海外こぼれ話 129                     2012.2

 

優遇の効くイタリアレストラン

 

ドイツレストランで食事をする時に、メニューにないものやアレンジしたものを頼むとウェイターは少し嫌な顔をしたり、それは出来ないと断られたりすることが断然多い。同じドイツ国内でもイタリアンレストランでは、まったく問題なく、しかもニコニコして対応してくれる。このサービスの違いは何であろうか、これは国民性からくるのだろう。そのためにイタリアレストランに行くと、いつも何か違うことを注文するやり取りの楽しさも一緒に味わうようにしている。当然追加の内容によって料金を請求されるが、サービス料と思えば全然気にならない値段だ。例えばイカが美味しいので、普通は1つのところをあと2つ追加して欲しいなどだ。注文時に値段の話は一切したことはないが、適当にウェイターが見積もってくれる。それらの値段は心配するほどの請求はなく、むしろ飲んだワインの方がはるかに値段は高いので問題はない。

先般日本の某市を訪問する機会があり、テーマパーク内のレストランで食事をした時のこと紹介しよう。2人でワインをたくさん飲むのでボトルを出して欲しいと頼んだが、グラスでしか出さないという。ボトルでの提供はしたことがないという。また酒のツマミとして焼肉が欲しいといったら、それは昼のメニューなので出来ないという。そこであるメニューの中から肉だけを出して欲しいというと、それも出来ないという。それなら責任者を呼んで欲しいと頼んだ。しばらくして責任者が対応してくれたが、「メニューにないことを対応すれば、他のお客さんから文句が出るのでダメです」という回答だった。料金を追加してもダメという。仕方ないのでメニューの中から頼んだが、周囲には客はいなく問題ないと思うのだが、このレストランの態度は、ドイツ並みの頑固さだった。あとで調べると、その市はなんとドイツの町と交流があったので腑に落ちた。変なところの文化交流をしていたようだが、これに関してはイタリアを見習って欲しいなあ。

 

特注のパスタはトリュフの大入り

 

2ヶ月に一度は訪問する北ドイツの工場で泊まるホテルの隣にイタリアレストランがあり、そこも愛想のよいウェイターたちが揃っている。「プレーゴ、プレーゴ(日本語で、「どうぞ」)」と両手を広げてしかも大きな声で出迎えてくれる。今回も変わったメニューを頼んだ。メニューにはきし麺にパルメザンチーズを絡めトリィフを載せたものというそのまま料理の過程を表現したメニューだった。これはたまたまパルメザンチーズの塊が手に入ったので、この期間限定のメニューだという。そこで余分にトリィフをタップリと入れて欲しいとリクエストした。どれくらい欲しいというので、通常の2倍だと返事した。そのメニューは、茹で立てのパスタを直径約50cmの大きな石臼のようなチーズの上に載せて絡めて作る。そのチーズは、高級品のパルメザンチーズである。このチーズは普通粉にしたり、ケーキカットのように小さくしたりして売られている。大きな塊は特注だろう。一体どれくらいの値段がするか聞いてみたが、ボスが買って来たので知らないという。そこで値段をはじき出すことにした。

その前に円柱の体積の求め方を忘れてしまった。使わないとダメになるのは肉体もだが、頭もだと再確認できた。片手を広げると22cmなので、大体の寸法はわかる。円柱の体積Vは、V=半径×半径×円周率×高さ=25×25×3.14×2550,000(cc)≒50リットル。チーズの比重を1としても重量は50kgもありそうだ。パルメザンチーズの日本での価格は100g≒1000円なので、この巨大なチーズの塊は約50万円になりようだが、計算はどうも怪しいようだ。

その真ん中にくぼんだ穴に茹でたパスタを入れてかき混ぜると、その熱でチーズが溶けて絡まる仕組みだ。それに入れるのはきし麺タイプの面積の広い麺を使う。その熱を利用してチーズを溶かし麺に絡める。それにトリィフを上から薄くカットしたら来上がりだ。トリィフのいい香りが鼻腔を通り抜けして脳天に届くと、一気に腹の虫が鳴くがこれはもう反射現象だ。頭は少しガタはきているが、自律神経はまだ顕在で麻痺していなかった。

トリィフは日本の松茸に相当する食材だ。土の中に埋もれているのでメス豚や犬などを使って探し当てるが、高級かつ珍重の品である。世界三大珍味といわれ、高級故に「黒ダイヤ」とか「台所のダイヤモンド」とも呼ばれる。でも味はほとんどないので、私は味も匂いもある松茸に軍配を上げたい。

通訳のMさんはトリィフが大好物なので、パスタが出て来る時には手をハエのように摺り合わせていた。この手をスリスリする仕草は、日本でもドイツでも同じようだ。パスタの値段は15ユーロだったので、トリィフの追加料金は3ユーロだったが、値段以上に大満足があった。トリィフは日本語では西洋松露というが、北栄町の坂根農園さん(国道9号線の焼き芋屋さん、営業中は黄色のパトライトが点灯している)で栽培されているのでお試しあれ。

 

ドイツへようこそ、タクシーが大遅刻

 

南ドイツに毎月訪問している工場での出来事だ。ホテルから工場までは徒歩で7分と一番距離が短いので、今まではタクシーも頼むことがなかった。ところがこの朝は、土砂降りの雨になった。すぐにいつも空港との送迎を頼んでいるタクシー会社に電話をしたら、朝は人工透析の患者の送迎で予約できないという。そこで他のタクシー会社を紹介してもらい、予約が取れるか確認した。そうしたら720分にホテルに手配できるとすぐに返事があったので、安堵した。しばらくして折り返しそのタクシー会社から電話があり、都合により10分早く710分に迎えに行きたいがどうかというので、逆に都合が良かったので即OKの返事をした。

ホテルの前で待っていたが、予定の時間になってもタクシーが来ないので、電話をすると“既にそっちに向かっているので後1分で着く”と返事があった。雨は一向に止む気配はなく、ますます元気良く地面を濡らしている。2分待っても来ないので、また蕎麦屋の出前かと勘ぐった。3分待っても来ないので、イライラしてきた。7時半から工場で講義が始まるので、せめて5分前の725分には工場に到着しないと遅刻になってしまう。またタクシー会社に電話をするともう着いているはずだと返事があった。でも着ていないと怒鳴ってやり取りする。そうするとタクシーは違ったホテルで待っているという。お前はアホか!といってやりたかったが、日本語で怒鳴っても意味がない。一応通訳に怒鳴ってもらったが、何故か釈然としない。ストレスが溜まるわ!(怒)

結局アホなタクシーがホテルに着たのは、730分であり完全な遅刻をしてしまった。そのタクシー運転手は20代の女性であり、彼女の方から何度も謝罪の言葉があったので仕方なく事を収めた。でも腸は煮えくり返っていた。すぐに会場に行かなければならなかったので、領収書も書かなくて良いと言って、5ユーロ札を渡してすぐに工場の受付に駆け込んだ。そのタクシー会社の名前は、直訳で「自治区」という非常に変わった社名であり、なんとなく組合が強そうな感じであり、ドイツ特有のサービスの悪さを表現したような社名だった。

 

またまた大遅刻のタクシー

 

悪いことはインフルエンザのように感染するようだ。今度は北ドイツのタクシー会社H社の出番だ。既に2年前から使っているので要領は理解しているはずだが、前回はバイトのオバちゃんが手配忘れをしたので、事前に詳細の日程をFAXで送信しておいた。ハンブルク駅の待ち合わせ場所は正面玄関だったが、姿が見えないので会社に電話をすると既に待っているという。確認すると運転手はいつもの反対側で待っていた。トランクを引きずって駅の反対側に出てタクシーを探したが、そこには何十台のタクシーが並んでいた。その運転手は表示を持たないで待っていたので探すのに苦労した。いつもと反対側だと文句をいっても配車係りからここだと指示されたので俺は知らないと、いつもの責任逃れの言い訳を始めたので諦めた。

悪い予感が翌日的中した。念のために朝の運転手に1715分に間違いなく来てくれと再確認した。H社の配車責任者は、既にFAXをもらっているので間違いないと回答してきた。1日の仕事が終わって時間通りに会社の出口に行くと、いつもは数分前に来て待っているがまだタクシーは見えなかった。H社に確認の電話を入れると、その責任者は手配するのを忘れていたといい、15分後にタクシーを行かせると回答してきた。気温はほぼ零度と寒い風が吹いていたので、守衛室で待たせてもらった。15分したらタクシーが着たが、そのまま止まらずに工場内に消えてしまった。3分ほどしたらそのタクシーが出てきたが、4人も人を乗せてそのまま走り去ってしまった。別の人が頼んだ別なタクシーだった。

それから外で待っていたが一向に来ないので、H社に電話をするともう到着するはずだと、また蕎麦屋のたわごとを言い出した。結局タクシーが来たのは、なんと33分後であった。運転手に文句をいったら、その運転手は今のラッシュでは15分は無理で30分以上かかると、その責任者に説明をしてすぐに向かったという。しかしその責任者はそのことを知っていてもわれわれに説明してくれなかった。叱られたくないから逃げているのだが、もう腐っているH社だ。

ホテルに到着したら運転手が10ユーロまけてくれたが、この待った時間はもう返ってこない。もう次回からはこの会社を使わない方針にした。文句を言っても改善の余地がない体質なので、別会社にした方が賢明だ。朝の運転手は午前中の勤務で、そのことを配車責任者に伝えていたが、別の運転手に代わっていた。この朝の運転手は、75歳くらいで非常に律儀で、工場のマイスターのような人だ。送迎には5分くらい前には既に待ち構えている。H社でまともな運転手はこの老運転手だけである。

ドイツのサービス産業の程度の悪さといったら、このようなことは日常茶飯事なので、旅行される方は覚悟をして訪独されると良い。ドイツ人が日本を旅行して一番持って帰りたいのが、タクシーの運転手だという記事があったが良く理解できる。

 

ユーロ安が一段と厳しくなってきた

 

年末年始からギリシャやイタリアなどの経済危機で、完全に欧州のユーロが暴落してきた。このレートは11年前の水準に戻ってしまい、本当に経済は波のように上がったり下がったりをほぼ10年のサイクルで推移している。数年前には1ユーロが170円にもなり、私にとってはウハウハのバブル絶頂期だった。というのはコンサルタント料の支払いはユーロ建てであり、日本の輸出産業と同じようにユーロと円のレート関係で一喜一憂になる。振込まれたユーロを円に換金した時に手取りの金額が、まったく違ってくるのだ。現在は100円前後なので、最盛期から見ると6割くらいに激減しており、まるでジェットコースターだ。個人では何にも出来ないので、よくなることを待つしかない。

しかしドイツから見るとユーロ安なので、非常に輸出が盛んになっている。彼らに言わせると今の景気は空前絶後の大忙しで、一種のバブル状態になっている。自動車、工作機械、工具などの業種は、3直で1週間休みなしのシフトで生産しても追いつかない企業もあるほどだ。景気は世界規模で見ると大体平均化しているようだ。

スイスはユーロでなく、スイスフランで日本と同じように通貨が安定しているので、円と同様に市場がスイスフランを買われている。そのためにレートが高くなり、国内では精密機械、高級時計などの輸出や観光が落ち込んでいる。そして工場の中では間接部門のリストラが始まっている。といっても失業率は今までが1%程度なので、その他の国とは比較にならない。

ドサクサに紛れてイタリアの客船が座礁したニュースが飛び込んできたが、こちらはまるでいい加減なイタリア経済を反映しているかの事件だ。魚は頭から腐るが、船も船長が腐れば乗務員も腐っていた。逃げようとするお客様に対して、この船はクルー(乗務員)用なので乗るな!と助けようとしなかった。船長も船長だが、乗務員も乗務員だった。最近ドイツのニュースのトップはこの記事の暴露話が花を咲かせている。

 

いつも使うホテルがテレビに出た

 

北ドイツのビスマルクの生誕地にあるホテルは、実はビスマルクの子孫から屋敷を借りてホテルとレストランを経営していることを最近知った。このホテルは2年前から利用しており、結構料理が上手なコックがいる。先月某テレビ会社からドラマの撮影に現場と宿泊のために、1週間貸し切りだったと話をしてくれた。レストランには素敵な暖炉があるので、この暖炉も使ったのかと聞いたら、撮影用の照明が余りにも熱かったので使わなかったという。最近のカメラはそんなに光量が必要なくなったはずなのに、撮影はその熱で大変なようだ。テレビ放映のせいかいつもよりお客様が多く、次々と訪れてきたがテレビの効果はやはりあるようだ。

部屋は大きく3つに区分されているが、一番奥はセミナーや結婚式などが出来る部屋になっていて、この日も結婚式の事前段取りに女将さんとお客様がテーブルのレイアウトなど打合せをしていた。食事には既に臨月近くの大きなお腹した妊婦さんと旦那も来ていたが、なんと妊婦さんは赤ワインをグビグビと飲んでいた。多分飲酒運転で帰るのだろうが、ああ恐ろしや。こっちの女性は飲酒やタバコを余り気にしていないようだ。妊婦さんの喫煙は非常に多く、乳母車を押しながら咥えタバコも当り前だ。赤ちゃんの未来は大丈夫かしら。

 

段々と工場の規律は高まってきた

 

この2年間で訪問し始めた工場がいくつかあるが、決まって工場内の規律は不十分であった。だからこそコンサルが、その規律向上を立て直すために呼ばれるのである。工場内のセミナー会場(会議室、教室など)でセミナーを行うが、最初はテーブルや椅子が綺麗に並べられ、コーヒー、紅茶、コーラ、ジュース、水ななど飲み物もチキンと準備されている。しかしセミナーが終わって席を立って現場を出た後は戦場のように乱場になっていることが多い。他の工場も以前はそうであったので、参加者が出た後少し頭をクールダウンする時にこの飲み物や椅子を片付けるようにしている。コンサルがそこまでやるかという人もいるが、呼んでもらっている立場なのでこれくらいは当然のようにいつも片付けていた。これは性分でもある。きちんとしていないと気分が悪くなるくらい神経質になっている。これを見て自分たちがやるべきことだと気づく工場もあるが、それは嬉しい出来事になる。

しかし参加メンバーがいつも変わっていると毎回やることになる。セミナーの後に、この片付けも5S(整理、整頓、清掃、清潔、習慣)の躾と称して質問をする。「トイレに行った後に水で流して綺麗にするが、テーブルの上はそのままか?」「豚小屋で飯を食っても旨いか?」などと投げかけると、わかったとすぐに行動するようになる。今はこれが当り前になり、椅子まできちんと入れる習慣が指示しなくてもできるようになってきた。そうなると今までセミナー開始時間に遅れて来ることが多かったが、最近は時間厳守で来場するようになってきた。それまでその工場の会議もダラダラと始まってしたが、この習慣が段々と工場内に波及しているようだ。そう企業文化や雰囲気を変えることを、このような些細なことから取り組んでいるのであった。

カイゼン後の成果発表も時間厳守して、しかも要領よくできるようになってきた。時間オーバーした時には、よく赤カードを出していたが、最近はマイクを出して(A4の用紙に手描きしたマイク)歌を歌えというと、赤カード以上に効果のあることがわかってきた。

自社で自分たち規律を向上しようとすると非常に難しい。よほど厳しいトップがいるなら別な話であるが、そのようなトップは滅多にいない。第三者という立場で見て、意見する人はやはり価値があるようだ。時間は有限であることを理解すれば、優先順位の決定や段取りの仕方も変わってくるのだ。これだけではないが、訪欧してやっていることは“人材育成”そのものである。