ニューヨークの風〔肥和野佳子〕
ニューヨークの風12(2008.11.15)
NY郊外 秋の絶景
ニューヨークというと高層ビルの立ち並ぶ摩天楼をイメージするだろう。たしかにマンハッタンは東京の都心と似ている。しかしニューヨーク市から少し郊外にでると、そこには豊かな美しい自然がある。
夫とわたしは秋の紅葉を楽しむために、10月後半の週末にマンハッタンから車で約2時間、New Paltz市の近くの山にあるモーハンク・マウンテン・ハウス(Mohonk Mountain House)へ行った。ここは古いお城のようなホテルで、とてもロマンティック。初めてここに来た時は、NY郊外にこんなきれいなところがあるなんて、と驚いた。わたしたちのお気に入りのホテルだ。
ホテルの前には小さな湖があり、その周りはバームクーヘンのような地層に取り囲まれていて、なだらかなハイキングコースがいくつかある。夏はボート、ゴルフ、ガーデンを楽しみ、冬はスケート、クロスカントリースキー、スノーシューなどを楽しむことができる。
このホテルはホテルとしては珍しく、夕食、朝食、昼食の3食付きでホテル料金を設定している。チックアウトは午後2時、チェックインは午後4時。宿泊客はみな車でくるので、チェックアウトする日は昼食を食べて、午後さらにハイキングを楽しんだりしてから家に帰ることもできる。
わたしたちは午後3時ごろホテルに到着。チェックインタイムにはまだ早かったが、運よくわたしたちの泊る部屋はもう用意ができていたので、すぐに入ることができた。4階で湖に面した部屋で、ヴィクトリアン調の家具があり、暖炉がある。バルコニーにはロッキングチェアが2台。バルコニーに出るとけっこう風が冷たい。紅葉が映えるいい天気だ。湖にはボートを漕いでいる人たち、魚にえさをやっている子供たちが見える。
ホテル1階にある大きなサロンでは、毎日午後4時から5時の間、宿泊客には紅茶、コーヒー、クッキーを無料でいただけるティータイム・サービスがある。わたしたちはいつもそれを楽しみにしている。それまでに少し時間があったので、まず、夫と湖の周りを歩いた。前日雨だったのだが、水はけがよいらしくて、散策道はぬかるんでいない。赤や黄色や茶色の落ち葉で道は色とりどりだ。湖のほとりや散策道の見晴らしのよいところには、ガジーボ(Gazebo)と呼ばれる小さなあずまや(三角屋根のついたベンチ)がある。青い空、光る湖面、お城のようなホテル、なだらかに続く紅葉の絶景がひろがる。
湖を1周して、ホテルに戻るとちょうどティータイムで、サロンにはたくさんの人がいた。わたしたちは紅茶とクッキーを数枚いただいて、ティーカップを手に持ったまま、サロンの外のテラスに出て、湖と紅葉を眺めながら、「ああ、平和だねえ。日頃のストレスが飛んじゃうね。」と大きく息を吸った。
部屋に戻って服を着かえておしゃれをして、6時半にホテルのレストランで夕食。アペタイザー2種類とメインディシュ1種類をコースの中から選択することができ、コーヒーとデザートもついている。ちなみに朝食と昼食はバフェ形式(バイキング形式)で、もっとカジュアルなスタイル。
満腹して部屋に戻り、夫は暖炉に火をつける。最近普及してきた本物の炎のように見える人工炎のガス式暖炉ではなく、ちゃんとした大きなチムニー(煙突)があって木を燃やすタイプの昔ながらの暖炉。2年前に来た時はなぜか煙が部屋に充満して火災報知機がなってしまった。今年はうまくいって、暖炉の火がこうこうと燃える。木の燃える匂い、ときどきパチッ、パチッと木が燃える音。暖炉はやっぱり本物の炎がいい。海のさざ波や、暖炉の炎というものは、なんだか太古の昔からの人間のDNAを呼び起こされる感じがして、気持ちが自然に戻り、とてもリラックスする。夫とわたしは暖炉の前に座って炎をながめる。
このホテルは自然と静けさが売り物で、部屋にテレビは設置されていない。しかし、ホテルにレンタルTVを持ってきてもらうことは可能だ。わたしたちはいつもはレンタルTVをしないのだが、この日は特別に申し込んでおいたので、部屋にTVがある。この日はヤンキースがワールドシリーズ進出を決めるかどうかの大事な日。アメリカン・リーグ優勝をかけたロサンジェルス・エンジェルスとの試合。勝負はヤンキースが勝って2003年以来6年ぶりにワールドシリーズ進出を決めて気分も最高の夜。ホテルにはTVルームがあるので、部屋にテレビがなくて野球を見たい人は、このTVルームで盛り上がっていたようだ。
翌朝、朝食後また湖のほとりを散策。馬車も通るので、たまにある馬の糞を踏まないように足元に気をつけて歩く。ホテルの周りの広大な土地はホテルの私有地だ。この湖のほとりのハイキングコースを日帰りで楽しむこともできるようにデー・パスを購入すれば宿泊客以外も入ることはできるが、多くの人が殺到しないように1日に何人までとか人数制限があるので、静かだ。それからわたしたちはガーデンで秋の花々を楽しみ、豆粒のような魚のえさを買って、湖の鱒に餌やりを楽しむ。えさを投げると鱒が何匹もよってきておもしろい。勢いよく湖面を半分ジャンプしてえさを口にする鱒もいる。
昼食を済ませてわたしたちはホテルをチェックアウトし、帰路に向かった。マンハッタンに戻る高速道路の途中には、NY観光として日本人観光客の間でも有名なアウトレット・モールのウッドベリー・コモンがある。帰りにここに寄ってショッピングをするのをわたしは楽しみにしていた。わたしは一人でここに来る時はゆっくりと5時間くらいかけて買い物をするのだが、夫は道路が夕方混むのを嫌って、例年ここでゆっくり買い物をさせてくれず90分以内に買い物をしないといけない。今年は、わたしは下準備をして目当てのお店を歩く順番まで決めて効率よく回った。レスポーサックでショルダーバッグを買い、高級食器のロイヤル・ダルトンやレノックスでお買い得のお皿を買って満足。
ドライブ中に見える高速道路沿いの紅葉もピークでとても美しい。日本と違ってなだらかな丘のような低い山が延々と続くので、まわりがずっと絨毯をひろげたような雄大な美しさ。郊外から通勤してくる人は、これをこの時期毎日見ているのだろう。ニューヨーク郊外にはこんなにも身近に美しい紅葉があり秋は最高だ。