「クリスマス 〜フロリダとNYで〜」

 

米国ではクリスマスは日本のお正月のようなものだ。家族や親せきが集まってクリスマスを祝い、クリスマスの特別なごちそうを食べる。クリスマス・イブにそれをするか、クリスマスの当日にそれをするかは家庭によって違う。わが夫の親族は毎年25日クリスマス当日にマンハッタンにある夫の姉の家に集まることになっている。

 

夫には前妻との間に27才の娘がいて、フロリダで私たちの家から車で20分位の所に夫婦で住んでいる。彼らは昨年はニューヨークでのクリスマス・パーティーに参加したが、今回は参加しないので、少し早いクリスマスを1220日にフロリダの我が家で祝った。

 

クリスマスツリーは生の木をネットオーダーで宅配で買った。マンハッタンに住んでいる頃はクリスマスシーズンになると道端でたくさん売られていて、家まで無料で配達してくれたので良かった。フロリダでは特設のテントを張って生木を売っている所はあるけど、買っても家まで配達してくれないので、今回は人が勧めてくれたネットオーダーにした。宅配料金がクリスマスの生木そのものの値段60ドルと大して変わらないくらい高かったが、産地直送なのでとてもフレッシュな生木が届いた。香りがいい。ツリーは我が家は毎年生の木を買うが、本物そっくりの人工木を使う家庭も多い。

 

クリスマスの装飾はクリスマスツリーだけではない。アドベント(降臨節:クリスマス前の4週間)の飾り、クリスマスのきれいな模様の飾り靴下(クリスマス・ストッキングと呼ばれる)、キリスト誕生にまつわる様々な置物、サンタクロースの置物、それから豆電球で部屋をライティングしたりする。私が特に気に入っているのはアドベント・カレンダーで、12月1日から毎日数字のポケットに入っているオーナメントをカレンダーのツリーに一つずつ付けていって1224日に完成する。毎日楽しい。

 

夫はクリスマスには毎年腕をふるってロブスター(伊勢海老)とビーフのフィレステーキを焼いてくれる。ロブスターは米国の人は溶かしバターにつけて食べるのが普通だ。日本人の私としてはポン酢もいいなとは思うが。ごちそうを食べてからプレゼントを交換した。

 

1222日にフロリダを発ち、ニューヨークへ。空港からマンハッタンに向かうタクシーから見えるニューヨーク郊外の風景はヨーロッパ的でやはりフロリダとは違う。レンガ作りの建物やビクトリア調の古めかしい家が多い。フロリダは湿地帯の半島という地学的条件と、夏の酷暑でセントラル冷房の都合もあって平屋が多い。

 

マンハッタンに入ると多くの人が通りを歩いているのがまず目に飛び込んできた。当たり前なのだが、都会では人は歩いているが、郊外では車社会だから歩いている人なんてめったにいない。「うわあ、たくさん人が歩いてる!うじゃうじゃ人がいるね。」「車道が狭いね。一方向3車線といっても一車線がこんなに狭かったっけ?トラックが隣に来たらこすりそうじゃん。」私はすっかりおのぼりさん気分だ。ニューヨークに22年位住んでいたというのに。

 

今回はダウンタウンのワールド・トレード・センター(以下WTC)のそばにあるホテルに泊まった。ホテルの前には鳥の羽のような形をしたWTCの新しい地下鉄駅入り口がある。ホテルの部屋からは新しく建てられた超高層オフィスビルであるフリーダム・タワーがよく見える。そして9・11メモリアルの二つの正方形の池も。

 

マンハッタンに長々住んでいたがダウンタウンのこのあたりにはあまり用事がなく、新しいWTCの駅やフリーダム・タワーが完成した後も私と夫は来たことがなかった。鳥の羽根の形をした地下鉄駅に一歩入ると、なんと二等辺三角形の真っ白な教会のような雰囲気になっていて、地下から2階まで中央が吹き抜けで周囲がショッピング・モールになっている。地下の奥に地下鉄の改札がずらっと並んでいて、通常は多くの乗降客がこの吹き抜けの中央を通る。

 

WTC駅のそばにある9・11記念館もフリーダムタワーの展望台も観光客は必ず行く名所になっている。マンハッタン在住で9・11当日を知っている私も夫も、これまでなんとなく足が向かず行ったことがなかった。今回はこんな近くに泊まっているのだから9・11記念館には行ってみようかなと思ったのだけれど、入館料が24ドルと高いし、クリスマスの時期にこういうのを見るのもなんだか気が引けて、結局記念館には行かず、正方形の池の周りを見て歩くだけにした。この寒さでも観光客は多くてたくさんの人が9・11記念館の入り口に並んでいた。

 

1225日夕方にマンハッタンのチェルシーにある義姉の家に行った。ドアを開けるともうみんな集まっていて、一人一人とハグをして頬にキス。男性同士はハグはするがキスはしないのが米国流。まずカクテルアワーがあって、それぞれ飲み物とおつまみで親せき同士の会話が始まる。

 

ディナーの前に親せき同士でクリスマスのプレゼント交換をした。本来はサンタクロースは24日の深夜に来るので、子供のいる家庭ではプレゼントは25日の朝に家族そろって開けるのが一般的だが、大人になってからは24日か25日の夜にプレゼント交換をする。子供には物をあげるがお年玉のように現金をあげることもある。現金用のきれいなクリスマス封筒も売られている。

 

義姉はとても料理が上手な人だ。まずアペタイザーにシュリンプ・カクテル。カクテルと言ってもこれは飲み物ではない。尻尾の付いた大きなむき海老のことだ。シュリンプ・カクテル・ソース(トマトソースとホースラディッシュを混ぜて作ったピリ辛ソース)につけて食べる。シュリンプ・カクテルの語源は、むき海老をカクテルグラスに数匹ひっかけて盛りつけるスタイルから来たらしい。

 

メインディッシュはローストビーフ。野菜はレッドキャベツとグリーンピース。クリスマスの色である赤と緑を表す。それからヨークシャー・プディング(甘くない焼いたパイでデザートではない)。食後のデザートは親戚が手作りして持参したラズベリー・パイとクッキー。米国には日本のようなクリスマスのデコレーションケーキはない。中にクリームが入ったロールケーキか、シンプルなフルーツケーキが一般的。ちなみにマンハッタンの日本食料品店では日本人の為にクリスマスの時期には日本と同じようなデコレーションケーキが予約制で売られている。

 

今回のニューヨークでのクリスマスは例年になく寒波で凄く寒かった。日頃暖かくて湿気のあるフロリダで生活している私と夫にとってはいきなり夏から真冬だ。外を歩く時は防寒はしっかりしていたからまあいいけど、ホテルの部屋が暖房で空気がからからで参った。喉もお肌もとても乾く。寝るときはマスクをして寝た。長年のニューヨーク生活時代には加湿器もつけていたし慣れていたのでマスクして寝ることはなかったのに。

 

27日にフロリダの家に戻って、もとどおりのなま暖かいというか、27度Cくらいあってやや暑い気候。防寒着から半袖Tシャツに。暖房から冷房の世界に。循環器系疾患のある夫はニューヨークでは外に出ると寒さで足の調子が良くなかった。ああ、ほっとする。暖かい冬は引退者にはやはりいいなあ。フロリダに引っ越して2年半。体はすっかりニューヨーカーからフロリディアンになっていることに気が付いた。