食べ残しの持ち帰り

〜米国の飲食店では当然OK〜

 

二年前に日本帰省した時、広島のお好み焼き屋で「食べ残しのお好み焼きを家に持ち帰りたいから容器をください。」とお願いしたら、お店の人が壁にかけてある保健所の飲食店営業許可証のようなものを指差して「禁止されているのでできません。」と言い、断られた。えー?日本の飲食店では食べ残しの持ち帰りは一般的ではないのはわかっていたが、まさかお好み焼きのようなものまで持ち帰り禁止とはね、と驚いた。同じお店の大きな鉄板で焼いて作ったお好み焼きは、最初から持ち帰り用のものを注文するならOKなのに、なぜ食べ残しの持ち帰りは禁止なのかとたいへん奇妙に思った。

 

別の時では4年前、広島の和食店でいとこが残った松茸ご飯を持ち帰りたいからと容器をお店にお願いしたら「お持ち帰りはできません。」と断られた。「今日来られなかった父親に食べさせてあげたいと思ったんだけどね、残念ねえ。」と彼女が言ったら、後でお店の人が「本当はいけないんだけど今日は特別に。」と気を利かせて容器を持って来て持ち帰らせてくれた。

 

米国で生活したことがある人なら知っていると思うが、米国では飲食店で食べ残したものを家に持ち帰るのはごく普通のことで、高級レストランでも持ち帰ることはできるし、嫌な顔をされることもない。食事が終わってそのテーブルの係りの人に伝票を頼む時に、お皿に食べ残しがあったら、多くの場合、係りの人の方から「持ち帰りますか?お包みしましょうか?」と聞いてくれる。

 

30年くらい前は、犬の餌にするための持ち帰りという意味から転じて、持ち帰りの容器を「ドギーバッグ」と呼ぶことがあったが現在はその言葉はすたれて、ドギーバッグと呼ぶ人はめったにいない。今はTo-Go BoxとかTake-Out Boxと呼ぶ人もいるし、私は普通に「持ち帰るから容器(Container)をください。」とか「持ち帰るから、包んでください(Would you wrap up?)。」とか言う。

 

食べ残しの持ち帰りは実に便利で、家で食事作りの手間が省けるし、飲食店で食べ残して捨てられるのはもったいないという罪悪感からも解放される。米国の場合は、ほぼ皆が食べ残しの持ち帰りを日常的にするので、食べ残しの持ち帰りを貧乏くさいとか、ケチくさいとか、品が悪いとか、そう思われることはなく、当然のこととして普通に行われている。

 

「日本でも飲食店での食べ残しの持ち帰りが普通にできるようになったらいいなあ。」とツイッターでつぶやいたら、大賛成する人もかなりいたが、反対する人もかなりいた。賛成派は日本国外でそういう実体験があってよその国ではOKで便利なことを知っている人が多かった。反対派の人は「万一のことがあって命にかかわることがあったら誰が責任取るのか?」「あれはクレーマー対策で、どんな理不尽なことを後で言ってくる客がいるかわからないからだ。」「日本は高温多湿な気候で腐りやすいから全面禁止でいい。」「気温が低い時期でも食中毒をおこすウイルスや細菌はいる。」「日本で自己責任の文化はなじまない。」とかの主張だった。

 

それで、ツイッターではいろいろ調べてくれる人がいて、私は知らなかったのだが、政府は食品ロス対策の一環として、飲食店での食べ残しの持ち帰りを進める公的文書をすでに去年出していることがわかった。農林水産省、消費者庁、環境省、厚生労働省の4省庁が協力しあって「食べ残し料理を持ち帰る場合は、食中毒リスクを十分に理解したうえで、自己責任の範囲で行うようにしましょう。」というガイドライン的な内容を含んだ通知を都道府県、や団体向けに出していた(2017年「飲食店等における食べ残し対策に取り組むに当たっての留意事項」)。

 

それからさらに消費者庁が「外食事の食べ残し持ち帰りに関する食品衛生法の整理等について」という文書を去年出していて、その中で厚生労働省の見解として「食品衛生法においては、客側・飲食店側ともに、外食時の食べ残しを持ち帰ることについて禁止する規定はない。」としている。ひょっとしたら過去に保健所等から食べ残しの持ち帰りはさせないようにと飲食店に指導があったのかもしれないが、法令的には禁止にはしていないというのが事実のようだ。

 

広島市でも2017年に政府のおすすめに従って、食品ロス削減キャンペーン「スマイル!ひろしま」というものを始めているようで、飲食店やホテル・旅館等における料理の食べ切りや持ち帰りを推進する「食べ残しゼロ推進協力店」の登録・PRを行い取組を促すキャンペーンをしているそうだ。

 

こんなことをすすめているなら、なぜもっとしっかり広報しないのだろう?マスコミも派手に取り扱ってキャンペーンしてくれれば、国民に一気に周知させることができ、食べ残しの持ち帰りが一気に進むのにと思った。

 

日本はいまでも「お客様は神様」的な雰囲気があって、客の理不尽な要求に対して店側が毅然とした態度を取らないことがあるようだ。クレームの程度にもよるが、ひどいものを放置しておくとろくなことにならない。脅しは犯罪であり、即警察を呼ぶ方が良い。昔と違って手元にスマホがあるのだから、録画して証拠をとるのも一つの防止策だ。

 

米国のような訴訟大国で食べ残しの持ち帰りで問題が起こったとは長年米国に住んでいるが一度も聞いたことがない。食べ残しの持ち帰りは自己責任ということが文化的に根付いているのだろうと思う。米国で衛生管理が緩いわけでは決してない。州によって多少異なるが、飲食店の衛生管理は結構厳しくて、NYでは飲食店は衛生基準に合っているかどうかA、B、Cでランクつけされた紙が窓に貼ってある。店内での飲食で食中毒がでるとマスコミで騒がれるが、食べ残しの持ち帰りで騒ぎになることはない。法令的には食べ残しの持ち帰りは禁止されていないし、飲食店の営業ポリシーとして食べ残しの持ち帰りを断ってもよいらしい(そういう店はめったにないが)。双方の自由が尊重されているわけだ。

 

私たち夫婦は時々レストランに行くが、旅行中を除いて、食べ残しはたいてい家に持ち帰る。もちろん気に入らなかった食べ物や生ものは持ち帰らない。車で移動なのでたいてい30分以内には家に着いて冷蔵庫に即入れる。そしてその日のうちか翌日に食べる。食べるタイミングを逃したものは捨てる。日本の真夏は高温多湿で腐りやすいから無理と言っても、フロリダなんて熱帯雨林気候で気温も高いし湿度も高い。ハワイのような常夏の島でも食べ残しの持ち帰りは歴史的に普通に行われている。

 

そもそも飲食店で注文して出された料理の所有は客にあるのではなかろうか。出されたものに対して客はお金を払うのだから、食べ残したものは客のもの。それを持ち帰ることを禁じるのは本来奇妙と個人的には感じる。食べ残しの持ち帰りの安全性が心配な人は持ち帰らなければいいだけのこと。持ち帰りたい人の自由を奪うのはやり過ぎと思う。食べ残しの持ち帰りが気軽にできる店という評判で客が増えるかもしれないし。是非、日本でも飲食店は食べ残しの持ち帰りをどんどん進めてほしいと思う。