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「子供のしつけと虐待」

 

5月28日に北海道で7歳の少年が親に山の中に午後5時ごろ置き去りにされ、6日後にようやく自衛隊の演習場の小屋で発見されるという事件があった。この特異なニュースは日本を超えて米国にも流れてきた。無事に発見されてみなほっとしたが、これは「見つかって良かったね」で終わる問題ではなく、日本が早急に対処すべき重要な問題点が露呈された。

 

日本の中だけで生活していると「それって普通でしょ」とおおかたの人が思うようなものごとも、他の国では異常とされることが少なからずある。今回のこの事件で、これは「しつけ」か「虐待」かということがネット上でも議論が沸き起こった。多くの人は気が付いていないかもしれないが、実は日本は子供を守ることに関しては第三世界並みの基準で、とても先進国並みとは言えない状況にある。

 

少なくとも米国と比べると日本の子供はかなり親に虐待されているように見える。現代の米国では親が子供に体罰を与えるのは全面的に禁止されている。お尻を叩くのも駄目、殴ったり、顔を平手打ちなどもってのほかだ。米国人の夫の話では自分が子供の頃は親や学校の先生にお尻を叩かれるということはあったそうだ。しかし現代では体罰はいっさい禁止だ。体罰している所を他人に見られたり知られたりして警察に通報されると親は児童虐待容疑で逮捕される。

 

州によって多少違うのだが、米国では概ね13歳未満の子供を一人にしてはならないというルールがある。どんな状況でもその年齢より上の者が見守っていなければならない。たとえば、子供に留守番をさせて親がスーパーに買い物に行ってもいけない。子供に近所におつかいに行かせるのももちろん駄目。子供だけで留守番させている所を近所の人に見つけられたら警察に通報されることも。私の夫は娘が13才になるまでアパートの地下にあるコインランドリーに行く時でさえ、娘をひとりっきりにしないために、いちいち地下のコインランドリーまで一緒に連れて行っていた。

 

それで、米国の親は子供を残して外出しなければならない時にはベビーシッターを雇う。それは近所の高校生だったり、いつも頼む大人のベビーシッターだったり、家庭によってさまざまだ。学校への通学もスクールバスか、親が車で送り迎えしなければならない。子供をひとりにしておくということがないので、日本でたまにニュースになるような、子供だけで留守番中に火遊びで家が火事になるという事件は聞かない。以前「ホーム・アローン」という米国映画がヒットしたが、あの映画の背景には、家で子供が一人放置されることはないという前提があっての話だったのだ。

 

子供への虐待は世間の目がとても厳しい。25年前くらいの話だが、母親の言うことを聞かずなかなか車に乗り込もうとしない子供3人を母親が叩いたり殴りつけたりしながら車の中に乗せるビデオがテレビで放映されて、「子供にこんな暴力をふるうなんてひどい母親だ」とキャスターが報じていた。母親はもちろん児童虐待容疑で逮捕された。私はそれを見て、えー、こんなことくらいで児童虐待になるの?と思ったが、後に米国ではそれが普通なのだと悟った。

 

14年くらい前のことだが、新聞にこんな話も載っていた。子供が真夏に公園で遊んでいて程度のひどい日焼けをしてしまった。子供は日焼け止めクリームをつけていなかった。子供のそのひどい日焼けのしかたに驚いた公園管理の人が警察に通報。公園にいた母親はなぜ子供に日焼け止めクリームを塗布しなかったのかと責任を問われ、児童虐待容疑で逮捕された。

 

米国に来たばかりの人が良くやりがちなので、海外駐在ハンドブックなどにやってはいけない例として紹介されていることだが、ショッピングセンターなどに買い物に行って、買い忘れた物をちょっと買いに戻るからと子供を駐車場で車に乗せたまま放置して、買い物を済ませて戻ってきたら、車の前に警官が立っていたとか。

 

これも海外駐在ハンドブックに書いてあったりする話だが、アジア人の赤ちゃんや幼児にはお尻に生まれながらの蒙古斑がある。それを知らない米国の医療関係者が、子供の検診の時などにそれを見て、親からの虐待によるあざと勘違いし、警察に通報して親が呼び出されることもある。

 

ちなみに逮捕というのは、即、有罪の犯人というわけではないので誤解のないように。逮捕とは容疑者が一時的に拘束されるだけのことで、裁判を経て有罪が確定するまでは推定無罪の容疑者にすぎない。米国ではかなり簡単に逮捕されることがある。現行犯なら日本でも同じだが別に警察官でなくても誰でも逮捕することは可能。そして一時的に留置されて、多くの場合は釈放される。検察に起訴されるかどうかは場合による。裁判で有罪にならなければ犯罪歴にはならない。

 

 毎年、日本のお正月の時期に「はじめてのおつかい」という人気テレビ番組がある。3歳とか5歳の幼児が親におつかいを頼まれて、冒険をしながらなんとかおつかいを果たす様子が放映される。かわいいね、よくできました、成長したね、で終わりにしてよいものか、米国生活が長い私としては、この番組を見るたびに複雑な気持ちがする。あんなに子供がいやがって泣いているのに無理におつかいに出すなんてとか、こんな小さい子を子供だけでバスや電車に乗せてよいのか、いくらTVスタッフが見守っているからといっても子供をだしにつかってこんな番組を制作してよいものだろうか、この番組を見てわが子に同じようなことをさせようとする親がでて、事件が起こらないだろうか、これは日本だから許されている番組なのだろうけど、米国だったらありえない児童虐待番組だよねと。

 

日本と米国では犯罪の多さも異なり、日本は比較的安全であるということが背景にあるのは事実だ。日本と米国ではカルチャーも異なる。しかし、日本の場合はあまりに児童虐待に関して世間の目が甘すぎないか?児童相談所も警察も動きが悪すぎないか?家庭の問題に踏み込むのをさえぎるルールでもあるのだろうか?たまに日本の新聞で子供が虐待死という記事をみると、なぜこんなことになるまで放って置かれたのかと疑問に思う。子供の虐待死事件が起こるのは日本として恥ずかしいこと。子供はもっと守られるべきだ。

 

子供のしつけと虐待に関して、親も子供も学校も近隣の人も警察も児童相談所も、今後どうすべきかよく考え議論して世論を盛り上げ、早急に改善すべきと思う。