海外こぼれ話 177   (2016年3月号)   

 

クロアチア旅行の続き

 

 クロアチアの2日目は、トゥロギールでの朝食をたっぷり食べてお腹を満タンにしてから移動する。移動のコースはせっかくなので、山中の高速道路よりクロアチアに面しているアドレア海を見ながら海岸沿線を走るコースにした。

ひんやりした快晴の下、右手に海岸、左手に山を見ながら快調に車は走る。国道と言っても鳥取県と同じように対抗車線である。この観光の国では、冬は完全なシーズンオフなので車は少ないので快適なドライブだ。

山は、石灰岩のようなゴツゴツとした岩山であり殺伐とした感じだ。その隙間を縫って低木の木々が、緑のパッチワークを組み合わせたように見える。その木々は、良くみると松とオリーブのようであり、四国の小豆島を思い出させる風景だ。中にはロケットのように尖ったこの地方特有の木々が、ところどころ見られる。ドイツでは、このような木の形状を柱という。

海岸線からは、底まで透き通った綺麗な海が見える。快晴なので、空の青さが反射して海まで綺麗に見える。砂ではなく、鳴り石の浜のように石ころの浜が海岸線に連なっている。空気は澄んでいるので、見る風景も絵葉書のように感じられる。

今までに他の欧州の国々を旅行したが、こんな素敵な風景は今まで経験したことがなかった。道路や家並みにある看板類も非常に少なく、風景そのものが気持ち良く目に飛び込んでくる。アドレア海の対岸にあるイタリアも何度も旅行したが、海岸線もどちらかと言えば空気が綺麗ではなかった。海岸線の向こうには、大きなプラチ島が車で2時間も走っても横たわっている。

この辺りは山や多く畑が少なく、そのため柑橘類の大産地のようだ。その途中に名産の柑橘類を売っている露店が、10軒くらいずつ並んでいるのを見つけた。この露店群が数カ所もあり、休憩を兼ねてミカンを買って食べてみたが美味しかった。自分の果樹園で採れたものを直接販売しているようで、自家製の蜂蜜、ドライフルーツなども売っていた。直接会話をするのも旅の楽しみだ。

 

目指す牡蠣の街ストンへ

 

途中時間短縮のために、「国境をまたぐのでパスポートを用意して!」と、Kさんからの指示があった。その国境とは、1984年に冬季オリンピックのあったサラエボの現ボスニア・ヘルツェゴビナ(当時はユーゴスラビア)であり、車で走るとわずか10分間の間に入国、出国の審査のためパスポートの提示を求められる。地図で確認すると、土瓶口のような形状になっている。わずか10km程度であるが、このボスニア・ヘルツェゴビナの海岸線になっている。この国を避けて遠回りするコースの所要時間は、カーナビでは10時間も掛かるので少々パスポートの提出の手間は何でもないことだ。

国境の検問の前に並んでいる車は、たったの4台だけだったので、スムースに通過できた。Kさんが夏に来た時は、観光シーズンだったので大渋滞であり、通過に1時間要したという。そこから30分すると目的地のストンに到着した。 

ペリシャツ半島の付け根に位置し、両側に山が連なっておりまるで試験管の一番底にあるような場所だ。そのために波が立たず、養殖のいかだを設置するのは楽だ。地形的も気候的にも一年中牡蠣が採れるという。なんと古代ローマから、塩田で塩造りもされてきている歴史ある街だ。

周囲は岩山であるが、この両側だけは木々が山頂まで植わっている。日本でも牡蠣の産地には、上流に森がありその植物プランクトンが牡蠣の餌になっているというが、まったくその通りであった。このストンの牡蠣は、クロアチアでも一年中食べられることで有名で、各地から牡蠣を食べにやってくるという。

午後1時を過ぎていたが、事前に予約していた牡蠣レストランに到着した。4つ星ホテル兼レストランの店で「KUCA」といい、目の前が小さな港になっていた。Kさんは、すぐ近くのこれから泊まる民宿に車を駐車する。店はシーズンオフなので、客は1組しかいなかったがおしゃれな店だ。

早速牡蠣をまず3人で20個頼んだ。それにタコのサラダ、海鮮パスタ、そして白ワインでランチにする。牡蠣はレモンを掛けてそのまま食べるが、クロアチアの牡蠣の本格的なシーズンは3月中旬だというので少し早いがまずまずだ。牡蠣祭りがあるそうだ。20個ではやはり足らなくなり、さらに追加し10個頼んだ。結局1人が10個食べてしまったが、あっという間だった。タコや海鮮パスタもとても美味しく、ワインも追加してしまうほどだった。

2時を過ぎたころから、高級車に乗ったセレブと思われる人たちが次々とやってくるようになった。やはりこの店は評判の良い店だった。食べ終わって隣のレストランを見るとまったく客はいなかったが、ガイドブックに載っているのはこの人の入っていない店の方だった。

シーズン中は、この店は大流行りだそうだ。しかし、どこでも同じようにガイドブックなどで大々的に宣伝されて名が売れるとしまうと、店の方は手抜きをし始めるものである。いつでも地元の人が集まる店が、やはり最終的には支持される店になる。

 

ストンの民宿に泊まる

 

小さな岬を曲がるともう一つ有名なレストランがあったが、その店は閉まっていた。すぐ隣にある手作り風の簡素な店では、柑橘類や牡蠣を売っていた。値段を聞くと、先のレストランの店のほぼ半額であった。牡蠣の大きさも大中小と揃っていた。自家性のハーブを入れたオリーブオイルなども売っていた。

Kさんは、夏にこの店を利用したことがあるという。そのため今晩の自炊の料理は、この店の牡蠣を使うことにした。この店の営業時間は朝9時から夜9時までの12時間営業だそうだが、家はすぐ隣にあった。つまり軒先が店になっていた。頑張る奥様、12時間営業だ。大中小の牡蠣を5個ずつ合計15個買った。そこから一本道を歩いて、約10分したところに目指す民宿があった。

民宿のオーナーのFさんが、待ち構えていた。Kさんと挨拶を交わし夏以来の再開を確認し合っていたが、とてもフランクな人柄がわかった。部屋に案内にしてもらったが、ワインを飲んだのですぐにみんなで昼寝することした。

夕方まで寝ていたが、家内はもっとゆっくりしたいということで、Kさんと5分先にある街中に出て買い物をすることにした。5時過ぎであったが、もう真っ暗になっていた。空を見上げると、新月なのか満天の星が拡がっていた。小さな6等星までもが綺麗に見え、今にも星に手が届きそうだ。

信号機のない交差点を渡ると、民家や店があった。最初にコンビニのようなスーパーに入って食料を確保する。レタスとツナ缶を買ってサラダにする。ドイツと似たような商品が並んでいたが、ドイツより少し物価や安い。

さらに店を出て、暖かい料理をテイクアウトするためにレストラン(クロアチアでは「Konoba」と表記)「Bakus」に入った。店の前にはたくさんのメニューがあったが、それは5か国語で書いてあったので多く見えただけだった。

海鮮のリゾットを頼んだが、少々時間が掛かるので地元のビール(唯一の国産ビール)を頼んだ。なんとレモン入りのビールがあり、夏には喉越しがいいというので一口飲んだがまるで炭酸入りのジュースのようだ。今は冬なので、普通のラガービールにした。ビールが飲み終わる頃に料理も出来上がり、持ち帰るように包んでくれたが、隙間からいい匂いがしてくる。

 

地下室のワインでおもてなし

 

早速Fさんの民宿に持ち帰り料理を始める。するとFさんが、地下室で一緒のワインを飲みながら食べましょうとお誘いがあり、期待していたので料理を持って、ホームページにも紹介がある地下室に向かった。さすがにワインを保管するので暖房はなく、小さな温風機があるだけでコートを羽織りながらのディナータイムになった。でもFさんのおもてなしに心は暖かくなる。

早速、自家製のシェリー酒を戴く。濃厚な味と深みのあるコクで一気に腹の底から暖まる。ハムやチーズも振る舞われ、次の白ワインを味わう。Fさんは、奥様と4人の子供さんがあり、3人の大学と高校の兄弟はクロアチアの首都ザブレクに寄宿して勉強をしており、10歳離れた6歳の娘とこの家に同居しているという。数年前にこの家を建てて、一部を民宿にしているという。

副業で葡萄を栽培してワイン造りをしており、地下室には7つのワイン樽があった。小さな樽で300本の瓶詰ができるという。棚には、20種類ほどのワインが展示してあった。さらに会話は弾み2本目の白ワイン、さらにロゼ、赤ワインも負けじと登場してきた。結局5本のワインが登場してきた(5本空けたわけではないので、ご安心を!)。

いくら趣味と言いながらも出来映えの良いワインばかりであり、とても満足のいくワインばかりだった。さらに3週間前に絞ったという自家製のオリーブオイルまで登場してきた。パンやチーズに付けて食べると、スルリと体中に染み込むような感触だった。現地現物、これもここでしか味わえない代物だ。

会話が段々弾み、店で買った海鮮リゾットも美味しく食べてしまった。私たちの会話をすべて英語で翻訳して伝えたわけではないが、Fさんは会話の内容が読み取れなくともいつも笑顔で聞いてくださっていた。本当に気持ちの良い接客態度であった。素晴らしいは、クロアチア語で「ネボウ」という。何?「寝坊?」と、両手を頬に当てて寝る仕草をして、Fさんに伝えると大笑いになってしまった。でも「ネボウ」=「素晴らしい」とクロアチア語をマスターできた。

日本のおもてなしがもてはやされているが、実はクロアチアでの体験から感じたのは、このおもてなしがすべての人に共通していることが最大の観光資源だと思う。通訳のMさん曰く、クロアチアは欧州の「見えない真珠」というほど、余り知られていないが素晴らしいところだという。お腹が一杯になるとまぶたが重くなる生理的現象が顕著になり、ベッドに潜り込んだ。

 

ストンの塩田と城壁

 

翌朝は、私の部屋で一緒に朝食を摂ることになり、8時に皆さんが集合した。Fさんが朝食を運んでくれた。奥様と子どもさんは、既に出勤と学校でお出かけしていた。ゆっくりと朝食を食べて、今日の予定を再確認する。まず近くにある街に出掛けて、有名な塩田の見学と欧州で2番目に長い城壁まで行く。次の訪問先の世界遺産の街ドゥブロニクまでは、車で1時間半のコースだ。時間がたっぷりあるので、ストンの街を散策することにした。

ホテルと違い民宿なので、宿泊費とワイン代の支払いは、直接現金での支払いになる。心遣いも入れて代金を差し出すと、Fさんはそんなにいらないと受付けてくれなかった。おまけに私たち一人ひとりに、好きなワインをプレゼントまでしてもらった。家内も好きになった濃厚なシェリー酒をもらい大喜びだ。何とも理解しがたいほどの歓待であり、心に残る良い思い出になった。

車に荷物を載せて街の広場まで移動して、そこから塩田の見学をする。さすがに冬なので、気温は10度以下であったが、今日も快晴の日になった。有名な塩田は、入り口の料金所も閉鎖していたが、シーズンオフなので門は解放されたままだった。そのまま入ればよい。

普通入場料は、5ユーロするが今日は無料だ。各国の案内板があったが、8か国の内右下に日本語の解説もあった。しかも眼の前には、1台のトロッコに山積みされた塩があった。結晶は大きく舐めてみるとやはり塩そのものだ。濃厚であり旨味もあった。昔からの手法で塩は造られ続けており、海水を引いて田んぼのようにして少しずつ乾燥させるものだ。

近くに衣服や魚を売る露店があり、ちょうど余分に持ち合わせていなかったベストを買うことにした。散歩のあとの休憩として、喫茶店を見つけ外で喉を潤すことにした。携帯電話の電波も店のWi-Fiで受信できるので、メールチェックなどに使えるので便利だ。電話を掛けるとなると法外な料金が請求されるので、インターネットを使って相互連絡を取れば無料になる。クロアチアでは大抵の場所で、Wi-Fiが使えることもわかった。

すぐ近くに城壁の入り口があったので、そこにも行ってみた。はやり20Knの(日本円で約400円)料金が必要だったので、手前で記念撮影して城壁を登った気分とした。約2kmの階段の山道を登って下るのは、あとの旅ができなくなるので心苦しかったが断念した。遠くから見ると城壁は、Wの字に見えた。

 

世界遺産の街ドゥブロニクへ

 

車を走らせドゥブロニクに向かうが、右側にある海岸線と空の美しいことに圧倒されてしまう。建物の屋根は赤茶色に統一され、家の壁はすべて白であり統一感を感じる。広告の看板や生活臭がわかるものが少なく気持ちが良い。

ドゥブロニクに着いたが、工事中なのでカーナビが新しい道を探すのに手間取り始めた。Kさんはこの街に来たことがあるので、目星をつけて移動していく。途中現地の人に道を尋ねても丁寧に対応してくるので、カーナビと同じくらい安心できる。山を切り崩した地形の街なので、下の道路に移るのもジグザグでしか移れないため、少々時間が掛かったがホテルを見つけることができた。

ホテルの駐車場は土地が少ないため、幅が狭く車が寄せ難い。昼前に到着したが、ホテルも閑散期なので予定よりも早くチェックインさせてくれた。荷物を置いてランチの場所を探す。世界遺産の旧市街地は、歩いて3分先にあった。分厚い城壁に囲まれているが、大きな地震があっても壊れなかった城壁という。

城壁の中のレストランは、少し中心から離れた狭い小道を挟んだ店にした。ガイドブックに載っていた店だったが、おしゃれな店だった。ウエイターは日本語が片言でも話せ、メニューも手書きの日本語があった。シーフード満載の料理を選び白ワインとともに海の幸を満喫したが、本当に美味しい。

 

旧市街を散策

 

満腹になったので、買い物と見物を兼ねて近くを散策すると、可愛いお土産屋「MEDUSA」が見つかった。ハーブ、蜂蜜などもあるが、クロアチアを象徴するのがネクタイであり、ネクタイをあしらった色々なアイテムがあった。以前にも紹介したが、仏語のネクタイの語源(クロヴァット)がクロアチアを意味している。家内は良い買い物をしたようだ。さらに同じ通りにあるガイドブックに載っていた刺繍の店にも入った。

店の名は、「BACHAN(バチャンとカタカナでも表記されている)」だった。2坪もないくらいの小さな店には、数百もある大小の商品があった。店長のバチャンさんが、商品の説明を日本語と英語を取り混ぜながらユーモアたっぷりに説明をしてくれる。客は私たちだけだったので、暇つぶしもあったようで丁寧に説明してくれた。これらの商品は手造りであることを強調し、自分の家族や親せきで作ったものを売っているという。

いきなりお前たちは阿部首相のスパイか?など日本語で突拍子もない話が出てきたが、実は阿部首相がクロアチアに来た時に、昭恵夫人がこの店に来たという。その話から日本人なので、そのあとの調査に来たのかと冗談が出てくる。小泉元首相も来店したそうで、私の頭を見て白くてフサフサしているが、それは小泉と一緒だ!でも私の髪が少ないなど畳み掛けて、即興話を作っていく。

笑えば笑うほど冗談話が出てきたが、残念だがここには記載できない。どうぞ現地に行って直接お話下さい。ただし、シーズン中は行列のできる店であり、会話はできないという。シーズンオフならではの楽しみがここでも見つかった。実は翌日も訪問して冗談話を20分も聞くことができたが、サービス精神はもの凄く旺盛な人だ。店を紹介したガイドブックなど10冊余りが展示してあったが、これはすべて日本人からのプレゼントだという。でも有名な人でした。

さらに同じ通りには、ワインバー「Matusuko」があった。14時から開店するというのでその準備をしていた綺麗な姉妹がいた。話のついでに、お勧めの地元の赤ワインを試飲させてくれた。最後に出されたものが一番美味しいというと彼女らは、ニッコリしていた。銘柄を確認しておいた。さらにとても美味しいオリーブオイルがあるというので試飲して購入した。この美人姉妹と記念撮影をしたが、ワインのせいか写真が少しぶれてしまった。