテルもすべて11部屋にした。

翌日は、事前に買っておいたHINKEL堂のパンとREWEのスーパーのオーガニックのヨーグルトやモンキーバナナなどで朝食を摂った。この部屋は私の城であり、キッチンも私流のやり方に従ってもらう。調理道具や香辛料や調味料の配置は、すべて機能的に配置しているので変えてはならないのである。

ゆっくりと最上階の部屋から外を眺めながら、煎れたてのコーヒーを飲みながら今日の予定を再確認する。既にクリスマスマーケットが開催しているので、その見物と前回買ったブーツも古くなり、その店で新しい靴を買うのも予定に繰り込む。

 

デュッセルドルフのクリスマスマーケット

 

クリスマスマーケットまでは、アパートから10分のところの通りから始まる。普段買い物をしているスーパーや立ち寄っている日本人クラブ、日本料理店、韓国料理店などを説明して、この数年間のドイツでの生活の様子も紹介していった。2つのデパートが向かいで建っている通りの角から、焼いたソーセージの匂いが漂ってきた。クリスマスマーケットはすぐそこだ。

いつもと変わらない店の並びや内容であるが、ロウソクがLED、露店の化粧直しなども少しずつ時代に合わせることもやっていることに気づく。案内するとなると一人で散策する眼と違うことがわかる。

まずは目指す靴屋に行って新作のブーツを探す。この通りには数軒の靴屋があり、選ぶことも楽しい。また日本にない靴があり、私も今年になって3足も買っている。安い靴でも日本に持ち帰っても、他にないデザインであり、かなり高級のように見えるらしい。家内は何度も選び直したようで、気に入った一足を見つけたようだ。ついでに私も一足見つけてしまった。ブーツの中に毛が取り付けてあり、とても暖かである。色もこげ茶のようで独特の色だ。買い上げるとその色に合った靴クリームが無料で付いて来た。なんと気の利いた店だ。

この通りをライン川に向かうと旧市街に行ける。昼だというのに、途中のケーニッヒアレーという高級商店街は人が一杯だ。続いて旧市街に入ると、さらに人は多くなる。マーケットの店の中をじっくり見ることは、辛くなってきた。そこで次に目指すHINKEL堂という超有名で、デュッセルドルフで最も美味しいと言われるパン屋さんに行くことにした。

いつも20人以上の人が入れ替わりパンを買っていく。ドイツ人出ないようなキビキビとした態度がパンの新鮮さを強調するようだ。バケット、さらに私も好きなクロワッサン、さらに自家製のシュトレンもゲットした。夜のワインは少々抑え気味にして、明日からのクロアチアの旅行に備える。

 

最初の訪問地のトロギール

 

10時過ぎアパートの前にKさんと待ち合わせてして、タクシーでケルン空港に向かう。2時間弱のフライトで、一気にクロアチアのスプリット空港に着く。デュッセルドルフやケルンなどドイツからのフライトだと、2時間以内でほとんどの国に行くことができ、しかも格安の飛行機は想像以上に安い。

ここで200ユーロをクロアチアの通貨に換金する。1ユーロが、7.3クーナになる。ちなみ1クーナが約18円になる。この計算は買い物には不便なので、常に電卓で換算する必要があるが、それもすべて今回はKさんがやってくれるので大助かりだ。すぐに予約していたレンタカーを手配する。小型車のルノーを予め頼んでいたが、知らぬ間にグレードアップされアウディの3Aになっていたので、運転をするKさんはルンルンになった。まずは空港からすぐにあるトゥロギールのホテル「パシケ」をカーナビに入力する。空港から2kmしか離れていないが、道の景色はドイツとまったく違う南国の景色であり、木々の緑に変わってごつごつとした岩と白い石畳みの道だ。木は低木で柑橘系の実を付けている。カーナビを頼りにホテルに向かう。世界遺産のある場所は、わざと陸続きだった土地に運河を造り、橋での往来に変えて島にした経緯がある。

橋を渡るとゲートがあり、真っ直ぐ行くと目指すホテルがあった。ガイドブックにはホテルのHマークもなかったが、4つ星の内装の素敵なホテルだ。宿泊は私たちだけのようで、特別室が用意されていた。私の部屋は新婚さん用であった。なんと世界遺産の場所なので、駐車場は島から出て行かないとダメで、指定の場所に停めることになる。しかも駐車場は数百m先だった。道は白い石で凸凹であり、足元を見て歩かないとつまずく。

途中に露店があり、立ち寄ると店の人はすぐに日本語で挨拶するので、びっくりポンだった。日本人が多くなり、日本語の対応をしているという。2009年からクロアチアはEUに属したのを機会に外国からの訪問者が一気に増えたという。色々と試食して、迷わず名物のトリフの入ったチーズを55クーナで買うが、いい香りだ。試食だけでも十分堪能できた。

ホテルに戻り、すぐに島の周りを散策する。歩いて30分もすれば一周できる小さな島である。すぐに世界遺産の象徴である聖ロヴロ大聖堂に行く。白い大理石の石畳と建物が数百年間の歴史を感じさせる。広場には時計台もあり、鐘楼とともにクリスマスのデコレーションが夕闇を彩る。歩いているとレストランもブティックや宝石の店もいくつもあるが、シーズンオフなので少ししか開店していない。その中からレストランも探すが少々手こずった。

家内は途中にブティックに入り、お気に入りの服を買った。その若い店員さんは、スラスラと英語で対応してくれた。綺麗な英語だったので聞いてみると、クロアチア語はもちろん英語も3歳の時から勉強をしており、国民の8割は英語で話ができるという。観光にも英語ならば、大抵は問題ないというが、国民の8割というのがこの国の凄いところだ。観光立国になっている。

 

ホテルのレストランは素晴らしいウエイトレス

 

結局良いレストランを探すことができなく、ホテルのレストランに決めた。既に地元の人10人が家族で、宴会状態になっていた。カセット(CD)らしきもので子どものための音楽が鳴っていた。良く聴くと坂本九の歌っていた「幸せなら手を叩こう」のメロディーであったが、歌詞はクロアチア語なのでわからない。そこでウエイターに歌詞の意味を訊ねたら、「幸せなら手を叩く」というので、これまたびっくりポンだ。元々はスペイン民謡のようで、世界中に流れて歌われたことがわかったが、歌の素晴らしさも知ることができた。

早速ワインから取り掛かる。クロアチアの白ワインの代表格が、マルヴァズイヤだったので、それをまず飲んだ。きりっとした辛口だ。ウエイトレスのワインのサーブの仕方を観察していて驚いた。専用のワゴンに載せてきて、封を切る。そしてナプキンで瓶の口を拭く。そしてオープナーでコルクを開ける。きちんとコルクの匂いを確認して、瓶の口をさらにナプキンで拭く。

そして用意したグラスにワインを注ぎ、自分でも確認して頷く。そしてコルクを小皿に置き私の前に差し出す。私もそのコルク臭を確認する。そしてグラスに注ぐ。私は徐にテイスティングして納得のOKのサインを出す。彼女は必ずその人の右からワインをサーブ(入れる)する。見ていたら、料理もそのように差し出している。しかも姿勢がしゃんとして気持がいい。

このような礼儀正しいワインのサーブは滅多にない。受ける私たちも非常に気分が良い。料理も右から出し入れするが、その仕草も非常にスマートである。これだけでも嬉しくなってしまう。このウエイトレスは、多分オーナー家庭の出身だろう。日本でもこの作法が最近無視されてしまっているのは残念だ。

シーフードの料理に合うワインだ。3人なのでそれぞれ好きなものを頼み、お互いをシェアにすることにした。手長海老とそのリゾット、焼きイカ、イカスミのリゾット、さらに地元のハムとチーズの盛り合わせは、いずれもアドレア海の採れたてなので新鮮で美味しい、しかもワインに合う。軽くワインの瓶は空いてしまったので、次の白ワインはウエイトレスにお任せした。なんと2本目のワインが素晴らしく料理にマッチした。さすが地元のワインだ。

お腹も一杯になり、ダブルベッドでゆっくりと寝る。翌朝は、私たちだけのために豪華な朝食の準備ができており、しかもシャンパンまで用意されていたので、早速それに応えた。4つ星ホテルには珍しいもてなしだ。当然欧州風の朝食であるが、クロアチアの独特のチーズやハムはドイツと異なることも味わいながら、ゆっくりと時間を過ごす。

次の目的地であるストンまでは3時間半も掛かるので、8時半にはできる準備をすることにした。もう一度世界遺産の大聖堂を撮影するために散歩を兼ねて出掛けた。すると昨晩立ち寄ったブティックの女性が店の前にいたので、声を掛けた。美人だったので写真を一緒にと言ったが、朝なので目覚めていない顔は恥ずかしいということで断られた。朝日を浴びた教会周辺は清々しさがあった。白いアウディは、白い石畳によくマッチする。颯爽とトゥロギドールを後にストンの街に向かった。冬というのに、空は快晴、海も真っ青、気持ちいい。