「停電に備える」

 

前回フロリダ州を襲うハリケーンについて書いたが、その後、日本では9月9日から台風15号で千葉県を中心に地域によって数日間から3週間弱に及ぶ広域停電が起こった。日本で過去にも長い停電が地方で起こったことはそれなりにあるが、東京の近くでそんな大規模で長期の停電が起こったことは何十年もなかったから、たいへんだったようだ。

 

日本では広範囲で数日間から数週間に及ぶような大停電など起こらないとつい近年まで言われていた。日本の電力供給は実際うまくできていて、何らかのことで停電が起こっても日本の年間停電時間は20分以下とえらく短かった。

 

たしかに私は日本で生活していた頃、停電してもせいぜい数時間で一日以下の停電しか経験した記憶がない。米国は広いので地域によるが毎年どこかで大きな停電は起こる。私は前回書いたように5日間に及ぶ長い大停電をニューヨーク在住時に2回経験した。フロリダ州に転居してからは我が家は今の所運が良くて停電は一日程度だったが、毎年ハリケーンで長期にわたる停電リスクがあるのでそれに備えている。

 

日本語放送でNHKのニュースやツイッターで千葉県南部の長期にわたる大停電を見ていて思ったのは、長い停電になって生活が大変になっているのに、日本の人はなぜ停電していない地域に住む親せきや友人の家に避難するという発想に乏しいのだろうということだ。ニュースは避難所に避難した人と、停電したままの家で苦労している人々のことばかり流している。

 

私はツイッターで「自分の家は停電していなくて、停電している地域に親せきや友人が住んでいるなら、相手からは言いにくいので、自分から声をかけて自宅に泊めてあげましょう。」「家が狭いから、客用のふとんがないからなんて言わないで、リビングルームに寝袋でいいのです。寝袋は3千円くらいで買えます。電気があるだけでありがたいのです。」と一生懸命呼びかけた。

 

反応が良かったのはやはり長期の停電経験がある米国在住の日本人からばかりだった。日本のニュースで「千葉で休校になっていた小学校が今日から授業を再開するが給食はなし。まだ停電している家庭の生徒もいて、お弁当を持っていけない子もいるのでたいへんだ。」という話を聞いて、私がツイッターで「そういう場合は、その停電している家の子と日頃親しくしている友達の親がその子を一時的に家に泊めてあげたらいいのに。」とつぶやいたら、米国在住日本人のある人は「そうだよね。うちでも去年、息子の友達で停電で困っていた子がいた。うちに泊めてあげればよかったなあ。」と返事が来た。

 

一方、日本在住の人たちからの反応はいまひとつだった。たとえば、東京在住の娘さんが千葉で停電した家に住んでいる母親を心配しているものの電話が通じないのでどうしようもないと言うだけ。私は「電話が通じないなら自分から迎えに行ったらよいのでは?千葉県はそんなに遠くはないのだし。」と返事した。

 

私はツイッターで「近場の停電していないホテルに泊まるという選択もある。成田空港近辺なら一泊1万円以下で泊まれるホテルに空室があるようだ。こういう非常事態の時の為に貯金をしているのだから、ケチらずホテルに泊まるのも良い選択と思う。」とつぶやいたら、「ホテルに泊まるなんてぜいたくだ。そんなのは金持ちの発想だ。」という返事が来た。しかし数日間のことだし、たとえば宿泊費に1日2万円かかったとしても10日間で20万円のことだ。それくらいの貯金もないのだろうか。使うべき時に使わないなんて何のために貯金をしているのだろうと思う。

 

他にも「昔は困った時に近隣で助け合ったものだが、いまどきはそういう感じではない。」とか、「屋根が壊れているし、泥棒に荒らされるかもしれないので家を留守にはできない。」とか、「罹災証明をもらうとか、被害状況の査定とかあるから家から離れられない。」とか言う人もいた。停電や家屋の損壊で被災している人たち自体が被災地から一時的に離れるという発想が少ないのも問題があると思った。停電は多くの場合は数日で終わるのだし、数日くらい友人の家に泊めてもらえば良いではないか。親戚は近くにいないかもしれないが、友達くらい近くに何人かいるだろうに。何をそんなに遠慮するのだろう。

 

ニューヨークで2012年のハリケーン・サンディーの時は、マンハッタンの我が家は5日間で停電は終わったが、私の友人は2週間くらい停電していたので、声をかけて我が家に一週間泊めてあげた。ニューヨークでは多くの人が当たり前のようにそうやって助け合っていた。ニューヨークはたしかに隣にどんな人が住んでいるのかもよく知らないのような日常生活の大都会だが、各自それなりに友達くらいはいるものだ。非常事態で困った時はお互い様で、助け合いはできる。東京近辺は都会だから人々のつながりは薄いからできないということはないと思う。

 

米国のように文化的にボランティア精神が豊かではないのかもしれないが、たぶんそういう事態になったことがなかったので、そういうことを思いつかなかっただけかもしれない。米国はそういう意味では非常時の対応に慣れているのかもしれない。自然災害だけではなく、テロにも銃乱射にもいつ遭遇するかわからない。

 

長い停電はほんとうにやっかいだ。停電すると断水も起こるので水の確保が大変だ。車にガソリンを入れたくてもガソリンスタンドのポンプが停電で動かず給油もできなくなる。水道も炊事場もトイレもない超自然派のキャンプ場にいきなり放り込まれるようなものだ。アウトドアキャンプのスキルを持っていると役に立つ。それでも携帯電話やネットがつながらないと情報が入らないので困る。電池や手回し充電で動くラジオが役に立つ。

 

アナログが大事だ。ネット回線につながったIP電話は使えないが、昔ながらの電話線につながった黒電話や留守電機能等が付いてなくて電源不要の単機能の電話なら通じる。本当に電話が通じないと助けも呼べないので危険だ。病気でたとえば酸素吸入器等が手放せない人は停電すると命にかかわる。

 

こんなふうに大停電は様々なことで影響が大きくたいへんなのだ。だから日本は現金を廃止してキャッシュレス社会への完全移行などあり得ないと思う。非常用に現金をいくらか持ち歩いてないといつどうなるかわからない。人口が一千万人程度しかおらず、自然災害が少なく停電がないことを前提にしているようなスウェーデンを真似してはいけないと思う。そのスウェーデンでさえ現金とキャッシュレス決済は共存が望ましいと政府は言っている。

 

日本は中国の行きすぎたスマホ決済や顔認証の真似もしてはいけないと思う。中国は民主化したとはいえ、共産党独裁の共産主義国であることに変わりはない。中国でも停電はあるはずだ。停電時に現金決済ができないと店から勝手に物を持ち出したり、略奪や暴動が起こる可能性が高い。実際起こっているのではないかと思うが、中国政府はそういう都合の悪いニュースは流さないだけかもしれない。

 

スマホ決済も顔認証も中国人民は政府がいう利便性に踊らされているように思える。個人情報をどんどん集めることで中国人民を管理できて中国政府にとっては都合が良いから政府はどんどん進めているふしがある。たとえば、政府にたてをつくデモ行進に参加すればどこの誰かは顔認証ですぐにわかるのだ。日頃どういう人物かもスマホ利用状況でわかる。個人の自由が脅かされるのは怖いことだ。

 

令和時代はどんどんAIが進んでいろんな社会変革が起こるだろうが、利便性ばかりに目を奪われてはいけないと思う。停電したらどうなるか、自分や家族を守るためにはどうしたらよいか、常に考えておくことが大事と思う。