海外こぼれ話 185 (201611月)     

 

ドイツも異常気象

 

 今年は日本の夏の台風が、東北や北海道を何度も直撃するという異常気象になっているが、近年ドイツも気候がおかしくなってきている。7月は気温が上がらなく、20度前後だったので長袖でないと外出できないほどであった。日本でもニュースで、ドイツとフランスで大雨による洪水の様子が紹介された。今度は8月の下旬になって、突然ドイツ気象史上最高の37.5度を記録した。

 日本では今年も各地で37度を経験したので、何とも思わないかもしれない。しかしドイツの緯度は50度近辺であり、東京や鳥取の35度、札幌の43度と比べるとはるかに高緯度である。その緯度での猛暑は、まったく慣れていないので彼らにとってもとても辛い。

 以前は30度を越す日が年間数日しかないといわれ、28度以上になると学校は休校になるほど暑さに備えがなかった。今でもほとんどのアパートには、冷房のクーラーがない。余程経済的に余裕のある人しか設置していなく、扇風機も団扇もない。ドイツで売ってある扇風機はガーガーと物凄い音がするもので、まったくデリカシーのないものだ。

先日留学している若者に訊ねたら、下敷きを扇いで団扇代わりにしているといっていた。10年くらい前から30度を越す日が、何日も発生するようになった。日本のように熱中症による救急搬送の話は聞いたことがないが、それは湿気がないからだと思う。幸い夕方になれば風のない凪状態になり、部屋にいるより外に出て木陰にいれば暑さをしのげることができる。

それにしてもこの9月は夏のように連日30度の猛暑日が続いており、イタリアかスペインに来たような錯覚になってしまう。暑ければ暑い時の楽しみも考えることができる。それは冷たいビールや白ワインを飲むことだ。

 

スイスのホテルとレストラン

 

スイスの某工場には、2008年以来通っている。本社はスウェーデンにあるが、大きな企業なので子会社の1つにしかすぎない。しかしこの8年の改善活動で、品質納期に関してトップになってしまった。スイスの緻密さと根気良さが窺える。当初からこの工場を訪問するといつも泊まるホテルが、山中にある4星のホテルだ。レストランも評判がよく、地元の人だけでなく英国の老人たちがバカンスに来ている。

今回もこのホテルに宿泊する。メッセという展覧会など余程のことがない限り部屋もいつもの205号室だ。仕事が終わりスイスでも30度を越していた。ここでも7月から飲み始めたビールにレモネードで割った「ラードラー」を食前酒として頼んだ。支配人曰く「ここでは、ラードラーとはいわず『パナシェ』(仏語で「混ぜ合わせた」という意味)という」と説明してくれた。この言い方はフランスとドイツの国境近くでも通じるという。オーストリアは、また別な言い方とすると講釈が始まった。

出てきた「パナシェ」は、赤ライン用のグラスに注がれていた。一口飲むと、「うまい」と思わず言葉が出たほど美味しかった。レストランの味がいいと、飲み物もいいものを出してくれる強い相関関係がある。

支配人がメニューを持ってきた。今日のお勧めを聞くと、見開きのフルコースを紹介してくれた。パッと目に飛び込んできたのでは、各料理がイラストで描かれていたのだ。前回訪問した時に、「文字ばかりで内容が見えないので、簡単なイラストでも描いてもらうと嬉しいなあ」とリクエストしていた。本当でやってくれたのでは、このレストランだけだ。

嬉しくなって、このフルコースを頼んだ。出てきた料理を、一品ごとにイラストと見比べする楽しさに嬉しくなる。白ワインから料理に合わせて、赤ワインにシフトしていく。ワインも支配人にお任せすると、俄然彼もやる気になってくる。翌日からの仕事にもエンジンがかかる。

7月から飲み始めた「ラードラー」は、基本的に普通のビールにレモネードを41の割で混ぜる。レモネードの代わりに、ファンタ、スプライト、コーラ、バナナジュースでも何でもOKである。女性ならば少し42などと、ジュース類を調合して自分の味に変えてもらえればよい。

酵母の入ったバイチェンビールにコーラを入れた、「コーラバイチェン」も初めて飲んだ。少しアドバイスするなら、割りのジュース類は確実に冷やしておくと味も引き締る。暑い時に冷たくしたビールを、喉越し良く飲める工夫が見えてくる。

 

ホテルのトラブルと忘れ物

 

朝起きるとパソコンの画面がやや暗いので、調べてみると電源アダプターが冷たくなっていた。これは故障だ!パソコンへの充電は100%になっていたが、古いパソコンなので連続使用では2時間も持たない。今日のセミナーは、2時間のところを1時間に割愛することにした。通訳の電源アダプターは熱くなっていたといい、どうもこのホテルの電圧が高かったようだ。でも後の祭りだ。

後で気づくと、ホテルの引き出しに入れておいたノートを忘れていた。後日郵送してもらうことなった。100円のノートであるが、読んだ本のキーワードを書き残したり、打ち合わせに使ったり、原稿のネタ本に使っている貴重なノートである。

3から5か月に1120ページが埋まっていくノートは、20092月から使い始めて既に21冊目になっていた。今までのノートはすべて保管をしており、自分でも読めない文字も時々あるが、イラストや図形も入ったアナログの情報が満載の知的財産だ。時々読み返し、企業家精神のネタも探すこともある。

ホテルに連絡するとノートは保管してあるとのことで、早速郵送してもらう手はずになった。ホッと胸を撫でおろす。

 

スイスの工場は素晴らしい

 

この工場の人たちは、指摘したアイデアや改善提案を確実に自分たちの努力で、必ず目に見えるようにしてくれる。今まで海外で200工場以上訪問しているが、これほど確実に実践している工場は他にない。しかもまったく後戻しも見られず、いつも謙虚な態度とユーモアで対応してくれる。やらされ感もあるかもしれないが、まったくその姿勢を見せずに自責の念で取り組んでいる。

今回は物流システムの構築のために、構内物流の運用を事前に説明し小型化のヒントも提案しておいた。訪問した時に、ちょうどセミナールームに移動する場面で、その実物と遭遇するように時間合せまで演出してくれた。オペレータはニコニコ顔で、こんな便利な牽引車はないと説明してくれた。ヒントを出した以上に自分たちで、工夫を積み重ねて着実に使いこなしていた。

やらされ感を持った改善は途切れてしまうが、この工場のようにやる気を持って取り組むと期待以上の成果が出てくる。それでもまだ全員が賛成者ではないと嘆く製造部長に、ねぎらいとモチベーションをかけていく。

人間の世界は、昆虫や生物の世界と同じで子孫を残す使命を持っている。全員が同じことをしないで、必ず反対するとか何もしないものがいた方が、有事の時に彼らが別なことをやってくれるという説もある。このような雑談も時には、慰めの言葉になるようだ。

この工場で最初のワークショップに参加してくれたZさんは、もうすぐ定年退職だというので挨拶を交わした。Zさんは、当初は反対派であったが、本質を理解し納得してからは完全な賛成派になった人だ。彼が仕切り始めてから、この工場の前工程から規律が一気に高まった。そのお蔭で後工程の流れもよくなり、改善が進んできたは影の功労者といってよい。お礼にちょっと高級な扇子をプレゼントした。退職後は、盲導犬の育成することが決まっているそうだ。

最終プレゼンは、出張中だった工場長も参加された。期待以上の成果が出たと感心しておられた。そこですかさず、来年の追加日程の提案をした。まだ設備改善や間接部門の改善が不十分であり、追加日程の必要性を説いた。工場長は物理学の博士でもあり、話を理路整然と説明しないと納得されない人だ。

今までの成果も、このトヨタ方式の改善が功を奏したことを納得されたようで、その場で追加日程の許可が出た。最後は玄関までの見送りがあり、満足されたことを確認できた。

 

市役所でのセミナー

 

某市役所の改善は3年計画であり、今年がその最後の年である。お役所でもあり、予算と成果を細かく調べて評価される。当初の計画に対して現時点で既にクリアしていたようだ。でもドイツ全国で問題になっている難民問題が、影を落としていた。3年前は結果が良ければ、次年度もやるつもりだと聞いていた。

メルケル首相の政策が大失敗になっており、難民の支援は実際には地方自治に丸投げされた格好になった。難民のための施設や支援金などは地方自治で賄うことになり、予算編成が難しくなっている。困ったことにメルケル首相は、自分のやった政策は正しいことだとわめき始め、支持政党からひんしゅくを受けるようになってきている。最近「メルケルする」という動詞ができたそうで、「何もしないでただ待つこと」を意味するスラング語になっている。どの国でも政権が長く続くと、腐っている体質は不変なことだとまた証明された。

今回のセミナーの要望として、同じことを説明しないこと、必要性があれば最小限にして表現方法を変えることなどの注文が出ていた。毎回このような注文があるのは、ここだけなので不思議に思っていた。今までも都度対応して、セミナーの原稿や紹介する事例もあの手この手で作成して準備していた。

今回は、別な部署の人たちとの合同ワークショップになり、その参加者の8割は初めて参加する人たちだった。これは基本的な背景から説明すべきだと考え、新しい説明も加えてかなり練って準備した。

説明が終わって改善担当の部長がやってきて、今日の説明は今までと同じだと抗議をしてきた。新人が多いのに新しいことは理解できないので、従来のテキストであるが、説明内容をさらにわかりやすくしたが何が問題かと問いただした。説明が同じだといいがかりを言っていたのは、彼だったとわかった。

彼は反論できないでいたが、今になって考えてみると彼ももうすぐ定年で、そのあとコンサルタントをやりたいといっていた。そのために自分に必要なテキストを、要望していたことがこの時に分かった。

 

盛り上がった現場改善

 

それにもかかわらず連日34度の猛暑の中、広い敷地に放置された材料や機器の5S活動は順調に進んだ。リーダーだけは経験者を選定して、リーダーシップを発揮させた。後のメンバーは初めての参加であるが、以前にやったことを横目で見ていたので何をするかを感じ取っていた。期待以上の成果が出た。

各種の特殊車両の置き場には、セメントなどの備品や井戸の配管部品をはじめ多くのホースも乱雑に放置されていた。すべて外に出して床から棚や壁までも清掃した。不要なモノの整理、そして整頓して取り出しやすくしまいやすくした整頓を行った。

2m幅で50cm角の工具箱があった。その上には鋳造部品などが、パレット3つ分も積み上げられていた。すべて撤去して、「このパンドラの箱を開けるぞ!」といって開けてみた。壊れた不要な工具や空のペットボトルの他に、男性雑誌も発見できた。表紙の年号は、1998年となっていた。18年間も眠ったままだった。この写真の女性は、今ではオバサンになっていると大笑いになった。

それが起爆剤になったのが、一気に楽しく改善も進む。今まで乱雑な車両の置き方もすべてラインを引いて、ベストな位置に配置できた。するとスペースにも余裕が出てきた。すべての置き場にあるべき姿の写真を貼り付けて、誰でもわかるように整備できた。他のチームにも動機づけを徹底的に行い、見違えるような職場に変えることができた。

私を呼んでくれたトップも、この成果を見て感動していた。彼は、「来年も来てくれるか?」「当然です!」と即答したら、びっくりしていた。部課長は、予算がないために来年度は自分たちでやろうと思っていたようだ。トップは成果を見てもしかすると、予算計上してくれるか楽しみになってきた。

 

スペイン料理店での風景

 

連日の猛暑であり、栄養をつけるためにディナーを散歩しながら探すことにした。いつも行くイタリアンの隣にスペイン料理店があり、そこでタパス料理を頼むことにした。そこは、大好きなフランチスカーナ銘柄のビールあった。

ウエイトレスは、黒人だった。動作がのろく視線を合わそうとしなく一人しかいない。これは心配だと思ったら、的中してしまった。ビールを注文してから料理が出てくるまでなんと、30分もかかってしまった。しかもメインが先に来て、前菜が後から来るとんでもないことだった。

テラスのテントで待っている間、通行人や運河で船遊びをしている人を眺めていた。運河の脇にあるゴミ箱の上に飲んだビール瓶や缶を置いていく人がたくさんいた。ゴミ箱に入れるのではなく、箱の上に丁寧に置いているのだ。

何でかなと見ていると、10本くらい貯まったころに大きな袋を持った東洋系の男性がそれを袋に入れて持ち去っていったのだ。これをスーパーに持っていき回収ボックスに投入すると、金券チケットが発行され店で買い物ができる仕組みになっていた。ビール瓶は10セントくらいなので、1ユーロになる。20から30分で1ユーロになり、暇つぶしの人には格好のアルバイトになる。

しばらくすると、また瓶や缶をそっと通行人が置いていく。需要と供給のバランスが取れているようだ。飲んだ人は空瓶の処置が面倒くさい、アルバイトは少し手間であるが散歩がてらにお金を貯めることができ、街もきれいになる。

出てきた料理の順番には手違いがあったが、見た目にも味付けもまずまずだった。ドイツなので魚介類の量が少なく、海の幸の味が薄く感じた。でも贅沢を我慢すれば、ドイツで魚介類を食べられること自体が嬉しい。

 

ワインの仕入れはユングフラウと一緒に

 

暑い秋の最中は、ほとんど白ワインとラードラーを飲んでいたが、秋からはやはり赤ワインが良い。Kさんを誘ってボッホム市のスペインワイン屋に買い出しに行くことにした。Kさんの友達のSさんとMさんも一緒に行くことになった。店に着くと、店主のA氏の顔が一気に笑顔になってハグでお出迎えだ。

しかも今回は、3人の娘さん(ドイツ語でユングフラフ)を連れてきたので、さらに顔が崩れていた。早速試飲の準備をしてくれる。いつもは赤ワインを勧めるのだが、今日に限って白とロゼにこだわっていた。いつもとは違う別室の冷蔵庫から、とっておきのワインといって白ワインを持ち出してきた。

A氏はいつもとは違う雰囲気を感じるが、若い女性によるパワーは老人も勢いづけるようだ。説明の顔つきも今日は晴れやかであり、とても楽しんでいることが皆に伝わる。解説もいつもなく饒舌であり、お勧めのワインも今までとは違う香りであり、味も面白いものを用意してくれた。

思わずこれ2本、これは3本ゲットと叫んでしまう。今日は7種類のワインを紹介してもらい、すべて購入し、いつも飲んでいる銘柄をチョイスしていく。初めて訪れたSさんとMさんは、まだ学生なのでということで気に入ったワインを2本ずつそれでもお買い上げになる。彼女たちも、A氏のファンになってしまったようだ。今度は電車と路面電車で、リュックサックを背負って来たいと話をしていた。

箱詰めするとなんと23本にもなっていた。後1本入るが、それはお約束の無料のお勧めのワインがプレゼントされる仕組みになっている。それはとっておきのワインが多く、店にはあまり出せない貴重なものや注文がもうできないものなどの掘り出しものが、楽しみなプレゼントになる。全員で30本の売り上げにA氏もさらに笑顔も崩れっぱなしになり、記念撮影まで撮ることになった。