海外こぼれ話 189 (20173月)     

 

シードル(リンゴ酒)

ハウスでランチ

 ランチは、予約をしておいたシードルハウス「Petritegi」だ。最近は、トリップアドバイザーというインターネットで店を検索でき、口コミ情報も日本語訳もできるようになっているので、事前の下調べもできる。

12時開店だったが、15分前に入ったら従業員数名がテーブルで食事をしていた。申し訳なく思い、店の隣にあるリンゴ畑で時間をつぶすことにした。リンゴを絞る工場があり、その壁には高さ5mもある大きな看板があった。

その看板には、樽からほとばしるシードルがコップに叩き付けている絵があった。それは、この酒の飲み方を示したものだ。新鮮なことが大切なようで、コップ一杯に注ぐのではなく3cmくらい入れて飲むのが正しい飲み方だ。

坂を上がると広大なリンゴ畑があった。リンゴの種類は9種類もあり、色々とブレンドするようだ。時間になったので、店に入るとすぐにウエイトレスがやってきた。早速樽から自分で注ぐやり方を説明するといって、隣の酒蔵に案内する。直径2mもある大樽が両側に10個ずつあった。

そのうち、これと、これといって3つの樽から飲んでも良いと指示があった。コップに注ぐやり方も教えてくれた。樽から小さなコックがついており、それをひねると勢いよく酒が飛び出す。コップの淵に当てながら3cmまで注ぐ。次の人は、前の人のコップのあとにコップをつなげるようにして待っていて、すぐに入れることも手順になっている。一種の儀式みたいだ。

コップに入れる時に酒が飛び散るので、手にも付くが舐めておけばよい。酸味がとても強く、普通では飲めないが雰囲気で飲む酒だ。樽を変えて飲むと、全く味が違うことがわかる。数杯飲んでもアルコール分が低く、リンゴジュースにアルコール分をつけ足したような酒なので、いくらでも飲める。

料金は食事込みなので、飲めるだけ飲めばよい。コップに半分ほど入れてテーブルに戻ると、食事が出てくる。メニューの選択はなく、ただ一つのメニューしかない。もともとシードルを買い付けに来た人が食事をすることができなかったので、できるものを提供したことからこのレストランができた経緯があった。

本当のシーズンは、1月から5月までで、私たちが訪れた12月はシーズンオフであった。でもこの店だけは、年中楽しむことができる。このような店は数軒あるが、この近辺のレストランでも最も人気のある店だという。

料理のメニューは

1コースのみ

最初に出てきたのは、大きなオムレツだった。取り皿がないので、頼んだら意外な答えが返ってきた。これが伝統なので、これで楽しんでくださいという。この一言で、なるほどと納得してしまった。大皿から取り出すのは、鍋と同じ考えだ。酒を買い付けに来た人たちに、いちいち細かいサービスはできなかったと考える。

そのオムレツには、塩漬けの鱈の切り身がたくさん入っていた。この塩加減がシードルに上手く合う。酒がなくなったので、酒蔵に行く。すると他の客たちが別な樽から酒を注いでいたので、一緒に飲ませてもらった。そこから彼らと話が弾んでいく。

席に戻ると、隣には数人のグループが来ていた。聞くとロシア、リトアニア、フランスからも来ているという仕事仲間だった。一緒のテーブルになり、酒を飲みかわすことなった。次に出てきた料理は、鱈を焼いたものにグリーンペッパー(シシトウに似ている)をから揚げしたものを載せている。これも酒のつまみになる料理だ。

酒がなくなり、また酒蔵に行くと隣の酒蔵で飲んでいるのが見えたので、そっちに移動する。また彼らと一緒に酒を酌み交わす。席に戻ると、次の料理が骨付きの分厚い牛のステーキだ。これも塩だけで味付けしたシンプルなもので、厨房にて炭火で焼いているのが見える。目の前で焼くのが見えるので、その雰囲気も味わうことができる。

自分たちで注いだ酒を酌み交わせば、すぐに友達気分になれる。世界を駆けまわれるパスポートのようだ。ただしイスラム圏はお酒がご法度なので、そこは残念だが使えない。周りを見ると顔や肌の色が違うのがわかる。この店は、観光コースにも入っているようで、ガイド付きのグループも見ることができ既に数十名の客になっていた。

デザートが出てきた。チーズ、クルミ、クッキーまでついていたが、既に酒は多分ボトル2本分くらいは飲んでいたのでお腹には入らない。大樽は2種類あるようで、1つは13000リットルで、もう1つは15000リットルがあった。

酒樽は、合計40樽を確認したが多分まだあるだろう。シードル用のリンゴは、ミカンより少し大きい程度で絞れば100tくらいの汁が採れそうだ。1つの樽には、13万個のリンゴが使われているなあとタヌキの皮算用をしてみた。

料理は1つのメニューしかないので、あまり期待はしていなかったが、酒を自分で好きなだけ飲めることとシンプルだけど美味しい料理で大満足だった。タクシーでホテルに戻り、夜の食事に備えて少し寝ることにした。

また夜の食事に繰り出す

夜8時前にホテルを出て、歩いて数分でグルメ通りに到着する。まだ食べていなかったお勧めのピンチョスを狙って店に行く。スペインの人たちの夕食の時間は一般的に8時からで、夜中24時、1時まで開いている店も当たり前という。でも翌朝はちゃんと出勤するという。

Kさんのスペインの友達がいうには、仕事が終わってから一度アパートに戻り、シャワーを浴びて化粧もばっちり決めてドレスを着て食事に行くという。さらに朝は、みんなで出勤してから朝食を食べに行くという生活スタイルというが、これも国民性の違いだ。

有名なチーズケーキのピンチョスもあり、ちょっとためらったが食べてみると、なるほど女性好みと分かった。話をしながら食べていると右隣は、日本人の若いカップルだった。左側からも日本語が聞こえてきた。

話かけてみると、やはり日本人の中年カップルだった。さらに話をしてみると、カップルではなく仕事仲間で、男性は今日ミュンヘンから移動してきたという。女性の方は、スペイン在住14年で、サンセバスチャンから車で30分のところに住んでいるという。通訳をしているようだ。明日行くレストランは、2回行ったことがあるという。

カウンターは、全員が日本人で占められていたことに気づいた。昨日までは、店で日本人にまったく会わなかったが、この日はいく店にはいずれも日本人を見ることができた。さらにお目当てのウニ料理、鱈の炭焼きもチャコリ(微発泡の白ワイン、アルコール度は11度と少し低め)と一緒に堪能する。

ウニを生で食べるのは、世界中でも日本とサンセバスチャンとイタリアの極一部の習慣だったらしい。見た目もグロテスクであり、食べなかったことも理解できる。最近世界中で寿司ブームになったので、ウニも食べられるようになったが、ごく最近のことらしい。

最後の締めは、「Gandarias」の肉のピンチョスだ。ユーモアセンスのあるウエイターは今日も楽しませてくれる。周りには日本人の観光客もいた。そのうちちょっと奇妙な二人組が目に付いた。男性は20代、女性はかなり年上のようでお母さんとの親子での旅行かと思った。まあ人生いろいろだと思いながら、グラス一杯2ユーロと安い地元リヨハの赤ワインで肉を楽しむ。昼も夜も大満足の食事ツアーであった。

朝の市内を散歩

翌朝は、8時半から開いている朝食屋に行くことにした。ホテルの前が繁華街になっており、朝食屋も何軒かある。店に入ると既に数人の常連さんが朝食を食べていた。昨日から、ほとんど野菜を食べていなかったのでサラダを頼んだ。

しばらくすると直径30cmもある大皿に、トマト、ウナギの稚魚、白アスパラ、ハム、レタス、チコリ、鮭がドッドーンとのっかっていた。これは一人で食べきれない。昼は、ミシュランの3つ星レストランに行くので、量を抑える必要がある。思案のしどころだが、予約は13時からでなく14時からと店の方から連絡が入ってきた。ならば時間があるので、思い切って野菜を食べることにした。

お腹を減らすために、市内を流れるウルメア川沿いに30軒ほどある露店の探索をすることにした。ドイツのクリスマスマーケットのような小さな露店を見て回るが、クリスマスに関するものはあまりなく、アクセサリーや革製品などが売られていたが、買うべきものは何も見つからなかった。寒風が川を突き抜け肌を刺す。

橋を渡ってまた市内の方に戻ったら、道に大きな真っ白なテントがあった。中に入ると暖房でしっかり温まることができたが、まるでオアシスのようだ。このテントは、アクセサリーや革製品もあるが街の芸術家たちが展示販売する人たちが目に付いた。

特に興味をもったのは、数色の紙テープを微妙にずらして形を変形させたまま接着剤で固定し、さらにニスのような透明な塗料を塗った作品があった。ツボ、コマ、コースター、さらには数個組み合わせて壁掛けの時計、髪留めなどユニークな作品だった。女性の作家であり、コースターを1枚買ったら、こっちが恐縮するくらいとても喜んでくれた。

さらに進むとガラス工芸の作品群があった。四角な皿状に色々な彩色を施し、さらに草原の風景を描いた作品だった。これが欲しいと手に取ると、別な作品もあるからそっちも見てからにしてからどうかと笑顔でいわれたので、素直に従うことにした。色々と楽しんでから1枚の作品を買った。彼もとても丁寧なお礼があった。こちらもとても良い気分になったが、直に自分の作品を評価して買ってもらえるのは嬉しいことなのだろう。店の数は40軒もあった。

さらに市内の店舗を散策した。日本やドイツとも違い特に女性や子ども服のセンスが素敵だ。街を歩く女性たちは、おばあちゃんまで綺麗に化粧や明るい服装である。散策していても気分は晴れやかになる。さて、ランチは14時からなので、ホテルで少し休憩することにした。

ホテルに戻ると、昨日シードルハウスの隣の席にいたグループに出会った。お互いがあらまあと笑顔になった。同じホテルに宿泊をしていたのだ。なにせ18万人の街だが、有名なホテルはここだけなのでこんなこともあるなあと思った。

するとフロントに、昨日肉のピンチョスの店にいた不思議なカップルがいた。これから行きたいところを、地図で見ながら相談をしていた。男性の連れはお母さんかと思ったら、そうではなく彼女のようだ。彼らも同じホテルだった。

ミシュランの

3つ星レストラン

ホテルからタクシーで目指すレストランに向けて出発だ。Kさんから男性はネクタイをした方がよい、さらにジャケットを着た方が良いとのアドバイスがあった。確かに以前3つ星レストランに行った時に、上着着用だった。その時はレストランが貸してくれた。今回は結果的どちらも不要であった。ランチだったからよかったようだ。

ホテルの目の前の湾の左手奥にその店はあるが、山の陰に位置しているので見えない。小高い丘の上に上ると湾や市内が一望できる。しかし狭い道は田舎道そのものだ。10分ちょっとで到着した。

店の看板は幅10mもあり、「AKELARE」と店の名前だけが目に飛び込んでくる。あとの2つの店はたまたま休みだったので、この店になった。店に入ってウエイターを待つ。予約の旨を伝え窓側のテーブルに案内される。既に客が2組入っていたが、そのうち5人のグループは男性ばかりだった。ワインでいい調子になっていた。

メニューが提示されたが、英語版であった。Kさんが事前に3つのメニューを翻訳していたので、3人が別々なメニューに挑戦することにした。Kさんは、前衛的なもの、家内は海鮮風、私は伝統的なメニューにした。

目の前は拡張工事中でブルーシートがかぶさっており、眼下の海が少し景観が悪くなっていた。でも雨が降らなかったので、海が青く見える。客が1組1組と増えてきた。30席が埋まったが、7割は男性客だ。普通は、ランチは女性がほとんどだが、ランチにワインがついて3万円はかなりハードルが高い。

メニューには8品が記載されているが、キッチンからの挨拶メニューもあり、10種は出てくる。一品出てくるたびに写真を撮る。見た目にも楽しませてくれる。火鍋の中のエビは、目の前で鍋に生きたエビと酒を入れて炎を燃やしそしてフタを閉じる演出もある。

私のメニューは、ロブスターサラダにお酢のサイダー、イベリコハムに黒胡椒を練り込んだパスタ、アーティーチョークとリブ、新鮮なフォアグラにソルトフレーク、焼いたヒメジ。いずれも皿も一緒になって目を楽しませてくれ、それぞれの料理に飾りの食材がさらに彩りを豊かにしてくれる。言葉だけでは表現できないので、詳細をお知りになりたい方はぜひホームページも検索してください。

店が特別に頼んだと思われる専用の皿も目つく。具材は皿の面積の10%程度で、その空間とのバランスも良いが遊び心だ。またウエイターが目の前で手をかけてその場で、料理を組み立てている過程も楽しめる仕掛けが施されている。

刻んだ牛のしっぽは小さなステーキだ。小さなチーズは、時計のように9種類の小さなチーズが散りばめられていた。そして、最後は有名なデザートの「壊れたヨーグルト」であった。壊したヨーグルトの容器もリアルに表現してある。

さらにメニューにないデザートのチョコレートなどの盛り合わせがとどめを刺す。これにワインはボトルではなく、白と赤のグラスワインで肉と魚に交互に合わせていただいた。

美味しくてお腹一杯になったなあと思ったら、もう3時間が経っていた。スタッフの数はとても多く、いつも気を配ってお客を待たせないようにしている。スペインには7つの三つ星レストランがあり、そのうち3つがこのサンセバスチャンにあるのは偶然ではない。最後はシェフと一緒に記念撮影をしてお別れだ。また翌日行く隣のバルビオ市の郊外にも1軒の3つ星レストランがあり、このバスク地方の料理のレベルの高さが目を引く。

帰りもタクシーを頼んだが、ちょっと寄り道をして海岸線にある大きな鉄製のオブジェを見に行った。錆で茶色に変色していた。このオブジェの作家は、世界的にも有名らしい。大きな鉄板を並べただけの作品もある。この街の象徴物のようだが、私にはただの知恵の輪にしか見えない。

帰り道に道路の真ん中にバイクの駐車場があった。隣の道路には車が走っており、何とも奇妙な駐車場だ。バイクを取りに行く時には、道路を横断しなければならなく危険だ。闘牛の国なので、まあこんなもんかな。

いったんホテルに戻り休憩する。また夜になれば、ピンチョスを食べに出る予定だ。夕方になるとすっかり胃袋も元気になってきた。今回は夜の街を散策しながら行くことにした。途中30人くらいのコーラス隊が、冬空の下で歌を披露していた。一人がギターで伴奏していたが、このような光景はあまり見たことがない。ドイツの店の商品が明らかに違うことを感じる。やはり南にあるのかカラフルな色の商品や店の作りを感じる。

今までと違った道順で、ピンチョス料理の店を散策する。スマホを片手にKさんのスムースな道案内が続く。半年前に彼女は訪問し、店と裏メニューも調査済みで、しかも写真に収めているので、それを見せると出してくれる。ガイド付きなのでロスのない移動ができる。食べ残しがないようにしっかりと店を回って食べ尽くした。ああこれで大満足。明日は、またリムジンで空港のあるバルビオ市に移動だ。