海外こぼれ話 178   (2016年4月号)   

 

クロアチアのドゥブロニクの続き

 

 さて177話の続きである。美人姉妹のワインバーを後にしてホテルまで戻り、2時間の昼寝をして夜の散歩に備える。5時にもなると真っ暗であり、賑やかな旧市街の方はクリスマスのイルミネーションで輝き、賑やかな声も聞こえる。旧市街に向けてそぞろ歩きしながら、入り口のピレ門をくぐっていく。

門のすぐ前は大きなオノフリオの大噴水という噴水があり、水の代わりに白いLEDランプで滝のように光が流れるように見せている。電球のイルミネーションはもうなく、すべてがLEDだ。その左には大きな教会(フランシスコ会修道院)があったので、覗いてみることにした。

数人の人が静かに15から16世紀の壁の絵画や彫刻に見入っているが、照明を落としてあるので薄暗く見づらい。しばらくすると暗闇にも目が慣れてきて、良く見えるようになった。これらを見ていると自然にお祈りをしたくなるのは、私だけだろうか。お賽銭の代わりにロウソク代として払おうとしたら、ロウソクはなんとこれもLEDになっていた。安全のためとはいえがっかりだ。

教会を出ると、旧市街地のメイン道路のプラツァ通りにクリスマスマーケットの店が連なっている。思ったほど寒くなく手袋も不要だ。それらの露店は食べ物屋と土産物屋などの店は半々であり、特に食べ物屋には、立ち食いで話をしながら食べている。その影響もありレストランは閑古鳥が鳴いているという。

この時期に各レストランが、経費削減で閉店するのは納得できる。この時期に店を開けるのは、よほど自信のある店かもしれない。また土産物など店のデコレーションは、ドイツとまた違い見る価値がある。

 

旧市街のプラツァ通りを散策

 

プラツァ通りの正面に大きな時計台のあるスポンザ宮殿があり、スポットライトで照らし出されていた。その右にはルジャ広場にはテントが張られ中で食事をする人もいた。その横には聖ヴラボ教会があり、ステージが組まれていた。さらに右に行くとゴチックやルネッサンス建築が一体となった旧総督邸があり、その前でも舞台の資材が集められていた。コンサートがあるようだ。

さらに隣には大聖堂があり、まるで世界遺産の箱庭のようだ。そぞろ歩きしているとお腹も減ってくる。ホテルの情報からお勧めのレストランを聞いたが、いずれも閉店中だった。熱心に呼び込みをしているオジサンがあり、せっかくなので路地裏の彼の店に入った。客は2組だけだったが、ワインがたくさん並んでいたので期待することした。

1組の男性2人は、アジア風だったので訊ねてみるとシンガポール人だと言い、日本語で挨拶をしてきたので驚いた。2人は兄弟で、兄はパリ郊外から、弟はベルギーの首都ブリュッセル郊外から旅行に来たという。2人も交換留学生という。そうこうしていると、頼んだ料理が次々と登場してきた。

チーズと生ハム、ムール貝のトマト煮、トリフとチーズのパスタ、魚介類のプレート(イカやタコもあるフライ)が出てきた。パスタのトリフが少ないので、追加をして欲しいと言ったら真っ黒になるほど削ってかけてくれたので匂いだけでも大満足だ。それに合わせるワインは白だ。

美味しいなあとあとで請求書を見たら、高級ワインだった。間違って高い方を頼んだようで、道理でトリフの大サービスがあったのだ。次回からは、値段をしっかり確認してオーダーをしよう。表通りに戻るとさらに人出が増えており、電飾の飾りを見たり露店のクリスマス用品の品定めをしている。

 

城壁の上を歩く

 

翌朝7時半からホテルの朝食が始まるので、時間を合わせてレストランに行くと、既に中国人で一杯だった。彼らはどうも7時過ぎから食べているようで、団体旅行なので大声で話しながら食べている。

朝の内に世界遺産である旧市街の城壁などを見て回ることにした。今日も快晴であり、海も鏡のように波がなく空の青さが反射して綺麗だ。ピレ門の中に入るとすぐに入場切符売り場があった。城壁の階段の途中にゲートがあり、そこで切符をチェックする。城壁に上ると一面に旧市街地の建物とアドレア海が一望できた。要塞に持ってこいの場所だ。

まず逆方向に進んで山の方の要塞に登る。シーズン中は、一方通行なのでこんなことはできない。ここからの眺めは、ガイドブックに登場するアングルであり、朝の空気がとても清々しく気持ちいい。

夏にKさんが来た時は、40度近くもありしかも人が一杯で身動きが取れなく、途中でリタイアしたという。城壁の全長は約2kmだが、階段の石畳でしかも狭い。その中で犬と一緒にランニングしている中年の男性がいた。聞いてみると4周走るという。海に突出した部分から海を覗くと底まで見える。対岸には、ホテルの正面に見えていたロブリェナツ要塞が軍艦島のように見える。

記念撮影をしている中年の3組のカップルもいた。このカップルに訊ねてみると、彼らもシンガポールから来たという。ところでこの旅行ではまったく日本人に会うことはなかったが、シーズンオフとはいえゆっくり観光できるのでこの時期を検討されたい。

城壁の中は一部壊れている場所もあるが、ほとんどが現在も住居として使われているようだ。洗濯物を干すために家と家の間にロープが掛けられ、それを手繰り寄せて干すようだ。生活の知恵である。空き地や路地には猫が実に多く見られるが、彼らは守り神か招き猫なのか。

広場のような広い場所もあり、そこには喫茶兼土産物屋になっている。1時間も散策したので、喉を潤すことにした。気さくなお兄さんが対応してくれるが、ドイツとは大違いの愛想の良さである。

経路の半分のところに旧港があるので、切り上げて城壁から下ることにした。土産物屋や刺繍だけを売る老人が待ち構えていた。港に出てみても山陰と違って潮の匂いが少ない。小屋には数人の男性が、小さな魚を捌いていた。魚のウロコを取るやり方はどこでも同じだ。旧市街に戻ると縦看板に、猫の餌のためのカンパする募金箱があった。なるほどその資金などで、猫を養っていることがわかった。たくさんいる猫は、なんと観光大使であった。

 

旧市街を散策

 

旧市街に戻り、ドミニコ会修道院など見て回る。狭い地区なのに多くの見どころがあり、いくら時間があっても足りないくらいだ。1317年に創業し、クロアチアで最も古いマラ・ブラーチャ薬局にも足を運んだ。店に入った瞬間に雰囲気が違うことを感じた。店の奥では多くの人が声高らかに雑談しているが、店には「静かに!」というポスターが貼ってある。

奥から出てきた力士の体型の店員の態度は、楽しいお喋りの邪魔をしやがって邪魔な客が来たなというものだ。しかも売ってやるぞという高圧的態度であり、旅行中無愛想だったのは唯一この薬局だけだった。さっさと退散だ!

街中のブティックの店に入ると、家内はお気に入りの服を見つけたようだ。店員さんがすらりとしてしかも美人なので、私はそっちに目がテンになってしまった。クロアチアは欧州の真珠と言われるゆえんだろうか?

ランチは、Kさんが夏に訪れた「MALMATINO」で食べることにした。この店には、なんとマグロの刺身があった。実はクロアチアは、日本に大量のマグロを輸出している国であり日本とのつながりが見つかった。刺身は醤油とワサビで食する。パスタ、タコサラダなどを「TORETA」という白ワインで美味しく食したが、本当にどこに行っても当たりという料理とワインである。

お腹が一杯になったので、ホテルに戻り昼寝をしてディナーに備える。再び街中を散策すると新たな発見もあった。スポンザ宮殿の2階から人工降雪機で雪を降らせており、積雪は1cmほどだが子供たちが大はしゃぎしている。昨日準備をしていたステージでは、ロックバンドがチューニングしている。若いお母さんたちは、体をくねらせてリズムを取っている。

大音響であったので、音の聞こえないレストランを路地裏に探したが、これが大当たり。またとしても連続しての海鮮料理にも大満足だ。帰りに街中を散策していたら、昨日のシンガポールの兄弟がいた。彼らは数日滞在しており、先ほど行った店は確かに美味しいと評価した。

露店で土産物を物色していたら、なんと先日ストンの民宿のFさんご一家から声を掛けてもらった。なんと彼らもクリスマスマーケットに1時間以上もかけてきたというが、1分でも違えばお互いで会うことなかった。話が弾んでしまった!ここでの出会いは奇跡的だが、これが縁のあることだと思った。

この世界遺産のドゥブロニクは42千人の小都市であるが、世界的な観光地のお蔭なのかホテルの軒数が1300もあるという。シーズンオフとなれば、観光客が激減するので、ホテルや店も閉店して英気を養うことになるのだろう。

 

2の都市スプリットに移動

 

翌朝はホテルのフロントに例の中国人団体が占拠して、お互いに記念撮影を何度も繰り返している。他の客のことは、まったくお構いなしなので参ってしまう。思いおこせば、日本人も30年以上前はこのような状態だったので、彼らもマナーが少しは良くなることを期待したい。

今日も快晴であり、気分よく目指すクロアチア第2の都市スプリット(人口約20万人)向かう。海岸線の道は曲がりくねっているので、高速道路を経由することにした。ドイツとは違い、無制限でなく時速130kmまでになっている。制限速度を順守してスプリットに向かう。高速に乗ると何と車が走っていないので楽々しかも悠々運転だ。しかし風景は、禿山にわずかの木々が植わっている感じで、見るべきものはなく海岸線とは大違いだ。

3時間のドライブは快適そのものであり、料金も1000円程度ですごく安い。スプリット市に到着したが、市内は工事中が多く持参したカーナビの反応が良くない。通行人に道を聞きながら、目的のホテルを目指した。このホテルは、世界遺産の地区にあり車の乗り入れができない。このため駐車場に停めてからホテルの係員が電気自動車で迎えに来る手はずになっている。

電話連絡しながら指定の場所を探すのに苦労したが、ようやく見つけることができた。出迎えたホテルマンの愛想は、非常に良くしかも親切であった。数分後にホテルに到着した。小さな中庭を通り2階が受付であり、ホテルマンが荷物を持ち上げる。この親切さがこのホテルの売りになっていて、多くの口コミにも記載されている。

名前はパレスホテルであり、スプリット市内において口コミで一番評価がよく、今回のホテルの手配を検索したBooking.comでは10点満点の9.7点という最高得点のホテルだ。それぞれの部屋に係員がついて、設備など英語で説明をしてくれる。大体の雰囲気は理解できるが、日本語ならもっと良いなあ。

ホテルから地元推薦の美味しいレストランを3店舗紹介してもらい、ランチも兼ねて散策する。Kさんは、この辺りの裏道も知っているので、スムースに広場に出ることができた。ローマ皇帝が当時住んだというディオクレティアヌス宮殿は、紀元3世紀にできた建物だ。

現在は市民の住居にもなっているが、約1700年の建築物に普通に人が住んでいるのは石による構造建築の凄さだ。一辺が約200mのほぼ正方形の形状の宮殿であり、東西南北の方向に門があるのが特徴だ。

 

宮殿の周りを散策

 

目の前には港があり、多くの船が見える。さてレストランを探すが、最初の店はシーズンオフで閉店していた。2軒目を見つけたが、予約で一杯であった。3店舗目の「VAROS」は、幸いに席の余裕があった。ウナギの寝床のような店だ。炭火で魚介類を焼くかまどが、ガラス張りで見えるようになっていた。

客を見ると地元の人ばかりのようで、家族連れもいる。前菜は、生ハムとチーズの盛り合わせに、「POSIL」という白ワインをセットにして、さらに3人がそれぞれ好みの海鮮パスタを注文する。炭火からの焼いた魚介類の香ばしい香りが漂ってくるので、焼いた海老も頼もうかと誘惑されそうになったが我慢だ。

3つのパスタをそれぞれシェアして味を確かめるが、いずれも甲乙をつけることができないほど美味しい。毎日昼と夜に海産物の料理を食べているが、本当に飽きがこない。店により微妙に味付けが違うのはもちろんだが、やはり採れたてで素材が良いのだろうか。余りにも美味しかったので、夜の予約もしてしまったほどだ。ワインもすっきりしてシーフードによく合った。

元気になったので市内散策に出かけるが、宮殿の周囲は露店がたくさん連なっている。土産物は、チョコ、クッキー、蜂蜜や乾燥したイチジクや果物、チーズ、オリーブオイル、ワインなどに目移りしてしまうが、トランクは既に一杯になっているので見るだけにする。

宮殿の中には、地下室があり土産物の露店が密集している。天井は真っ黒だ。一時期牢屋にもなったという。地下室を出ると鐘楼が見える。その下の階段に座布団が敷いてあった。それは喫茶店の座布団だった。その座布団に座って、眼の前の鐘楼を眺めるという。こんな方法もあるのかと感心してしまう。

狭い路地を散策する。小奇麗な店がいくつもある。さすがにネクタイの店は、ドアノブがネクタイをあしらっている。さらに進むとお菓子屋さんがあり、ゼリービーンズが数十種類も取り揃えてあった。色々な形だけでも見て楽しいので、つい買ってしまった。トランクに何とか詰めよう。

最後の買い物のタイミングなので、欲しいものを最小限に絞る。ところが助っ人が現れた。Kさんのトランクにまだ余裕があるというので、それに入れさせてもらうことにした。ホッとするとまた購買意欲が出てきた。

門の外に出ると、高さ10mもあるかと思うくらい大きな銅像があった。イヴァン・メストロヴィッチ作の「グルグリ・ニンスキ像」といい、少し前に出した左足の指に触れると願い事が叶うらしいので、すぐに触っておいた。そこはつるつるになって金色に輝いていた。多くの人が触っているのだ。

 

親切な国民性が素晴らしいクロアチア

 

ホテルに一度帰り身支度をして、夕方に出掛けることにした。ホテルは古い石の壁をアレンジしてアートのようにしている。バスルームも非常に広くトイレも綺麗で、アメニティーも素敵で女性を意識したホテルだ。ロビーも新旧のアイテムで飾られている。

電飾が目立つようになってきたので、夜のクリスマスマーケットの散策と合わせてディナーのために出掛ける。宮殿の隣に大きな広場に出ると、絵画を売る露店があった。小さな絵画であるが、風を受けて帆を一杯に広げたヨットの絵に足が止まった。吸い込まれるような絵であり、額が漁具の古いものをアレンジしたという。値段を聞くとまずまずだったので、買うことにした。

再びランチで訪れた店に行くと、一番奥に通された。赤ワインで乾杯だ。焼いた手長海老が食べたかった。味付けは塩だけで、あとはオリーブオイルを掛けただけだがこれが香ばしく美味い!さらにリゾット、サラダ、焼いた野菜と鶏肉と今宵も満腹だ。夜店を見ながらホテルに戻ると、音楽が鳴りホテルの前は歩けないほどの人だかりになっていた。両手を上げないと歩けないほど大混雑していたが、まるで朝の通勤の山手線のようだった。

7時に朝食を済ませ、スプリット空港に向かう。時間的には1時間ほどだが、工事中が多くカーナビがまた機能しなくなり、フライト時間が気になりだした。交差点で止まっていた車に道を訊ねた。その車は右に寄せて止まり、経路は複雑なので私についてきなさいと指示をして出発した。

地元の人のようで、網の目のような道をスイスイと抜けて、10kmほど走り港への一本道まで案内してくれた。あとは真っ直ぐ行けばよいと指示してくれた。お礼の言葉とガソリン代としてお礼のお金を渡そうとしたが、受け取ろうともされなかった。手を振って市内への道に消えて行った。クロアチアは、料理、風景、そして何よりも親切で笑顔が心に残る素晴らしい旅行になった。