今月の執筆者

三谷訓子

ノリコの朝

 「あなたの記憶の中で今もきらめく曲は何ですか。」毎週土曜日の朝七時半、「サワコの朝」で、必ずゲストに尋ねられる言葉。私に聞かれたら、なんて答えようかな、といつも思う。

      ◇

  そうですねえ。五歳のとき、幼稚園でみんなの前で弾いたグルリット作曲「縁日」かなあ。恥ずかしがり屋の私がこのピアノ曲を弾いたあと、園長先生に「上手だねえ」とほめてもらったことが今でも忘れられません。今でも弾けますよ。小学生の私の一番のお気に入りは、「水前寺清子」です。ショートカットで粋な着流しのチータが大好きで。特に「大勝負」は、母にレコードを買ってもらっていっしょに聴いたものです。それと、五年生のときのNHK学校音楽コンクールで歌った「地球にあいにこよう」も、忘れられません。細身の先生が指揮される姿が浮かびます。

 中学校に入ったら、合唱とリコーダー三昧。先生の厳しい指導のもと、卒業式で歌った「故郷を離るる歌」先生からいただいた思い出のカセットテープの最後には、先生の声でこんな言葉が録音されていました。

 「一回だけの招待を大切に。さようなら」

この世に一回だけ招待された私たちなのですね。

 高校生の私は、フォークグループ「アリス」ひとすじ!その当時まだマイナーだった彼らは、なぜか中部地区だけものすごい人気だったのです。開演前には倉吉福祉会館を一回りする行列で、終了後には、楽屋が透けて見える会館の西側の庭から出てきてくれたチンペイさんにサインをもらったなあ。「走っておいで恋人よ」「おまえ」大好きです。

 大学生の私の中できらめく曲は、四年間演奏した「メサイア」 あこがれの先輩が歌ったフォーレの「レクイエム」…いっぱいあります。今の私を創った大切な四年間です。

 社会人になってからは、今度は指導者として関わったコン課題曲「未知という名の船に乗り」。そのときに歌っていた女の子が、今はもう立派な学校の先生です。 そして、先生としての毎日に忙殺されながら、10年前に出会ったある音楽家が、その後の私の人生を変えたと言っても過言ではありません。その人の名前は「佐渡裕」。彼の指揮する姿、人間が大好きだという彼の生き方、彼の創る生き生きした音楽に、退職後の私の毎日を彩ってもらっています。

  えっ?「今も心に響く曲」ですか?むずかしいなあ。2つじゃあいけませんか?

 コール・ウインドミルで歌った「ハナミズキ」

  アザラシヴィリの「無言歌」

           ◇ 

 思い返してみると私の人生には、いつもそばにすてきな音楽がいてくれる。そして、その音楽には必ず、すてきな人たちが寄り添って、私を応援してくれている。

 「あなたの記憶の中で今もきらめく曲は何ですか。」 そして、

「今も心に響く曲は何ですか。」

(コール・ウインドル)