海外こぼれ話 123  2011.8  松田龍太郎

 

なでしこジャパンがW杯で優勝

 ドイツに来ている時に女子サッカーのワールドカップの試合が、ドイツのフランクフルトで行われていた。なでしこジャパンが強敵のドイツに勝った翌日に、デュッセルドルフ空港に行ってチェックインしたら、突然「コングラッチュレイション!(おめでとう)」と挨拶してくれた。昨日のサッカーの試合のことで、私が日本人だとわかって声を掛けてくれたのだ。最近は暗い話題しかなかったが、準々決勝でドイツに勝ったのは、非常に明るいニュースになった。さらになでしこジャパンは、準決勝でスウェーデンにも勝って、決勝まで進むことができた。まだ勝ったことのないアメリカ相手に勝てるのだろうか?そこはドイツの勝負を占うタコの采配に期待をすると、なんと日本が勝つ方に軍配を上げたので、ここは神頼みならぬタコ頼みにすがった。

 当日はドイツでは、夜の8時45分からの開始であった。テレビで前半戦を観戦したが、ハラハラドキドキの場面が多過ぎて、心臓はバクバクで血圧が上昇してきた。夜遅くなることもあり、翌朝に備えて寝ることにした。朝早速インターネットで検索すると延長の末PK戦で、3―1で勝ったことがわかった。すぐに新聞を入手して写真を撮っておいた。

第一面のタイトルには「日本は世界チャンピオン」と、眼に飛び込んできた。「Japan ist Weltmeisterin」とあった。「ベルトマイスター」は、世界チャンピオンという意味で、女性なので“ベルトマイステリン”となっている。ちなみに“Weltmeister”は、ドイツのアコーディオン専門メーカーの会社名になっている。マイスターは、親方、先生、支配者」などという意味だが、「Welt」がつくと世界チャンピオンになることを初めて知った。しかしながら彼女たちのあの驚異の粘りは、執念以上のものがあったに違いない。

良く利用したドイツの空港の数々

 訪問する先々でこの話題になったが、3月の震災とは大違いであり、内容が嬉しいことなので何度でも受け入れ体制は準備できている。しかも開催国であるドイツと日本が、今年国交150周年の記念すべき年であったことは偶然ではないと思う。考えてみればもうドイツに通い始めて12年になり、毎月のように訪独しているので、140回くらいの往復回数になる。お蔭様でフランクフルト空港の日航職員の皆さんとは、顔馴染みになってしまったくらいだ。

 日本には島国だということもあり、小さな島にもそれぞれの空港があるため、合計95も空港が存在する。ドイツは島がほとんどなく、アウトバーンが非常に発達しているので、空港の数は日本の3割くらいだ。それでも各地方に移動する機会が非常に多いので、その利用した空港を確認してみた。皆さんご存知のフランクフルト・アム・マインは、現在日本との直行便が最も多い空港である。フランクフルトの後にアム・マイン(マイン河畔のという意味)と余分なものがつくのは、理由があった。それはベルリンの遥か東、ポーランドとの国境近くに同じ呼び名の町があるので、区分するためだ。これはドイツに多く見られる現象で、鉄道でも括弧で囲って同じ地名を河川の流域で分けている。その点日本の鉄道は、同じ駅名がない。

ベルリンには以前2つの空港があった。それは東西に分かれていた名残だが、今はベルリン・テーゲル空港に統一された。デュッセルドルフ、ミュンヘン、ハンブルク、ケルン、ハノーファー、ミュンスター・オスナブルク、ブレーメン、カールスルーヘ、シュトゥットガルト、ニュールンベルク、ホッフ、ドレスデン、ライプチッヒ、昔北の果てにあったキール、一番南のフリードリッヒサーフィーンと多くの空港に訪れることができた。

最近はさらにチェコのプラハ、ハンガリーのブダペスト、スイスのジュネーブ、イタリアのミラノなども使っている。このため空港に降り立った時にどの空港かわからなくなり、すぐに出口が見つからず混乱することも良くある現象になってきた。その慰めのためにルフトハンザ航空とエアベルリン航空のマイルカードが、グレードアップしてシルバーになった。そのお蔭で優先ゲートを使うことができたり、ラウンジが使えるようになったりと少しいい気分になれる。かばんの中はいつも、JALと合わせて3つカードが入っている。

ようこそルフトハンザ

7月にチェコのシュンペルク(プラハから車で3時間半東にある)に出張することになった。これまでに何度か訪問しているところだ。でも最近東欧に出かけると、何かと不具合が発生するようになってきたが、年のせいなのか鬼門なのかは不明だ。今回はパスポートを、何度もアパートでチェックして少し早く出掛けた。今回はホテルの近くに教会はないので安心をしていたが、空港の自動チケット発券機を操作すると、またまた事件が起こった。

最近のルフトハンザ航空の発券機が、画面で日本語も選べるほどグレードアップしてきたのは良いことだ。そこでパスポートを機械に読み込ませると、次に便名入力画面が出てくる。そして便名の「LH3022」と入力すると、「あなたの飛行機は、欠航します。でも代わりの飛行機を手配しました。」と表示が出てきた。何?14:30発の次の便は18:10発で、4時間も待たなければならないのか。今回もまた東欧は、年の問題ではなく鬼門となってしまったようだ。

荷物を飛行機に預けるために、チケットカウンターに行った。4時間の遅れに対して、お詫びだといって空港内の飲食店のクーポン券(10ユーロ分)を付けてくれた。JALならば2000円のクーポン券であるが、ルフトハンザはその半分であり、やはりドイツはケチである。でも「なぜにLH3022便は飛ばないのか?(怒)」としつこく訊ねたら、「技術的問題です。」とドイツ鉄道と同じ模範解答がここも出てきた。腹が立ってきたので、「これがルフトハンザだね!」といったら、女性の係員は申し訳なさそうに下を向いてしまった。ドイツ人にまだ反省する心を持った人がいたので、まんざら捨てたものではないと驚きであった。

実はこの「技術的問題」は、乗客が少なく飛ばすのにはコストが掛かりすぎるので、次の便と合わせて乗客を運ぼうとする間引き運航そのものである。これは過去の体験からわかったものだが、自分の都合しか考えない会社だと再認識した。もらったクーポン券は、先ほど腹一杯昼ごはんを食べたので意味はなかった。時間があったので、移動中に読もうと思っていた本を読んでしまった。

次のLH3024便に乗ったら、この便は管制塔からの指示で1時間遅れての出発になると放送があった。乗っている乗客からため息が出た。おとなしく時間を待っていたら追い討ちがあり、さらに30分も遅れるという放送があった。結局1時間半も遅れて、19:30に出発することになった。プラハ空港で待っている通訳などの人たちも、5時間半も待ちぼうけを喰らってしまった。ホテルにたどり着いたら24時であった。もうため息も出なくなっていた。

チェコの車は終日点灯の義務

チェコの車は日中でもライトを点灯させて走っていることに気づいたので、訊ねてみたら24時間いつも点灯させる義務になっていて、やはり事故防止だという。そういえば街路灯はほとんどないので、いつでも点灯させて走ることで黄昏時の曖昧さを払拭できるわけだ。チェコと経緯が同じドイツでまだ義務化されていないのは、街路灯が多いからというわけでもなさそうだ。

日本では夕方や夜になっても点灯しない車が走っているが、電気が勿体ないという無神経からなのか、安全に対する意識が非常に低い。それともフクロウみたいに、目のよく見える人が運転しているのかは疑問だ。日本の高校生の自転車の無点灯は、特に秋からの夕暮れ時には困ったものである。黒い学生服に無灯火で走るのは、まるで自殺行為で危険だ。倉吉市内の工場に通っていた頃に、夜になっても無灯火の自転車で土手を走っている某高校の生徒たちに「点灯しなさい!」と注意をしたことがあった。

翌日にそのことを直接校長に電話をしたら「内の生徒は皆良い生徒だから、無灯火で走るような生徒はいない。」と、ケンモホロロに電話を切られてしまった。生徒を100%信じる校長が素晴らしいのか、現実をまったく見ようとしない面倒くささなのか、事故があっても知らん顔して早く定年を迎えたいのか、その時の疑問を二十年ぶりに思い出した。

チェコの大学は非常に厳しい

チェコの工場はドイツの子会社なので、優秀な社員はチェコ語とドイツ語さらには英語も堪能である人がいる。改善担当のズザーナさんも、3カ国を自由に操れる一人だ。ドイツからの担当者は、今回2人とも英語が堪能であった。私は倉吉弁、米子弁、日本語と3つが堪能であるが、彼らとはまったく比較にはならない。ズザーナさんは、大学の修士を卒業している女性だ。彼女は卒業と同時にこの会社に就職して、すぐに改善担当になり、一人でこの3年間全員を引っ張ってきた。言ったことは必ず実行して、言い訳もしない。しかもいつも笑顔だ。後戻りがなく確実に前進しているのは、彼女の力といってもよい。

通訳の司鼓良さんに聞いてみると、チェコの大学は卒業が非常に難しいという。高校は19歳で卒業して大学に入学するが、期間は3年間だ。ただし卒業試験が非常に難しく、卒業試験に何と普通1年間も勉強するので、結局4年間も勉強することになるらしい。本当に勉強するために大学にいくのである。

卒業試験は書類の試験もあるが、チェコは教授たちからの口頭による質問攻めに2時間も戦うために1年間という時間を費やすのだという。えらいこっちゃ!日本ならば、卒業浪人ばかりの大学になってしまう。しかしそれに耐えて、無事卒業できたらば国家試験と同じ価値があり、すぐに就職ができるという。医者と弁護士も同様であり、試験に合格すると即開業できるほどの権威がつくというが、厳しいことはこの上ないらしい。さらにチェコでは、大学を卒業する人の95%以上の人たちは、さらに上の修士課程に進むという。そういえば欧州の人の名刺には、修士や博士であることが必ず記載されている。ズザーナさんは、入社した時から個室を充てがわれている。部屋のドアにある名札にも、修士と表示されている。工場なのにいつも私服で、しかも今回はミニスカートだ。

ようこそドイツ鉄道

毎度お馴染みのドイツ鉄道だ。いつも話題を提供して、読者の皆様をいつまでも楽しませてくれるが、私にとってはいい迷惑以外のなにものでもない。最近ドイツ事務所に入社した新人は、世にも奇妙なチケットの手配をしてくれて私と通訳を混乱させてくれる。これが良い刺激かどうかはわからないが、脳が活性化する要因になっていることは確かだ。ある駅からホテルまでタクシーで行けば20分のところ(値段は35ユーロ)を、Sバーンという地下鉄の乗り継ぎで1時間半も掛かる手配をしてくれた。値段は2人で10ユーロなので、25ユーロのコストダウンができたと喜んでいた。しかし、その日は乗り継ぎから先は工事中で、途中までしか行けないことを新人の彼は知るよしもなかった。

先日南ドイツからケルンまで帰る時のことだった。Mさんが非常に疲れていたので、ハイブローン駅から寝かせておいた。しかしフランクフルト空港駅でなにやら怪しげな放送があったので、彼を起こして放送を聞いてもらった。するとこの先で人身事故があって、通行止めになりライン川の沿線経由でケルンまで行くという内容だった。つまり 1時間以上も時間が掛かることになった。キリスト教では自殺はないはずだが、最近は列車への飛び込み事故がよく発生するようになった。殺伐とした世の中は世界に広がって来たようだ。現場検証のために、相当な時間が掛かるのは日本も一緒だ。

それまで二人とも同じ時間にケルンに到着するものだと思っていたが、私は21時着、通訳のMさんは22時のチケットになっていた。それはフランクフルト駅に着いた時に例の放送がきっかけで、お互いの到着時刻が違うことがわかった。事務所が別々の時刻のチケットを送信していたのだ。彼は今までに何度も大きなミスをしたが、必ず言い訳をして絶対にミスを認めなかったので、今回もどんな言い訳をするか楽しみである。欧州の人たちは、素直に謝罪できない人種が多くいるようだ。

仕方ないので列車の旅を楽しむことにした。7月は日没が22時ごろなので実に久しぶりに、ライン川の景観を見ながらの帰り道になるので楽しみだった。雨が極端に少ないので、随分と川底の石が見える。順調に走っていたが、駅のないところで停止したままになった。数分してから車内放送があった。「ポイントの切り替えのある駅舎が火事になり、今消火をしています。火が消え次第に出発します。」と、これまでの「技術的問題です。」とはいわずに、正直に状況を放送したものだから、車内は大笑いに包まれた。十分後に列車は出発したが、結局2時間の遅れになった。ドイツ鉄道にようこそ。

田舎のホテルの鍵の取扱い

2時間遅れたので、後のWerdohlへの移動も大変になった。ケルンからさらにタクシーで1時間半の移動になると、目指すホテルに着くころには24時を過ぎてしまう。しかも田舎のホテルなので従業員は23時には帰るという。そこで鍵の受け渡し方法を確認することになった。ホテルの入り口の右側にある郵便ホストのような箱が鍵を入れる箱になっていて、今日の私の部屋の番号は、「22222」と5回「2」を押せば、その扉が開いて鍵が出てくるというからくりの世界(一応電気式)だった。

別なホテルは、勝手口の方にある高さ80cm、直径40cmほどの巨大な灰皿の底の下に封筒に入った鍵を置いてくれたが、ここはまだ近代的だ。もっと田舎は花壇の中などに鍵を置く。鍵の置き方でも、海外こぼれ話シリーズができるほどだ。このような鍵のやり取りは日本では考えられないが、欧州はまだ泥棒が少ないというか、まだ平和な人たちが一杯かもしれない。

ドイツのホテルの鍵は、どっしりと重くなっている。それは持つ人に鍵の存在を知らしめるためで、邪魔になるから持っていることに気づくのである。それでも慌てていてそのまま持ち帰ることもあり、凄く便利な返却システムがある。鍵についたキーホルダーには、ホテルの名前と郵便番号が刻印されている。気づいたらそのままポストに投げ込んでおけば、郵便屋さんがただでそのホテルまで届けてくれるシステムが存在している。でも最近はカードが多くなってきたので、便利なようであるが味がなくなるのは寂しい限りだ。

話題は尽きない

最近はデュッセルドルフのアパートに立ち寄らないで、直接訪問先からフランクフルト空港に行くことが多くなった。そのために事務所は、コストダウンも兼ねて新しいチケットを見つけ出した。それがレイル&フライという名のチケットで、航空券と一緒になるので鉄道代がただになるらしい。ただし、事前にその9桁の番号を知っておく必要があり、当日駅の自動発券機に入力する必要があった。最初はこの番号を知らされていなく、通訳は発券機の前で四苦八苦したが結局発券できなかった。そのことを事務所に指摘したら、通訳はパソコンに詳しいからその番号もわかると奇想天外な言い訳をし始めた。

さらにまたそのチケットを取り扱う機会があった。訪問先の駅は小さな私鉄の駅であり、しかもその駅には自動発券機はなかった。事務所はその駅で買えると信じこんでいた。しかしこの駅から乗車すると正規の値段で、フランクフルト駅までの電車のチケットを買うことになる。それがわかって事務所に連絡すると、「近くの大きな駅にタクシーで買いに行け!」という無茶苦茶なことを言い出した。仕方がないので訪問先のパソコンを借りて、ドイツ鉄道である「DB」に直接アクセスしてチケットの発券作業を行った。

自分の作業が楽になればよいという部分最適の考えが、まだまだ残っているのは残念だ。本当に疲れるが海外こぼれ話の話題の提供にはまったく問題なく、欧州には泉のごとくネタが溢れている。これらを書くことによって、かなりのストレス解消になっていることは確かだ。