ニューヨークの風〔肥和野佳子

ニューヨークの風14(2010.2.15)

中国の子育て

ニューヨークには在米外国人が多い。いままで接したことのある中国人(中華人民共和国)の話では、どうも子育ては、おばあちゃんがするのが普通のようだ。遠距離の場合は、おばあちゃんに、子供をなんと数年間預けっぱなしにするという。医学研究者の中国人女性が、小さい子供を子供の祖母に預けっぱなしで上海に残したままで、めったに子供に会えないのでさびしいと言っていた。

その話を聞いた時は、その人がキャリア志向で特別なのかと思っていたが、それはどうも中国では特別なことではないらしい。その後、何人もの中国人女性が、同じようなことを言うので、たしかにそうなのだろう。数年前に家族ぐるみで米国に来た、特別キャリア志向でもない20代前半の普通の中国人女性も、「10歳の頃までおばあちゃんの所にいて、それまで母親と暮らしたことはなかった。」と言っていた。

ニューヨークにある大学院留学中の30歳くらいの中国人女性は2歳半くらいの女の子がいるが、赤ちゃんのときから夫の母親(香港人)に預けっぱなしで、さびしいけどしかたないと言っていた。この女性は北京語で、子供は香港にいるので広東語しかわからない。その子と話すためにいま広東語を勉強しているとも言っていた。他に、中国からニューヨークに近年来て大手会計事務所で働いている女性は、子供を産んだ後中国に里帰りし、本国の自分の母親に赤ちゃんを預けっぱなしにして、本人だけ米国に戻ってきた。

同じ中国人といってもニューヨーク育ちの中国系米国人は事情が違う。預けっぱなしではないが、たいていおばあちゃんがせっせと赤ちゃんの面倒をみるようだ。そして、チャイニーズ共同体のベビーシッターは料金が安いらしくて、母親は仕事に精を出せるらしい。

中国で子供をおばあちゃんに預けっぱなしにする場合、毎日電話はするけど一年に1回か2回くらいしか子供に会わず、そして子供がある程度大きくなってから引き取るのだそうだ。「えー、そんなのでいいのかなあ?」と日本的感覚では不思議に思う。赤ちゃんのときや、まだまだ小さくてかわいいさかりに、母親が不在なんて、子育ての喜びも経験できないではないかと思ったが、中華人民共和国のお国柄のようだ。たぶん国策なのだろう。男性の定年は60歳だが、一般の女性の定年は50歳で、大卒の幹部社員など上級職にある女性は、定年が55歳だそうだ。高齢女性の無償の労働力を使って、保育を安上がりにしようということか。

ある中国人の女性研究者の話しでは、彼女自身もやはり祖母に育てられて、6歳で初めて両親と暮らすようになったときは、はじめは旅館にいるみたいだったそうだ。最近では中国の若い人たちの間では意識も変わってきているが、祖母たちは、孫育ては自分たちの責任だと思っているとのこと。まず、中国では少数の高額所得者以外は、父親一人の収入では家族を養うのは難しいので共働きは当たり前。女性が結婚、出産後も仕事を続けるのは生活のためで、日本とは社会事情がずいぶん異なるそうだ。

中国は基本的に社会主義国なので共働きが当たり前というのはわかっていたが、それにしても、保育がかなりの部分、おばあちゃんだよりで、社会主義国なのに、子供は「社会が育てる」というよりは祖父母が育てる社会らしい。中国では社会的な保育制度が発達していないとは意外だった。