海外こぼれ話 120                2011.5

 

イースター祭で欧州は連休

 

春分の日から次の満月の最初にくる日曜日が、イースター祭(キリストの復活祭)として、この宗教の最大のお祭りになる。クリスマスよりも大切なお祭りであるが、日本はその影響を受けていない。この日程の決め方は、東洋人にはまったく理解しづらいものがある。それはこのイースターの日にちが毎年変わるので、ついていけないのであり文化の違いを感じる。ちなみに来年は、46日の金曜日から休みになるという具合であるが本当に混乱しますねえ。

今年の4月に入ってからの4週間は、非常に天気が良かった。しかも気温が高く散歩に出掛けたけど、暑さに参ってしまい途中舞い戻った日もあった。地元の人に尋ねると、やはり今年は異常気象という。22日の金曜日から25日までが、公のイースターの休みだ。日本のゴールデン・ウィークに相当するよい気候でもあり、この前後に休みを取って2週間くらいの休みにしてしまうのもこちらのやり方だ。このため例年はこの期間は日本に帰国しているが、今回は前後に上手く仕事が入ったために、欧州で残留することになった。

結局火曜日までの5日間が連休になったが、この良い天気のお陰で若葉だった並木は青々とし、さらに花まで一気に咲かせた。街路樹で多いのは、菩提樹と西洋の大きな栗の木である。特に栗の木は高さが10m以上もなり、数多くの鈴なりの花をつけるが、その花粉の量は桁違いに多くある。この花粉が中に舞い降り注いでくるが、暑いので窓を開けているとどんどんと部屋に舞い込んでくる。信じられないほどの量になり、連日掃除機をかけまくっていたが、こんなに掃除機をかけた記憶はない。

 

グヤッシュ・スープを料理してみた

 

ハンガリーからのお土産にトカイワイン、フォアグラ、パプリカの粉末、そしてグヤッシュ・スープの素をもらったので、アパートで料理してみることにした。ハンガリーからレシピを送ってもらって、読んでみて驚いた。使う材料が非常に多く、何時間も煮込むので時間も相当掛かるのだった。ハンガリーの人は、毎日このスープをつくっているというのでこれまたビックリした。

一度は諦めたが、インターネットで色々と調べていたら、本格的に近いものが割りと簡単にできるレシピを見つけたので挑戦してみることした。一般の市販されている材料に新たに加えるのは、香辛料のクミンと白人参であった。白人参はゴボウでも代用できると聞いていたので、根菜であれば何でも良いと判断した。そして最小の材料を揃えて台所に立ち向かった。必要なのは、とにかく美味しくなあれというお呪いである。まずは挑戦することだ!

まずは玉ネギをみじん切りにして、小さじ一杯のクミンと一緒に狐色になるまで炒める。これで30分はゆうに時間が掛かることは、カレー作りでの経験が生きている。その間にパプリカ、ニンニク、人参、ジャガイモ、入手した白人参は“ペタジリエヴェシェル”というドイツ語になっていた。関心を持って見たのは、今回が初めてなので心配だった。本当に色は白く、形はまるで人参だった。皮を剥いて一度レンジでチンして味を確認したら、芋のような味だったので、根菜に間違いないと判断し鍋の仲間にいれることにした。でも普通の人参の味とはまったく違うもので、食感もモサモサした感じだった。

まあ男の料理なんてそんなもんで、結構いい加減である。要は酒のツマミとして、代用できるかどうかが肝心だ。玉ネギが狐色になればいったん火から外して、大さじ一杯のパプリカの粉末を入れて混ぜるとハンガリー料理に近づく。

 

西洋版の寄せ鍋のようだ

 

忘れちゃいけない味の決め手は、牛肉のすね肉である。これを店で買うのは勇気がいる。カットしてあるものは、どの部位かはドイツ語なのでわからない。骨の周りに肉がついていればよいというこれまたええ加減な判断で、肉を捜すと欲しい物が見つかった。500g(後で計測すると骨の重さはなんと100gもあった)で、4ユーロと手頃な値段であった。今日使うのは3人前としたので、合計300gでよいので間に合う。この牛肉がスープの味を演出してくれるのだ。

セロリもレシピにあったが香味野菜なので、無視してその分パプリカの粉末とクミンを多く入れればよいと判断し料理を決行した。余っていたマッシュルームも細かくカットして、それらに混ぜ込むことにした。黄色のパプリカのレシピだったが、余っていた赤いパプリカもザク切りにして入れる。ちょっとしたこだわりは、材料を刻んだ時に同じ大きさにすることくらいだ。スープは多くの材料を混ぜれば良い味が出るのは、寄せ鍋の原理に合致しているはずだ。水と塩を入れて、さあ混ぜ混ぜしよう!

これらを混ぜ混ぜしながら、グツグツと中火で2時間以上煮込む。それから味を調えるために、グヤッシュ・スープの素を少しずつ入れながら味を調える。その間30分間かけて少しずつ入れるので、忍耐と根気が必要だ。時間を掛ければさらに旨味は増してくるのは、前回実感できているから安心している。その料理の労働の対価として、ビールを1本空けるのである。(500cc120円と安い)暑い台所での少しずつ味見しながらのビールは、格別な良き友である。出来栄えは自画自賛の汗の結晶であるが、皆様のお口に披露できるものではないのであしからず。

 

ハンガリーの電力会社のセミナー

 

昨年末からハンガリーとの関係が密になったようで、1月から6月まで5回訪問することになった。1月のセミナーを聞いて、是非会社のマネジャーの皆さんにも聞かせたいといって問い合わせた人がいた。ベーラさんといって、電力会社の人事部長であった。4月に2日間に分けて、人材育成に講演をして欲しいという。参加者は100人以上になるといい、二つ返事でOKのサインを出した。このようにその場で決済できると、交渉は非常に楽である。それからすぐにシナリオを作成して、ハンガリー語に翻訳をしてもらった。A4サイズで26枚の資料になった。もちろんイラストも漫画も入った資料だ。文字ばかりだと人は見ないので、ちょっとした絵を入れることで見たくなる資料に変身させる。

最初の日は、移動時間を考えるとホテルに到着するのが、23時半になるので翌朝は9時からのスタートにした。終わりは17時なので、90分の講義を4回、そして20分の休憩と60分の昼休憩を挟むことにした。すると講演の時間は、360分、つまり6時間喋りっぱなしになるが、ネタは十分にあるので心配ない。

第一日目と二日目は、2週に分けて欲しいとリクエストがあった。ちょうどイースターの前後になっていたが、内容の濃いセミナーを続けて2日間も聞けば彼らの頭もパンクするはずだ。そう2日に分けた方がお互いに得策である。ただし私の移動は大変になるだけだ。このセミナーのタイトルは“人材育成”についてとした。トップとマネジャーに、この激動する市場変化に対応できる思想や新しいマネジメントを紹介するものにした。最初の出だしで紹介するべきことは電力会社なので、一番の関心事である東京電力の福島にある原発のことだった。特に会社のトップが、普段から危機意識を持たないで何もしようとせずに、先送りばかりしていた体質の問題をクローズアップし説明した。

 

初日の評価は「非常によい!」

 

会場はその街の大きなホテルの結婚式場を目一杯使って、円形テーブル形式で110人が並んだ。正面は大きなスクリーンで数mもある。最初に一番奥の人に私の肉声が聞こえるか挙手にて確認したら、全員聞こえるというサインが返ってきたので、マイクは使わず通訳のみが使うことにした。これで自由自在に動くことができる。声が聞こえなくても、日本語は訳がわからないから不要だということではない。声のイントネーションや大きさ、顔の表情や言い方も重要な伝達手段になる。マイクを通すよりもやはり生の方がよく伝わる。

さらに意味のあるのは、身振り手振りである。しかも私は会場内を縦横無尽に歩き回り、一番後ろまで行ってインタビューまでやってしまう。まるで舞台に立った役者そのものである。実は講演の場合には、このように一人芝居を演じている。恥ずかしがらずに成りきってしまうことが肝心だ。中途半端にやると馬鹿に見えてしまうので要注意だ。これはもしかして、前進座にいた叔父の血が流れているからかもしれない。

さらに話の途中にクイズを出したり、参加者同士の対話をさせたり、こちらから質問をしたり、軽い運動をしたりもする。さらに冗談ビデオもタイミングよく上映して、その意味を付け加えて考えさせる。それらで退屈せずに、講演を理解・納得してもらう細心の心配りをする。まるで即興芝居のようでもある。講演を聴いても、行動しなければ意味がないからだ。できれば結果も出すとことで、今度はコンサルティングにつながるからだ。初日は結局使ったテキストは、26枚中たった7枚だった。あと一日で19枚の説明ができるか?それは心配ない。自分で作った資料なので、何を伝えたいかすべて知り尽くしているから、時間調整はお手の物だ。17時に終わった時に一番前の席にいた人が「非常に良かった」と握手を求めてきたが、なんと彼が社長であった。人事部長は社長のことをまったく紹介しなかったが、これは彼の作戦であったようだ。

初日の結果が出たので連絡があった。「非常によい」という最上級の評価がなんと83%もあり、人事部長のべーラさんが驚いていた。「よくなかったという人が3人もいたが、まだ頭が開いていない」とベーラさんが言い訳をしていた。講演やセミナーで100%全員が良かったなんてありえないので、3人というのは非常に少ないと答えた。すべての人が良いと評価するとその講演は、なにかの間違いだ。十人十色というくらい反応は違うのが当たり前で、少々の反対派(10%程度)がいるのが普通であると逆に慰めてあげるはめになった。

 

2日目も大好評だった

 

2日目は、いつも前回の復習をしている。それは前のことを思い出せてこれから話をすることへの助走であり、これがかなり脳を意識させて理解できるようだ。前回の質問が携帯電話から直接会場内のスクリーンに映し出されることは、このハンガリーで初めて体験した。その質問もタイムリーに対応しながら講演を進めていった。午後からは改善ツールの紹介のリクエストがあり、午前中にはほぼ説明し終えて午後に備えた。最初に肝の部分を話して置くので、あとで出てくるものは簡単に済ますことができで、参加者が納得する方法である。最初の枕詞に色々な例え話の材料を盛り込んでおくと、その材料がいい味を醸し出してくれる。その一つの見えるものと見えないものの話を紹介しよう。

「ハイ!皆さん、松田が見えますね。」といってフリップチャートに松田の立っている姿を描き、そして参加者の皆さんの頭上から眼だけを強調した頭部の絵を描きます。そして鼻は点線で描きます。「皆さんはご自分の鼻が見えますか?」と質問すると「見えない」との回答がくる。「では、これから皆さんの鼻を見ることができるお呪いをします。」会場は???。「ハイ!人差し指を皆さんの鼻に当ててください。そして少し両目を寄せて、人差し指を見てください。」といって「ご自分の鼻が見えますか?」すると、「見えたよ!」と回答が出てきだす。すると多くの人が見え初めて、笑い声がするようになる。

そして、フリップチャートに点線で描いた鼻に実線で描き加える。いつも見えている鼻は、脳のフィルターが視界の邪魔になるので、カットしていることを説明する。さらに本題として「毎日現場を見ているつもりになっているが、毎日見ているものは脳が見ないようにしているのですよ」と解説する。でもちょっと意識をすることにより、見えなかったものが見えるようになることを紹介するのである。現場に出て観察をする時に、「どう?」と鼻に指をつけて見ると、彼らはニコニコしながら「見えるようになったよ」と笑顔で答えだす。というような持ちネタを出しながら、セミナーを進めていくのである。

 

お土産まで頂く

 

そして最大の見世物は、5本の指を使って32まで数を数えるものだった。(注:時計は60進法と12進法、普通の数字の計算は10進法。この数の数え方は2進法であり、01の組合せで、桁が上がっていく数え方です。この応用がコンピュータになっています。)今回もこれを壇上で紹介したら、拍手喝さいとなった。このようなエンタテイメントは、脳に大きなインパクトを与える。これが次ぎの商売に結びつくのである。なんといっても、この世界も口コミが一番の宣伝効果がある。予定の紹介のテキストはすべて説明できた。また別に用意した資料もてきぱきと伝えることもできた。ただ多くの質問があり、そのすべてに回答できなかったのは残念だった。話も食事や酒も、あともう少しというくらいで収めるのがよい。最後に社長に総括として2日間の感想を述べてもらったが、非常に満足されたようだ。私が描いた手描きのマイクは、記念にもらっておくと持ち帰られた。

また講演のお礼にと、1995年もののトカイワイン、ハンガリー狂想曲やワインの歌の入ったCD、そしてハンガリーで40年前のテレビで放映されていた科学実験のDVDを頂いた。それは身振り手振りを交えながら、しかも大きな声で面白い実験をやる人が、松田そっくりだといってベーラさんがわざわざ録画したという。この科学実験は、まるで鉄腕アトムに登場したお茶の水博士のような教授が実験をしながら、原理原則をわかりやすく小学生を相手に解説する番組だった。全部見たらなんと2時間半もあり、解説もハンガリー語だったが実験の内容は非常によくわかるものだった。なるほど私そっくりのやり方であったが、でも私の頭には頭髪が随分残っていることが大きな違いだった。

 

コンサルは企業の仲人

 

話はドイツに戻る。南ドイツのS社は、昨年末から毎月訪問するようになった。今月は2週間連続の訪問になった。若い社長のHさんは、最初余り関心を持たれていなかったが、従業員と一緒に製造現場で改善に取組んでもらうように仕向けた。すると段々興味を持たれ、自ら積極的に参加されるようになった。このことには、数年前から訪問している隣の印刷会社の社長も私と同行してもらっている。工場をつぶさに見て回っていることで、様変わりした結果をご存知だったので、すんなり私との同行も受け入れられた。今回も予定されていた出張を取りやめて、改善のワークショップに私と同行されたほどだ。そして、ものの見方、考え方を直接私から伝える機会を持ってもらった。

今回訪問した時に報告があるといわれるので、伺うと古い工場の製造部長と製造課長にお灸を据えて刺激を与えたことだった。それは彼らを改善に参加させても、一向に考え方を変えることがなく、今後の見込みもないと判断された結果のようだ。現在の市場変化に追従できないと、このようにお灸をすえることになる。チャンスを与えても変わろうとしないで、旧態依然のことを固辞する上司よりも、実際に付加価値を生んでいる部下たちを守る方に価値がある。

社長が現場に出ることが珍しい欧州の企業では、トップが現場に姿を見せ、質問などをして関心を見せると、改善の結果は本当に劇的によくなる。改善の業績や効果が出る企業の共通した取組みの成功の鍵は、トップの熱意というのが証明できるくらいだ。従ってコンサルの取組みは、いかにトップに関心を持って現場に出向いて従業員に自分の想いを熱く語れるように、誘い水を注ぐかに掛かっているといってよいほどだ。最後日には私にもっと訪問してもらいたいというリクエストがあったほど、関心が高まってきた。

今回はハングルクにある昨年から訪問している企業の、改善担当者の2人にもこの会社に訪問してもらった。2社とも世界的に有名な会社でもあり、効果が出ると私の評判もよくなり、良い宣伝効果にもなる。それ以上に異業種交流による相互の協力関係を築くことができる。そのきっかけをコンサルがまるで仲人のように取り持つのである。業種は違っても抱えている問題の根っこはまったく同じであり、ただ取組み方が企業によって違うだけだ。交流することで相互に多くの気付きが出るのである。企業の仲人は本当に楽しいものである。