第100回
「米国のレストラン」
米国旅行に行ったことのある人も多いだろうけど、ツアー旅行だったりするとあっという間で、気がつかないこともあろうと思うのでいくつかあげてみたい。
米国でレストランに行くと、受付のそばに客席案内係がいるので、その人に案内されるまで受付デスクの傍で待つ。案内されて席に着くと、そのテーブル担当の給仕係がメニューをもってきてとりあえず、まず飲み物の注文を聞く。アルコールやソフトドリンクを注文する。無料の水をたのんでも、もちろんかまわない。ペットボトルの水や炭酸入りの水は無料ではない。
水だが、米国では無料の水はほぼ自動的に氷を入れた冷たい水がでてくる。日本でも似たようなものだ。しかし欧州では、水は氷を入れず常温の水を飲むのが普通だそうで、米国を訪問する欧州人は、なぜ米国では勝手にグラスに氷を入れた水を持ってくるのかといぶかる。慣れた欧州人は水を出される前に、いちいち「氷なしのお水をお願いします。」と言うようだ。
日本料理店や中華料理店では、普通お茶は無料だ。しかし店によっては無料ではなく3ドルくらい取るところもあるので要注意。米国のレストランでアイスティーを注文すると、甘みのついたアイスティーか甘みのついてないアイスティーか聞かれる。おかわりは無料だ。コーヒーもおかわりは無料。紅茶はマイナーでティーバッグにお湯を注ぐだけが普通。お湯のおかわりは無料だがティーバッグのおかわりは通常は無料ではない。日本食や中華料理の時のお茶は別だが、コーヒーや紅茶など温かい飲み物は朝食や昼食の場合は食事の前に注文してもおかしくない。夕食の場合は暖かい飲み物は食事のあとでデザートの時に注文するのが普通だ。
洋食のレストランでは、飲み物の次にパンとバターが出されることが多い。アペタイザー(※)が出る前にそれを少し食べてもよい。バターは店にもよるが、こんなにたくさんいらないでしょと思うくらい入れ物に盛ってあることが少なくない。米国のレストランではたいていバターナイフは出てこない。バターをパンにつける時には普通のナイフを使う。
料理がでてくるとナイフとフォークを使って食べるのだが、米国式は日本で習うテーブルマナーとはちょっと違う。日本で習うテーブルマナーは欧州式で右手にナイフ、左手にフォークでずっとそれで食べるが、米国式では右手で、ナイフで食べ物を切ったあとは、左手に持っていたフォークを右手に持ち替えて食べるのが普通だ。米国のテーブルマナーはカジュアルで大雑把。
ナイフの刃の方を自分の方に向けて並べるのが欧州式だが、米国ではあまり気にしないようで、ナイフの刃の方を隣の人に向けて並べられていることもある。食べるのがまだ終わっていないけどナイフとフォークをお皿上に置く場合は、給仕の人にわかるように「ハ」の字にして置くというのが普通のマナーだと思うが、米国人は必ずしもそうしていない。
食事の途中でそのテーブルの給仕係が “Is everything OK?”と聞きに来る。これは、注文なさったものは全部来ていますか?なにか問題はないですか?大丈夫ですか?味はいかがですか?といった意味を全部含めた表現で、問題がなければ“Yes. Very good!” (はい、大丈夫です。とてもおいしいです。)と返せばよい。問題があれば、たとえばケチャップがほしいとか、ステーキの焼き具合が少し足りないとか言えばよい。
焼き具合といえば、米国のレストランでハンバーガーを注文すると焼き具合を聞かれる。さすがにファストフードの店では聞かれないが、レストランでは聞かれるのだ。米国で生活し始めた初期の頃、牛のひき肉なんて腐りやすいのだから、そんなもんウェルダンに決まっているじゃないかと思った。しかし米国人はハンバーガーのひき肉をミディア・レアとかで注文する人も多い。ハンバーガーは米国人の思い入れのある食べ物らしくて、レストランではいつもフレッシュな牛のひき肉を用意しているからミディアム・レアでも大丈夫なのだ。
食事中に何か給仕係に用事があっても、自分のテーブル担当の給仕係に言わなければいけないので、どの人が担当だったか、顔をよく覚えておかなければならない。食事が終わってお勘定をするときも、自分のテーブル担当の給仕係に言わなければならない。それは結構面倒だ。その人がたまたま他のテーブルで時間を取られていても、キッチンの中にはいったままなかなか出てこなくても、がまん強く待っていなければならない。
米国のレストランではお勘定は各テーブルですることになっている。そのテーブルの給仕係へのチップが問題だからだ。食事の料金で売上税(日本で言う消費税のようなもの)を除いた額の15%から20%のチップを支払うのが普通だ。現金で支払う場合はチップ込みの料金を出せばよい。クレジットカードで支払う場合はクレジットカードのレシートにチップを書く欄があるのでそこにチップの金額を書きいれて、合計金額を書いて、サインする。チップだけあとで現金で支払おうとするのは良くない。給仕係が勘違いして、この外国人はチップを支払わないつもりかと思って、チップの欄に金額を書いて下さいと言ってきたりすることもあるから。
たまにしかないことだが、都会で外国人観光客が多いレストランの中には、最初から20%のチップを含めたお勘定を出してくることがある。お勘定の中身を、気をつけて良く見ないといけない。良く見ずに自動的に合計額に20%のチップを払ってしまうとえらく高くつく。レストラン側としては外国人観光客の中にはチップを支払う文化のない国とかチップを払うとしてもえらく低い額の国から来る人もいて、いちいち説明するのも面倒なのでそうしているということらしい。たとえばフランス人は、チップ払わないとかチップがえらく少ないとかいう話は聞いたことがある。日本人は海外旅行のマナー教育が結構よくされていて、そういうことはないらしい。
ここ20年で、米国で寿司屋や日本食のレストランはとても増えた。90年ごろは都会が中心だったが、現在ではけっこうな田舎でも寿司を食べることができる。しかし日本人のシェフがいるところは都会で、田舎の寿司屋や日本食レストランは日本人以外のアジア人や南米人が経営している所が多い。そういう所では味のレベルは落ちるが、米国中でかなりの地域で少なくともカリフォルニア・ロール(蟹かま、アボカド、きゅうりなどが入った逆巻きの巻き寿司)は食べられるようになったのは素晴らしい。ラーメンもうどんも人気だ。お箸を使える人も多くて、もはや日本観光に来た米国人に「お箸は使えますか?」と聞くのも野暮な感じだ。
米国の日本料理の中でも人気が高いのは純日本式の日本料理レストランよりも、フュージョン・ジャパニーズ系のレストランだ。フレンチ料理と融合したような感じで、アペタイザーの種類が豊富で、盛り付けがとても美しく、かつ味もよい。私もフュージョン・ジャパニーズのファンだ。たとえば、マグロのたたきにとても美味なソースがかけられていて大きなお皿におしゃれな感じで盛りつけられている。日本にもフュージョン・ジャパニーズのレストランはあるけど値段が高い店が多い。米国の方が発達していて、都会では結構手ごろな値段で食べられる店が増えて気に入っている。
※アペタイザー(主菜の前にとる食前酒やオードブル)