海外こぼれ話 122                2011.7

 

新婚さんの部屋に泊まる

 

訪欧していると毎週2回、3回とホテルを転々するため、落ち着けないので訪問先のホテルと部屋も固定化する改善をした。北ドイツのF社には、昨年からもう10回も訪問している。宿泊するホテルも一定化し、さらに部屋も1号室に決めた。このホテルとレストランは家族で経営しており、おばあちゃんも忙しい時にはウエイトレスに変身して、軽やかな対応をしてくれる。

今回フロントに着くと、「今日は6号室でお願いしたい」と申し出があった。部屋が一杯であり、常連の私にそういうのだから致し方なかった。まだ泊まったことのない6号室に入ったら、いきなりドアの前にドアがあった。そこは荷物だけを置く小さな部屋で、そのドアを開けるとその先には見たことのある大きなダブルベッドが横たわっていた。このホテルで唯一のスイートルームであった。なぜ知っているかといえば、フロントのすぐ横にある小部屋(レストランに入る前にちょっと待つ部屋)に新婚さんのカップルの写真が数十枚貼ってあり、その部屋の写真も数枚あったので、何度も見ていて記憶があったのだ。

なんと今日から3日間は、一人寂しく今までに多くの新婚さんが夜を過ごした部屋で、悶々と過ごさなければならない。でもこの部屋は1号室の倍以上も広く、仕事のできる広い机も整備されていた。床もきしみ音がなく、ベッドもギシギシという音もなくやはりランクが上であった。ベッドに横たわると天井には、大きな葡萄が飾りとして吊り下げられていた。子沢山を期待しているかのような意味深な細工だ。風呂もついていたので、ゆっくりと浸かり疲れを取ることができる。たまたまお客様が多くあり満室だったので、今回は同じ料金で泊まることができた。これが常連へのサービスかもしれない。

そういえば、ルフトハンザ航空とエアーベルリン航空に乗る機会が増えて、今年から両方ともにシルバーのマイレージカードになった。すると以前は席を頼んでも後ろの方であったが、前方になって、しかも隣の席は誰も座らないような配慮もしてくれることが俄然多くなった。また優先レーンの使用ができ、並ばなくても早く搭乗できるようになった。これが差別化であり、えこひいきであり、サービスを受ける側にとっては断然気分がよい。

 

レストランでの出来事

 

そのホテルのレストランに入ると眼鏡をかけたウエイトレス(彼女は何度も会っている顔馴染み)が、「今日の飲み物は?」と聞いてきた。しかしこちらが答える前に「あなたは、バイツェン・ドゥンケル(黒い麦ビール)にしなさい」といわれてしまった。ついでに「前菜は、いつも頼むタパス(小皿料理)でしょう?」と問いただしてきたが、よく知っているなあ。大体宿泊するホテルのレストランでは、意識していなかったが食事のパターンが決まっていたようだ。このレストランのタパスは、北ドイツにしては非常に美味しいもので、9種類の海鮮や肉などが宝石のように並べられている。日本の懐石料理で出てくる八角の少し大きくしたものだ。味のバラエティーもあり、見た目にも楽しい料理だ。

次々と客が入ってきたが、腕のよいコックがいるので繁盛している。ここのコックはオーナー自身であり、このような形態は欧州で多く見ることができる。ホテルのオーナー兼レストランのオーナー兼シェフであり、多能工化ができている。ただしここのシェフは、滅多にホールまで来て挨拶をしない無愛想なやつだ。その分奥さんがいつも名前で呼んでくれる。他のレストランでは、ホールの客席まで来て「シュメクト? (美味しいですか?) 」と笑顔で対応してくれる。客としてもやっぱりシェフが顔を見せて、話をしてくれる方が断然よい。

朝は5時におきて7時から朝食を取ることにして、いつも一定にしてリズムを作っている。この日の朝食の準備をしてくれたウエイトレスに挨拶をしたら、なんと中学生のようであった。この子は今回が初対面で身長は150cmくらいで小さく、顔は本当に幼く歌手の安室奈美恵のように小顔であった。だが目玉焼きを頼んだら今まで一番形のよいものを作ってくれた。翌日もその子であり、就労違反をしていないかと心配になった。それを確認しようと、ディナーの時に別なウエイトレスに訊ねた。その子の歳は、19 (信じられない!) で、ちゃんと証明書の両親のサインまで見たという。やはり彼女も信じられなくて確認したというが、本当に幼い顔であった。

別な小顔で背の高いウエイトレスは、今月末でここを終了してウエイトレスの試験を受けるので、お別れの挨拶に来た。日本のアルバイト感覚のようにウエイトレスは誰でもできるというものではなく、きちんとこの職業にも試験も訓練もある。これは本屋さんの店員であれば、単に本を売るのではなく、訊ねた本の内容や解説までしてくれるほど知識を持った店員であり、まさにマイスターである。

 

レイアウト変更に段ボールを使う

 

F社に訪問してセミナーとワークショップを開催したら、1つのチームが今週末に4台の工作機械を購入してすぐにフロアに配置をするという。事前に13回の会議で何度も検討した結果であり、彼らは自信満々であった。「ちょっと待てえ!」と検討した設備の配置図(レイアウト図)を見せてくれと頼んだ。案の定、2次元の世界で検討したものであり、私の求めている4次元の世界のレイアウトになっていなかった。急きょこのチームに特別の講義を行うことにした。設備を決められたスペースに入れることだけを考えていても、後で大きな間違いがあることを何度も体験していて、胃に穴が開くほど悩んだこともあった。そこで彼らに間違いの少ない方法を伝授することにした。

加工する材料がどの方向から投入され、どの方向から出て行くのかが描いていない点を指摘した。その場合にどれだけの量なのか、時間的な要素も加味して計算することも指摘した。そして段取り替えの台車置き場、空箱置き場、補材置き場なども指摘した。これで3次元になった。さらに時間の流れに沿ってどう変化していくかのシミュレーションを加えて捉えることを紹介したら、彼らは目からウロコが取れた状態になった。これで4次元の世界になる。それでさらに実際に配置するフロアに行って、段ボール箱を用意させた。段ボールを組み立ててこれを設備に見立てた。イメージが湧かないというので、設備の写真をコピーさせて段ボールに貼り付けした。

さらに制御盤も段ボールで作り、マジックで画面やキーボードなどを描き込んだ。それで実際にオペレーターに作業してもらいながら、歩行が少なく効率のよいレイアウトを何度も検討し繰り返した。大きなミスが発見されたのは、柱の位置だった。図面のままで配置をしていたら、大騒動になっていたことがわかりホッとしていた。ここで普段からいっている、現場に出て現物を確認することの大切さを納得したようだ。結局2日間で4回の変更を行い、3日目の朝に搬入された新しい設備をすんなり設置することができた。すべて段ボールなので簡単に持ち運びができ、固定観念がなくなり自由な発想ができるようになり、非常に積極的に考えることができるのだ。

さらに彼らに「お金は使うな!もっと頭を使え!ローコスト!いやいやノーコストを目指せ!」と檄を飛ばした。そうすると彼らはどんどんよいアイデアを出すようになる。コンサルはこの時に爽快感を感じるのだ。まるでサドである。私の会社名が、「SMC」なのは「サドマゾクラブ」の略だといった人がいるが、まさにそれかもしれない。実は、「凄く真面目なコンサルタント」の略です(これも嘘ですよ)。

 

ハンガリーのセミナーは大好評

 

昨年末から毎月通い始めたのは、ハンガリーである。またまたハンガリーの話をお届けしよう。6月下旬の1日目はブダペスト市内で、6時間ぶっ続けのセミナーだった。しかもその前夜はドイツからの移動で飛行機が遅れてしまい、ホテルに到着したのは午前様であった。ホテルはベランダ付きでダブルベッドとツインベッドの部屋があり、それぞれにバスルームも付いていた。さらに調理場とリビングの付いた大きな部屋だった。こんな大きな部屋に7時間もいないのはもったいなかったので、荷物の中身をすべて広げてみたが空しかった。

9時から始まるので8時過ぎにはお迎えがあり、すぐにセミナーの準備に取り掛かった。40人以上も集まった盛況なセミナーであり、いつものように明るく楽しくそして有益な話を、ユーモアとジェスチャーを交えて講演をした。今回から90分の講演のインターバルの間に、終わりの10分は質疑応答を入れて欲しいと主催者側からリクエストがあり、対応するようにした。最初は恥かしがりやのハンガリー人なので、手はなかなか上がらなかったが、一人が質問すると次々に質問が出るようになった。熱心になると時間を無視して話をするわがままなやつもいた。私のいうことが信じられないと、顔を真っ赤にして興奮して反論する人もいた。そこで「あなたは経営者かそれともマネジャーか?」と訊ねたら、マネジャーだと答えたので、「この話は経営者にならないとわからないので、もっと勉強しなさい」と突っぱねたらシュンとしてしまった。あとで聞くとこの人はいろいろなセミナーに参加している人で、どこでも横柄で癖のある鼻ツマミな人だったというので納得した。

セミナーの終了後にすぐにアンケート結果が集計されると、非常に良い評価が8割以上もあった。これは通訳のキッシュさんのお蔭である。私の早口な話を聞き手に通じるように上手く翻訳してアレンジしなければならないが、その才能は本当に凄い。しかも90分の講演を4本連続して翻訳するので、緊張感の持続も素晴らしい。すぐに12月にも来て欲しいとリクエストがあり、即応した。ブダペストは非常に暑く、35度にもなっていただろう。幸いセミナー会場は冷房がしっかり効いていたが、8時半から立ちっぱなしで動き回っての講演だったので、汗まみれであった。16時半に終わってすぐに1時間半移動して、2日目のセミナー会場に向かった。

 

ハンガリーへようこそ

 

よく聞くと、3年前に訪問してワークショップをしたR社であった。そこはハンガリーの教会の総本山がある場所だったことを思い出した。そこのホテルで、オイルマッサージをしてもらった記憶も蘇って来た。

すぐに世話人のPさんに電話をしてもらい、今晩のマッサージの予約をしてもらった。ホテルに電話をすると、「それは不可能だ」という返事が返ってきた。耳を疑ったが、客商売をしていて「それは不可能だ」という返事はないはずだ。3年前はよい返事でOKであったのに、不思議だ。マッサージは外部業者であることは前回から知っている。とにかく不可能だと会話にならない対応だった。

ホテルのフロントに着くと、その対応した若い女性がいた。おそらく面倒くさかったのだろう。気持ちは理解できるが、納得はできない対応だ。まだハンガリーには、サービスは遠い世界のようだ。部屋は前回と違って最も大きな部屋を用意したというので、エレベーターを探すとそれはなく、階段を使って3階まで上がることになった。

その部屋は西日が当たりサウナのようであった。幸い日本製のD社のエアコンがついていたので、早速スイッチを入れるが動作しない。何度も色々なボタンを操作するが、一向にウンともスンとも動かない。仕方ないので窓を開けて晩御飯を食べに行くことにした。晩御飯はこのホテルに食事をするところはないので、隣のレストランに行くことにした。3年前にも利用した店だった。庭のテーブルに席を取り、メニューを見るとなんと日本語が併記されていた。こんな田舎に日本語のメニューがあったかと不思議に思ったら、近くに自動車メーカーのS社の大きな工場があったのだ。なるほどと合点がいった。

グヤッシュ・スープと豚肉料理を堪能した。部屋に戻って再度エアコンに挑戦すると、ようやく動作をし始めたがパワフルボタンを押しても微風のようなぬるい風だけしか出てこなかった。イライラしてしまい頭がカッカしてきた。扇風機があったが、カバーがなく羽が直接回っていた。安全の網は風を妨げるようなので撤去してあるのだろう。すると雨が降り出したので結局窓を開けて寝たが、暑苦しく熟睡ができなかった。

 

工場でのセミナーも大好評

 

朝は7時半からR社の工場見学をして、その結果を踏まえて講義をして欲しいという要求であった。睡眠不足であったが、そんなことをいってはプロとして恥だ(かっこいい台詞だなあ)。工場に着くと元気のよい社長が出迎えてくれた。早速工場を視察して、改善個所と合わせて指摘個所の写真を50枚撮った。特に指摘個所の突っ込みは、少々毒を入れながらユーモアたっぷりに解説したので、皆さんは笑っていいのか迷っていた。迷わなくても大笑いすればよい。

この工場も40名の幹部が繁忙中にも関わらず参加してくれた。実は反対派も多かったが社長の一声で決まったようだ。先ほどの写真を全員に見せながらこの3年間の活動の評価に加えて、改善すべきヒントを出していった。午前中の講義だけでも、彼らにとって非常によい刺激が得られたようだ。3年前はリーマンショックの前であり、その後売上げが低下したが、社員をリストラしないで耐えてきたという。

皆で給与を下げて対応した結果、逆に全社員の結束力が増して改善に弾みがついたようだ。視察した時に床に、まったくゴミがなかったのにはビックリした。3年前はゴミがあることが当たり前で、整理・整頓もレベルは低かった。至るところに改善した形跡が見られたのは、その改善の効果であった。社長は3年前の講義の中で、社員の持っているノウハウが財産なので、改善してもリストラしないことを実行してくれたのだ。そのことを社長は肝に銘じて取組んで来たこと誇りにしていた。今は以前と同じくらいに景気が戻ってきたようだ。新たに改善するための道具も紹介しておいたので、また訪問することが楽しみになって来た。ハンガリーでは少ないコンサルとの出会いでも、その機会を非常に素直に取り入れて改善を自ら進める力を持っていることから、彼らの潜在能力は大いに期待できる。日本はこのような貪欲さが失われているように感じる。

 

ブダペストでCM撮影があった

 

ハンガリーの首都であるブダペストは、欧州の真珠ともいわれ非常に景観がよい。人口200万人でハンガリーの2割の人が住んでいる。町並みは中世以降の古い建物が多く残されている。実は第二次世界大戦の空爆で町のほぼ半分が壊滅したが、法律で前の建物と同じものを建てることで元の町並みが保たれている。オランダのアムステルダムも同様に数百年前の建物が改築されながらも、前の外観の様式で建てられている。この思想は素晴らしいもので、今は貴重な観光の資源になって街づくりの基本ができている。

6月の中旬に、1週間にわたってブダペストで大掛かりなCM撮影が繰り広げられたらしい。なんでも洋服の某ブランドの撮影のために、NHKの大河ドラマに主演しているJ嬢がやってきたのだ。今は徳川家忠とどうなるかの最中であるが、まあドラマ以外の仕事もあるのは良いことだ。彼女のマネジャーやスタイリストなど数人、それに加えてスタッフは日本から十数名。さらにハンガリーのスタッフは70人近く、エキストラはなんと100人という大編成で、たった30秒のCMにこれほどの時間と労力をかけるのであった。

そのJ嬢の通訳には、ハンガリーでお馴染みのキッシュさんが担当した。その翌週には、鳥取の田舎出身の経営コンサルタントの通訳をするというこのギャップが凄い。J嬢は、彼女が映画の新人賞を総なめした「スウィング・ガールズ」(実は何十回もDVDで観ていて、特にチャプター20からが楽しい)の主演をして話題になり、その後「のだめ」でさらに有名になった女優だ。J嬢がどのような人であったか聴いてみたら、「のだめ」ちゃんと「江」姫のキャラクターを兼ね備えているという。それでもってかなり喜怒哀楽がはっきりしているという。詳細を口外できないのが残念だなあ。撮影は上手くいったようで、ここが別の欧州の有名な都市とは思えないほど巧妙にアレンジされているが、実はハンガリーの首都のブダペストであった。