フロリダ州を襲うハリケーン
ハリケーン・ドリアンが9月3日に南フロリダに最も接近した。近くのバハマ諸島はカテゴリー5という最強のレベルの暴風雨にみまわれ大きな被害が出たが、フロリダ州には上陸せず、バハマ諸島から北上してフロリダ北部沿岸近くからジョージア州、サウスカロライナ州の方向に進んで行った。
9月3日の一週間くらい前からフロリダ南部はハリケーン・ドリアンの直撃コースになっていたので、テレビなどでハリケーンに備えるよう呼びかけられた。大きなハリケーンだとハリケーンの暴風雨自体も怖いが、過ぎ去ったあとに数日間に及ぶ停電になるとたいへんなのだ。
フロリダ州のなかでも私と夫が住んでいるパームビーチ・カウンティはマイアミから北に70キロから125キロ位の所に位置する郡(州に次ぐ行政区画)で、フロリダ半島の南東部にある。我が家は沿岸部ではないが、沿岸部は立派な住宅や別荘が続くゴールドコーストと呼ばれていて、トランプ大統領の別荘リゾートで安倍首相が数回訪問したマー・ア・ラゴは沿岸部にある。
ハリケーンが来ると沿岸部に大きな被害がでる可能性が高いので、沿岸部は9月1日には強制避難になっていた。私はいつも思うのだけれど、沿岸部は景色が素晴らしいが、すごくハリケーンリスクが高い所なのによくこんな豪奢な家や別荘を建てるなあ、洪水になったら家具やグランドピアノやじゅうたんもたいへんなことになるのに。まあ、そういう富裕層は十分に保険に入っているのだろうけど。
私たちがニューヨークからフロリダに転居したのは2015年の6月だったので、今年は5回目のハリケーン・シーズンだ。フロリダ州ではハリケーン・シーズンは6月に始まり11月に終わる。最初の2015年はハリケーンが来るかもという予想がでて、何も準備をしていなかったので急いで懐中電灯や電池を買いに行ったが売り切れていた。しかしコースがそれてなにも起こらなかった。その後、ハリケーンがいつ来るかわからないと思い、たくさんの懐中電灯、ランタン、電池、水を買って準備した。2016年はハリケーン・マシューという大きなハリケーンが来るというので構えていたが、コースが北にそれて、フロリダ州北東部、ジョージア州、サウスカロライナ州に大きな被害が出た。
2017年は二年前に私は記事に書いたが、巨大ハリケーン・イルマが来た。あの時は5日前位から避難命令が出ている地区が多く、車で北に向かって他州に避難する人や飛行機で他州に避難する人もかなりいた。直前までフロリダ州南部の東海岸を直撃と言われていたが、実際にはフロリダ州の西海岸に方向を変えたので、うちのあたりは直撃はまぬがれたがハリケーン中心部の右側になるので暴風雨は来た。マイアミやフォートローダーデールあたりの沿岸部は水害をうけた。パームビーチ・カウンティでも、我が家は沿岸部から11キロくらい内陸なので停電は一晩だけで大丈夫だったが、運の悪い地域は1週間位停電していた。水害になると復旧には時間がかかるのだ。
2018年はハリケーン・マイケルがフロリダ州の北西部でアラバマ州近くの地域を襲って、やはり沿岸部は大きな被害が出た。このときはフロリダ南部はなにごとも起こらず、天気はずっと良かった。フロリダ州には毎年大なり小なりハリケーンは来るので、フロリダ州は毎年ハリケーンが大変そうという印象を世間に与えるが、実際にはフロリダ州もけっこう広くて面積的には日本国全体の約半分なので地域による。
今回2019年のハリケーン・ドリアンは、私は最初からなんとなくだが、北にそれてたいしたことないんじゃないかと思っていたが、それは当たった。なぜなら、ハリケーンに発達する前の熱帯低気圧状態の時に、ハリケーンに発達することがほぼ明らかなのに行政は避難をなかなか呼び掛けなかったからだ。ハリケーン・イルマの時は5日も前から避難命令が出ている地域があって、住民が続々と北の州に向かって避難して高速道路が大渋滞したが、今回はそういうのはなかったからだ。ハリケーンに発達してからも方向がいまひとつ定まらず、行政は避難命令を出さなかった。最後のほうになってようやく出した。フロリダで五回目の夏にもなると、私も慣れてハリケーンに驚かなくなった。それでも、ハリケーンの準備は万端に、水と日持ちのする食糧を買い足して、ガソリンを満タンにしていた。結局たいしたことはなく終わって良かった。
日本では自然災害の時の避難所は学校の体育館とかが使われるが、米国でも基本は同じだ。うちの地区も近所の学校が避難所になっている。避難所には簡易ベッドがたくさん用意されていて、こぎれいになっているようだ。しかし、米国の多くの人は自然災害で避難する時に行政が用意した避難所にはあまり行かない。なぜならどんな怖い人や訳のわからない人がいるかもしれないような、一種のホームレス・シェルター的な所に行くのはちょっと怖いからだ。普通は安全な地域の親戚や友人の家とかホテルに避難する。個人が加入する自然災害の保険にも災害避難時のホテル代はいくらまで出るとか書いてある。
ハリケーンで困るのはハリケーンが通過する時そのものよりも、その後に起こる長い数日にわたる停電だ。現代生活はあらゆることで電力に頼っている。停電するといきなり原始生活みたいになるのだ。私は大停電はニューヨークで二回も経験している。最初は2003年の米国北東部からカナダに及ぶ大規模ブラックアウト。二回目は2012年でハリケーン・サンディがマンハッタンを襲った時。どちらもうちのあたりは5日間くらい停電してたいへんだった。当時はアパートビルの10階に住んでいたので、停電でモーターが止まると屋上のタンクに水がある間はよいが、それがなくなると断水することはわかっていたので、すぐに水をバスタブに一杯に貯めた。冷凍冷蔵庫も使えなくなるので近所のお店に現金を持って走って、急いで大袋の氷を買った。それからパン・缶詰・水、懐中電灯・電池などを買った。停電しているから当然クレジットカードは使えない。私は人より早く行ったので最低限のものはまだ買えた。遅れて行った人は買えなかったようだ。
現在は設備の対策が出来ていると思うが、2003年のブラックアウトでは当時マンハッタンのホテルの電気鍵の鍵が開かなくなって部屋に入れない客が続出し、ホテルのロビーで一夜を明かす人が出た。高層住宅に住んでいる人はエレベーターが動かず家からの出入りが困難になった。非常用の自家発電があるビルでもせいぜい2日か3日分しか電力が持たないので、長期に及ぶ停電になると高層住宅に住むのはほんとうにリスキーなのだ。うちは10階だったのでまだましだったが、水を持って10階まで階段で上がるのは重労働だった。
集合住宅では断水すると本当に困る。トイレの水が流せない。うちはバスタブに水を貯めていたから何とかなったが。2階くらいまでなら自然の水圧で断水はしなかったそうだ。シャワーも使えなくなるので衛生面が気になる。何と言ってもテレビやネットがつながらないから主たる情報源はラジオだけ。携帯電話は電波の具合でつながるときとつながらない時がある。つながっても携帯の電源はすぐなくなってしまうので予備電源を準備していないと使えない。昔の電話は電気がなくても使えたのでよかったが、現代はネットベースの電話になっているし、電話機自体も電源が必要な機種になっているから、停電すると固定電話もつながらない。携帯電話も固定電話も使えないと、何かあっても警察も救急車も呼べず怖い。
日本で9月1日防災の日にNHKスペシャルで「東京大停電に備えろ」という番組をテレビジャパンの日本語放送で私もフロリダで見たが、とても良い番組と思った。日頃の備えが本当に大事だ。