海外こぼれ話107  松田龍太郎(在デュッセルドルフ/ドイツ)

2010.4

街中にウサギと卵に溢れる季節

2月下旬から4月に掛けて欧州の街の店では、イースター(復活祭)のシンボルのウサギと卵が、デコレーションとして溢れんばかりに飾り付けられる。日本ではバレンタインディーは、店の売り場がチョコレートで一杯になるが、ドイツではほとんど見られなかった。その代わりにこの季節(イースターシーズン)は、ウサギと卵を模ったチョコレートなどで埋め尽くされる。レストランやホテルも装飾され、街を彩る。イースターは、日本にはほとんど馴染みがないイエス・キリストの祭りである。キリスト教ではクリスマスと合わせて、非常に重要な行事になっている。会社もその前後は休みになり、しかも毎年その日は変わる。そのために、訪独する日程を計画する時に何度か失敗したことがあった。その日の決め方は、春分後の満月から数えて最初の日曜日にするというので、毎年変わる訳が理解できた。暦が、太陽と月に支配されていることが改めて分かる。

今年は写真の題材をこのウサギと卵と決めて、約二百枚シャッターに収めた。そうすると、今まで何気なく見ていたショーウィンドーやデコレーションが気になるようになってきた。題材と思って探せば、それらは非常に多く店に飾り付けられ、そしてその種類も星の数ほどあることが分かった。目からウロコが取れるのは、ほんのちょっとした気付きのきっかけである。

ウサギと卵の関係

ウサギや卵の飾りは、店主によるセンスが反映されるようだ。陶器製、ワラで編みこんだモノ、樹脂製、ガラス製、紙で作ったもの、縫い包み、チョコレート、板にレリーフしたものなど色々と製作しているが、それぞれに持ち味がある。また卵は鶏の卵が一般的であるが、ウズラやダチョウの卵(共に中身はない!)もある。ダチョウの卵は、なんと12から15ユーロで売られている。中身はないのに、この高価な値段は驚きであった。卵はさらにゆで卵に色を染めたものがあり、赤、黄色、青、緑などの原色の色粉で染めたものは、外観が少々グロテスクだ。割ってみると白身まで色粉が染みていることもあるが、食べることができる。これは年中スーパーでも売っているが、食習慣の違いがある。

また中身のない空の卵には、カラフルに模様や装飾が描き込まれる。これに紐をつけて、木の枝にぶら下げる。中には樹脂製のものがあり、これはもっぱら屋外の植木などにクリスマスツリーのように飾り付けられる。春の若葉が出るまで欧州の風景は殺風景なので、このようなことで春を待つのだろう。

復活祭というだけあって、卵は再生を意味することは容易に想像できる。しかし、卵にウサギという組合せは妙な感じであり疑問が湧いてくる。例えば、森で卵を隠して子供たちがそれを探す遊びを、エッグ・ハントという。子供たちが卵を探している時に、たまたまウサギが飛び出して、その場所から隠していた卵を発見し、これをウサギが卵を産んだと解釈してしまった。哺乳類が卵を産むことはないが、メルヘンや夢はこれでよいのだろう。

また、野ウサギは瞬きをしないそうで、星は瞬きするが月はしないことから、月とウサギに関係がありそうだとなり、月の使者がウサギとなった。そこで春分の日の後にある満月に登場することになったなどの諸説がある。(日本では、満月にウサギが餅をつくのが見える)サンタクロースがトナカイのソリに乗って、煙突から侵入して枕元にプレゼントを置いていくことも子供の多くは信じている。夢は夢のままで、深く詮索しないことも大切だろう。ウサギも多産であることより、子孫繁栄の意味を持っているからつじつまもあうようだ。

春は仕事も芽吹きの季節

春になると、仕事の方も新規客先で芽吹き始めた。数年前から訪問していた2社から、他の会社に移った時に出世されて、社長や工場長に就任されて私を呼ぶことが出来るようになった。欧米では、このように次々と会社を移るごとに、ステップアップされるのが当たり前になっている。権限も当然増えていくので、コンサルを呼ぶことも自分の意志決定で可能になる。日本はこのようなことが非常に難しいが、欧州ではその点お互い人間関係と信頼があれば容易に可能になる。これは、欧州で仕事をする醍醐味でもある。知識やノウハウを豊富に持っていることが重要ではなく、コンサルの人間性が良いかどうかである。それが認められるかどうかであるが、この数年はこれが益々顕著になってきていることを肌で感じる。

その中でWさんは、まだ40歳くらいだが数年のお付き合いで、本当に私の信者になってしまった。彼は、私のことを名前ではなく「センセイ」と呼ぶ。その他の信者になった人たちも、本当に素直であるからこそ、彼らの行く会社の成長も著しい良い結果を出している。

さらに4年間訪問しているC社からは、H社長自らがライバル会社の社長を口説いてくれた。普通こんなことは考えられないことだが、自分の会社の財産はノウハウではなく、従業員だということがわかっているので出来ることだ。そのことをH社長は納得されているから、ライバル会社に私が訪問するようになっても、C社自身を追いつくことはできない自信があるからこそできることだ。3つの会社で、新しい挑戦が始まるのでワクワクしている。