海外こぼれ話 131                     2012.4

 

またまたハンガリーでのセミナー

 

 昨年は合計6回も訪問したハンガリーだが、年末のセミナーを聞いたKB社の改善担当者が是非このセミナーを全マネジャーに聞かせたいと熱望していた。2月末の帰国前に日程が空いていたので、訪問することを承諾して今回の開催になった。予定していたハンブルクからブダペスト行きの飛行機が、飛ばなくなったと連絡が入ってきた。なんとハンガリーのマレブ航空が倒産したというニュースであった。マレブ航空は、ハンガリー唯一の航空会社だった。それがなくなり、別ルートでブダペストに向かうことになった。

ハンブルクからいったんウィーンに飛んで、とこからハンガリーの商工会議所のペーターさんと通訳のキッシュさんが迎えに来る手筈になった。欧州は国がたくさんあるので、それぞれが隣国になっている。今回もブダペストに行くのに、車だとウィーンから2時間で行くことが出来る。この数年間はビザや税関も不要となって、ノンストップで車を走らせることができ便利になった。帰りはエアベルリン航空かルフトハンザ航空を使えばよい。

 帰りの便の時には、ブダペスト空港から飛び立つようにしていたが、空港のフェンスには多くのカメラマンが飛行機に向かってカメラを構えていた。それはマレブ航空の最後のフライト便を、出発前の最後の姿を撮る光景でもあったが、少々残念な結末だった。通訳の友人もパリ行きのチケットを手配したが、予約したチケットの払い戻しはされなかったらしい。倒産は客にも厳しい。

 

最新式の設備を配置した新工場

 

 KB社を訪問したら、非常に近代的な建物であった。聞けば新築してなんとまだ2年目のピカピカの工場であった。親会社はドイツで有名な部品会社であり、この会社に素材を納入したり、あるいはこの会社の製品を買って組立したりしている会社に現在コンサルしている会社があり、世の中は狭いと思った。

 工場の玄関では、警備員が待ち構えていた。既にこの日に訪問することを事前に連絡をしていたが、警備員には連絡が来ていなく待たされることになった。キッシュさんによると、ハンガリーの企業は今までに例外なく玄関での対応に問題があるという。工場内に入るには、目と鼻の先にある入り口ではなくこの玄関から大回りして行けという指示が出た。100m先に行くのに工場の敷地の外周を一周して1kmも大回りする羽目になった。時間もガソリンももったいない。

 しかし工場の玄関は、素晴らしかった。超近代的な受付があり、その横には最新式の工作機械がガラス張りで見ることができるようになっていた。ドイツの車産業で見せているショールーム風になっていた。担当者が迎えに来てくれたが、彼の名前はなんと“バカ”さんだった。笑ってはいけないが、“所変われば品変わる”である。大きな工場には従業員が1000人もいるという。

1時間ほど最新設備を何十台も設置した近代的な工場であった。見るとどれもドイツ製の超高級な工作機械だった。しかも一部にU字ラインの組立ラインもあるので、是非評価して欲しいと依頼があった。形は確かにU字になっているが、部品や工具の置き方を拝見すると、魂が入っていないことがすぐにわかった。良くある見える部分だけの投入でしかなく、マネジメントや思想の部分が欠けていたことを正直に解説してあげた。実際に改善事例も何点か紹介して、すぐに改善できるヒントも提供してあげた。30秒でも見れば工場のレベルは分かるが、何と1時間もじっくりと視察できたので、詳細までインプットできた。ネチネチと攻める材料が山ほどあったので、思わず手を摺り合わせてしまった。

 

変則的な日程の講義の始まり

 

工場のセミナールームは二階にあり、それが後ろ側はガラス張りになっていて生産現場が一目で見えるようになっていた。間接部門も二階にあり、彼らも生産現場が手に取るように見えるレイアウトになっていた。講義の準備に掛かると、音声の専門家が機材を取り揃えて待ち構えていた。これは外部業者で専門のミキサーや大型のスピーカーまで用意していた。私を招いた意気込みを感じられた。既にコーヒー(ハンガリーでは、カバという。バカは人の名前)、ジュース、ミネラルウォーター、そして大盛りのクッキーがセットされていた。

9時からのセミナーには、50人の現場中心としたマネジャーたちが参加することになったようだ。9時を過ぎても次々と会場に堂々と入ってくるマネジャーたちがいる。ハンガリー時間とは、7分遅れが暗黙の了解になっていることは既に知っていた。でも既に社長の挨拶が始まっていても、我関せずと一切関係ないくらい神経が図太いのには改めて感心してしまった。

講義はいつものように、パワーポイントのスライドを最初からは使わないようにしている。最初から見せると、講義よりもスライドを見てしまい集中力を失うからだ。また参加者の改善に対する認識レベルも分からないので、最初の90分や次の90分の講義もまったく使わないこともある。今回も午前中にはスライドを使うことなく講義を進めていった。参加者に考えさせる方法を取った。会社の目的は?会社の意義は?あなたの大切なものは?などなど質問をして、15秒間考えさせて、それを10人くらいに順番に回答してもらうようにした。予想通りいずれも違う答えが出てきたので、それを基に講義を進めていった。次第に参加者を、松田ワールドに引きずりこんでしまう。私の手の平に乗せてしまえば後はこっちのものだ。好きなように彼らをコントロールでき、マイペースで進行できる。しかも全員から回答を話してもらう配慮もした。最後尾の方まで行って肩を叩きながら(いわゆる“ニコポン”は、海外も有効なコミュニケーション手段である)、あなたに関心があるのですよと知らせる。

2回目の講義には遅刻する人がいたので、罰ゲームとして歌を歌わせるといったら、このグループは一遍で良くなった。最初の講義がかなり効いたようだ。全員のフィードバックも非常に好評であったが、まだ2割の人は半信半疑の顔をしていたが無理もない、ゆっくりと変えていけばよい。8割賛成ならOKだ。

 

遅刻の罰ゲームは効果あり

 

講義は90分だけではなく、100分、70分の時間割もあり実に変則的な日程だった。後から聞くと2日間の講義を1日半に短縮して、120人のマネジャーに聞かせたいという配慮で、昼食の時間だけは厳守して後は2つのグループに分けたためであった。最初のグループは生産現場を中心で、後のグループは間接部門の人たちの組合せにしたようだ。それでも臨機応変し対応する。

間接部門の人たちのグループは、最初から遅刻が多かった。70人のうち何と9人が遅刻をした。ここで堪忍袋の尾が切れた。時計を見るとこの会社のロゴが入ったものが壁に掛けられていたが、1分遅れになっていた。そこで椅子に乗ってその時計を取り上げて、ゴミ箱に捨てるパフォーマンスを敢行した。皆は唖然とした。一人のマネジャーがその時計をゴミ箱から拾い上げ、時間を合わせて壁に掛けた。そこで最初の講義は、急きょタイムマネジメントについてガンガン攻めって、ケチョンケチョンに彼らを潰していった。

相当懲りただろうが、次の開始時間に一人遅れてきたので、強制的に歌を歌わせることにした。ハンガリーの童謡の「子牛の歌」とキッシュさんが教えてくれたので、私のネクタイを外して彼のお尻につけて振って見せた。皆さんは大笑いで、彼は顔を真っ赤になったが最後まで歌ってくれた。それ以降彼は遅刻をしなくなったが、歌の威力は素晴らしい。次の時間には部長が遅刻をしたので、歌を歌うかと問いただすと、歌ではなくなんとコザックの踊りをやってくれた。お腹が出て50歳くらいであったが、見事なダンスであった。彼は元体操選手で今も練習に時々通っているという現役だった。

変則的な時間割りだったので、90分のところをうっかりと10分間オーバーしてしまった。その部長から「松田も罰ゲームをしなさい」と先ほどの仕返しをしてきた。そこで姿勢を正して、「春の小川」を斉唱した。これをやらないでいると会場の雰囲気が壊れてしまうのだ。自分の失敗も素直に認めると彼らからの評価、信頼も一気に良くなるのは今までの経験だ。これでこれからの講義にもお互いに集中できる。

 

簡易稼働率測定法の紹介

 

この工場の生産現場が一目で二階から確認できたので、松田方式簡易稼働率計算で、この工場の従業員の稼働状況を計測してみた。10人の人を数えて、その内何人が実際にワーク(部品、製品、工具)を手にしているかを数える簡単な方法だ。それで何度か計測したら、1から2人という散々な結果(稼働率1020%)だった。マネジャーは何も管理していないことが明白になった。

そこで休憩時に、この方法でどれくらいの稼働率か確認してみなさいと指示を出した。なるほどその通りだと、彼らは素直にマネジメントの悪さ加減に参ったようだ。今は三直(朝、昼、夜の作業)をしているが、もっと作業に専念させる配置をしていけば、二直(朝、昼の作業)でできることも提案し納得した。これにより大幅なコストダウンができることも理解した。ダラダラと働いているよりも、キビキビとした方が断然良い結果(品質、納期、生産性)が出る。講義か手厳しい指摘のお蔭かは知らないが、彼らは段々と素直になってきたぞ。工作機械が真新しいので、それを最初から清掃、点検をしていけば相当長持ちをして、しかも良品の生産が可能である。そのヒントも提供しておいたので今後が楽しみな工場になるはずだ。

 

4つ星のホテルだが、、、

 

最初の日はブダペストに到着したのが遅かったので、寝るだけだった。408号室に行くには、エレベーターから一番奥の部屋なのに、天井の電灯が点灯しないので、鍵穴がなかなか見つからなかった。よく見ると10個もある天井灯は、2個しか点灯していなかった。ホテルは市内の4つ星ホテルで、最近改装したばかりであり室内も非常に広かった。でも電気のスイッチがどこにあるのか分からない欠陥もあったが、インターネットが無料だったのでホッとした。しかしなんともチグハグなホテルである。フロントの人は普通スーツを着ているが、このホテルは何とフリースとジーパンでしかもヒゲボウボウだった。

朝食に行くと、食堂の時計は止まったままだった。朝食は、今までで最もブダペスト市内で質素なものだった。普通パンは2種類以上もあるのだが、ここはトーストだけだった。しかもそのトースターはコンベア式になっていたが、油が切れていてキーコ、キーコを大きな音を発てていた。ホテルの従業員はまったく無関心であった。ハムやチーズも選択の余地はなく、しかも不味かった。これ以上肥るなというサインなのか。この電灯と時計のことをフロントに申し出したら、その日の夕方には直してくれたのは不幸中の幸いだった。

 

食事の招待

 

2日目には、商工会議所のペーターさんの知っている「ヴェランダ」という名の店で食事の招待があった。12月は船上レストランだったので、今回は別のところを用意してくれた。一見イタリア風であったが、ウエイターもイタリア人のようにユーモアも持ち合わせていた。メニューにない組合せの料理にも快く対応してくれ、ゴルゴンゾーラチーズ(イタリアの有名なブルーチーズ)も追加してもらった。ワインは南ハンガリー地方の赤をリクエストした。料理に合ったワインだったので、すぐに飲んでしまった。そこでいつもは「このグラス、壊れているぞ。だからワインがなくなってしまった!」というが、今回は「今日は乾燥し過ぎて、ワインがなくなってしまったぞ。」といってみた。

彼は次に持って来たグラスにそっとナプキンを掛けて「これで乾燥しませんよ。」とさりげなく演出してくれた。そこから話が弾んで来た。最後はデザートになったが、彼のお勧めで「ティラミス」を久しぶりに頼んだ。案の定びっくりサイズで登場してきた。食べることができないかと思ったが、結構美味しくて会話も弾んでいたので、完食してしまった。料理もワインも会話も堪能できた。残った料理は、包んで持って帰ることもできる良心的な店だった。

 

翌日はハンガリーの郷土料理店

 

翌日はその工場の副社長のお誘いがあり、彼が行きつけのハンガリー音楽を演奏する「カルパティア」というレストランだった。キッシュさんに言わせるとこのレストランを選んだのは、彼が味音痴でグルメでない証拠だとわかったとそうだ。ブダペスト大学の大きな図書館を抜けていくと目指すレストランがあった。6時に現地集合の約束をして、全員がちょうど店のクロークで鉢合わせになった。予約していた席に通されると店は満席だった。今日は木曜日なので、レストランが混雑するという。ハンガリーでは「腹ペコ木曜日」といって、毎週木曜日がほとんどのレストランが半額で料理を提供する日になっているようだ。そのために木曜日は、市民が良く食べるからこの名前が付いたようだ。

三人の楽団のいる一番前の右のテーブルに席が用意されていた。椅子は年代物だったが、両方の肘掛はガタガタで今にも壊れそうだった。キッシュさんの椅子は最悪で、真ん中には拳大の穴が空いたままになっていた。室内の雰囲気も昔のままになっていたが、テーブル周りの整備は十分とはいえない店だ。副社長がワインは、トカイワインのドライが良いと推薦した。やはりセンスがなかった。“トカイワインはデザートワインだろ?”と心の中で疑問符。そこで丁寧に断って、南ハンガリーのミディアムの赤ワインをウエイターに推薦してもらった。香りと味もまずまずワインであった。びっくり箱はその後だった。

前菜は、いつものように「グヤッシュ・スープ」を頼んだ。食べてびっくり、何と味が薄いのだ。コク味もほとんどなく、出がらしで作った上澄み汁のようだった。ハンガリーに来て一番不味いスープになった。さらにメイン料理の豚肉料理も期待外れだった。せっかくの豚の脂がまったくなくなるほど焼き上げてしまい、旨味がなくなっていた。いつもは平らげてしまうが、今回は半分も残してしまった。付け合せの野菜も単なる塩味で、旨味がなくなっていた。どうも残り物で作った料理のようであった。この店は音楽と雰囲気だけで維持しているようで、多くの観光客が一度だけしか来ないという前提でやっているようであった。ちなみにブダペスト市内の美味しい店は、以前行った王宮の丘にある「キッチン21」と「ピエロ」が推薦される。この地区は観光客が滅多に来ることのできない場所である。良い店とはそんな隠れ家的な場所にある。

 

疲れを取る?マッサージ

 

3日間の疲れが出ただろうとペーターさんが気を使ってくれて、飛行機に乗る前に時間があるので、ビジネスマンのためのマッサージがあるので紹介するという。もちろん商工会議所の接待なので、喜んでマッサージを受けることにした。場所は空港に行く途中にあるといっていたが、急に宿泊していたホテルの部屋にすると提案があった。反対する理由はないのでそれに従った。

ホテルにそのマッサージ師が着たが、男性であった。408号室で携帯用の木製のベッドを広げて服を脱げという。さらにズボンも脱げという。さらにパンツ一枚になれとも言い出した。ビジネスマン用のマッサージと聞いていたが、裸になってオイルマッサージとは聞いていなく、心の準備がまったく出来ていなかった。しかも女性かと思ったら、初めて男性のマッサージ師だったのもショックだった。背中だけでなく、仰向けになって腹以外のすべてにオイルでゴシゴシと力強くもまれた。しかし肩は押さえるだけで一向にコリは解消しなかった。何だ?このマッサージは?と思ったが、ハンガリー語ができないので、されるままトドの如くただ寝ていた。それでも太ももとふくらはぎはかなりコリが取れたようだ。1時間といいながらも55分で済ませるところは、きっちり手抜きをしている。お手拭はなくオイルの付いたまま服を着て飛行機に乗って、デュッセルドルフのアパートに帰ったがすぐに風呂に入ってオイルを流した。これでようやく疲れもオイルも水に流すことが出来た。