海外こぼれ話 127                     2011.12

 

フランクフルト空港で

入国できない

3.11の震災以降フランクフルトと成田とのJAL便は、私が乗ると満席になることが非常に多くなってきた。その要因として考えられるのは、ルフトハンザ航空が放射能の影響を受けないようにと、成田空港への乗り入れを拒否したことがあった。ドイツから帰国してすぐに都内に帰りたい人たちが、JALに流れたことも実際に聞いたことがある。また円高によるユーロ安で、旅行が非常に安くなったことも考えられる。一時期よりもユーロが約4割安になっており、最近日程の変更が頻繁になってからは、座席を確保するにことに躍起なっている。先月はチケットが取れるかどうかわからない状態で、ギリギリ間に合ったという綱渡りをしている。世間では不景気だといっているが、飛行機の利用状況を見るとその不況は感じられなく、むしろ利用頻度が増えているようだ。

今回も何とかチケットが手に入り、訪独することができた。飛行機を降りて入国審査でパスポートを提出すると、若い女性の係員が熱心にパスポートを調べ始めた。最近入出国のスタンプが多くなってきて、スタンプを押す場所を探すことはあるが、今回は非常に熱心にページをめくっていた。「お前、ドイツ語か英語が話せるか?」と聞いてきたので、「いや、日本語だけだ」と答えて早くスタンプをもらって入国したいと思ったら、別室に来いという。別な係官がパスポートを持って、コンピューターとなにやら照合し始めた。

すぐにOKになるかと思ったら、そうではなくなにやら何度もキーを叩きながら画面を見つめている。別な係員もその画面に誘われて、結局6人がパスポートと画面を眺めていた。私はガラス越しにイライラしている様子を見せたが、彼らはそれを楽しむかのように知らん顔で世間話もしているようだった。その間私に一切の質問もなく、ただ画面とパスポートを照合している。別な画面でグーグルから私の名前を入力して調べ始めたのが見えた。その間通訳に電話して、取調べが早くならないかとIPhone3(ドイツで中古を購入)で連絡を取ろうとした。なんと不幸には不幸が付き物だ。画面が完全にフリースしてしまって、一向に起動しない。何度も叩いたが、うんともすんとも反応なし。1週間前に日本で買い換えたIPhone4Sで、通訳に連絡するも留守電になっていた。可笑しい?私が今日訪独することになっていて、迎えに来るようになっていて、携帯を留守電にするとは?これは事件だ!と、さらにイライラしていたらと「問題ない」とパスポートをようやく返してくれた。

ちょうど事務所に電話が通じたので、その係員になぜ時間が掛かったか訊ねてもらった。そうすると「何度もドイツに来て、しかも2〜4週間で日本に帰国しているので、怪しいやつだと思って調べていたが問題なかった」ということであった。その間30分も経っていたが、彼らも暇人である。こっちは急いでいるのに、何の対処もない。日本だったら爆発しているに違いないが、会話が出来ないとは残念なことだ。でも今更ドイツ語を覚える気はまったくない。

携帯のトラブルはまだ続く

最後の客になってしまって、トランクを取りにベルトコンベアに行くと、JALの係員がトランクを持って私を待ち構えていてくれた。なんと有難いことか、彼女の笑顔を見たとたんに入国審査の怒りは収まった。お礼を言ってすぐに出口に行くと、通訳が待っていた。「電話をしたけどあなたの携帯は留守電になっていたが、何故か?」「日本の知らない電話番号だったので、可笑しいなと思ったが電話を取らなかった」「なるほど!」。それは仕方ないことだった。

その後、丸1日古い携帯は何の役に立たなく、ただのガラス板だった。このような時の対処方法は、電源がゼロになるまで待って、再度充電し直すと元に戻ることを心得ていたので、今回も再起動に成功した。IPhoneには、元に戻すリセットボタンがないので、運を天に任せるしかない。いわばブラックボックスである。ようやく自宅に電話することができたが、2日目になってまた故障してしまった。電話の機能だけが、不思議にもまったく起動しなくなってしまった。その他の機能は問題なかったが、肝心の電話の機能がだめになってしまった。

つまりこの電話は、IPhoneではなく、単に音楽を聞くIPodに成り代わってしまったのだ。悪い時には悪いことが重なるものだ。この時も電池の消耗を待って、リセットしようかと挑戦した。電話の時に電池を最も消費するものだが、ただのIPodという音楽プレーヤーとしての電池の消耗が以外とタフだ。18時間も使いっぱなしでようやく残量が20%以下になったほどだ(結局20時間掛かった)。寿命が来たみたいなので、新型に買い替えせざるを得ない。

2011.11.11.11.11

この「1」が連続して続く数値は、カーニバルの合図だ。最もドイツで有名なのが、ケルンのカーニバルだ。前後1週間は、とにかく街中の人たちがビールを飲んで狂っているので、絶対に近づくなと諭されたほど賑わうらしい。でも今年はドイツ中で様子が違った。ちょうどこの日にV工場に訪問していたら、このカーニバルの他に話が出てきた。この「1」が連続して続くので、結婚するカップルがドイツ中で盛り上がっているという。記念すべきこの日を、数年間も待ち望んでいたカップルの話も出てきた(同棲が多いので実質問題ない)。

ある結婚式場は、予約で一杯になっているニュースもあった。さらに、111111秒に式を合わせる人たちもいるというが、この数値の揃ったところに異常に興味を持つ人種のようだ。結婚記念日を忘れる夫婦がたくさんいるが、その日は特に奥様の方がしっかり覚えているようで、男性群の方は余り意識をしていなく忘れることが多いのが一般的だ。何故か?男女の頭の思考回路が違うかもしれない。男性はザルのように忘れてしまいやすく、女性は逆にバケツのように何でも底に溜まっていくようになっている脳の構造に違いがあるようだ。その点、この11111…と連続していれば忘れることはないだろう。

これは自動車のナンバープレートにも表れている。気づくのは、6666だ。日本では「6」という数値は、日本の暦に印刷されている、「先勝、友引き、先負、仏滅、大安、赤口」の六曜があるが、一般的に好まれる数値ではない。日本は、3と5と7さらに末広がりの8の並びが多い。香港では、「8888」のナンバープレートが競売で2億円の値がついた。実際にそのナンバーをつけた車をツアーの時に見物させてもらったことがあるが、金持ちの桁違いを見せてもらった。さらにドイツでは、99994444も目に付く。さすがに13だけは記憶にない。3桁の666は、聖書から取った番号のようで、別名「獣、鬼」の番号という。

ちなみに777は、十字架。888は、イエスキリストを表すようだ。これらはやはり宗教上の番号をもじっている。多くの人はご自身の誕生日にしていることがある。ドイツでは、1120日は「2011」の表示になる。また、車の所轄の地方の後は自由に2桁のアルファベットをつけてもよく、ダブっていなければ早い者勝ちで「D RM 2011」にすることができる。

新会社設立

私の会社のキャッチフレーズを更新することにしたが、しかも5秒で的確に表現できるものだ。それは、「見えないコトを、見えるようにする経営コンサルタント」であり、これなら3秒でも言える。しかしこの表現にたどり着くまでは相当苦心した。A4の紙に何度も書き込んで、余分なものをそぎ落とした。しばらくはこのキャッチフレーズでやろうと、名刺も変更して刷り直した。また良いキャッチフレーズを思いついたら書き換えるつもりだ。

現在は市場の変化は激しいので、弊社もそれ以上に変化して顧客の課題解決のお手伝いをしなければ生き残っていけない。ついでに1月から心機一転して、今までのドイツの事務所から独立して、通訳と一緒にドイツで新しく会社を設立することにした。これで顧客との距離が一気に短くなり、というより壁がなくなるので意思疎通が非常に良くなる。自分で旅行日程を自分の都合の良い方法で選択できるので、ストレスが一切なくなる。また連絡ミスもなくなり、コンサルという付加価値のある仕事に集中できる。それは自分たちだけではなく、顧客にもメリットが出てくる。世間で政府や企業の本社は小さくせよというのは、このことであった。もっと現場にマネジメントを任せていき、自律化を目指して変化対応が素早くできるようにすれば企業も変わっていくはずだ。

異業種交流の活発化

数年前からある企業を中心にコンサルの横展開ができないかと、その企業の仕入先や関連会社、その地域でコンサルしている企業さらには、客先まで取り込んで一緒になって改善活動をしようと試みている。これは異業種交流であり、まったく違った業界がお互いを観察していくと、非常に良い刺激を得る結果になってきている。最近その考え方がかなり浸透してきて、各企業も積極的に色々な企業との交流を図ろうとしている。

その手助けはもちろん、私としても営業活動が非常にやりやすくなっている。それはやはり口コミの偉大さのお蔭である。コンサルなんて売る品物がなく、ましてやマイクロソフトなどのソフトウェアもなく、ただ口先だけで商売をしている怪しげな商売である。だから今回入国審査で捕まったかもしれない。実は心理学や考え方、思想、哲学といった人として大切なことを紹介している。といって宗教家ではなく、モチベーションを与えるモチベーターか、エネルギーを与えるエナジャーという表現が良いかもしれない。

V工場に新規客先を招待して一緒にワークショップや工場視察をしながら、今までの取組みを紹介していった。現場にいくと一般従業員が、訪問した幹部の人たちに事細かく説明し、質問にも丁寧に対応してくれた。自信を持ってやっていることを、理路整然と説明する姿に訪問した幹部たちは唖然として、思わずよだれを落としかけたくらい驚いていた。私がやってきたことをそのまま従業員が説明するので、嘘のような話でないことがようやく腑におちたようだ。それから訪問した幹部たちは、俄然人が変わったようにやる気になってきた。

人を教育したらその教育された人が、今度は別な人を教育して、どんどんその輪を広げていっているのが、このV工場の姿だ。この人が育っていくことが、工場の財産になっていている。これは一筋縄ではなく、何度も繰り返した葛藤の上にようやく積み上げた財産であり、トップが本気になって取り組んだ結果だ。この人たちの自信から溢れ出る笑顔は、企業の活性化にかけがえのないものであり、こちらも嬉しくなって笑顔になってしまう。

さらにF社でもその取組みが定例化してきた。数百kmも離れた会社からも毎回のように訪問してきている。今回は近隣の企業からも参加があり、1日で盛り上がってしまい、相互交流の話がすぐに決まったほどだった。色々な企業で交流会が活性化してきているが、その背景はやはりリーマン・ショック後の急速な市場変化の影響である。最近の欧州は、ギリシャを始めとした経済不安が後押しをして、この変化を乗り切る手段として交流会が活発化している。

太陽の恵みに乾杯

南ドイツのLauffenという街は、毎月のように通うようになった。この街はワインの街としても有名で、ドイツでも有数の赤ワインを生産することができる。それはブドウ畑の何段も積みかねた石垣に、その歴史と先人の努力の結果として伺うことができる。この地方は、ドイツで一番ケチだと呼ばれるだけのことはあり、太陽の日差しから熱を少しでも地面に吸収しようと、急斜面に石段を築いたのだ。イタリアやスペインなど日照量には及ばないが、それでも必死になって取り組んだ結果は、きちんと舌で味わうことが出来る。日本でいえば、トヨタのある三河地方が類似する地方で、ドイツでも最も工業の盛んな地方である。その地方に流れるネッカー川沿線には、ベンツ、ポルシェ、アウディなどの自動車業界や工作機械メーカーなどがひしめきあっている。

その街に「太陽」という名前の典型的なドイツレストランがある。いつも宿泊しているホテル「象」のレストランも良いが甲乙付け難く、訪問の楽しみにもなっている。その「太陽」レストランで、ニュースがあった。詳細は聞き逃したが、ミシュランのような料理を審査する機関から、スープに1つ星がつくと連絡があったようだ。シェフはことあるごとにテーブルまで出来て、お客に気軽に挨拶や料理の紹介などもしてくれる30代の好青年である。この記事が街で評判になっていると、地方新聞に掲載した記事を見せてくれた。なんとその新聞を印刷しているのは、もう数年通っているWM社であった。それでまた話が盛り上がってしまい、地元の赤ワインがまたまた空いてしまった。

今日のメインは、フランス産の牛肉のステーキがお勧めというので、それに従った。出てきたステーキは、長さ22cm、幅20cm、厚さはなんと最大3cmもあった。重さはなんと推定1kgもある。私の手を広げると22cmという簡単なモノサシがあるので、手を当ててみたらちょうどこの大きさだった。目の前に出てきた時は、皆さんが大歓声であった。こんな大きなステーキを見るのも食べることも初めてだった。ごっくんと、ツバを飲み込んでいざ戦闘開始?

全部食べると明日起きた時に頭から角が生えてこないかと、ウエイトレスに確認したら大笑いになって、「大丈夫!心配しないで!」と回答があったので、早速食べることにした。これだけ大きいと日本でカニを食べる時と同じように皆さんが無口になるようだ。心を鬼にしてワインをガソリンにして口と胃袋にエンジンをかけて挑戦したが、思ったより簡単に食べ尽くすことが出来た。これで牛も安心して天国に行けたようだ。アルゼンチンの牛肉より美味かった。

大阪にもドイツの

クリスマスマーケットが

ドイツの10月早々にはデパートでは、チョコレートからクリスマスの模様替えに変わるので、もうそろそろクリスマスかと連想することができる。12年前にドイツに来始めてから、この商戦が年々たくましくなってことを感じる。本当はクリスマスの4週間前からというのが慣わしであったようだが、ドイツでも善は急げ!であるようだ。11月の終わりに大阪に出かけたが、大阪駅の近くのビルの広場でドイツのクリスマスマーケットをやっていると聞いたので行ってみることした。門の形状をしたガラス張りのビルなので、目印としては非常にわかりやすかった。地下道を潜っていくと、大きなアーチに「Willkommen(ようこそ)」と表示してあった。

入り口に小さなメリーゴーランドがあったが、客が少ないせいか回転していなかったのは残念だった。でもドイツから取り寄せたものだと一見してわかった。またお目当てのクリスマスマーケットの店は、これもドイツからそのまま取り寄せた感じだった。中には本物のドイツ人がいて商売をしていた。ビールもドイツでナンバー2のブルワリーである「Bitburger」(2002年のサッカーのW杯で、一躍日本で有名になったメーカー。非常に辛口で苦いが、マーケティングの上手い会社)や「Erdinger」(南ドイツの典型的なブルワリー)の銘柄もあった。私は「Paulaner」の酵母入りの黒ビールが好物であるが、それは見当たらなかった。お馴染みの焼きソーセージも屋台で売られていた。

また赤ワインに色々な香料を入れて、さらに温めたワインが「グリューワイン」と呼ばれ、寒い夜にマーケットに出掛けてもこれを一杯飲めば芯から暖まる飲み物だ。これは余ったワインの再利用したような感じのもので、決して美味しいという代物ではなく、暖まる飲み物であると心得たい。日本の生姜湯や卵酒のようなものと思えばよいが、この匂いはすぐにドイツを連想させる。これを入れる陶器のカップは、毎年デザインが変わる工夫も施されている。これを毎年集めるコレクターもいる。もし不要だったら、店に戻せばデポジット制になっていて、そのカップ分のお金を受けることが出来る。でもカップ込みで900円は少々お高い。その他にロウソクやクリスマスの飾りなどの店が約40店もあり、ドイツと遜色のないくらいに決まり良くセットしてあった。少々高くてもドイツへの旅費を考えれば、非常にお得な催し物だ。

このマーケットは、欧州の暗く長い冬を乗り切るための生活の知恵を感じる。何の楽しみのなかった中世時代に、何かの楽しみとして考え出されたものであるが、寒くても、夜に、外に出掛けるのは人の心の暖かさを求めてだろう。