「動物嫌い 〜動物好きとは深い溝〜」

 

私は生まれてこのかたずっと動物が苦手だ。身近にいる犬や猫はもちろんのこと、あらゆる動物が苦手で触るのも触られるのもいや。特に犬はそこらへんによくいるし、吠えたりかみついたりする可能性があるので私にとって嫌な生き物の代表格だ。猫もいやだが猫は吠えたりかみついたりすることはあまりないので犬ほどには脅威を私に与えないのでましだ。しかしやはり苦手で触ることはできないし近くにいてほしくない生き物だ。

 

ペットで唯一大丈夫なのは金魚。金魚なら金魚鉢に入っているだけなので触られる心配はない。しかしもし水に手を入れて魚を触らなければならないのなら金魚でも嫌だ。私が大丈夫なのは基本的には人間だけだ。まあ、蟻とか蛾とか小さいものは怖くはないし、ゴキブリも小さいものなら怖くはない。フロリダに転居して、このあたりでは家の近くにトカゲが結構たくさんいるのでとてもいやだ。家の中に入って来ないように細心の注意をしている。

 

動物が苦手だと言う人は「苦手」と表現するが正確には「怖い」と解釈するのが正しいかなと思う。犬が怖い、猫が怖いとは人に言いにくい。特に男性ならもっと言いにくいだろうと思う。だから「犬は苦手」とか「犬は嫌い」と多くの人は表現するが実際には「犬が怖い」というのが本音だろうと思う。私は女だが、中身の男っぽさを売りにしてきたので「犬が怖い」などというなよなよしたことは人に悟られたくなかったし、言えなかったのでその気持ちは痛いほどわかる。しかし無理なものは無理なので、ある時からあきらめて人に公言することにした。

 

私の親も犬が苦手で特に母親がそうだ。犬に近付けられることはなかった。そういうふうに育ったからそうなったのかなと思っていた。しかし子供の頃に動物にかまれた経験とか追いかけられて怖い思いをした経験があっても、犬が大好きな人はいる。動物好きか動物嫌いかは遺伝子である程度決まっているのかもしれないなと個人的に思うようになった。そういう学術研究があるかどうかは知らないが。

 

現代ではyoutubeやツイッターに動物好きな一般人が、飼い犬の面白い画像や可愛い画像をどんどん全世界に向けて掲載していたりする。まあ、わが子自慢みたいなものだからみすごせばいいのだろうけど、赤ちゃんと犬がたわむれる画像をどんどん流すのは危険を誘発するおそれがあると思う。飼い主が賢くてしっかり犬をしつけている場合は問題はないのだろうが、世の中にはそういう飼い主ばかりがいるわけではない。他の飼い主がしているからといって真似をするととんでもない事故が起こることもある。危険を回避するためには最もおバカな飼い主があほなことをしないようにと配慮すべきだと思う。

 

犬は赤ちゃんにとっては自分の体と同じくらいかそれより大きな獣なのだ。犬の口のなんと大きいこと!想像してみてほしい。赤ちゃんの傍に犬を置くのは、大人でいえば自分の傍に自分と同じくらいかそれより大きなクマのような獣がいるということだ。飼い主の責任は重大だ。

 

それなのに動物好きの人は得てしてそういうことを気にしない。自分は犬のしつけはしっかりできているし、他人が事故を起こすのは飼い主の問題であって関係ないと言う人もいる。赤ちゃんと犬がたわむれるのは癒されるすばらしい画像であって、これからも流し続けると言いきる人もいる。赤ちゃんと犬がたわむれる画像を見ておバカな飼い主がまねをして事故を起こすことがあってもそんなことは知らぬという態度はいかがなものか。せめて注意書きくらいは記すのが良いと思う。

 

大人と犬がたわむれるのは問題ない。事故があっても自己責任だ。しかし赤ちゃんと犬がたわむれるのは同じにはできないと思う。赤ちゃんには自己責任は取れないのであって、赤ちゃん自身がリスクを負わされるのだから。たしかに犬が子供を危険から守って助ける場合もあり、犬を飼うことで良い情操教育効果もあるだろう。しかし犬との信頼関係が出来ていない場合や飼い主の犬のしつけや管理がしっかりできていないと問題が起こる可能性はあるのだ。

 

そもそも日本では犬を家の中でも飼うようになったのは近年のことだ。いまどきの親世代が子供の頃は、犬は家の外で犬小屋で飼うものであり犬を家の中に入れることはなかった。例外的に室内で飼われる犬は「座敷犬」と特別に呼ばれていた。日本では歴史的にそうだったので室内での犬の飼い方が良く分かっていない人も少なくないと思う。犬の散歩にしてもリードをつけずに放し飼いなんてとんでもないことなのに、うちの犬はおとなしくて大丈夫だからと無神経な人がいるのもとても迷惑だし危険なことだ。

 

実際、赤ちゃんだけではなく、犬が人にかみついて死亡事故が何件か発生している。

2009年 4才の男児が秋田犬と大型洋犬にかまれて死亡

2012年 90才の女性が散歩中に土佐犬にかまれて死亡

2015年 67才の男性が知り合いの男性が連れていた雑種犬にかまれて死亡

2015年 52才の女性が知人が飼うハスキー犬らしき大型犬にかまれて死亡

2017年 生後10か月の女児がゴールデンレトリバーにかまれて死亡

 

ツイッターでも以下のような事例を見たので紹介する。小型犬でも危険はあるので気をつけるべしと思う。

 

2017314日の、パパ小児科医@tangeganbaru222 さんのツイートでの掲載事例。

「0才4カ月の男児、外陰部咬傷、原因対象物はミニチュアダックスフント(メス2才)、臨床診断名は右精巣粉砕。母の実家の居間の床に敷いた布団で双子の弟と一緒に昼寝をしていた為、母は部屋を離れた。その15分後に祖母が様子を見に行ったところ、患児は顔面蒼白で、オムツには犬に咬まれた跡があり、外陰部から出血していた。救命救急センターへ救急搬入。右陰のう創内に挫滅組織を認め、亀頭部には切創もみられた。破傷風トキソイド1A投与後、直ちに右精巣摘出術が施行された。子供の生活環境改善委員会からのコメント:動物が食べている時や動物同士が争っている時に手を出すと咬まれることが多い。動物が嫌がることをして咬まれる子供が多いが、この例は4カ月児であり、子供の動作に誘発されたものではない。患部の写真を見ると陰部に湿疹などはなく、犬はオムツの尿の匂いに反応したと思われる。室内犬を飼っている家庭が増加しており、乳児と動物が同じ平面で接触できる状況は短時間でも避けるよう指導する必要がある。」

 

動物好きな人は動物嫌いの人の気持ちがわかっていない。それは、たとえば高所恐怖症の人の気持ちを高い所が平気な人がいまひとつわからないのと似ているかもしれない。「なにがそんなに怖いの?こんなにかわいいのに。この犬は吠えないし咬んだりすることはないし。」と言われても、そういうことではないのだ。犬と同じ空間にいること自体がストレスなのだ。犬がいつ自分に近寄って来るかもしれない、自分の足を舐めてくるかもしれないと思うだけで、びくびくしなければならないなんてストレスなのだ。私はどんなに愛する人でもペットを飼う人とは一緒に住むことはできないと思う。体が受け付けない。そのうち慣れるからと言われても慣れない。そういう遺伝子なのだと思う。

 

動物が嫌いなんて言うと世間から「心の冷たい人」と思われてしまうこともあり、動物嫌いの人はほんとうにずっと我慢して、そうとは言わない人が多いと思う。動物が怖いなんてことも言いにくいし。しかし私はあえてはっきり言おう。嫌いなものは嫌いで怖いものは怖いのだ。動物が嫌いだからと言って私は心の冷たい人というわけではない。そういう遺伝子なだけと思う。動物好きな人が動物嫌いの人の気持ちをわからないのは、お酒を飲める人がお酒を飲めない人の気持ちがわからないのと似ている所がある。お酒が飲めない方が悪い、動物が嫌いな方がおかしいと横柄で無神経な人もいる。動物好きな人とは深い溝を感じる。どうか動物が怖い人の気持ち、動物の存在がストレスになる人の気持ちをわかろうとしてほしいと思う。