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ゲーティッド・

コミュニティ

私と夫は1年半前にニューヨークからフロリダに転居し、現在ゲーティッド・コミュニティ(Gated Community)と呼ばれる形式の居住地の中にある家に住んでいる。最初の1年は別の賃貸住宅に住み、購入する家を探していた。そして家を購入し半年前に現在の家に引っ越した。

ゲーティッド・コミュニティというのは、たとえば5百軒くらいの家が塀で囲まれていて、車の出入口にゲートがあり、警備員が常駐し、住人しか自由に出入りできない形式になっている住宅地だ。ゲートがある第一の目的は治安の良さだ。日本で似たようなものをイメージするとしたら、在日米軍の軍人とその家族が住む「米軍ハウス」みたいなものを思い浮かべるとよいかもしれない。

米国にはゲーティッド・コミュニティは1997年時点で約二万か所あるそうだ。米国の中でも特にフロリダ州にはたくさんのゲーティッド・コミュニティが集中している。私も購入する家を探していて、このあたりはどこもかしこもゲーティッド・コミュニティばかりで驚いた。ゲーティッド・コミュニティにもいろいろあって、年齢制限がなく誰でも購入可能な所と、55歳以上の人が購入できるアクティブ・シニア向けの所がある。

どこのゲーティッド・コミュニティにもクラブハウスがあって、プール、テニスコート、フィットネス・ジム、集会室などがある。比較的若い層が購入するゲーティッド・コミュニティにはもちろん子供の遊び場もある。ゴルフのカントリークラブ併設の所も多い。その場合はゴルフの会員権を購入し、結構高額なゴルフの年会費を払うことが義務付けられている所と、別に買わなくてもよい所とがある。

私たちが購入したのは55歳以上の人が購入できるアクティブ・シニア向けの所で、ゴルフ場はついていない。リタイヤメント・コミュニティではあるが、介護施設はなにもないのが普通だ。近年、日本政府が米国をモデルに開発しようとしているCCRC(Continuing Care Retirement Community) とは異なる。

CCRCは引退者が元気なうちは自立して住める居住区の家で生活し、介護が必要になったら同じコミュニティ内の介護付きの集合住宅に移動し、最後は全面介護が受けられるナーシングホーム的な所に移動する。同じコミュニティ内で全部継続的に行われるというのが売りだ。

CCRCは米国内に2千か所程度あるが、実は米国でそれほど一般的ではない。なぜなら米国のCCRCではアクティブ・シニアが住む住宅も賃貸がほとんどで月額賃貸料が高額な場合が多いからだ。元気なうちからあんな高額の賃貸料を払うのは庶民には困難だ。CCRCに入る際の一時金も高額で退去の際に部分的に返却されるにしても高い。高齢者の状況によってもちろん人それぞれだが、一般的には元気なうちは普通の家に住んで、介護が必要になったらAssisted livingと呼ばれる高齢者の介護付きの賃貸住宅に転居し、その後さらにナーシングホームに転居する。米国では実の娘が高齢の親の面倒をみるという慣習が歴史的にあるので、娘の家の近くに転居する人もいる。日本政府がやろうとしている日本版CCRCは米国のものと違って、いろいろ工夫されていて庶民が入れる程度のものを郊外に作る計画のようでなかなか良さそうだなと思う。

私が現在住んでいるアクティブ・シニア向けのゲーティッド・コミュニティは新しく開発されたところで新築の住宅ばかりだ。米国で家を購入する場合は一般的には新築物件は多くはないので中古物件を購入するのが普通だ。私も20年古いくらいまでの物件がいいかなと思っていろいろ探していたが、夫が特にここを気に入って私もまあいいかなあと思って決めた。購入を決めた段階ではまだ家は建っていなくて基礎工事の段階だったので、床の素材、キッチンユニット、バス・トイレのユニット、ドアのタイプ、壁の色など様々な選択肢があったのが良かった。

ゲーティッド・コミュニティではどこもそうだが、毎月の管理費が結構かかる。共用部分にさまざまな経費がかかっている(たとえば、クラブハウスの運営費、プール・テニスコート・ジムなど運動施設の費用、コミュニティ内の清掃や芝生・木立の手入れ費用、警備費用、道路メンテナンス費用など)。我が家では月に430ドル程度払っている。まあ、普通でもフィットネスジムに2人で入ると150ドルくらいはかかるし、家の庭の手入れや芝生のメンテナンスは何もしなくてよいので助かる。

ゲーティッド・コミュニティはそれぞれ高級な所から庶民的な所まで様々だ。高級な所は住宅が一億円以上の豪邸ばかりで、レベルの高いゴルフのカントリークラブがついていて、その会員権と高い年会費を払える層の人が入っている。クラブハウスはそうしたお金持ちたちの社交の場になっている。ゲーティッド・コミュニティにはそれぞれ名前が付いているので、どこのコミュニティに住んでいるのか名前を聞けばおおよその暮らし向きがわかる感じだ。結局、同じゲーティッド・コミュニティには似たような社会階層の人が集まるので気楽と言えば気楽だ。無理して実際よりレベルの高い所に入ると、まわりと合わせるのがつらくなると思う。

こうしたゲーティッド・コミュニティの開発は私企業のデベロッパーが行い、広い大きな土地を購入し、そこに住宅をたくさん作って売る。それは日本と同じだが、コミュニティ内の道路はすべて私道なので、壁で囲ってゲートを作って他の人が入れないようにすることができる。日本の場合は道を公道にしているので、なかなかそういうことが難しいらしい。それでも日本にもまだ数えるほどしかないがゲーティッド・コミュニティはあるそうだ。ただ、近隣との分断につながるということで近隣の理解を得るのが難しいとかいろいろ問題点があると聞く。たしかにゲーティッド・コミュニティで生活していると特に子供は世間が狭くなり、なにが「普通」なのか自然に学ぶ機会に乏しくなるかもしれない。

米国では社会階層ごとに居住地域が異なるのは結構当たり前のことだが、日本はそれほどでもない。豪邸があるかと思えば近くにワンルーム・マンションもある雑多なコミュニティ構成の所が多い。ゲーティッド・コミュニティは社会を分断するのではという懸念もあるだろうが、日本でも高齢化社会や個別の家庭のニーズにこたえて、もっと出現してくるトレンドかと思う。