ニューヨークの風(肥和野佳子)
第20回
米国の高齢者の恋愛
もう10年以上前のことだが、私の知人のおばあさんは未亡人(70代前半の米国人)で、ボーイフレンド(恋人)とよく一緒に過ごすのだそうだ。その男性はそのおばあさんの亡夫の友達だった人で、昔から知っている人であり、彼の奥さんは先に亡くなったらしい。私が知人に誘われて、そのおばあさんの家に遊びに行ったとき、そのおじいさんが来ていて、ガレージではしごをのぼって何か作業をしていた。 おばあさんが言うには、彼は病気であと数年しかもたないらしい。最後の時間をともに過ごしてあげたいそうだ。
あれから知人は遠くに転居して音信が途絶えたので、その後おばあさんとそのボーイフレンドがどうなったかはわからないが、まあ、こうした高齢者の恋愛話はよくある話。 おじいちゃんのガールフレンドがどうしたこうした、おばあちゃんのボーイフレンドがどうしたこうしたという話は、若い人の口から結構聞く。
別の話では、60代前半の離婚女性(精神科医で、もう半分引退していて週3日働くだけ)が、若い男性を家に時々呼んだりして、楽しそうに暮らしていたのだが、インターネットで60代の男性と知り合った。(2年前に妻を亡くした男性で、やはり精神科医で引退している人)それから出会って3ヶ月後には婚約して、互いの家を行ったりきたりし、半年後には結婚式を挙げた。 二人ともユダヤ系米国人。彼女がもらった婚約指輪は大きな大きなダイヤモンド!新婚生活はフィラデルフィア郊外で、エレベーター(亡くなった奥さんが車椅子だったそうだ)が家の中にある大邸宅に引っ越した。
また別の話では、50代後半の女性(専業主婦)は医者の夫と離婚して、財産を半分もらった上に、結構な額の離婚後扶養料(生活費として約6000ドル)を元夫から毎月もらっていた。息子は成人して独立していた。 離婚してすぐにボーイフレンドを求めていろんなパーティーに出たり、友人宅に出歩いたりして、結構お金持ちの男性をゲット。しかし再婚したり、一緒に暮らしたりすると、元夫からの慰謝料がもらえなくなるので、一緒には住まず、行ったりきたりして付き合っているという。
ちなみに彼女の元夫は結構早く再婚した。その結婚式で35歳の自分の息子が、元夫の新しい妻のエスコート役をしている結婚式の写真を見て、「なんであんたがそんな役目をするの、わたし聞いてないわよ!」と、えらく怒って親子喧嘩になったそうだ。
そういえば、わたしが米国に来て初めて住んだアパートの階下に住んでいた老夫婦も高齢結婚だった。おばあさん(当時60代後半)は大学で事務の仕事をし、おじいさん(70歳代)は引退していた。もう長い間結婚している夫婦だろうと思っていたら、なんと3年前に。教会で知り合って結婚したと言うではないか。
カルチャー的に米国では、人は死ぬまで恋愛というか、伴侶にこだわる傾向があるように感じる。高齢だからはずかしいという感覚はあまりないようだ。 もう枯れてくれと実は子供たちは思っているのかもしれないけど、いざ自分のこととなると別らしい。 残りが少ないからこそ、自分が大切に思っている人、自分のことを大切に思ってくれる人と残りの時間を、一緒に過ごしたいと思うのは自然なことだ。
米国の高齢者は実に合理的だ。財産問題でトラブルが起こらないように、かなりの人が遺書を書く。再婚にあたっても財産問題が絡む場合は、事前に離婚の場合はどうするとか、死亡の場合はどうするとか契約書をしっかり交わす人もいる。法的な結婚をせずに同居を選ぶ人も少なくない。
米国のテレビや映画を見てあきらかなように、いまや恋愛ドラマは中年が主流。子持ちの離婚経験者のストーリーが一番多いと思う。日本のテレビドラマや映画を見ていると、恋愛は若い人中心で、しかも子供っぽいものが多くて、中高年の視聴者にとってはなんだか物足りないと思うことがある。中高年の恋愛ものが少ないのは残念に思う。特に朝の連続ドラマなどは、視聴率は高齢者の間で最も高いのだろうから、高齢者の恋愛ものにすれば、視聴率はぐんと上がると思うのだが・・・。
日本人の平均余命は世界でトップの高さ。残された時間はけっこう長い。独身に戻ったら、何歳になっても恋愛する自由はある。生きる原動力となって、長生きのもとになるかもしれない。残された時間は確かに大事だ。思い残すことのないように生きる準備を、今から個人個人がしたほうがいいのかもしれない。