The Breakers 〜パームビーチの豪奢なホテル〜
フロリダ州南東部のパームビーチ市は19世紀に米国の鉄道王Henry Flaglerが富裕層の冬のリゾートとして開発した地域で、美しい海岸線沿いには現在も大きくて立派な別荘が立ち並んでいる。トランプ大統領の別荘でもあり富裕層の会員制クラブでもあるMar-a-Lagoもパームビーチにある。そんな中でひときわ人目を引くのがイタリア・ルネサンス風の大規模なビーチ・リゾート・ホテルThe Breakers Palm Beach(以下ブレイカーズ)だ。
ブレイカーズの存在は知っていたが、ニューヨークからフロリダに転居して2年になるがまだ一度も行ったことがなかった。うちから結構近くて車で40分程度。フロリダは冬がとても温暖な避寒地なので、ブレイカーズは冬がハイシーズンで夏はオフシーズン。夏場は宿泊料金が私たちでもなんとか泊まれる程度の料金に下がるが、冬場は夏場の3倍程度の値段になるので高くてとても泊まれない。ブレイカーズにはビーチ、プール、テニス、ゴルフ、フィットネスジムなどの施設があり宿泊客はそれを自由に利用できるので、近場ではあるけれど7月半ばに1泊した。
ホテルに入った瞬間、ロビーの美しさに目を見張った。まるでヨーロッパの豪華な宮殿か美術館のようだ。きらびやかだが品の良いシャンデリア、家具、天井の装飾。ビーチ方向につながる屋外通路もセンスの良いエクステリア。ホテルの部屋は予想していたより広くて、家具もリネン類も質が良い。夫は壁や天井の色の組み合わせがとてもクラッシーだと言って特に気に入って、うちもあんな色にしたいなと言った。
私はさっそく水着に着替えてプールとビーチへ。プールは4つあって、一つは泳ぎたい大人向けのプールで、あとの3つは大人も子供も楽しめるような遊べるタイプのプールだ。私はまずビーチに出た。係員がビーチチェアにかぶせる専用タオルを取りつけてくれて、さらにもう一つビーチタオルをくれた。ホテルのプライベートビーチなので混んでない。ビーチパラソルの日陰でしばらく青い空や雲を眺めていた。冬場ならビーチでゆっくりのんびりできるのだろうけど、なにしろフロリダの真夏は酷暑なので暑すぎてそんなに長くはビーチにいられない。でも少しだけでも海水に触れてみたいと思って水際で足だけつけた。足の指先がはっきり見えるほど水が透き通っていた。
米国の人はビーチに行ってもあまり海で泳がない。私は米国に住み始めた最初の頃は、せっかく海に来ているのになぜ海で泳がないのかなあ、なぜ海の近くなのにプールがあるのかなあと思ったが、どうやら米国の人は海は魚が泳ぐ所で人間が泳ぐのに望ましい所ではないという感覚があるのかもしれない。米国の人はビーチやプールサイドで寝転んで体をこんがり日焼けさせるのに熱心だ。夏に真っ白いのはかっこ悪いという文化があるのだ。日焼けを徹底して避けようとする現代の日本人とは大違い。私は水泳は好きなので大人用のプールに移動して何往復か泳いだ。しかしそのプールで泳いでいるのは私一人だった。
それからホテルのフィットネスジムに行った。目の前に広がる海と空のブルーが、単調なトレッドミルの有酸素運動を飽きさせない。使い捨てのイヤホンが自由に使えるようになっていたので私は一つもらった。真新しい機種の器具ばかりで最初使い方にとまどうものもあったが、まあ扱いには慣れているので問題はなかった。冷房が強くて運動をしても涼しい。私はいつものようにここでもジムの壁一面の大きな鏡に向かって日本のラジオ体操第一を最初に、そしてラジオ体操第二を最後にやった。このラジオ体操には私のこだわりがあって、とにかく指先まで意識して美しく体操することを心がけている。
夕方になるとホテルのビーチサイドの庭園で結婚式をしているカップルがいた。馬車に乗って登場する。とてもロマンティック。米国では教会ではなくこんなふうにビーチサイドの庭園に神父さんを招いて屋外で結婚式をするカップルはかなりいる。夕方から雨になるという天気予報で雷の音は少し聞こえたが、なんとか雨は降らず無事に結婚式は済んだようで、よかったねと心から思った。フロリダの夏は突然どしゃ降りのスコールが来ることがある。そうなったら馬車で入場もできないし、せっかくのウェディングドレスもぐちゃぐちゃに濡れてしまう可能性があった。
夕食はホテル内のイタリアン・レストランに行った。前菜、メイン、デザートの3コースのセットで、私は前菜はカラマリ(イカリングのようなもの)、メインには海老入りのホワイトソースのパスタを注文した。パスタは丁度よい固さのアルデンテで、こんなおいしいパスタは久しぶりだと思うほどおいしかった。
私はいつもは深夜2時ごろ寝るのだが、ホテルに泊まるときは早めに寝る。12時頃寝て、朝8時頃起きた。朝食バフェ付のプランだったので、朝食のレストランへ向かう。一歩入るとまた「うわー、なんてきれいなんだろう!」と驚いた。ドーム天井で豪華な装飾。めちゃくちゃ気分がいい。夏休みなので子供連れの夫婦がかなりいる。子供がこんなリッチなところに小さいころから出入りしていたら、贅沢癖の付いた大人になりはしないかなあと私はちょっとよけいなおせっかいを感じた。
ちなみにホテル客はほとんどが白人で、アジア人はとても少ない。日本人らしき人は見かけなかった。とにかくこんな豪奢なリゾートホテルは日本では体験できない。私は予想以上にブレイカーズに大満足だった。日本人にはあまり知られていないようだが、南フロリダに旅行する際は是非ブレイカーズに立ち寄ると良いと思う。