ニューヨークの風(肥和野佳子) 第28回
「英語の勉強法」
日本の小学校で英語の授業が導入されたり、社内の公用語を英語にするという企業も出現したりで、近年英語ブームに拍車がかかってきた。このグローバル社会の現代、英語が身についているとたしかに何かと有利と思う。
自分自身を考えてみても、米国に住むようになって実用的な英語が身につき、英語を介して世界中の人とコミュニケーションできる便利さを手に入れた。いったん身につけるとその後の人生が英語については楽になるので、その意味では人生の早いうちに英語を身につける方がたしかに良いかもしれない。
人生80年として、40才過ぎてから英語が話せるようになっても残りの人生は40年くらい。16歳で英語が話せるようになれば、残りの64年間は英語で苦労しなくて済む。英語が話せればよいというものではなく、もちろん読み書きの力も必要だ。
日本語もそうだが読み書きは勉強して身につけるものだ。英語も同じこと。会話は基本的には生活の中で身につけるのが自然。しかし、日本国内で英語は生活言語ではないから自然には身につかない。だから学校や塾などで英語会話も勉強することになる。
年齢が若いことは言語習得に極めて有利であることは科学的に実証されている。英語を学校で初めて学ぶ中学1年生は最初が肝心だ。英語の特殊性を的確に理解すれば飛躍的に英語をどんどん身につけることができると思う。
英語を生まれて初めて学ぶ日本人にとって、たぶん混乱するのは、英語とローマ字の混同ではないだろうか。日本語は漢字仮名まじりの表記法。漢字はいろいろな読み方をするが、日本語のかな文字は、音と文字が原則的に1対1で対応する。たとえば、「あ」という字は「あ」と発音することを意味し、「い」は「い」としか発音しない。
ローマ字は小学校4年生くらいのときに国語で習う。これは日本語のローマ字表記のルールを学ぶのだ。したがって、かなと同じで「a」は「あ」と発音し、「i」は「い」と発音することを意味する。
しかし英語は違う。スペルと発音が必ずしも一致しないのだ。単語のアルファベットの並び方で、「i」を「イ」みたいに発音したり、「アイ」と発音することもある。
誰に習ったわけでもなく、自分であとから気がついたことだが、わかりやすいのは、こう考えたらよい。英語の一つの単語が漢字のようなものと思えばよいのだ。そして英単語の発音記号は漢字の振り仮名のようなものと思えばよい。だから、英単語と発音記号をセットで一つ一つ覚えることが基本だ。
漢字はたくさんあるが原則的にはある程度決まった形の組み合わせで構成されている。「草」という漢字を見れば、「草かんむり」に「日」に「十」を書く。英単語も似たようなものだ。”Gracefully”という単語は、”Grace”と “ful” と“ly”で構成されている。
英単語を覚えるときは漢字を覚えるときと同じように、書き方だけでなく読み方も正しく覚えなければならない。すなわち、発音記号も書けるように覚えるのがよい。発音記号は振り仮名と同じなのだから、そう思えば当たり前のことだ。
それなのに英語教育で発音記号がしっかりと教えられることがない。それは諸悪の根源の一つ。たぶん英語の学習指導要領では発音記号はだいたい読めればよい程度とされているのか、先生自身が発音記号の読み方をよく知らない人も少なくないので、無理もない。そういう場合は発音記号は自分で勉強するしかない。
私自身は中学2年の時の英語の先生が発音記号の読み方の基本を教えてくれたので、あとは自力で勉強した。発音記号の読み方は、英語の辞書の最初か後ろの方のページに説明書きがある。それをじっくり読んで研究した。それに加えて、英語の教科書のカセットテープを買って、本物の米国人の発音をまねして覚えた。
中学2年の時の先生は英語の教え方が良くて、急に英語が得意科目になった。しかし先生の発音はどうもカセットテープと違うなあと思うことは何度もあった。どっちが正しいんだと一瞬思ったが、そりゃあ、母国語のカセットテープが正しいに決まっていると思い、カセットテープの発音を優先的に真似ることにした。
発音の基本は日本語でも同じことだ。ただ聞こえた通りに音真似をして発音すればいいだけだ。本当に母国語の人がそう言っているからそう聞こえるのだ。ローマ字みたいにスペルをたよりに発音してはいけない。
それから、英語は単語ごとに1スペースを空けて分かち書きをして文章を表記するが、日本語は単語の分かち書きをせず、きりのいいところまでつなげて文章を表記する。英語の文章を音読するときは、単語一つ一つで切らずに、日本語のようにつらつらつながっていることを意識して、隣の単語とくっつけて発音しながら読むと自然な英語により近く聞こえる。実際、英語が母国語の人は無意識でそう発音しているのだ。
たとえば”What am I doing?” という英語の文章を”Whatamidoing?”と書いてあるように意識して読むとよい。アメリカ英語の発音では、あえてカタカナで書くと“ワラマイドゥーイン?”みたいに聞こえる。そう聞こえるということは米国人はそう発音しているのだ。ただ素直にそう発音すればいい。「ワットゥ アム アイ ドゥーイング?」と発音するのはいかにも学校英語だ。しかしそういうことで日本人の英語の先生に文句をいうのは良くない。英語ネイティブの先生がいつも教えてくれるのは無理なのだから、発音は基本的に自力で覚えればよいことだ。
英語は文法の基本を学んだら、あとは単語力だ。暗記あるのみ。単語を覚えるときは必ず発音記号も一緒に書いて口に出して覚える。発音記号が書けないということは、漢字の振り仮名が書けないことと同じだ。単語のスペルだけではなく発音記号も一緒に覚える。今は英語の発音が音声で出てくる電子辞書があるので音を確認しながら勉強できて大変便利だ。
単語を覚えるときは机に向かって勉強しない。単語に限ったことではないが暗記ものは机に向かって勉強するのは良くない。勉強時間はもっと有効に使わなければならない。机に向かって勉強するときは、英語の文法とか数学とか、もっと思考力が必要なものを勉強するのがよい。単なる暗記ものは、電車に乗っている間とか、何らかの待ち時間とかに単語帳などを開いて覚えるのがよい。
それから、暗記ものは何度も目に触れれば必ず覚えるので、トイレの壁とか、洗面所の鏡のそばとかに紙を張って、暗記したいものを書いておけば、一日に何回か必ず目に触れるので、自然に覚えることができる。勉強机に透明のシートを張って、そのシートの下に暗記したいものを紙に書いて挟むという方法もある。他の勉強をしていても、ふとした時に机の上のその紙が目に触れるので、無理なく覚えられる。たいへん効果があった。私はこの方法で英単語だけでなく、歴史の年号や、数学の公式などなど暗記ものを攻略した。
英語会話は現地に行けばたしかに生活上必要になるので最低限はいやでも覚えざるを得ない。しかし、やはりコツはある。相手が何を言っているかわからなくてはコミュニケーションが成り立たない。聞いてわからないものを何度聞いても時間の無駄。今何と言ったのかわかるように、テレビ画面に英語の文字が出てくるもので勉強するととても効果がある。米国では聾唖者のためにニュースもキャプション付きで(話していることがすべて一瞬遅れで文字がでてくる)放送しているものがあるので、それを見るとよい。
話すことは相手がいるが、一人でもできることはある。自分の言いたいことを言えるようになるためには、英語で独り言を言えば良い。独り言なのだからいくら時間がかかってもよい。ゆっくりでいいのだ。言いたいことがうまく言えない場合は、パソコンで自動翻訳機能などで変換してみるとそれらしいものが出てくる。うまくでてこなければ別の言葉で表現してみて近いものを選べばよい。
普段の会話も基本的にはこれと同じだ。自分が何か言って相手に通じなければ、別の言い方で言ってみればよい。発音が悪くてどうも通じていないようだと思ったら、その単語のスペルを口でいえばよい。そうすれば、相手はたいていわかってくれる。
会話はまあ通じればよいかとすることだ。コミュニケーションはテンポが大事。文法的に完璧だがゆっくり過ぎる英語よりも、多少まちがいがあっても適度なスピードで受け答えできる方がよい。しゃべったあとで今間違えたなあと思ってもいちいち言い直さなくてもよい。そんなことを言っていたらきりがない。
子供のころに生活の中で自然に身につけるのでない限り、米国で長年生活しても、英語はどうやってもネイティブのようにはならない。外国人の英語でよいのだ。しかし英語の読み書きは知性が現れるので、しっかり勉強するのがよい。米国人でもしっかりした英語が書けない人は実は結構いるのだ。